27. Love has no distance.
「っだーーー!! もうやめてくれぇ!」
地面にうつ伏せていた一人が海老反りした。
「すんません団長俺らも我慢の限界です黙ってらんねぇ」
「団長ばっかずるいっ。オレだって王都に帰れば、オレだってぇっ」
二名がごろごろ地面を転がる。体は全快して調子がいいはず。どこかが痛くて、というわけではあるまい。
「目の前でいちゃいちゃされてこの体で耐えろってむり」
「あーなんかもう出ちゃうほとばしっちゃう」
と足を交差させている一人を隣の男が殴っている。
「おまそれ出したら一生の不覚だぞ。騎士以前に男として」
「ねぇ腕っ! 僕の腕が生えた! 腕出た! 治癒魔法すげぇ、奇跡だ!」
「よかったなドルー……おれの足も出たよ。奇跡だよな」
「いやこれは治癒魔法ではなくて、失われた聖願魔法じゃないか」
ぶつぶつ唱えながら、同僚の素足や腕を撫でさすっている。
「デンバーの魔法オタクがはじまったやー逃げろー」
「ぅあ゛ーー下手な精力剤よりやばい」
「これぶつける先ないのつらぁ……」
「全身がムズムズして気持ち悪いぃぃ」
それぞれの感想と体調が大変なことになっている。どうやら生命力を高めに高めすぎた、のが原因だった。
ため息をついたフォーティスがのっそりと立ち上がる。
「よし貴様ら発散させてやるかかってこい」
拾った剣をくるくると片手で扱い、構えた。次々と彼の部下たちが正座で横に並んだ。
「アッ収まりましたァ……」
「俺も無事に」
「おれなんともないっすほんとっす」
「オレもォ」
全員が全員白旗を上げている。どれだけ団長と手合わせをしたくないのだか。
「まあいい。ランティス村の復興もある。それだけ体力があり余ってるなら後処理だ。片付けや道の整備をするぞ」
「”Aye, Sir!! ”」
草をかき分けてとっとと村を目指した。
フォーティスはミュゼッタの隣に戻ってきた。ビスコッティは日陰でもぐもぐと新鮮な草で間食を思う存分楽しんでいる。
辺りは一時間前まで血まみれで魔物と戦っていたというのに、まるで瘴気の気配すらない清らかな空間に生まれ変わっている。正式な聖女不在の間に、元の地形もわからぬほど作り変えてしまった。
「ここまでやってしまえば、聖女の力がないなんて言い逃れできないよね。どうしようかな」
腰に手を当てて清々しく言い放つ。ミュゼッタは彼の額に残る血を拭った。
「もう、いいです」
なんのことだ、と横目を向けるフォーティスに腕を絡めた。
「聖女でも大聖女でもやります。フォーティスがずっとそばにいてくれるなら」
勢いよくミュゼッタを振り返った。
「それってプロポーズかな?」
「そうとってくださるのなら」
急に真顔になったフォーティスが胸に手を当て、膝を地面についた。
「ミュゼッタ、私の姫。愛しています。これから目指す高みであろうと落ちる奈落であろうと私が付き従うことをお許しください」
それが天国でも地獄でも、彼はミュゼッタを離さない。
「フォーティス……」
「どうか『許す』、と」
涙がこぼれ落ちる前に、ミュゼッタは自分だけの騎士に口づけた。
生きている感触がする。逃げてしまわないでよかった。
たぶん正解の行動だった、フォーティスの顔を見る限り。
「付き従うなんて言わないで。わたし、胸を張ってあなたの隣にいたいのです。フォーティスを盾にしたり、従僕のように引き連れたくありません」
「では堂々ときみの隣に立つよ」
大きく口を開けて笑った。
王都からの騎士団派遣要請は取り消した。中間の街で鉢合わせた連絡役の報告により、半数以上が引き返した。あとは村の復興の手助けや本当に魔物の心配がないか周辺の調査のために訪れるという。第二騎士団は調査団より先に帰るため、ミュゼッタはデライラとの最後の夜を過ごすことになった。
応援が来る数日前からデライラは寝る前に日課となっていた団長さまについて談義する習慣をやめている。ミュゼッタとフォーティスのかもす雰囲気が変わったことに気づいたらしい。真っ向から関係を訊かれて、婚姻の約束をしていることを白状した。事実上婚姻は成しているが、心の中の状態である。
「はじめから結婚が決まっていると言ってくだされば、あたくしだって引き下がりましたわよ」
「ここに来たばかりのときはまだ、確実ではなかったというかなんというか……」
「おやめなさい。言い訳されるほうがむなしくなりますわ」
プンッと毛布を引き上げて隠れてしまった。
「王都まで気をつけて。お幸せに。おやすみなさい!」
「……おやすみなさい、デライラさま」
フス、とストゥの鼻息が頬にかかって苦笑した。
Love has no distance.
(愛は離れない。)
*おまけ
ミュゼッタのプロポーズ直後あたり。
「こうなってみてひとつ、謎が解けたよ」
「なんの謎ですか?」
「なぜ私が大家族なのか」
「それは、側妃さまがたもいらっしゃったようですし……」
前国王が健康的な生活を送っていたら、自然と腹違いのきょうだいも増えてしまうだろう。
「うん。それもあるかもしれないけど。父上は大なり小なり命を狙われていたからね。そのたびに聖女から治癒魔法で念入りに助けられていたとしたら……」
「……えぇ?」
生命力を高められた前国王の、子孫繁栄に拍車をかけてしまっていたかもしれない。
「だから自重してね」
果たして、自重するのはどちらになるだろうか。




