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32. Happy married couple.

「長旅だったね、おつかれさま」


「フォーティスも、大業(たいぎょう)でしたね……」


 無事に我が家に着けば、やっと肩の荷が降りた気がする。帰るなり夫婦して倒れるように惰眠をむさぼってしまっていた。


 翌日の夜にはあらためてたっぷりのお湯の恩恵を楽しんで、貴族の奥さまらしい装いをさせられた。


 使用人たちの期待がそこそこ高まっているような気がする寝巻きだ。


 ベッドに腰掛けたフォーティスに招かれたので、隣に座った。


「私は王族としての義務からも解放された身だったから。ある程度外に出しても恥ずかしくない作法は躾けられたけれども、欲しくもない力を勝手に与えられるってこんな気分か」


 疲労からは回復しているはずだが、どことなく弱っているふうにも見える。


「フォーティスは、その気になれば王にもなれる器かと……与えられた力をうまく利用するんだと思ってました」


 権力でも腕力でも、使いこなしている人だから。


「褒めてるのかな? ありがとう。ミュゼッタが国を治めたいのならやぶさかでもないよ」


 やぶさかでもない、が「同族の血を流すこともいとわない」に空耳したのは無視しておこう。そうなると彼は一族の全滅まで追い込みそうだから。いやな歴史への名の残し方だ。


 頬が引きつる。


「やだな、やらないよ」


「そうしてください」


「うん。私は兄上が好きだからね。それで。私のかわいい奥さんは、夫が勇者になってもそばにいてくれるかな?」


「勇者とか関係なくそばにいますよ。なぜそんなことを訊くんです」


「だってきみ、勇者にいい思い出がないから。今度こそ逃げるかなって」


 消え去らない寂しさの原因はそれか。ミュゼッタはもう、フォーティスから逃げたりなんてしない。けれど、彼のほうは?


「フォーティスこそ……」


「私?」


 目を見開いている。


「わたしを妻と認めてくださっていますか?」


 体の関係はなくとも、書類上夫婦になることはできるけれども。愛し合うとミュゼッタが誓ったのには、肉体も含めていた。そう、覚悟してこの場にいる。


 フォーティスも読み取ったらしく、腰を抱き寄せられる。ぴったりとぬくもりが寄り添う。


「ミュゼッタは私がこれぞと求めた妻だよ。あの夜はそんな雰囲気じゃなくなったからね。きみの心が落ち着くまでは待とうと思って」


「……それだけですか?」


「どうしたの」


「結婚したはいいけれど後からわたしのことがいやになったとか。この身体に不満があるのかも、と……」


 幼いころから慢性の栄養不足にあったため、成人しても男性の欲を満たせるような体つきはしていなかった。栄養豊富かつ安定した食事ができるようになってからは、多少は体重も増えたけれども、豊満とはお世辞にも言えない。


「不満などあるわけがない。自覚が出てきたのは最近だけども。私は包まれるより包み込みたい派だったらしいよ」


 包容力の問題だろうか。精神的にもミュゼッタの上をいく彼をやりこめるとは思っていないのだが。前世の傷心により心を閉ざし成長を止めてしまったから、長く生きたつもりでも幼いままだ。


 手が伸びてきて、親指の腹がミュゼッタの頬を滑る。愛しい、愛しいとつぶやくように。ミュゼッタはその硬い手をとって、胼胝(たこ)に吸い付いた。


「……キスは、こっち」


 手を剥がされて、唇を舌で舐められる。自分のものではない手が、首から鎖骨、肩、と輪郭をなぞっていく。ぺらりと極薄の寝巻きはめくれていた。


 直に触れる肌に胸がさざめく。


「愛してるよ」


「……っ、はい」


 それからは彼の腕の中で綿毛にでもなった気分だった。彼の手と唇がミュゼッタの身体の形を明確にしていく。なのに中は溶けたようにふわふわして、ゆらゆらして、意識が上っていく変な感覚に満たされる。撫でられて、やんわりゆすられて、フォーティスの余裕のない目はミュゼッタに一点集中していた。


 男と女では肌の質も違う。


 なのに同化するように張り付くお互いの肌。毛先にくすぐられて。息が保たない。


 ミュゼッタの女としての魅力がいかなるものか、ひとつひとつを指が舌が探り当てては言葉にしていく。「も、やだぁ……」とこちらが涙目になっても「音を上げるのが早いよ」なんて、楽しげに耳元でささやかれる。力が抜けているはずなのに、へそのあたりがきゅっと締まる。


 フォーティスは調子を取り戻した、ようだ。でもフォーティスも苦しげにしていたので、おあいこだ、たぶん。


 息も整わないうちにキスが続き、ミュゼッタの世界にはフォーティスただひとりしかいなくなった。


 抱き合って眠る二人の間には、もう寂しさの溝なんてない。







 勇者の剣は藁を巻いて縄で縛り、間抜けな人の形を作った。


 腐りも錆びもしないとわかったからといって、ぞんざいすぎる扱いである。


 うっかりしない限り、他に知られることもない。魔物が活発になるまで、かかしとして眠っていてもらうことにした。







We ended up like this.

(こんなふうな終わり方。)


Happy married couple.

(幸せ夫婦。)



最後までお付き合いくださりありがとうございます。

聖女ってどの作品も使う力はキラキラ光が多いかも……ということで聖女の力を嫌い、自分を呪ったがためにヘドロ治癒魔法が出ちゃう聖女書いてみました。

そして不穏になりがちヒーロー。


Q. フォーティスは二重人格ですか?

A.いいえ、女性を相手にするときと野郎どもを相手にするときで意識して口調を変えてるだけです。


片膝ついてプロポーズは私的に外せない王道ワンパターンなので、「ああ今回もやってんな」と笑ってくださるとありがたいです……なむなむ。チョコレートは何回食べても美味しいじゃろがい、そういうことです。


キャラを上手く動かせないわりに持て余してる感じがあるので、キャラ減らして話をすっきりさせたいです、ね(当面の目標)。


くどくないけど軽くもない地の文ってさじ加減が難しいです。あまりやりすぎると説明くさくて萎えるし、足りないと読んでいてわけがわからない。読む側の想像力を損ねるものであってはなりませんが。



これにて恋愛としては完結しますが、さらっとざまぁ成分足したい方は次に一話を置いておきますのでどうぞ。いちゃいちゃで終わりたい方は読まなくて大丈夫です。


最後までありがとうございました。また別の作品でお会いできますように。


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Thank you very much for reading my work.


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