第98話 面接試験。
夜が明けると、俺はミーニャに宣言した。
「俺たちはこれから、就活をするぞ」
「おお、ニャるを養うために、
ウン公は働くと申すニャ」
「違う。俺たちだ。お前も一緒に働くんだよ」
「嫌だニャ。
ニャるは身体を売るなんて、絶対嫌だニャ」
「大丈夫、これからするのは普通の仕事だ」
「無理ニャ、ニャるは嫌われ者だから、
職証審査で落ちるニャ」
「大丈夫。神が、
俺たちのために職証を偽造してくれた」
偽造職証を見せると、ミーニャは目を丸くした。
「本当ニャ。
名前も職業も能力も違くなってるニャ。
ニャがニャ」
「ニャがなんだ?」
「ニャるは有名だから、すぐに顔バレするニャ」
「大丈夫、変装セットも、神からもらった」
頭には帽子。口にはマスク。
手には手袋。足には靴。
しっぽはズボンの中に押し込む。
こんな感じに、
ミーニャを変装させると、俺は言った。
「ほら、これで全くの別人だ。
そして、この俺も……」
俺はヘアワックスで髪をオールバックにすると、
サングラスをかけた。
「これにて、別人だ」
「本当ニャ。別人になったニャ。でもニャ」
「でも、なんだ?」
「さっきから言葉使いが無礼ニャ。
家来として敬語を使えニャ」
「ああ、敬語は疲れるから、もう家来はやめだ」
「ウン公も、ニャるを見捨てるのニャ?」
ミーニャが捨て猫のような眼差しで、見てくる。
ミーニャの頭をなでながら、俺は言った。
「違うよ。
これからは対等の『友達』になるだけなんだ」
「ウン公が友達……ニャるの初めての友達。
うれしいニャ。でもでもニャ」
「でもでも、なんなんだよ?」
「ニャるは、やっぱり働きたくないニャ。
働いたら負けだと思ってるニャ」
「いや、働かないのが負けなんだよ。
きっと、どの世界でもな」
俺はミーニャに背を向けて、歩き出した。
「いいのか? 俺は先へ進むぞ」
ミーニャは慌てて、後を付いてきた。
「嫌だニャ。もう1人は嫌だニャ」
こうして、俺たちは就活を始めた。
朝一番で、職案に参上。
偽造職証を見せると、
職案の職員は丁寧に対応してくれた。
仕事がビッシリ書かれた、
分厚い求人票のカタログ。
どれでも、好きなものを選んでよいそうだ。
ああ、職業選択の自由って素晴らしい。
結局、俺たちが選んだのはさ。
現在、建設が進んでいる、
『ヴァイテガ競馬場』
のオープニングスタッフ(正社員)の募集だった。
この仕事を選んだ理由は、ただ一つ。
超安定の公務員だからだ。
建設予定地の端にある、バラック小屋にて。
これから、就活戦士の戦い。
そう、面接が始まる。
面接の形式は、1対1の個別面接だ。
俺は深呼吸をすると、外からドアをノックした。
「お入り下さい」
とバラック小屋の中から声がした。
「失礼します!」
と元気よく返事をして、入室した俺。
だったのだが、
面接官の顔を見て、俺の元気は急速にしぼんだ。
「どうぞ、おかけになって下さい」
と優しげな声で話す面接官。
その名は、大僧侶ミランダ。
清楚系の美女であり、
女にしておくのが惜しいくらいの、クズでもある。
俺は動揺を悟られないように、
ステキな笑顔を作って、椅子に座った。
ミランダもステキな笑顔(一応美女だからね)を
作って、言った。
「では、自己紹介をお願いします」
よっしゃ。
俺がウンコだって、バレなかった。
俺は職証に書かれた役になりきり、
渋い声で言った。
「ゲリー・ブリットと申します。
職業は流れ者です」
ミランダは、
予め用意された職証(偽造)の写しを見た。
「ゲリー・ブリットさん。
この職証が示す本人で、間違いありませんね?」
「はい」
「勇者級の素晴らしいステータスですね。
当社に御志望いただき光栄です」
「いえいえ、こちらこそ、
御社に志望できて、光栄の至りです」
「では、まず志望動機を話して下さい」
「はい、志望動機はですね。
今までの波瀾万丈の経歴を活かし、
この都市に貢献したいと思ったからです」
「では、貴方の、
その今までの経歴を教えて下さい」
