最後の年越し
翌朝、外はうっすら雪が積もり、息が白く見えるほど、気温が低かった。
年越しは、夜織のご実家ですると、僕から言った。
大切な人と過ごしたかったから。
時間は、夜20時にご実家にお邪魔する予定。
それまでは、夜織も僕も年越しに起きてられるようにめいいっぱい寝ることにしていた。
僕は、少し早く家を出て、手土産を買い、ご実家に行った。
お出迎えは夜織がしてくれた。
「いらっしゃい!夜織くん!ようこそ我が家へ!」
「ふふっ。うん。お出迎えありがとう。お邪魔します。」
リビングには、ようこそ!と笑顔で迎えてくれるご両親。
夜織と僕が大好きなハンバーグに、色鮮やかな野菜サラダ。
チキンに、スープに、ケーキまで用意してくださっていた。
「夜織くん!このケーキね、夜織が一人で作ったのよー!」
「え!すごく綺麗です。すごいね。綺麗すぎて、食べるの気引ける。」
「やった!作って良かった!デザートに食べようね。」
「うん。ありがとう。」
それから、四人でご飯を食べた。
写真は、結婚式もだが、僕がたくさん撮った。
夜織の姿をたくさん撮りたかったのもそうだが、何より夜織の楽しんでる時間を、邪魔したくなかったからだ。
夜織とケーキのツーショットを撮り、ケーキを皆で食べた。
年末の音楽番組を流しながら、たわいもない話を四人でして、カウントダウンをした。
5、4、3、2、1!
「ハッピーニューイヤー!」
「明けましておめでとうー!」
「明けましておめでとう!」
「明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いいたします!」
「よろしくお願いしまーす!」
「よろしくー!」
「よろしくね!」
そして、僕と夜織は初詣に行った。
「お参りする?」
「ううん。しないって決めてたの。私までお祈りしちゃったら、他の人の分叶うのが遅くなっちゃうでしょ!神様には頑張ってくださいって、応援だけしとく!」
「そっか。なら、僕もやめとこうかな。」
「え!なんで!気遣わなくていいよ!」
「気遣ってないよ。実は、毎年お参りしてないんだよね。神様大変そうだから、お参りっていうよりかは、見守っててくださいって、話しかけるぐらいで終わってたんだよね。だから、夜織がお参りしてるんだったら、しようと思って聞いてただけ。」
「素敵な考えだね!ふふっ。あ!おみくじ引きたい!」
「うん。行こ!」
おみくじを買い、せーので開いた。
二人とも大吉だった。
でも、夜織は嬉しそうではなかった。
「大吉、嬉しくないの…?」
「え!ううん!嬉しいよ!すごいね!」
この時の彼女は、まるで大吉が悲しそうな顔をしていた。
それがどうしてかを、なぜ僕はこの時しっかり聞かなかったのだろう。
初詣が終わり、帰ることになった。
すると突然。
「あのさ!夜織ん家、行ってもいい?」
「ん?いいけど、どうして?」
「えっと…もうちょっと一緒に居たいなって!」
「…そっか。おうまさんも寂しがってたし、三人で一緒に映画でも観ようか。ご両親に連絡するね。」
「大丈夫!もう連絡した!おうまさんと、三人で映画観よ!」
「うん。ありがとう。行こっか。」
そうして家に行き、三人で映画を観た。
でも、映画が終わった時、僕はいつもの間にか寝ていたんだ。
最初から決めてた。
彼の家に行くこと。
彼の家までお父さんに迎えに来てもらうこと。
彼が寝たのを確認して、彼にブランケットをかけ、映画の途中で、お父さんに連絡をした。
そして、彼の手を握った。
すると、涙がこぼれた。
あれ…。
散々一人で泣いたのにな…。
ははっ…。
やめてよ…。
お願い…。
止まれ…。
止まってよ…。
私ができること…やるだけなんだ。
止まらない涙を無視して、目をぎゅっとつむり、私は強く願った。
「私の耳の機能を彼に渡してください」
目を開け、手を離した。
彼が寝ているのを確認し、私は自力で車椅子に乗った。
おうまさんを彼の横に座らせて、こぼれる涙を拭くことも忘れて、必死で車椅子を動かした。
でも、車輪は進められなくて…。
振り向きたくて、声を掛けたくて…。
もう一度だけ、名前を呼んで欲しくて…。
あー、そっか…。
耳…もう聴こえないんだ…。
もっと、歌聴いとけばよかった。
もっと、名前呼んでもらえばよかった。
もっと、抱きしめてもらえばよかった。
ピコン。
お父さんから着いたよと通知が見えた。
よかった。
これで…離れるきっかけができた…。
「大好きだよ、夜織。」
車椅子を電動にし、玄関に向かって扉を開け、お父さんに会った。
お父さんは、もう耳が聞こえないと分かっていた為、ホワイトボードを用意してくれていた。
そこには、「渡せたか?」だった。
その文字を見て、溢れ出す涙を拭いながら、私はとびっきりの笑顔で笑ってうなずいた。
お父さんは、泣きながら、頭を撫でてくれた。
ホワイトボードの文字を消して、新しく、「頑張ったな」って書いて。
私は、声を必死に抑えながら泣き、コントローラーを動かして、彼の家を出た。
私もお父さんも涙が止まらないまま、家に帰った。
扉を開けると、お母さんも待っててくれていて。
その目には同じく涙が溢れていて。
三人で笑って、大泣きしながらハグをした。
強く、長く。
泣いてる人が誰一人置き去りにならないよう、全員が泣き終わるまで、ハグをした。




