21 帰還
「その時、扉の陰から突き出された槍がクリスティナ様に迫る!クリスティナ様、素早く腰をひねり、そのまま扉を蹴っ飛ばすと、そこにいたのは憎っくき憎っくきブライジル兄弟が弟、長槍使いのライアラン!
『いたわいたわ、おったわおったわ贅沢三昧の小娘ども、上手く逃げたと思ったか?この長槍使いのライアランに出会ってしまったが運の尽き。さあ神妙に縄につけ、命だけは助けてくれよう』
ライアラン槍の狙いをクリスティナ様の眉間にぴったりと定め、じりじりと近づいてくる。クリスティナ様、逡巡することしばし、暖炉の火かき棒を手に取って、これを中段に構える。龍虎両者の気が部屋に満ち、充満した殺気は相手を射殺さんばかり。
机の上の便箋が、風も無いのにすっと滑り落ちる。便箋が床につくのが早いか、ライアランの槍がクリスティナ様の喉元に吸い込まれるように迫る!クリスティナ様、だんっと半歩後ろに下がり、火かきの先で槍の柄を搦めとろうとするも、そこに電光石火!ライアランの穂先がきらりと光って瞬時に唸り、クリスティナ様の手に食いつくかと思われたその時!クリスティナ様体をかがめ、穂先を潜り、ライアランの懐に飛び込む。ライアラン繰り出した槍を戻すのに手一杯、そこにクリスティナ様の火かきが一閃!ライアラン、うむ!と唸って倒れこむ」
ワチエ子爵の前に正座したエマが、臨場感たっぷりに私達の冒険を騙る。時々、手に持った棒のような何かを机に打ち付ける。
まじかー。違うじゃん。誰も予想できないよこんなん。なんでこの人でたらめな講談みたいな感じで報告してるんだろう。
隣では、クララが真っ青な顔をして下を向いている。ひょっとすると、最後までもたないかもしれない。この調子で行くと、クララ最大の見せ場である第十二章まであと二時間はかかる。正直言って私も眠い。欠伸を噛み殺しながら、エマのえせ講談チックな話を聞き流す。ライアラン戦が終わったら、後は八艘跳びまで私の出番は無いはずだ。
あの後小腹を満たして、エマの案内で外に脱出した私達。すぐに近くの兵士が気がついて、あっという間に私達の宿まで来ていた。クララと子爵の感動の親子の再会から一時間、エマの話はまだまだ終わりそうにない。ちょっと調子に乗りすぎたかもしれない。
ほら、本当は全然強くないけどハッタリで戦う主人公ってよくいるじゃん。ひょっとすると私はあのタイプではないかと思って、色々盛ってみたのだ。エマが全部を肯定するから、ほとんど収拾がつかなくなって、私は敵の四天王の内三人を担当する事になった。これで、大魔王も土下座するくらいの名声が手に入ったよね。王子も褒めてくれたら嬉しい。最近心配されたり注意されるばかりで、全然甘やかしてくれないのだ。
「クララ、大丈夫か?顔色が悪いようだが」
子爵が気がついた。やっぱりクララは嘘つくのに向いてない気がする。罪悪感で倒れるかもっていうクララの話は本当だったのかもしれない。
「いいえ、ワチエ子爵様!クララ様は、『憎っくき人攫いをフルボッコ!見目麗しい令嬢二人のエレガントな冒険in港町』の第二十一章、『ぶつかる二人の圧星闘気!光と闇、表と裏のクリスティナ真拳‼︎』にて、敵の四天王の一人である闇の圧星闘気使い、レーナ・マルガリタの攻撃によって重傷を負ったクリスティナ様に、限界を超える治癒魔法を使用したのです!その副作用で、少し体調が悪くなっているだけです。」
こいつ速攻ネタバレしやがった。今のところ、レーナは私達の味方っぽいポジションにいる謎の人物なのに。味方って言う割には雑魚すら倒さないけど。
架空の人物に手柄を持っていかれてたまるかという私の主張で、私とクララ、エマ以外の味方は全員無能となっているのだ。あ、正体を現して敵に回ったレーナは今まで別人だったんじゃないかってくらい強いよ。原作最強キャラとも言える。
「なんと!エマ殿、そこまで飛ばしてくれ!そこを聞かないと不安でたまらん!」
エマがどうしますか?って顔でこっちを見てくる。うん。いいよ。第二十一章は、in港町編最大の山場だ。私もいい加減眠いから、そこだけ聞いて寝たい。
「分かりました。では、第二十一章の初めまで省略させていただきます。あの後、謎の館から脱出した私達一行は、港町を裏で牛耳る組織と戦う事になります。私達は順調に刺客を撃破していましたが、なんとここまで行動を共にしていたレーナ・マルガリタが敵のトップ、四天王の一人であることが判明するのです。鏡合わせのように同じ構えを取るレーナとクリスティナ様。真拳使い同士の熱い闘いが、今始まる!」
「待って、待つのだエマ殿!なんかもうよく分からん!レーナといえば、ライアランと戦っていた辺りでは同じ館に囚われたどこぞの令嬢という話ではなかったのか?しかもレーナも拳術を使うのか⁉︎」
「はい。しかし、レーナは実は、館の主、無貌の賢者デルシュナの妹だったのです。この辺の事情については第二十章がレーナの過去編になっております」
「えー、えっと、分かった。ライアランの続きから、順番に話してくれ」
ワチエ子爵は諦めたけど、私達はもう体力の限界。中断が入ったのをいい事に、一旦寝室で横になるとする。
「クララ、大丈夫?」
「なんか……なんていうか、設定でお腹いっぱいっていうか、出来れば私を巻き込まないで欲しかったなって思います。美味しいご飯食べた後にここまで胃が痛くなるようなでたらめの話をお父さんの前でするなんて、メンタルが限界です……」
「私も、あのまま話を聞いてたら魔界編辺りで力尽きた気がする。エマもあそこまで凝らなくてよかったのに」
「え⁉︎私それ聞いてないです。港町編、迷宮編、死体山河編の三編で終わりじゃないんですか?」
「クララが寝落ちした後作ったところだから。クララの生き別れの妹と、鏡面世界の私が出てくるんだよ」
「妹⁉︎そんな、困ります!」
「でも、クララの寝顔可愛かったよ。何しても起きないし。食べちゃいたいくらいだった」
「……っ!クリスティナちゃん‼︎」
やっぱりクララいじりが楽しい。毎回、いい反応を返してくれるのだ。
そんな事をしていると、当然今度は私の番が回ってくるわけで。
クララと別れて自分の寝室に入ると、そこには冷たい空気をまとった私の婚約者が立っていた。




