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目が覚めると、ブランケットがかかり、隣にはおうまさんが居た。

夜織は居なかった。


「夜織ー?ごめん、寝ちゃってた…。」


彼女の気配は無かった。

薄暗い部屋。

彼女なら絶対電気をつける。

その後、何度名前を呼んでも、彼女が返事をすることはなかった。

僕は、急いで電気をつけ、携帯を探し、夜織に連絡をしようとした。

けど、彼女は連絡先から消えていた。

どうゆうこと…。

なんで…。

ちょっと待て。

一回落ち着こう。

そして、震える手でテレビを消そうとした。

だが、間違えて再生ボタンを押してしまい、映画のエンドロールが流れた。

僕は違和感があった。


「耳、治ってる…。」


すぐに状況を理解した。

連絡が出来ないのも、全て察しがつく。

嘘だろ…。

なんで…。

僕は夜織にもご両親にも話してな…。

それよりも今は…。

僕は、急いで玄関へ走り、扉を開けた。

そこには、驚いたメンバーが居た。


「…どこ行く気?」


「どこって…夜織のご実家に…。」


「ダメだよ!夜織くん!」


「なんで、お前らに決められなきゃいけないんだよ。ふざけんな。そこどいてくれる?」


僕は、産まれて初めてブチ切れた。


「無理。」


「お前らか。話したの。俺の耳のこと。」


「ごめん、夜織くん!でも…。」


「でも何?僕の為?グループの為?…なんで言ったんだよ…。」


「両方だよ。それと、夜織ちゃんの為。」


僕は胸ぐらを掴んだ。


「夜織の為?いい加減にしろよ。そんなんお前らの意見だろ!夜織は、夜織の気持ちはどうなんだよ!なんで…なんで夜織から、一番大切な人から奪うんだよ…。」


「夜織くんはさ、自分が夜織ちゃんだったらどうする?」


「は?」


「寿命が分かってる自分の人生。残りの人生夜織ちゃんが病気だと知った。自分には救える方法がある。夜織くんならどうする?」


「それは…当たり前に救うけど…夜織と同じことするけど…。でも、理解は出来ても、納得は出来ないんだよ!自分より大切な人が、自分のせいで大切なものを失うことが、どれだけ辛いか…。僕のせいで、彼女は、残りの人生で出来ることが減ったんだぞ…。納得出来るわけないだろ!」


「夜織ちゃんは!夜織ちゃんは、自分の人生を、自分で決めたんだ!…勝手に伝えたのは、謝る。本当に申し訳ない。でも、俺たち言われたんだよ、夜織ちゃんに…。」


(教えてもらえてよかったです!

夜織くんは、きっと私には言わない気だったんでしょうね…。私、夜織くんが大好きです。

それは、皆さんもきっと同じですよね!

…私、彼には大切な人たちの大切な人として、生きていってほしいんです。はあ、よかったー!私が出来ること、ありますね!ははっ。)


「夜織ちゃんの気持ち、納得できないのも分かる。

でも、お前が納得できないからって、夜織ちゃんの決断を否定する権利は無いんじゃないか。

大切な人が、自分の為に勇気出してくれたんだぞ。

お前は、夜織ちゃんからもらった分、夜織ちゃんの為に頑張るべきなんじゃないのか。」


「…。」


夜織の為に、生きる…。

夜織の勇気…。


「夜織くん。頑張ろう。頑張るしか、今夜織ちゃんの為に出来ることなくない?

