幼き挑戦者 -2-
決闘場に着くとがなかなかの数の観客が入っていた。
そしてその多くが、既にくるみの応援を始めていた。
「くるみちゃん! くるみちゃん!」
「くるみタソ~ハァハァ」
応援している人間は男ばかりで、大体眼鏡を付けたデブだった。
心無しか、雰囲気に小木と共通の何かがあった。
(それにハァハァ言ってんじゃねぇよ......。こいつらヤバいだろ......)
太一が位置に着き、少ししたところでくるみも位置に着いた。
「赤城先輩。よろしくお願いします」
くるみが頭を下げてくる。
先程身の上話を聞かされたこともあって、戦いにくい雰囲気であった。
「それでは二人とも準備が出来たようね。それでは、勝負開始」
黒木の声が、試合の始まりを告げた。
試合が始まっても、くるみは構え(らしきもの)をとったまま、動こうとしなかった。
太一も自分からくるみを殴りに行くのは気がひけた。
「来ないのか? 俺を倒すんだろ?」
そう言って、くるみからかかってくるように誘導する。
「は、はい。では行かせてもらいます!」
そう言ってくるみはこちらの元へとトテトテと走ってくる。
(うわぁ......。こいつホント戦えるのかよ......)
小木や黒木でさえ移動はもっと速かった。
くるみは太一との間合いを詰めるだけでも一苦労といった感じであった。
ようやくパンチが届く距離まで近づくと、右腕を大きく振りかぶった。
全てがスローである。
避けることは容易であるが、それすら馬鹿馬鹿しくなり、1発受けてみることにした。
「えいっ!」
くるみの一撃がみぞおちに入る。
思ったより重い一撃であった。
(あれ......? なんかおかしいな?)
予想外の威力に困惑し、思わず腹を抑えた太一にくるみが慌てたような様子で声を掛けた。
「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか」
太一は咄嗟に大丈夫と口にしてしまった。
「なら良かったです。じゃあもう一撃いきますよ。」
そう言うと腹をおさている太一の手ごと、くるみは蹴り飛ばした。
(なんだこいつ。結構強いぞ......)
それに謝ってはいるが、全く容赦する気はないらしい。
(まあこれは決闘だ。お互い全力で戦おうってことか)
太一は痛みをこらえながら、何とか立ち上がる。
「それじゃあ次はこっちから行かしてもらうよ」
太一は距離を詰め、蹴りを試みる。
小さい女の子を虐めるようで多少心苦しいが仕方ない。
しかしその蹴りはくるみの右手で防がれた。
「い、痛いです。先輩、止めてください」
くるみが涙声で訴えかけてくる。
思わず動きが止まってしまった。
その隙を見逃さずくるみは飛び上がり太一の胸目がけて突っ込んできた。
「ぐぅっ......」
太一は衝撃で吹き飛ばされ、壁に激突した。
会場からは歓声が上がる。
「赤城先輩、大丈夫ですか。降参してくれてもいいんですからね?」
そんなことを言うくるみの顔にはあまり心配の色は無いように見えた。
(おかしいぞ......。この状況......)
気が付けば太一はなかなかの痛手を負っていた。
それに対してくるみはほぼノーダメージといった表情だ。
つまり、現在太一は目の前の少女に負けているのだ。
(そろそろ反撃しなきゃ......)
太一は立ち上がり、くるみとの距離を詰める。
(やりにくいけど、全力でやらないと......)
ここで負けるわけにはいかない。太一が右腕を振りかぶった時、
「やめてよぅ......、おにいちゃん......」
おにいちゃん......、だと......。
太一は思わず動きを止めた。
それを見てくるみは笑みを浮かびながら、途中で止めてしまった太一の腕を取り、太一の体ごと投げ飛ばした。
太一は地面にうつむけに転がった。
事態が飲み込めずにいると、顔面が何かに踏まれていた。
見ると、くるみが笑いながらこちらを見下ろしていた。




