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王国最強の氷の魔術師は後輩回復術師にだけ弱い  作者: 永久保セツナ


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第8話 王国騎士団長ジーク・ナハトム

 ――王城、中庭にある温室。

 私とユリウス先輩は、そこで栽培されている薬草を採取していた。

 私が見る限り、薬草はかなり質が良く、効能も高そう。

 王城の誰かが丁寧に世話をしているのだろう。


「先輩、手伝ってくださってありがとうございます!」


「……大したことはしていない」


 先輩はしゃがんだ態勢から顔を上げ、アイスブルーの瞳で隣の私を見ている。

 ……宮廷魔術師筆頭に、こんな仕事させてよかったのかな。

 立派なローブも、地面についてしまっていた。


「そんなことないです! 中庭にたどり着けなかった私を案内してくれましたし!」


「相変わらず方向音痴だな」


「うっ、面目ないです……」


 痛いところを突かれて、思わずうつむく。

 方向音痴、なんとかしたいとは思ってるんだけど……。

 とりあえず、医務室までは行けるようになった。


「……別に構わない。いつでも私が案内すればいい」


「それはそれでどうなんですかね……? 先輩もお忙しいですよね?」


「時間は作るものだ」


「なんか言い方はカッコいいなあ……」


 そんな会話をしながら、薬草を集め続ける。

 バスケットの中には、採取した薬草が底が見えないほど貯まっていた。

 そろそろ、このくらいで一旦切り上げようかなと思った矢先。


「……えっと、もしかして、2人ともツッコミ待ちだったりする?」


「うわびっくりした」


 突然、背後から第三者の声が聞こえてきて、私は飛び上がりそうになる。

 ユリウス先輩は少しだけ、不機嫌そうに眉をひそめた。

 振り返ると、温室の入り口に、見知らぬ男性が立っている。


「……ジークか」ユリウス先輩の知り合いらしい。


「よっ、色男」


「……」


 先輩はますます、眉間のシワを深めていった。

 ジークと呼ばれた男性は、それを見てヘラヘラ笑っている。

 どうやら、2人の口ぶりから、同期らしいことは分かった。


「そんな顔すんなって」


「えっと……?」


 私が戸惑っていると、ジークさんは私に目を向ける。

 人当たりの良さそうな笑顔。

 王国の紋章が彫られた、白銀の鎧を身につけているから、王宮の騎士……なのかな。


「俺はジーク。ジーク・ナハトム。君が噂の回復術師ちゃんだね」


 少し軽薄な印象の男性だけど、悪い人ではなさそうな気がする。

 握手を求めているのか、手を差し出していた。

 それを握り返そうとすると、ユリウス先輩が遮る。


「気安く話しかけるな」


「え、ひどくない……? なんでそんな邪険にするの……?」


 ユリウス先輩の容赦のなさに、ジークさんは流石に傷つき……いや、普通に笑っていた。

 この2人、けっこう長い付き合いなのかな。

 私は失礼のないように、言葉を選ぶ。


「えっと、ナハトムさん……」


「あ、ジークでいいよ」


「じゃあ、ジークさん。どこかでお会いしましたっけ?」


 見知らぬ相手というか、こうして話した覚えはない。

 でも、どこかで見たことある気がする。

 それが思い出せない……。

 そんな私に、ジークさんはニッコリと笑った。


「それ、口説き文句?」


「え?」


 予想外の返しに、さらに戸惑う。

 温室の気温が、一気に下がった。

 ユリウス先輩を見ると、恐ろしい目でジークさんを睨んでいる。


「ジーク、その口凍らせるぞ」


「じょ、冗談だって! お前マジで怖いな!」


 ジークさんが、慌てて発言を撤回した。

 先輩、怒らせると怖いもんね……。

 普段は優しいけど。


「ほら、あの暗殺者が王城に侵入した事件あったでしょ。あれで騎士団を指揮してたのが俺」


「あ、ジークさんって偉い人だったんですね」


「うん、俺、騎士団長。まあ、ノリが軽いから偉い人に見えないのはいつものことだけど」


 私はやっと納得がいった。

 というか、ジークさんがそんなにすごい人だと思わなくて驚いてしまう。

 でも、ユリウス先輩と同期なら、それだけ地位が高くてもおかしくはない。


「それにしても、新人回復術師ちゃんは初々しくて可愛いなあ。今度、俺も治療することがあったらよろしくね」


 ジークさんが、改めて私の手を握った。

 私も笑顔で握手を返す。

 なんだか、この人とは仲良くなれそう。


「はい! 怪我したらいつでも医務室に来てくださいね!」


「…………」


 ユリウス先輩は、やけに静かだった。

 顔つきは険しく、今にも視線でジークさんを殺しそうになっている。

 一方のジークさんは、地面を見ていた。


「ユリウス。温室の床、凍ってんだけど」


「気のせいだ」


「いや、無理がある」


 ユリウス先輩とジークさんが言い合いをする。

 その様子を見て、私は「先輩にも話し相手がいてよかった」と安堵した。

 先輩、氷の女王と契約してからは、私以外の人と一緒にいるところ、見たことなかったから。


「ユリウス先輩とジークさん、仲がいいんですね!」


「でしょ~」


「良くはない」


「え~」


 肩を組もうとするジークさんと、スン……と表情を失くし、拒否するユリウス先輩。

 それすらも、なんだか微笑ましい。

 私の目には、ジークさんは大型犬、ユリウス先輩はその犬がじゃれてくるのを鬱陶しく思っている猫のように見えた。


 ……。

 ところで、なんで本当に温室の床が凍ってるんだろう?

 床に張った氷は、温室に差し込む日光で、徐々に溶けてきていた。

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