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第99話 二択。

俺の次はミーニャの番だ。


「俺の面接をドア越しに聞いていたな?」

と俺が聞くと、


「ちゃ、ちゃんと、聞いてたニャ」

とミーニャが震える声で答えた。


「なら、俺と同じようにすれば、大丈夫だ」


「わかったニャ。

 ウン公を信じて、同じようにするニャ」


ミーニャの緊張はさ。

まだ完全には解けていなかったが、それでもさ。


「失礼しますニャ!」

そう元気よく声をあげて、

ミーニャはバラック小屋の中に入っていた。


俺はドアに耳を当てて、中の様子を盗み聞きした。


「では、自己紹介をお願いします」

「は、はい、ゲリー・ブリットと申すニャ。

 職業は流れ者ニャ」


さすがはボケ猫。

本当に俺の真似をしやがった。


当然、ミーニャの答えに、

ミランダは不快げな声をあげた。


「ふざけているんですか? 

 貴方の名前は、ニーナ・ホルンでしょう?」


「あ、そうだったニャ。

 ニャるの名前は、ニーナ・ホルンで、

 職業はお嬢様だそうだニャ」


「何か引っかかる返事ですが……。

 まあ、いいでしょう。

 次からは気を付けて下さい」


「はい、わ、わかりましたニャ」


「では、最初の質問です。

 志望動機を教えて下さい」

 

ミランダの声音が平常に戻った。


ふうっ。


俺は額の冷や汗をぬぐうと、両手を合わせて、

『もうボケるなよ』『もうボケるなよ』と祈る。


だが、ボケ猫は再びボケた。

「ニャるは自殺するつもりはないニャ。

 そうパパとママと約束したニャ」


どうやら、志望動機を

『死亡動機』と勘違いしているらしい。


ミランダの声が再び、不快げになった。

「やはり、貴方はふざけているようですね。

 そう評価させてもらいます」

「ふざけてニャいのに……」


「では、次の質問です。

 貴方の職歴を教えて下さい」

「その前にまず、これを見て下さいニャ」


おい、ボケ猫。

また真似をするのはいいけどさ。


お前には、

『神のしもべの証』なんてないだろうが。


「これって、なにをですか? 

 貴方の両手は、

 膝の上にしっかり置かれていますよ」


ミランダは当然の反応を返した。


というか、このボケ猫はさ。

『これ』を指し示してすらいねえのか。


「これはこれニャから、これだニャ」


そうミーニャは、

意味のわからない理屈を振り回す。


ミランダは苛立たしげに、語気を強めた。

「だから、これって、

 なにを指しているんですか?」


「ニャるもよくわからないけど、

 確か……確か……うん、思い出せないニャ」


カツカツ、カツカツと音がする。


おそらく、ミランダがイライラの余り、

靴のヒールで床を叩いているんだ。


さすがに、もう限界か……


助け船に入ろうと、俺がドアノブを握った瞬間。


ミランダの怒声が響いた。

「ふざけないでください!」


ミーニャが怯え声で言った。

「ふざけてないニャ……」


ミランダがたたみかける。

「いいえ、貴方はふざけています。

 まずは、その話し方。

 

『ニャるは』とか、『だニャ』とか。

 猫魔族みたいで不愉快です。

 

 それに、帽子とマスクを着用したまま、

 面接を受けるなんて。

 面接を何だと思ってるんですか! 

 ほら、早く帽子を脱ぎなさい!」


「ニャあ、ニャあ、帽子を取らないでニャあ!」


「あ……てめえは……姫猫ミーニャ!」


どうやら、最悪の事態になったようだ。

ミーニャはさ。


帽子と花粉マスクと手袋と靴を着用して、

しっぽをズボンの中に隠せばさ。


猫部分が完全に隠れて、

まるで、人間のように見えるんだ。


長袖を着ているんだから、

本当に人間にしか見えない。


現在、ミーニャは、

人間としてこの面接を受けていた。


『人間』であることが、

この競馬場における唯一の採用条件だったからだ。


「『どっち付かず』のてめえが、

 公務員になりたいだと、笑わせるんじゃねえ!」


ミランダは、ヤンキーみたいな口調で怒鳴った。


もはや、清楚さの欠片も、うかがえない。


「ニャあ、いきなり怖くなったニャ。

 怖いニャ。怖いニャ」

ミーニャはガチに怯えていた。


「ヒャハハハ、この話し方が、あたしの素だよ」


ビシッ、ビシッ、ビシッ。

という鋭い音と、


「何が萌え255だ! 

