↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アートランティス王国の奇跡の年  作者: 無月公主


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/42

34.お似合いなのに

「これだ」


 サクレティアはそう言うと、制服の内側から小さな石板を取り出した。


 手のひらに収まるほどの大きさで、表面には淡い光を帯びた細かな紋様が刻まれている。装飾品というより、何かの認証に使う魔道具に近い見た目だった。


 差し出されたそれを、私は戸惑いながら両手で受け取った。


「……これ、なに?」


「王立図書館にある、イージス公爵家専用書庫の閲覧許可証だ」


「え?」


 思わず石板から顔を上げる。


 王立図書館の名前はもちろん知っていた。王都でも最大級の蔵書を誇る場所で、一般に開放された区域だけでも相当な量の本があると聞いている。


 けれど、高位貴族の家ごとに専用の書庫まであるとは知らなかった。


 サクレティアは私の驚きを気にする様子もなく、落ち着いた声で説明を続けた。


「そこには、代々イージス家で残してきた記録が保管されている。公に出す必要のない家の記録や、先祖返り、妖力について書かれたものもある」


 その言葉に、私は思わず手の中の石板を見下ろした。


 薄く刻まれた紋様が、木漏れ日を受けて淡く光っている。


「それを……私が見てもいいの?」


「ああ。私から許可を出したことになっているから、これを持っていけば入れるはずだ」


 サクレティアは一度だけ遠くへ視線を向け、それから再び私を見た。


「ツガイそのものを解く方法が書いてある、と約束はできない。私もすべてを読んだわけではないからな。ただ、イージス家は竜人族の血を受け継ぎ、昔からツガイや先祖返りに関する記録を多く残している」


 そこで、彼女はほんの少しだけ目元を和らげた。


「閲覧してみるといい。何か……見つけられるといいな」


「サク……!」


 思わず名前を呼んでいた。


 先ほどまで「私はツガイを解くことには賛成できない」と言っていたのに、それでも私が調べるための手助けはしてくれるらしい。


 考えが違うからといって、私の行動まで否定するつもりはないのだ。


 それが嬉しかった。


「でも、本当にいいの? これ、イージス公爵家の書庫でしょう?」


「構わない」


 サクレティアは迷いなく答えた。


「何か見つけられるか、それとも何も見つけられないかは……ミッケねーさん次第だよ」


 いつもの凛とした話し方の中に、「ねーさん」という呼び方だけが妙に可愛らしく混じっている。


 まだその響きには慣れない。


「少なくとも、何かを考えるきっかけにはなると思う」


 私は改めて石板を握り直した。


「わかった。ありがとう。大事にするね」


「借り物だからな」


「わ、わかってるって!」


 念を押されて慌てて答えると、サクレティアは小さく笑った。


 それから彼女は踵を返し、クレノたちのいる場所へ向かって歩いていく。


 その姿が近づくと、真っ先に気づいたのはクレノだった。


「あ! サクー!」


 先ほどまで作る練習をしていた魔力玉を片手に浮かべたまま、嬉しそうに手を振っている。


 サクレティアの表情が、ほんのわずかに柔らかくなった。


 さっきまで私を緊張させていた公爵令嬢の顔とは違い、クレノを見るときだけは年相応の少女に近く見える。


 私は借りた石板を制服の内側へ慎重にしまい、少し遅れて皆のところへ戻った。


「サク、見て。できた」


 クレノは自慢するように掌を差し出した。


 そこにはまだ少し歪ではあるものの、ちゃんと球の形を保った魔力玉がふわふわと浮いている。


「上手にできているじゃないか」


 褒められたクレノは、照れくさそうに笑った。


 その隣ではヘルケも、自分の作った球を両手の間で転がしている。少し離れたところではメローネが穏やかに見守り、カインだけは指導に疲れたのか、腕を組んで大きなため息をついていた。