夜織ちゃんがくれた想いを、夜織くんは背負う責任があるんだよ。

背負うからには、夜織ちゃんに見せられない生き方しちゃだめだよ。」


「…うん。」


僕はその場に泣き崩れた。

そんな僕を、メンバーは抱きしめ、背中をさすり、肩を叩いてくれた。


それから二日後の1月3日日曜日。

午後から練習が始まる為、朝から家を出て、大事な用事をしに出かけた。

夜織のご実家だ。

ピンポーン。


「はーい!…夜織くん?」


「朝早く伺ってしまい、申し訳ありません。ご両親と、お話させていただきたくて…。」


「そうよね…。分かったわ。夜織、まだ起きないと思うし。どうぞ、上がってください。」


「…お邪魔します。」


中に入り、お義母さんがお義父さんを呼んでくれた。


「まず、僕のメンバーの発言のせいで、夜織さんの大切な身体を、僕が受け取ることになったこと、誠に申し訳ありませんでした。」


僕は、膝をつき、深く頭を下げた。

二人共、顔を上げてと僕をおこして椅子に座らせてくださった。


「夜織くん、謝らなくていいんだよ。あの子が決めたことなんだ。私達は、大切な人の為に勇気のある決断をしたあの子を誇りに思う。」


「…あの子ね、前は、あんまり笑わない子だったのよ。友達もいらないかななんてって言って、あんまり人と関わろうとしなかったの…。

小さい頃はよく笑う子で、友達も多かったんだけどね…。

でも、あなたと居る時のあの子は、まるで時が戻ったかのように、とびっきりの笑顔で笑ってたのよ…。

私達でも取り戻してあげられなかった笑顔を、あなたが取り戻してくれた。

ありがとう、夜織くん。あの子を幸せにしてくれて、本当にありがとう。…でも、もういいのよ。」


「どうゆうことですか…?」


「あの子は、もう忘れた記憶を思い出そうとはしてないの。日記も、前のように変えたわ…。忘れる前の最後の日。あの子に二つ頼まれたの。一つは日記を変えること。もう一つは…これ。」


出されたのは、離婚届だった。


「本当は、あなたの家に置いてくる予定だったの。

バックに入れといて欲しいって頼まれてたんだけど、敢えて入れなかったの。

お父さんと話し合って、あなたの意見を聞くことにしたのよ。

でも、私達から連絡していいのかも、正直分からなかったから、あなたが来てくれて、話ができて本当によかった。ありがとう。」


「いえ…。」


「サインするかは、夜織くんが決めてほしいんだ。

私たちは、娘が決めたことを誇りに思う。

けど、それと同時に、息子の考えも、尊重したいと思ってるんだ。」


…。


「だからね、どんな結果だとしても、私たちは、ずっと君の味方だよ。夜織くん、どうしたい?」


そんなの、決まってます。


「ありがとうございます。僕は、僕の気持ちは、今もこれからもずっと変わりません。

僕は、自分の命尽きるその日まで、夜織さんの夫として、生きていきたいです。

夜織さんが、僕を忘れててもいいんです。

僕の為にした決断を、僕は否定したくない。

なので、日記はそのままで大丈夫です。

離婚届は、無かったことにさせてください。」


「本当にいいのかい?これから、もっといい人とか…。」


「居ません。僕は、夜織さんだから、好きになったんです。夜織さんが居て、お義母さんとお義父さんが居て、初めて僕は幸せを知ることができた。

…この指輪は、僕の生きる意味です。

本当に、家族として受け入れてくださり、ありがとうございます。

これからも、よろしくお願いいたします。」


「こちらこそ、素敵な息子が出来て、嬉しいわ…。」


「ありがとう。息子として、誇りに思うよ…。」


泣くお義母さんとお義父さんを見て、僕も涙が溢れた。

三人で握手を交わし、離婚届はお義父さんが破って捨ててくれた。


それから、僕は家を出て、練習へ向かった。

もう泣かない。

泣いてる暇があったら、夜織から受け取った分、頑張るんだ。

たしかに正直悲しくないと言えば嘘になる。

もっと、歌を聴かせたかった。

もっと、名前呼べばよかった。

もっと、抱きしめればよかった。

もっと、もっと…。

でも、彼女はそれを一人で背負い、前を向いたんだ。

僕も、前を向け。

よく考えて、考えて考えて、彼女にできることを探して生きていくんだ。

それが、今の僕にできる、最大限の感謝の伝え方だから。

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