「はい、まずはこれを見て下さい」
俺は腕まくりをして、
右腕の上腕部にある焼き印を見せた。
「ほう、これは『神様のしもべの証』ですか」
「そうです。私は地球という異世界から、
このラグナロッカーに参りました」
「では、その地球で、
貴方は何をして暮らしていたのですか?」
「恥ずかしながら、学生をしておりました」
「成績はいかがでしたか?」
「頂点には及ばずながら、
学年でトップ10を常にキープしておりました」
「それは凄いですね」
「はい、しかも塾にも行かず、
予習復習と宿題もせずにです」
「それは自慢にはなりませんよ。努力は大事です」
「すいません。これからは努力します」
「それを期待しています。
次は学生生活について、聞かせて下さい」
「女の子と付き合って、フッて、
付き合って、フッてと、その繰り返しでした。
ちなみに、本命の彼女は他にいました」
「貴方は女性の敵であることがよくわかりました」
ミランダは評価シートに、ペンを走らせた。
ペンの動きから察するに、
丸ではなく、バツを書いたのだろう。
どうやら、正直に答え過ぎたのが、
仇になったらしい。
口が滑らないように、気を付けよう。
「では、ラグナロッカーに来てからの
貴方の経歴を教えて下さい」
「はい、私はこの国に来る前に、
2度ほど、国を統治しておりました」
「それは凄いですね。
統治者として、貴方は何を為しましたか?」
「大規模な財政出動をしました」
まあ、使い道はさ。
ウンコ・ハーレムとか、
ウンコ・スーパーアリーナとかを
造っただけだけどね。
「大規模な公共事業をしたのですね?」
「ええと、ええと……」
俺は言葉を濁していると、
ミランダが勝手に勘違いをした。
「謙遜なさらないで下さい。
公共事業は立派な政策です」
でも、実際のところ、ウンコはさ。
基本的に、自分の為にしか、お金を使っていない。
公共の利益なんか、考えたこともない。
「他に為したことはありますか?」
「はい、2度目の統治時にですね。
フェミニズムの理想を実現するために、
女性を優遇しました」
「それは素晴らしいですね」
ミランダはそう言うと、
評価シートにペンを走らせた。
その軌道は二重丸。
やったあ。
でも、ウンコはさ。
薄汚い男どもの全員
(に限りなく近い『ほとんど』)を差別して、
『不眠不休の強制労働刑』に処しただけだけどね。
「で、そんな素晴らしい貴方が、
前職をお辞めになった理由は、なんですか?」
ウンコは涙ながらに、答えた。
「2度とも……
民に反乱を起こされ、国を追われました」
「そうですか……」
ミランダが同情の視線を向けてきた。
「どの国にも、
『魔族解放戦線』のような、
一部の反乱分子がいますからね」
いや、ミランダのカスが、
勝手に勘違いしているようだけどさ。
ウンコは2度とも、
国民の総意で革命を起こされ、
国を追われたんだからね。
「では次に、貴方の夢を聞かせて下さい」
「私の夢は、究極の存在
『アルテマ・オブ・アルテマ』になることです」
「究極の存在とは、
神を目指すということですか?」
「いいえ、神は単なる通過点でしかありません」
「…………」
ミランダが沈黙。
ちょっとウンコ、調子に乗っちゃったかも。
と思ったんだけどさ。
「ふふふ、面白いジョークですね」
ミランダは再び勘違いをすると、
評価シートに、丸の軌道でペンを走らせた。
「最後に、競馬場のスタッフになった暁には、
なにをしたいですか?」
ウンコは自信満々に答えた。
「公的にも私的にも、金を思い切って使って、
貢献したいと思います」
「貴方の能力と経歴を活かした、
大胆かつ積極的な金銭運用に期待しています」
「ぜひ、期待して下さい」
こうして、
ミランダのアホが勘違いしたおかげで、
面接は好感触に終わった。
もちろん、結果は採用のはずだ。
ふっふっふ。
これから、ウンコは公務員。
どうせ、国の金だ。
汚職の限りを尽くして、
湯水のように使いまくってやる。