 男に媚びを売りやがって!」

というミランダの怒声と、


「痛い、痛い、痛いニャぁ!」

というミーニャの悲鳴が同時に聞こえた。


「どうだい、イバラの鞭の味は?」


ちくしょう、あのクソ尼。

ミーニャに暴力を振るってやがる。


「瀕死になったら、お前を風俗に送ってやる。

 そこでエロペットにでもなりな」


「そんなの嫌だニャ! 

 ウン公、助けてニャぁあああ!」


ミーニャはウンコに救いを求めた。


ウンコは迷った。


今、ミーニャの味方をすれば、

不採用になるかもしれない。


助けに行くべきか、行かないべきか。


というのは、全て後付けの嘘。


俺は一瞬の迷いもなく、

ドアを開け放ち、

ウンコを片手に中に入っていた。


「俺の友達に何をしやがる!」


「ウン公、信じてたニャ!」

 ミーニャが涙顔で、そう叫んだ。


すぐさま、

ミランダはビリー・ゲリッツの正体に気づく。

「あ、てめえはウンコだったのか!」


俺はサングラスを投げ捨てるとさ。

オールバックを手ぐしで、

ボサボサ頭に崩すと、叫んだ。


「ああ、そうだ。

 俺は2つの国を滅ぼした災厄の魔物、

 ウン公だ!」


「で、ウン公。そのウンコをどうするつもりだ?」

「もちろん、お前に――」


「まあ、待て待て」

ミランダは邪悪な笑みで、

俺の言葉を遮ると、言った。


「寛大な清楚系美女である私が、

特別にお前にチャンスをやろう」


チャンスとは以下の通りだった。


ウンコをミーニャに投げれば、採用。

ウンコをミランダに投げれば、不採用。


「どうだ、簡単な2択だろう?」

ミランダはそう言った。


ウンコは迷った。

仕事を取るか、友情を取るか。


というのは、全て後付けの嘘。

俺は一瞬の迷いもなく、

ミランダ目がけて、ウンコを投げ放っていた。


「クソ食らえ! このアバズレ! ブス女!」


ミランダは、ウンコを機敏な動きで回避すると、

夜叉のような声をあげた。 


「この清楚系美女を、アバズレ、ブス女だと……」


どうやら、

ウンコを投げつけられたことよりもさ。

アバズレ、

ブス女と呼ばれたことに怒りを覚えたようだ。


ならば、とウンコはさ。


地球にいた時に、度重なる合コンで悟った、

世界の真理を教えてやることにする。


「清楚とは飾りのない美しさを言う。

 故に、真の清楚系美女は、

 自身を清楚と言って、飾ることはない。

 

 清楚は男性から、

 絶大な人気を誇る属性だ。

 

 以上のことから、自称清楚系美女はな。

 清楚を利用して、

 男にモテたいだけのアバズレなんだよ!」


この俺の完璧な理論武装を聞いて、


「…………」

ミランダはしばし絶句した後。

大量殺人鬼のような目で、イバラの鞭を構えた。


ウンコは死を覚悟した。

とは言っても、

ウンコは『なかなか死ねない』んだけどね。


「よくも私の正体を暴いたな。

 殺す、殺す、殺してやるぅううう!」


ミランダがイバラの鞭を振りかぶった。


その瞬間。

ウンコとミランダの間に、

職証君が滑り込んできた。


「待って下さい!」


職証君はミランダに土下座すると、訴えた。


「このウン公は、職業はウンコなれど。

 さして、悪い男ではありません。

 ウン公は確かに、国を2回統治し、

 悪行の限りを尽くしました。

 

 ですが、その陰で、

 不幸な少年少女を少数ながら、

 確かに救ってきたのです。

 

 ですから、究極清楚なる大僧侶ミランダ様。

 ウンコにどうか、御慈悲を。

 更正のために真っ当な職を。

 是非是非、お与え下さるように、

 お願い存じ上げます」


この職証君の演説はさ。

リンカーンやキング牧師級に愛にあふれていた。


結果、奇跡が起こった。

ヴァイテガ競馬場のオープニングスタッフとして、採用が決定したのだ。


採用されたのは、職証君だけどね。

なんでも、

職証君の小さくて忠義あふれるキャラがさ。


ミランダのツボにはまったらしい。


「はあ、はあ、職証君、最高。

 チュ、チュ、ハグ、ハグ」


今、ミランダはさ。

職証君に夢中でハグしながら、

キスを繰り返している。


その間に、俺とミーニャは逃げ出した。

ラッキー。命拾いしちゃった。


けど、ウンコ(一応人間)はさ。

就職試験で、

職証君(よくわからない生物)に負けちゃった。


もういっそ、職証君が本体。


ウンコは、その『おまけ』でいいんじゃね。

クソ野郎。


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