 クレノは私が戻ってきたことに気づくと、サクレティアと私を交互に見た。


「ミッケと何を話してたの?」


「うん?」


 サクレティアは少し考えるような顔をしたあと、ごく自然な調子で答えた。


「ミッケねーさんと呼ばせてもらう話をしていた」


「えぇ!?」


 クレノが思いきり目を見開く。


「ずるーい!」


「なにがずるいのよ」


 私が笑うと、その横からヘルケまで口を挟んできた。


「でも、ミッケはねーさんって感じじゃないよぉ」


「ちょっと!」


 八歳児にまで言われるとは思っていなかった。


 しかも、その直後。


「確かになぁ」


 カインが当然のように頷いた。


「ちょっとカイン!!」


 振り向いて睨むと、カインは何が悪いと言いたげに肩をすくめた。


「お前、姉ちゃんっていうよりガキ大将だろ」


「誰がガキ大将よ!」


 殴ってやろうかと拳を握りかけたところで、サクレティアが不思議そうに首を傾げた。


「……カインとミッケねーさんは、お似合いなのに」


「どこが!?」


 反射的に声が出た。


 あまりにも即答してしまったせいか、今度はカインのほうが微妙な顔をする。


「ミッケ……それ、俺が傷つくからな」


「今だけでしょ」


「今だけでも傷つくんだよ」


 そんなことを言いながらも、カインは本気で落ち込んでいるようには見えなかった。


 私もつい先ほどの夜の出来事を思い出しかけ、慌てて頭の隅へ追いやる。


 サクレティアは私たちを交互に見たあと、どうにも納得できないという顔をしていた。


「こんなに自然に一緒にいるのに、どうして解きたがるんだ?」


「それとこれとは別なの!」


 即座に答えた私に、サクレティアはますます分からないという表情を浮かべる。


 ふと見ると、少し離れたところにいたメローネもこちらを見ていた。


 サクレティアと目が合う。


 二人は何も言わず、なぜか同時に小さく首を傾げた。


 ……何なの、その反応。


 ものすごく納得がいかない。


 けれど、そろそろ迎えの時間も近づいていた。


 サクレティアはクレノと一緒に帰る準備を始め、メローネもヘルケへ声をかける。私たちもそこで今日の遊びを切り上げることになった。


     ◇


 帰りの馬車の中。


 私は窓際へ座り、制服の内側から先ほど借りた石板をそっと取り出していた。


 揺れる馬車の中で落とさないよう、両手で慎重に持ち上げる。


 改めて見ると、表面に刻まれた紋様は随分複雑だった。中央には竜を思わせる意匠があり、その周囲を細かな魔法文字が取り囲んでいる。


 これがあれば、イージス公爵家の専用書庫へ入れる。


 もしかすると、今まで知らなかった何かが見つかるかもしれない。


 そんな期待を抱きながら眺めていると、向かいに座っていたカインが気づいた。


「ん?」


 身を乗り出し、私の手元を見る。


「ミッケ。なんでお前が、イージス公爵家専用書庫の閲覧許可証なんてもってるんだ?」


「これ、やっぱりそんなに珍しいの?」


「珍しいっつーか、普通はイージス家の人間しか使わねぇだろ」


 カインは怪訝そうに眉を寄せている。


 私は少し得意になりながら、石板を見せた。


「サクがね、貸してくれたの」


「サク?」


 一瞬誰のことか分からなかったらしく、カインが眉を寄せた。


「サクレティアよ。今日からサクって呼んでいいんだって」


「……いつの間にそんな仲良くなったんだよ」


「いいでしょ、別に」


 私は石板を大事に膝の上へ置いた。


「王立図書館にあるイージス家の専用書庫を見ていいんだって。ツガイとか、先祖返りの記録もあるみたい」


「へぇ」


 カインは興味を示したように石板へ目を向けたものの、すぐに別の疑問が浮かんだらしい。


 私の顔をじっと見る。


「でもお前、本なんて読めるのか?」


「読めるわよ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。