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20 裏切り


なんかめっちゃ心配された。さっきまで楽しく会話していた相手がいきなり叫び出したら、誰だって心配する。私も同時に叫ばれたからよく分かる。

うん。急に叫ぶのは良くない。


そんなわけで、あれから秩序とか落ち着きとか冷静さとかを取り戻した私達は、この場のパワーバランス最上位である嘘メイドに連行されて、どこかの部屋に入っていた。連行される途中、クララが何度も目配せしたけれど、戦力差があり過ぎる。なんとこの建物、窓すら無いのだ。特別仕様である。絶対やばい連中に捕まった。クララには悪いけど、私は外への道が分からない間はあんまり反抗したくないんだ。

痛いのとか怖いし。


嘘メイドが部屋の扉に鍵をかける。その後、ドアノブを何度も回して鍵がかかっている事を確認する。扉に耳をつけて、人の気配が無いことを確かめる。

壁を叩いて、空洞が無いか探す。


妙に周囲を警戒する人だ。病的ですらある。天井と床の板を一枚ずつ押していく様はまるで、私達のことなど意識に入っていないかのようで。


「クリスティナちゃん、今ならチャンスです。逃げ出しましょう。あの人隙だらけです」

「でもクララ、あの嘘メイドの挙動はまるで、サイコパスや殺人鬼に通じるものがある気がするの」

「もう!いつになったら脱出するんですか?いくらクリスティナちゃんが戦う事にトラウマがあるといっても、戦わなくちゃいけない時はあるんです!

勇気を持って行動することこそ、より良い人間への第一歩なんですよ」


ふーん。

私達がそんな事を小声で話していると、どうやら確認が終わったようで、嘘メイドがこちらを向いた。


「クリスティナ様、クララ様、申し訳ありませんでした‼︎」


こちらを向いたと思った次の瞬間、彼女は綺麗に土下座した。生で見るのは前世合わせても初かもしれない。


「えーと、どういう事?」

「私は悪くないんです!悪いのはここのボスです!

王子の婚約者の公爵令嬢とここら辺一帯の領主様の娘を攫おうというのに何の準備も出来てない!攫った後で隣国への船を手配する始末。その上今日は朝から不用心にごろつきそのままの格好で外出しますし、高飛びに連れて行く人数で揉めている!どう考えても、このままあいつらについて行ったら私は捕まって一生明るい所に出られないんです‼︎」


うわぁ。裏切り。想定してなかった。しかもこいつは、私が公爵令嬢だから裏切ったらしい。家名に救われる転生者のどこにかっこよさがあるというのだ。


「クリスティナ様、聡明であらせられるクリスティナ様なら、分かって下さいますよね、山賊に攫われた私は、そのまま山賊の手下になるしか生き残る道は無かったんです!私エマは、なんとかボスに気に入られて半年で幹部の一人にまで大出世しました。このままならず者暮らしも悪くないかもしれない、そう思い始めた時でした。クリスティナ様の姿を見つけて、ほんの少し魔が差してしまったんです。クリスティナ様はとっても賢くていらっしゃいます、私が悪くない事ぐらい、当然ですよね?」

「まだメイドを自称するか、この嘘つき」

「それ以前‼︎お願いです思い出してください、メイドのエマです。同じ馬車に揺られて学園に向かった仲ではありませんか。ね?」


覚えてない。というか知らない。学園に着いた時いなかったんだから、そんなメイド元々いなかったんじゃないの?


「クリスティナちゃん、どちらにしろ私達は、この人に従うしかありませんよ。どうせこのまま捕まっていたら、売り飛ばされてしまうんです。エマさん、私達に何をしてくれるんですか?」

「はい!クララ様、まずこの建物から逃がさせていただいて、その後ご宿泊の宿までお送りいたします。お望みなら私が貯め込んだ宝石類、アクセサリの類も差し上げます。お金もたんまりです。ですからどうか、私の事は見逃していただけないでしょうか?」


誘拐犯とは思えない腰の低さである。聞けば、既に港に非常線が張られていて、町から一歩も出られそうにない状況なのだそう。


「なんで私達を攫ったんですか?そんな状況になる事が分かっていたのに、どうしてですか?」

「ボスなら……ボスならなんとかしてくれるだろって思ってたんですけど、駄目でした!多分、ワチエ子爵の兵がほとんど全部隊でこの町を捜索してます。ここが見つかるのも時間の問題。お願いです、どうか元メイドだった私を助けてください!」

