僕のわがまま
「あの、改めて、初めまして!私夜織と申します。よろしくお願いします!」
「…初めまして。同じ名前なんですね。僕も夜織と言います。」
「え!すごい偶然ですね!周りになかなか居なかったので、本当にびっくりです…。あの、初対面でこんなこと言うのは本当に怖いと思うんですけど、あなたの声、どこかで聞いたことがあるような気がして…。」
「僕、歌歌うの好きで、近くの公園でよく歌ってたんです。もしかしたら、目の前通った時とかに耳に入ってきてたのかも…。」
必死だった。
君との思い出を消すことに。
でも、消したくなくて。
離れたくなくて…。
「あの!もし良ければ、歌聴かせてもらえませんか?私、この身体で、一人で出掛けることもままならなくて…。あ!でも、本当無理せずで…!」
「歌います。夜織さんのために。」
そして、まっすぐ僕は彼女の為に歌った。
あわよくば、君の記憶に届けと願いながら。
歌い終わって顔をあげると、彼女は泣いていた。
そして、奇跡が起こった。
「やっぱり、素敵な歌声だね…!」
「え…やっぱりって…、なんで泣いて…?」
「ごめんなさい、思い出しちゃった…。」
そう言ってたくさん涙を流す彼女を、僕は思いきり抱きしめた。
「謝ることなんかないよ。夜織は、何も間違ってない。大好きだよ、夜織。夜織が、何回僕を忘れても、完全に思い出せなくなっても、僕が君を忘れない。何回も何回も、君の名前を呼んで、君の為に歌い続けるから…。」
気付いたら僕も泣いていた。
思い出してもらえたからじゃない。
彼女が、思い出したことを、隠さず言ってくれたからだ。
嘘なんていくらでもつけたのに、つかない選択をしてくれた。
だから、僕もそれに答えようと思ったんだ。
「夜織、僕達結婚しようか。」
「え、?」
「僕、デビューが決まったんだ。」
「なら、余計に結婚なんて…。」
「だからだよ。彼女より妻が居るって方が、僕の夜織への本気も伝わると思うんだ。僕の人生にはそもそも夜織以外は有り得ないんだし、夜織が居なかったら、今の僕は居ないんだよ。それぐらい、夜織は、僕にとって大切な存在なんだよ…。考えてもらえないかな…?」
「そんなの…。もちろん私もしたいよ…。ウエディングドレス着て、大きなケーキ二人で切って、大きなスプーンで食べたいって憧れもあったよ…?でも、私は、車椅子で、記憶だって、またどれくらい消えるか分からないし、次消えたらもしかしたら、今度は思い出せないかもしれないんだよ…?そんなの、夜織が傷つ…。」
「かないよ。傷つくわけないよ。僕が選択したんだ。夜織と結婚したいって。自分で決めたことに後悔なんてしない。結婚しないで、夜織のやりたかったこと叶えられなかった方が、僕は、後悔して傷つくよ。だから、僕と結婚していただけませんか…?」
「…はい!」
そして、二人で見つめ合い、少し早いが、誓いのキスをした。
「おめでとうー!」
「おめでとう、夜織。ちょっと年齢的には早いがな…。」
お父さんは少し複雑な顔をしながらも、お母さんと共に祝福してくださった。
だが、現実はそう簡単にはいかないものだということを、僕は次の日で知ることになる。
翌朝、報告とレッスンをしに、僕は事務所へと向かった。
扉を開けると、そこにはメンバーだけが集まっていた。
「おはよう。お疲れ様。」
「おはようー!」
「おはよう、おつかれ。」
「おはよー、おつかれー。」
「おはよ!」
メンバーは僕を入れて五人。
まずは、メンバーに話さなきゃいけないと思い、夜織のご実家でご飯をいただいた後、メンバーに少し早く来て欲しいと連絡をしていた。
「話って、どうしたの?」
「まず、呼び出しといて一番遅くて本当にごめんなさい。どうやって伝えようかずっと徹夜で考えてて、寝坊して…。」
「全然いいよ。ゆっくりでいいから、聞くから、話して。」
「ありがとう…。」
そうして、全員で輪になった。
「僕、結婚したい人が居るんだ。」
「え…?」
空気は一気に凍りつき、メンバーは驚いた顔をして、僕を一斉に見た。




