28. The Yellow Rose.
結婚式が先か大聖女任命式が先かでフォーティスとミュゼッタは揉めたものの、ミュゼッタがすぐさまフォーティスの屋敷に引っ越すと言ったら結婚式が後でもいいと承認された。
ミュゼッタのかけた浄化や治癒の範囲はランティス村どころか周辺の三都市に及んでいた。国境を越えなかったのは騒ぎを国外まで漏らさずにいられた幸いというか。ついでに治癒魔法も影響して、一年後に局地的なベビーブームが起こることは知りたくなかったかもしれない。治癒魔法を限界まで重ねがけするといろいろ生物として活性化してしまう実証実験を計らずもしてしまった。
派手に披露した聖女の力を隠しおおせることはできず、ミュゼッタは国王から大聖女へ任命された。
護衛騎士であっても夫であっても、就任式の際中は大聖女から離れる。割り当てられた観覧席や貴賓席に着いているべきのところを、フォーティスは絶対にエスコートと直隣を譲らなかった。
心強かったけれども、ほんとうに誰も陛下ですら彼を止めることがなかったので、真に恐れるべきは特権で帯剣したままミュゼッタの隣に立つこの男なのかもしれない。
おかげで任命式は静かに終えられた。
大聖女としての仕事を矢継ぎ早に頼まれたが「結婚式の準備があるから」と九割の依頼を断っていた。フォーティスが強い。
「全国の魔物の発生はだいぶ減ってるんだよ。こんなの教会が大聖女を各地に見せびらかしたいだけだ」
と、依頼書の束を叩いて憤慨している。
依頼の一割は担当地区の聖女が倒れて周辺にも手に負えない瘴気が出たとかごく深刻な事件だったのでミュゼッタが解決した。
そうしてじっくり時間をかけて結婚式の準備が終わった。
早朝に、空気を湿らせる程度の小雨があって、虹が出た。結婚式に降る雨は清めのおしるしとされ、とくに聖女が嫁ぐ場合は神が愛しい娘を送り出すのをもったいぶって泣くからだと言われる。縁起がいい。
午前中のうちに水気はすっかり飛び、式になんの影響もなかった。
ミュゼッタのためだけに作られたウェディングドレスを着て、フォーティスと向かい合う。
「美しい。天恵の花嫁をもらうんだな、私は」
「きれいなのは、フォーティスですよ?」
おめかしでお互い晒した額を合わせて、フォーティスは笑う。ミュゼッタは緊張でぎこちない。いつもより着飾ったうえでこの顔面に迫られたのでは、真顔でいる女の方が正気でない。
手を取り合って、将来を誓い合う。いわく「墓場までよろしく」のキスを、手のひらではなく唇にした。
前世を数えれば結婚式は二度目だが、今度は正真正銘愛し合っている。
全てが順調だった。
みんながくれる祝福に感謝を返し、帰宅してまた後でとキスを交わした。風呂から上がればお人形のごとく身支度をされて、終われば使用人たちがいっせいに引いたときだった。姿見に映った黄薔薇に、ハッと振り返る。
「コルネリアさま……?」
『オデッサ!』
黄薔薇の髪を揺らし、コルネリアが抱きついてきた。透けた体からは、生命を感じない。ミュゼッタも手を回そうとしたが、素通りして自分を抱きしめただけになってしまった。
生きているとは思えない、けれども声ははっきりと聞こえる。
『アーガスを迎えに来たの。その前にオデッサにも……いまは、ミュゼッタというのよね。ああ、会いたかったわ』
「わたしも、コルネリアさまとお会いしたかったです。あの出立が最後になるなんて」
『そう。魔王との戦いの場でわたくしが前に出過ぎてしまって。……オデッサはアーガスにも酷い目に遭わされたでしょう?』
あいまいに微笑んでいると、コルネリアは物知り顔だった。
「今世でミュゼッタのことは助けられているといいのだけれど」
その意味をよくよく考えた。助けるとは。身近に彼の生まれ変わりでもいるのでなければ、こんなこと言い出さない。それにしては、それらしき人物に覚えがないけれど。
「どこかにアーガスさまがいらっしゃるのですか?」
あまり嬉しい知らせではない。だって彼がコルネリアを待たずに転生をするなんて。
『そんな顔しないで。あの人もあなたの旦那さまとお話ししてるところよ』
頭に疑問符を撒き散らしながらも、廊下に出た。コルネリアがふよふよと浮いてついてくる。
The Yellow Rose.
(黄薔薇さま。)
少し短いので29話も一度に投稿します。