「まだ言うか、嘘メイドめ。クララ、この人助ける事ないよ。この人の話が本当なら、もう少しの間ここで待ってれば助けが来るんでしょ?実行犯として、クララのお父様に突き出してやろ」

「ぐっ……。未だに思い出してくださらない……。ならっ、なら、ハムたまごサンド!これでどうです⁉︎ハムたまごサンドです!私は中身を知っています」

「何⁉︎ハムたまごサンド⁉︎知っている事を今すぐに話して」

「え?何?どういう事なんですか?クリスティナちゃん、ハムたまごサンドって何ですか?」

「たまごは何?」

「目玉焼きでございます」

「分かった。よし、クララ。この人助けよう」

「何⁉︎本当に何があったんですか⁉︎二人とも、私の知らない言語で会話してたんですか⁉︎」


確かにそうか。ゆで卵を刻んでマヨネーズと混ぜるタイプのたまごだと、形も崩れるし傷みやすそうだもんね。半年越しの確認が終わった。正解は、ハンバーガーっぽい方でした。満足。


「まあ、エマさんを助けるならそれでいいですけど……。どうやって助けてあげるんですか?エマさんが市場で私達と話してた事はみんなが見てますし、現実に私達はエマさんに誘拐されてますし。

逃がしてあげようにも、私達関係なしにお父様の兵がエマさんを捕まえちゃうと思うんですけど……。」

「それについてはいい案があります。クララ様、要は私が助かればいいんです。幸いこの町には今、お嬢様達と、私と、私が二時間前までやむなくつるんでいた悪人どもがいます。この場にいない人を犯人にする分には、誰にも文句は言われません」


私はもうドン引きである。なんだこのクズ。きっと今みたいに必死に命乞いをして、誘拐グループに入ったんだろう。頭吹っ飛ばされた覆面が言うには、私達みたいな攫った人は奴隷として隣国に売り飛ばす話だったからね。


「どういう事ですか?」

「私は、半年前からこの組織に潜入していた事にします。今回、お嬢様達がこの町に来ている事を知って、ならず者どもがいる事を忠告しました。しかし、お嬢様達は不幸な事に誘拐されてしまったので、勇気ある元メイドの私がお嬢様達を助け出し!そしてワチエ子爵様のもとにお連れした、そういう設定でいきましょう」

「待って。異論がある」

「クリスティナちゃん?」

「私も混ぜてほしい。具体的には、私も悪者討伐系の手柄が欲しい。三人くらい倒した事にして」

「クリスティナちゃん⁉︎」

「宝石もお金も腐るほどある。私は名誉が欲しい」

「さすがクリスティナ様、大変賢くいらっしゃいます‼︎」

「満足できるものを作れば、エマを専属メイドにしてあげる」

「はい、分かりました!このエマ、命にかえてでもクリスティナ様にご満足いただける設定を考えてみせます!」


未だに頭だけ上げた土下座の体勢を崩さず、はきはきと即答するエマ。頼もしくて、私は嬉しい。


「クリスティナちゃん、何言ってるんですか⁉︎」

「クララも活躍したい?私の怪我治したって事でいいよ」

「そうじゃなくて!もっと、こう、倫理的っていうか、正直さというか!」

「分かりました!クララ様が治癒魔法を使用ですね。設定に加えさせていただきます!」



「クリスティナ様、クララ様、このような設定ではいかがでしょうか!」

「駄目。エマの倒した悪人の数が私が倒したのより多い」

「クリスティナ様、クララ様、では、こちらの設定はいかがでしょうか!」

「駄目。私は走っただけで転ぶほどトロくない」

「クリスティナちゃん‼︎」


こうして私達は、窓の無い部屋で食事も忘れて話し合いを続け、


「クリスティナ様、クララ様、設定が出来上がりました!」

「駄目。私はもっとこう、クールな感じで」

「クリスティナ様、クララ様!」

「駄目」

「この設定はいかがでしょうか!」

「駄目」


エマの涙ぐましい努力の末、ついに誰もが納得のいくシナリオが完成した。


「クリスティナ様、」

「エマ、」

「私達気が合いそうです!」

「私達、気が合いそう」

「これは……。出会ってはいけない二人が出会ってしまったのでは……」


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