33 邂逅
雲一つない晴天に恵まれた秋祭り本番の王都は、ものすごい賑わいだった。色とりどりの旗が道を飾り、着飾った人たちが町を歩き回っていた。派手な色合いのテントが広場や空き地に立って、中から歓声が聞こえてくる。所狭しと並んだ屋台からは、見知らぬ食材の美味しそうな匂いが漂ってくる。
私は、王子と一緒に王都を観光していた。今日は庶民に偽装しなくても出歩けるので、私も王子もほぼフル装備である。宝石ネックレスとか、始めてつけるやつもある。そのせいで護衛の人数が増えてたりするけど、流石に三度目は無いと信じたい。
……無いよね?
三度目の正直ということわざを私は知っている。
二度あることは三度あるということわざも私は知っている。
歩き慣れてないお嬢様感丸出しに、きょろきょろ辺りを見回しながら歩く。
「やあお嬢ちゃん!秋祭りの日、おめでとう!」
「え、えあ、おめでとうございます」
すれ違った男の人にいきなり声をかけられた。酒を片手にカラフルな服を着て、派手な帽子を被っている。きっとお祭りのための一張羅だ。
そっかぁ。
お祭りだから、みんな陽気になっているのかも。一度気がつくと、町の人や旅人の楽しそうな顔が目に入るようになる。
「ふぅ、びっくりした」
「ふふ、咄嗟に返事ができるなんて成長したじゃないか。一年前は教室の窓越しに声をかけただけで何も喋れなくなってたのに、すごい進歩だね」
隣を歩くアルバートが何か言ってくる。そりゃそうだ。なんていったって、今日はお祭りである。射的に水風船、地方の伝統のおもちゃ、焼肉に得体の知れないお菓子。道の両脇にずらりと並んだ商品たちが、私の心をはずませる。
今世の私は公爵令嬢である。金ならいくらでもあるのだ。前世ではできなかったことがなんだってできるのだ。
もう我慢できない。
私は一つの屋台を指差して、アルバートに言う。
「アルバート様、私あれやりたいです!あのでっかいくまのぬいぐるみ、すごく欲しいです!目があった途端、うちの子にしたいって欲が頭と心を侵食中です。あの艶やかな毛並み、きらきら光る黒くて丸い目、小さな手足にモッフモフのお腹!どこをとっても私にふさわしいと思いませんか⁉︎」
「あ、ああ。そうだねクリスティナ。でも、あの屋台はくじ引きだよ。あのぬいぐるみなら、僕がお店で買ってあげるよ。たしかに可愛いからね」
「いいえ、私は!あの!束になった白い紐を引いて!あの子を手に入れたいんです!一度やってみたかったんですよあのシステム」
「いや、クリスティナ、そうじゃない。あの手のくじ引きは繋がってるかどうかすら怪しいんだよ。まだほかのお店もぜんぜん見てないし、一周回ってからでもいいと思うんだけど」
もう私の目にはぬいぐるみしか映らない。今すぐあの子を抱きしめたい。
あとくじ引きやってみたい。前世では、毎年お財布と相談の上引けても三回が限度だったのだ。しかし今世は違う。
「何、金ならたくさんあるんです!」
そう言って、私が肩にかけたバッグの中身をこっそり見せる。もちろん中には、銅貨に小銀貨、銀貨がたっぷり入っている。これを出かける前に見せたら、確実にアウトくらってたからね。息切れを隠すのに苦労した。
「うわっ、クリスティナ⁉︎これ全部⁉︎どんだけ持ってきたんだ、重いよねそれ⁉︎いやそこじゃない!どうやってこんな量の小銀貨を両替したんだ⁉︎」
「ほら、お昼のドーナツを金貨で買うと、お釣りが出るでしょう?休日は私自ら買いに行きますから、その時出たこのエセ金をタンスに放り込んでましたの」
「違うよクリスティナ!そのお釣りで次から買うんだよ!小銀貨でも多いくらいだよ!なんでこんなに貯め込んだんだこの子⁉︎というか……そのタンスってもしかして去年僕が送った誕生日プレゼントだったり……?」
だって私、そんなに服持ってないもん。大量の小銭と使わなくなった教科書を放り込む、半分いらないもの入れみたいになってる。割と便利で、アルバートには感謝している。
急に元気をなくしたアルバートを捨て置き、屋台の前に立った私にエマが声をかけてきた。
「クリスティナ様、こういう店にはコツがあるんです。まず二、三回適当にハズレを引いたあと、そのバッグに入れておいた七つ道具が一つ、ハンマーかバールのようなもの、もしくは金属製の筒に持ち手と引き金が付いているものを店主に向けるんです」
「ふん、私を犯罪者にでもするつもりなの?中身は全て軍資金に入れ替わってるわ」
「そんな‼︎あの装備無しで、どうやって屋台の主人達と渡り合うつもりなんですか⁉︎」
こいつ信じらんね。ひょっとして、私のお昼のドーナツも奪い取ったものだったりしないよね?ちなみに、他には刺身包丁、発煙筒、縄、謎の火薬に油を十分染み込ませた紐、針金とかが入っていた。誘拐前提で動くならそれでも良かったけど、今回は王子もいるしそこまでの装備はいらない。こっそり入れ替えておいた。エマ、やっぱり元傭兵か、サバイバル知識とかある系の転生者だったりする?
「どうりで重さが同じだったはずです……。いいでしょう、クリスティナ様!それだけの金額であれば、きっと勝てます!やっちゃいましょう!」
よっしゃ、やってやる!血湧き肉躍るくじ引きが、今始まる!才能も、努力も、魔力もカリスマも力も頭脳も家柄も何も関係ない!
私は、自分の運に打ち勝ってみせる!




