幼き挑戦者 ー3ー
「フフッ。赤城先輩、どうしたんですか~? そんな怖い目でこっち見てきちゃって」
くるみは笑いながら太一を踏みつける。
「それとも、お兄ちゃん、って言った方が嬉しいですか?」
そう言いながらくるみは太一を踏む足に体重を乗せる。
苦痛に顔を歪ませる太一の顔を見て、くるみは喜んでいた。
「どういうことだよ......。何なんだよお前は!」
太一は荒っぽく自分を踏みつける足を掴み、投げ飛ばそうとした。
しかし、くるみは先程までと違う甘い声で囁いた。
「離して......。おにいちゃん♡」
途端に太一の体から力が抜けていく。
(なんで......演技って分かってるのに......)
脱力した太一をクスクス笑いながらくるみが蹴りつける。
「おにいちゃんって呼ばれて喜ぶなんて、とんだ変態さんなんですね、赤城センパイ♡」
「そんなわけ......どういうことだ。答えろ!」
もうくるみ相手に手加減をするつもりはなかった。
それなのにくるみの声を聞いた瞬間力が抜けた。あるはずの無いことだ。
(まさか......)
太一の頭にある可能性が浮かぶ。
奇しくも、次に発せられたくるみの言葉はその太一の考えを肯定するものであった。
「仕方ないなぁ......。特別に教えてあげます。これが私の"特殊能力"なんですよ」
太一の予想通り"特殊能力"の名が出てきた。そしてこのギフトの効果は恐らく......。
「名前は、"甘美なる囁き"。私が甘えると、大抵相手は聞いてくれるんですよ。赤城先輩みたいに」
つまり、あの甘えた声を聞くと、どう対策しても力が抜けてしまうということであろう。
(これはかなり厄介だ......)
今現在、太一は横たわり、くるみに踏まれているという無様な姿を晒している。
しかし、先程のような甘えた声を出されたら状況を変えることさえ敵わない。
率直に言って、相当やばい状況であった。
「どう?降参する?おにいちゃん♡」
また太一の体から力が抜けていった。
それを見てくるみは笑いながら太一を蹴りつける。
太一も、もう降参しても良いようなそんな気持ちになってきた。
(いや、ダメだ......)
甘い誘惑に、必死に理性で対抗する。
「頑張るなぁ。それじゃあ気絶するまで痛めつけちゃおうかな♡」
そう言いながらくるみは容赦なく太一を転がし、踏みつけ、蹴りつける。
「ハハハ、女の子にこんなに虐められるなんて、赤城先輩はホント情けないなぁ!」
太一を痛めつけるくるみの顔は心底楽しそうであった。
太一の意識は痛みで遠のく。
(......気絶したら......負けだ......)
太一はなんとか意識を保つ。
おとなしいと思っていたくるみの笑い声で頭がおかしくなりそうになる。
--笑い声......?
(こいつ......俺を攻撃するのに夢中で、今はギフトを使って無いんじゃないか?)
先程からくるみは太一の罵倒と笑い声しかあげていない。
(つまり今奇襲すれば......逆転も可能......!!)
太一は体に力を込め、いつでも動ける準備を整え隙を伺った。
「あれ、赤城先輩動かなくなっちゃった。気絶したのかなぁ?」
そんな太一の思いもしらず、くるみはご満悦である。
「ねぇ黒木先輩! 赤城先輩が気絶してないか確かめてくださいよ~」
くるみは黒木のもとに視線を移す。
(今だ!)
太一はその隙を見逃さなかった。
無言で立ち上がると、瞬時にくるみに襲い掛かった。
「え......。きゃぁ! 何するんですかせんぱ...痛ぁ!」
太一の作戦は決まっていた。
くるみのギフトを使わせないよう、連続して攻撃を入れ一気に勝利までもっていく。
くるみに馬乗りになって攻撃を与える太一の構図は、なかなかにバイオレンスで犯罪的であるが、仕方ない。
恰好を気にしている余裕は太一にはなかった。
「痛い、おに......いったァ! 痛いって言ってるでしょ! やめ......いってぇんだよ! 止めろよてめぇ!」
くるみの口がどんどん悪くなっていくがそれは太一には好都合だ。
「お前あとでみてろ......うっ。お願いもうやめ......痛い......。うぅ......」
太一の猛攻に徐々にくるみは弱っていく。そして遂に音をあげた。
「痛い......。もうやめ......うぅ......。降参! 降参するからぁ!」
「分かったわ。赤城君、くるみちゃんから離れて。試合終了よ。」
太一はおとなしく指示に従った。
くるみはうぅ......とうめき声を上げながら立ち上がる。
「勝者、赤城太一」
黒木の澄んだ声が試合の終了を宣言した。
「ちっ......。チョロイと思ったら案外やるのね。赤城太一」
くるみが太一のもとに来る。
「無駄に頑丈ね。気絶してるか心配しちゃったのが運のつきかしら」
「嘘つくな。全然心配してなかったろ!」
太一が反論する。そして一つ抱えていた疑問をくるみに尋ねた。
「なぁ......。部室で話してたのって、全部嘘だったのか?」
それだけがどうしても引っかかっていた。
しかしくるみはふて腐れたような表情で、
「さぁ? どうかしらね」
とだけ言い残し去っていった。
戦いは終わったが、太一の胸には何とも言えないもやもやだけが残った。




