きっかけ
初LIVEが終わり、僕たちは汗だくで、驚く程笑顔で、楽屋へ戻った。
お疲れ様と言い合っていると、みんなの家族が続々と楽屋に来てくれた。
もちろん夜織と、ご両親も。
「本日は、お越しくださり、本当にありがとうございました。」
「感動しました!本当に幸せな時間でした!ありがとうございました!」
「うん。ありがとう。夜織、皆に紹介させてもらってもいいかな…?」
「はい!あ、でも私全然正装とかじゃ…。」
「驚く程素敵です。」
皆のご家族が帰り、僕は少し緊張しながら、少し顔が赤い夜織を連れて歩き出した。
「皆、紹介させて欲しい。僕の婚約者の夜織さんです。」
「初めまして!座ったままのご挨拶で、大変申し訳ありません。改めまして、夜織と申します。本日は、幸せな時間を過ごさせていただき、本当にありがとうございました。皆様、これからも、末永く鈴木夜織を、よろしくお願いいたします。」
彼女は、深く頭を下げた。
その姿に、僕は泣きそうになったが、ぐっとこらえた。
社長やメンバーは、口々に素敵な人だと、改めて彼女を認めてくれた。
僕の大切な人を、僕の大切な人が認めてくれる。
こんなに幸せな時間を過ごせる日が来るとは、生きていれば、良いこともあるもんなんだね…。
それもこれも、君と出会えたからなんだよ。
本当にありがとう。
ただ、僕はこの時胸が少しだけチクッとしていた。
(皆様、これからも、末永く鈴木夜織を、よろしくお願いいたします。)
末永く…か…。
夜織は、僕とのことを言ったんじゃない。
僕のことを、メンバーに託したように言ったんだ…。
夜織とご両親の話によれば、夜織の寿命は残り3ヶ月。
今日も朝から日記を読み、自分の人生を理解して、背負って来てくれた。
それに…。
夜織には、言えないことがあってね。
僕は、末永くはこの場所には居られないんだよ。
僕の耳は少しづつ聴こえなくなる。
でもそれは、君が消えた後のことだから。
知らなくていいんだけどね。
「えっと、男性の夜織さん!ご両親がお話があると…。」
「ありがとうございます。分かりました。すぐ行きます。夜織、ちょっと待っててね。」
そして僕は楽屋を出て、ご両親から差し入れのお菓子をいただき、式の話をした。
私は、正直すごく怖かった。
男性しか居ないこの狭い空間で、すごく見られて、コソコソ目の前で話されたから。
私のこと、やっぱり認めてもらえないのかなって…。
すると、社長さんが私の目の前に来て、目線を合わせて話してくれた。
「君の耳を、君の旦那さんに渡してもらえませんか?」
楽屋に戻ると、夜織は笑っていた。
でも、違和感だったのは、社長もメンバーも、作り笑いをしていたこと。
「…ん?何話してたの?」
「夜織くんの、メンバーさん達の前でしか見せてない、オフの感じ聞いちゃった!夜織くんって、意外と抜けたところがあるんだね!」
「え!ちょっと、何話したんだよ。お前ら。」
「え、え!いや、夜織さんが知りたい顔してたから!」
「えー!私そんな顔してました!?恥ずかしい!ははっ!」
大切な人達が楽しそうに笑ってる姿を見られるだけで、幸せなんだね。
その後、夜織とご両親をお見送りさせていただき、僕たちは、LIVE会場をスタッフさんと共に片付け、打ち上げに向かった。
次の日も練習だった為、僕たちはお酒を飲まず、食事だけをして解散した。
疲れてたからだろうか。
心做しか、みんな笑顔が固かったような…。
いや、今日は幸せな時間を作ることが出来たんだ。
そして、一週間後は結婚式。
二日前から休みをいただき、二人の時間を過ごしてから式に臨む。
今年できる努力は、あと三日間。
しっかりやりきる。
明日の朝は、ご両親にも許可を得て、夜織が日記を読み終える時間に合わせて、クリスマスプレゼントを渡しにご実家に伺う。
今年は、楽しみがぎゅっと詰まった一年だったように思う。
僕はその幸せを噛み締めながら、眠りについた。
翌朝、僕はご実家に行き、夜織と会えた。
プレゼントはもちろん。
「改めて、僕と結婚してください。」
指輪を彼女の左手にはめて、とびっきりの笑顔で笑う彼女を抱きしめた。




