デート -1ー
「う~ん、ここにあるも全部本読み終わってもうたな~」
挑戦者がなかなか現れない金曜日の放課後、小木が退屈そうに呟いた。
「なぁイッチ、なんか新しい本でも買いに行こうや」
小木が太一にそう提案する。
いつもならば反対するところであったが、今日の太一は小木の提案を真面目に検討することにした。
本の不足、それは太一も考えていたことであった。
数日前、既に太一は買っていたバトル物の小説、漫画のどちらとも読み終わっていた。
そのため、ここ数日は以前から部室においてある、オカルト系の本を読んでいるこだが、興味の無い太一にはつまらない内容である。
(しかも全体的に扱ってる内容が暗い本ばっかりだしな......)
以前一度手に取った宗教めいた本等、この部室のオカルト関係の本はやけに死や来世について扱ったものが多く、現世を生きる太一にはきついものだ。
それは小木も同様らしい。
オカルト関係の本を手に取る気は無いようで、こうして新たな本の購入を勧めているのだ。
「まだ読んで無い本が沢山あるじゃない」
黒木はそんな小木の思いに気付いていないようだ。
小木は黒木に反論する。
「黒木ネキはオカルト本にはまっているようやけど、ワイは読む気がせぇへんのや。新しいバトル物が読みたいんや!」
まるで駄々っ子のようである。
そうなの、と言って黒木は読んでいた本に目を戻す。
しかし小木は、黒木ネキにも関係あることやで、と前起きしたうえで提案する。
「明日、三人で商店街に買い出しにいこうや!」
翌日、太一は商店街の時計の前、待ち合わせの場所で二人を待った。
休日、親以外の人間と出かけるというのは、太一にとって始めてのことだ。
「待たせたわね」
黒木が太一を見つけ、歩み寄ってくる。
「まだ待ち合わせ時間の五分前だから大丈夫。後は小木だな」
しかし、待ち合わせ時間まであと少し、という時間になっても小木は現れない。
太一がしびれを切らして来たところで、携帯から着信音がなった。
太一の番号を知っている人間なんて親以外では一人しかいない。
太一は番号を見ることもせず電話に出た。
「バカかお前。もう待ち合わせ時間になるぞ」
「いや~すまんイッチ」
やはり相手は小木であった。
「今どこにいるんだ? あと何分位かかるんだよ」
太一が聞くと、予想外の答えが返ってきた。
「それなんやが......すまんイッチ。ワイ今日予定入ってたんすっかり忘れてた」
思わぬ答えに太一は言葉が詰まった。
「というわけですまん。今日行けへんわ。堪忍してや」
太一は問いただそうとしたが、その前に小木が電話を締めた。
「黒木ネキにもすまんって伝えといて。ほなイッチ、黒木ネキと二人っきりでデートを楽しんでな!」
そう言い残し小木は電話を切った。
「全く。困った人だわ」
黒木に一通りの事情を伝えると、黒木は溜め息をついた。
「自分で提案しておいて行けないなんて、流石に予想出来なかった」
どうやら黒木は呆れているようだ。
太一も同感である。
次会ったとき一発殴ってやると思いつつ、黒木に尋ねる。
「それで今日どうする? ここで解散する?」
黒木は少し悩んだが、いいえと答えた。
「せっかくだし買い物して行きましょう」
こうして太一は黒木と二人で買い物をすることとなった。




