37 踊り
いやっほう。
秋祭り二日目なう。
昨日さんざん暴れた挙句疲れて夕方まで持たなかった私は、今日は厳重な監視の下秋祭りを回ることになった。
お財布は一旦没収。今の私の手持ちは、銀貨たったの三枚。とっても心もとない。右手はアルバートに繋がれている。急に走り出すと困るから、だそうだ。さすがにそこまでじゃないやい。もはや隠れもしない護衛が左右と後ろにに一人ずつ。ちょっとした連行状態である。
どうしてこうなったし。
「あ、アルバート様、私あの屋台行きたいです!」
「却下。今日買っていいのは賭博性のないものだけだよ。今度は型抜きで暴れる気?」
ちっ。
これも一度やってみたかった屋台の一つ。異世界来てまでする事じゃないっていうのは分かるけど、うちの近所の夏祭りには型抜きの屋台が無かったのだ。
手を引かれるまま、ふらふら歩いていると横を歩くアルバートが口を開いた。
「クリスティナ、今日は僕の指示した順序で一緒に食べ物の屋台を回ってもらうからね」
「あのー、アルバート様、ちょっと管理度合いが高すぎないかなー、なんて思っちゃったりするのですが」
「昨日のような暴走が起こらないと約束できるのかい?」
ぐぬぬ。
衝動は自分で制御できないから衝動って言うんだ。でもまあ、今日はいろいろ食べたい気分だからよしとする。
なんと私、昨日の夕飯を抜いているのである。時々やる事だけど。意図せずして食べ歩きベストコンディションとなってしまった私に、アルバートの提案を強い意志で却下できるはずもなく。
普通にお財布代わりのバッグ奪われた時点で詰んでたよね。寝込みを襲うとは卑怯な奴め。エマの裏切りが致命的だった。
少し歩くと、アルバートが開けたところで立ち止まった。
「ここの広場が、食べ物の屋台が集まっている場所だ。お昼ご飯はここで食べよう」
「はーい。ドーナツどこですか?甘いなら他のでも可ですけど」
「いや……もう突っ込まない。僕のおすすめは、あそこにある焼きたてチーズパンだけど」
「あー、あー。うー?ぬうーん……」
チーズパンかー。確かにたまにはいいかもしれないけど……。屋台で食べるものとして正解かどうかっていうのがね。迷いどころかもしれない。
「ほら、バスチャン地方の名産の小麦とチーズを使っているんだよ。バスチャン地方」
どこだろ?聞いたことがあった気がするけど、よくわかんない。
「ほら、君の家の領地だよ。クララが、クリスティナはそういうの知らないって言ってたから。食べてみたら?美味しいんだよ」
ふむ。二人でパンの屋台まで行って、買ってみる。とっても優しそうなおばさんが接客してくれた。
私は、顔つきが領主様に似てるって言われてパンをおまけしてもらった。
そりゃ娘だからね。
髪と眼の色が違うとはいえ、残りは父親譲りだ。
椅子に並んで座って、両手でパンを頬張る。
さすが焼きたて、あったかくて美味しい。たまにはこういうのもありかもしれない。
「そういえばクリスティナ、昨日はだいぶ元気に叫んでたよね。いつもあれぐらい元気なら、もうちょっとクラスの人とかとコミュニケーション取れるんじゃないかなー、と思ったんだけど」
「あー。私はあれです、二度と関わらないと思ってる人の前では元気が出るんです。ほら、失敗してもなんとでもなるじゃないですか」
「ふむ?だからクラスの人達とは、なかなか話せないと」
焼きたてパン食べながらする会話じゃないと思いまーす。なんだか個人面談じみてきた。残りのパンを押し込むように食べて、勢いよく立ち上がる。
「さ、次はどこを回ります?」
「そうだね、お腹も膨れた事だし一緒に踊りたいな、なんて……」
「いいですよ、踊り。踊りましょっか」
正確には、この話題から逃げられるならなんでもいいです。この際踊りでも仕方ない。私はクラスのことを話題にされるのが苦手だ。
少し驚いたアルバートだけど、すぐに私の手を引いて音楽のなる方へ誘導してくれる。こんな事もあろうかと、動きやすい靴を履いてきたのだ。ハイヒールは昨日かなり痛かったからね。
開けたところに出ると、人々がたくさん踊っていた。色とりどりの服がくるくる回って、とっても綺麗。
一瞬気圧されたけど、すぐに不安は吹き飛んだ。庶民ども、みんな適当に踊っているのである。手を繋いでぐるぐる回るだけの二人組、エアゴム跳びやってんじゃないのかみたいなステップの縦一列五人組、アルプス一万尺しながらへんな足の動きするカップル。酔っ払ってる人も相当いて、何が何だか分からない。
この中なら、私のワンテンポ遅れダンスも目立たないはず。基準がいないからワンテンポ遅れも何も無いんだけどね。
アルバートと向かい合って、手を合わせる。繋いでる時から思ってたけど、結構手大きいんだね。子供のうちの二歳差は、思ったより大きいみたい。
ようやく護衛から離れられた私達は、そのあと何曲も、何曲も一緒に踊っていた。




