認めてもらうこと
「え、おめでとう。」
「え…?」
「うん!おめでとう!すごい!かなり早いけど、既婚者第一号だ!」
「夫婦だ!すげぇ…!結婚式楽しみだなぁ!」
「おめでとう。どんな人なの?」
「え、待って。怒らないの…?」
「なんで怒るんだよ。悪いことしてないだろ。人として幸せ掴むだけなのに、誰の許可がいるんだよ。夜織の人生なんだから、当たり前に、幸せになってほしいよ、俺達は特に。」
僕は、涙をぐっと堪えた。
僕は、どこまで恵まれているんだろう…。
だから、気付かなかった。
後ろに社長が居ることに。
「…ありがとう。彼女は…。」
「ちょっと待って。彼女って…?」
「お疲れ様です!」
全員で立ち、挨拶をして顔を上げて見た社長の顔は、かなり曇っていた。
「とりあえず座ってもらって。…夜織、彼女居るの?」
「…はい。その方と、結婚を考えています。なるべく早く。」
「ん、ちょっと気になったんだけど、結婚したいは本当に素敵な事だからもちろん賛成なんだけど、なるべく早くっていうのは?そこは、理由が知りたいな。デビューしてすぐの今のこの時期に、結婚をするって、ごめん、正直今すぐどうぞって、相当な理由ないと言ってあげられないよ。」
「はい。嘘は、つかないって決めてるので、全て正直に話します。僕の彼女は_。」
僕は全てを話した。
彼女の余命のこと、記憶障害のこと、願いのこと…。
包み隠さずに、全てを話した。
夜織にも、ご家族にも事前に話していたから。
大切な人達に、嘘をつかずに説明させてほしいと。
全てを話し、僕は改めて涙を堪えながら顔を上げた。
本当に驚いた。
びっくりするほど社長もメンバーも鼻をすすりながら、泣いていたから。
「えっと…。社長…?」
「なんだよそれ…。結婚、今すぐどうぞだよ…。」
「え…いいんですか…?」
「当たり前だろ!もう今すぐしてくださいそれは!細かいことは、全部俺に任せろ!夜織は、夜織さんとの幸せを考えてください!」
夜織、ありがとう。
君に出会えたから、僕はこんなにも素敵な人達に恵まれたんだと思う。
「社長も、みんなも、本当にありがとうございます。皆さんに恩返しが出来るよう、精一杯努力して、パフォーマンスを届け続けます。」
みんなで円陣を組み、僕達は誓い合った。
パフォーマンスを、たくさんの人に届けることを。
そして、なるべく早く公表することが大切ということで、夕方には発表することがその場で決定した。
夜織にも認めてもらえたことと、発表を配信で行うことを電話で伝え、時間までレッスンに励んだ。
発表の時間になり、社長が配信を開始した。
「先日は、デビュー発表をさせていただき、彼らのパフォーマンスをご覧くださり、本当にありがとうございました。本日、急に配信をさせていただいたのには、ちゃんとした理由があります。メンバーである、夜織がこの度、素敵な縁に恵まれ、結婚することとなりました。」
僕とメンバーは、コメント欄と社長を交互に見ていた。
コメント欄には、様々な意見がでていた。
(夜織くんが結婚!?)
(びっくりしたけど、おめでとう!)
(え、昨日デビューで、今日結婚?早くね笑)
(えー普通に無理かも)
(プロとしての自覚欠けてんじゃない?)
(所詮は一般人よな)
僕がまるで犯罪者なのかなと思う程、僕は言葉に負けそうになっていた…。
「様々なご意見があると思います。まず、祝福のコメントして下さる皆様、本当にありがとうございます。私も同意見です。まず前提として、私の事務所のタレントの恋愛に関しましては、本人の自由。つまり、恋愛禁止ではありません。夜織は、隠すことも出来ただろうに、嘘をつかず、正直に話してくれました。私もメンバーも、そんな彼の意思を尊重することを決めました。」
(何それ)
(ファン辞めようかな)
(え、ファンの意見はどうでもいいの?)
(へぇー)
(にしてもはえーだろ)
「ここからは、社長ではなく、私自身の、一個人の意見として、聞いてほしいのですが…。
芸能人は、幸せになることを許されない生き物なのでしょうか?
芸能人と一般人は何か違いがありますか?
起きて、ご飯食べて、仕事して、趣味があったり無かったりして、お風呂入って、寝て。
何か違いがありますか?
幸せになろうとしてる人が居て、それがあなたの大切な人達だったら?友達でもご家族でもいいです。
大切な人が幸せになることは、自分も嬉しくなりませんか?
私たちは嬉しかった。嘘をつかなかったことじゃない。
夜織が、大切な人が、幸せになろうとしているからです。
私たちのファンでいてくださる皆様は、私たちにとって大切な人です。
私たちは、皆様が幸せであってほしいです。
そしてあわよくば、皆様にとっての大切な人に私たちはなりたい。そう思っています。
夜織の幸せには、夜織の人生には、彼女が必要でした。
今の夜織が居るのは、彼女のおかげであり、話を聞き、私たちにとっても彼女は大切な人になりました。
今の夜織を作ってくれた彼女に、私たちは心から感謝を伝えたいと共に、幸せになってほしいと心から思っています。
長くなって申し訳ありません。ご報告は以上となります。
お忙しい中、ご視聴いただき、誠にありがとうございました。」
社長は配信をきった。
僕はきるギリギリまで、コメント欄を見ていた。
一番最後のコメントだった。
(夜織くんも、彼女さんも、幸せになってくださいね!)
理解されない方が今は多いのかもしれない。
でも、僕には、少なくとも九人の見味方がいる。
「社長、本当にありがとうございます。」
「感謝はまだ早いな!結婚式で、長めに言ってもらわないとな!」
「え!社長そこ!?」
「なんかもっと、さっきまでめっちゃかっこよかったのに…!」
「絶対そこだろ!結婚式だぞ!大事だろー!」
そうして社長に追いかけられるメンバーを見て、僕は、夜織以外の前で初めて、心から笑ったんだ。




