↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
29/39

29 治療

助けを呼ぶ声の主を探し、夜の森をさまよった私達。ぼろぼろの龍の子供を発見したはいいけれど、本物の魔物が襲ってきた!


えーと、これはどういうことだ。私にはなんとなく分かる。分かるけど分かりたくない。要は、乙女ゲー的に言えばこの辺の出来事が元でクララは戦闘系乙女ゲーの主人公たる資質を磨いたんでしょ?

きっとこの龍も、クララの火力補助要員に違いない。

そしてクララ、もう二度とあなたとは出かけない。今回が無事に済めばだけど、次からのお誘いは断固としてお断りさせていただく。

だって命がいくつあっても足りないんだもん。


私達より二回り大きいくらいの体長、二本足で立ち大きな牙を持つ毛むくじゃらの魔物は、唸り声をあげながらこちらへゆっくりと迫ってくる。


「クリスティナちゃん、離れてください!」


クララのかなり焦った声がする。そりゃそうか。私は、半年前と同じように足がすくんで、その場から動けなくなっていた。

目の前には魔物。そして後ろには龍とクララ。両者を結んだ一直線上とかいう考え得る限り最悪の場所で動けなくなった私は、足を震わせながら必死に立っていた。なまじ目が見えるので、暗い中だというのに魔物の殺意のこもった視線とか、牙にこびりついた赤いものとかがダイレクトに脳に入ってくる。


しかし、世の中にはピンチはチャンスという言葉がある。この場合私がするべきことは、恐怖で動けないことを何とかしてクララにバレないようにすること。ヒロインごときにそう何度も助けられてたまるか、そんな意地が私を強がらせた。


「クララ、私が魔物を食い止めてる間に、龍に癒しの魔法をかけてあげて!その子龍なんでしょ?強いんでしょ⁈」

「クリスティナちゃん⁉︎」

「どうせ私達にろくな攻撃手段は無いし、せっかく見つけた龍の子を見捨てるわけにもいかない。幸いにもクララは回復ができるんだから、早く龍の子を治してあげて。私だって公爵令嬢のトップクラス、宰相の娘だもの!時間稼ぎの肉壁くらいにはなってみせるわ」

「……!分かりました!このケガなら、五分もあれば十分なはずです!頑張ってください」


ふっふっふ、これでここには臆病者の姿はない。ここにいるのは、魔物に単身立ち向かう気高い公爵令嬢ただ一人。後は五分突っ立っていれば、回復した龍が全部倒してくれるはず。計画通りみたいなものだ。


……五分?


おいおいちょっと待ってよ。今クララ五分とか言わなかった?怪獣退治の専門家でも三分しか戦えないっていうのに、丸腰の一般小娘に五分を要求したよね。

まあどうせ私はここから動けないのだ。目の前の魔物の圧で、気絶しないで立っているのがやっとである。クララが五分耐えろっていうなら五分突っ立ってるよ、しょうがない。


ああああぁぁぁぁ!


絶対にクララ殺す。この事で死ぬまでいびり倒してやる。少なくともクララさえいなければ、私は自己犠牲聖人理論を展開することなく龍を囮に無事だったはずなのだ。どうせ足がすくんで死んでた?だとしても、自分から死にに行くような事は言わなかったはず。

大丈夫。私は前世、奈良で鹿にタックルされたことがある。服は酷いことになったけれど、怪我は大したことなかった。ほら、あそこ鹿のフンが凄いじゃん。私は鹿を絶対に許さない。


野生動物のタックルは痛くない!野生動物のタックルは痛くない!野生動物のタックルは痛くない!


足をがくがくに震わせながら、ただただ突っ立っている私の顔の横をものすごい勢いで魔物の拳が通った。


パンチ!野生動物の癖にパンチ!

貴様はカンガルーか。


私の髪の毛が風圧で持ち上がる。私はへなへなとその場に崩れ落ちた。腰が抜けたかもしれない。声が出ない。


「龍さん、今度はこっちの翼を治してあげますね。あっ、ごめんなさい。痛いとこ触っちゃいましたかね。大丈夫ですよー。大人しくしていれば、すぐに終わりますから」


早くしやがれクララァ!

殺す。強い意志を持って殺す。クララお前だけは絶対に殺す。手足を縛って毒虫の沢山いる水槽に放り込んでやる。瞼を切り取って砂漠に捨ててやる。人に与えられる最大限の苦痛を味あわせて殺す。人が必死に戦ってる横で龍とほのぼのしてる奴にはお似合いの最期だ。天と地が許してもこの私が絶対に許さない。


まあ生きて帰れたらだけどね。いくらハッピーエンドが待っているとはいえ、あんまり痛かったり途中死んだりするのはごめんである。


だいたい本当の話なら、この場をどうやって乗り切ったんだろう?クララと龍だけで何とかなる場面かこれ?


ああそうか。私が誘導しちゃったからか。きっと私がいなければ、クララは周りの大人に協力を頼んでいただろう。すまんな。


目の前の魔物は、私のことを睨みつけている。距離はもう、お互いが触れ合うかどうかくらい。魔物のきつい体臭が鼻につく。さっきの拳はおそらく牽制だったのだろう、完全に抵抗する気力を失った私の両肩を挟むように、魔物の手が私の体を押さえつける。

頭から食べたいですか、そうですか。


「よし!龍さん、これで怪我は治りましたよ。もう元気に飛べるはずです」

「ありがとう、人の子よ。君はとても優しい目をしている。君の魔力は、特別な女神の加護があるようだ。私の翼をこれほど早く治せるとは」


えっ。

背後から声がする。この状況で解決ムードですか、そうですか。私食べられる五秒前だから、どうにかしてほしいなー。誰か助けて欲しいなー。具体的には、私がいなかったら魔物に襲われていたはずの龍さん、早く魔物を滅して欲しいなー。


私に覆いかぶさるように顔を近づけた魔物が、口を開く。掴まれた私の両肩がすごく痛い。まあでも、後数秒でそんなこと気にならなくなるんだろうな……。

誰か私のこと気にかけてくれないかなー。


「オマエ、アクマカ?アクマノカオリ、スル」


お前じゃない!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。