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王国最強の氷の魔術師は後輩回復術師にだけ弱い  作者: 永久保セツナ


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10/11

第10話 お祭りに行きませんか

「ねえ、見た? サマーフェスタのチラシ!」


 医務室に飛び込んできた看護師が、私に紙を見せてくれた。

 王都の夏祭り――サマーフェスタの案内。

 屋台がたくさんあるので、是非遊びに来てください、みたいな宣伝だ。


「ああ、もうそんな時期か」


「ね~、1年なんてあっという間」


 医療スタッフと看護師が顔を見合わせて笑っている。

 私はそのチラシをまじまじと見つめていた。

 それを、看護長は見逃さない。


「毎年、この時期は王城の人間も休暇をいただけるのよ。興味があるなら行ってきなさいな」


「え、でも、急患が出たら……?」


 いくらお祭りの時期でも、怪我人や急病人というものに休みはない。

 医務室を空けてしまってもいいものなのだろうか?

 しかし、看護長は笑って首を横に振る。


「私が残るから大丈夫」


「でも……」


「私は祭りよりも医務室にいるほうが落ち着くから気にしないで」


 看護長は、多分、本心からそう言っているのだろう。

 彼女は人付き合いがあまり得意ではないらしいことは、ここで働いていて、なんとなく分かってきた。

 ……じゃあ、お言葉に甘えようかな。


「ありがとうございます、看護長!」


 休暇をもらった私は、ユリウス先輩のいる執務室にまっすぐに向かう。

 宮廷魔術師団筆頭の先輩は、この時間帯は書類仕事に追われているはずだ。

 ドアの前で深呼吸を3回。

 ノックをしてから、先輩の執務室に踏み入った。


「よお、ルーナちゃん」


「どうした。急用か?」


 部屋の中で書類のやり取りをしていたらしい、ジークさんとユリウス先輩が顔を上げてこちらを見る。

 ……お仕事の邪魔しちゃったかな……。

 申し訳なく思いつつ、先輩の机に歩み寄った。


「先輩、今お忙しいですか?」


「忙し……くはない」


「ユリウス。その書類の山は説得力がないぞ」


 ジークさんがツッコミを入れる。

 机の上を見ると、たしかに書類は少ないとは言えない。

 しかし、ユリウス先輩は頑なに首を横に振った。


「ルーナが私に用があるというなら、聞く時間くらいはある」


「でも……」


「用件は何だ」


 アイスブルーの瞳が、私を捉えている。

 ああ、なんか、申し訳ない……。

 私は自分が尻込みするのを感じながら、どうにか言葉を振り絞った。


「先輩と一緒に、お祭り行きたいなって思ってたんですけど……」


「――」


「でも、先輩もお忙しいですよね。私やっぱり医務室で急患対応を――」


「待て」


 踵を帰して執務室を出ようとした私の手首を、先輩が掴む。

 私が驚いて振り返ると、先輩は私の手首を握ったままフリーズしていた。

 ジークさんはそれを横から見てニヤニヤしている。


「……祭り?」


「え、はい」


「私と?」


「はい」


 私が答えた瞬間。

 ボッ!!! と音がして、先輩の身体から大量の雪の結晶が勢いよく吹き出した。

 そんなに雪が爆発的に出てきたのは初めてで、私はビクッと肩が跳ねる。


「わぁっ!? 大丈夫ですか先輩!?」


「も……問題ない」


 先輩はあくまでポーカーフェイス。

 でも、なんか耳が赤い気がする。

 自分の雪で凍傷になっていないか心配だ。


「お、デート?」


「違う」


 横からジークさんがニヤニヤしながらユリウス先輩の脇腹を肘でつついた。

 先輩はからかわれているのが不服なのか、眉間にシワを寄せてジークさんを威嚇している。

 ……デートかあ。

 な、なんか急に恥ずかしいな……。


「2人きりで祭りに行くのに?」


「……」


 ジークさんがさらに追撃して、ユリウス先輩が押し黙った。

 私が「あ、あの、2人きりが嫌なら他の人も誘って――」と言いかけると、先輩は「他のやつは誘わなくていい」と即座に返す。

 つまりは、2人きりで祭りに行くのを肯定されている。


「デートだな」


「違う」


 氷の女王まで出てきた。

 頑なに否定する先輩。

 ……自分の契約精霊にまでデート認定されてる……。


「えっと、お祭り、一緒に来てくれるってことでいいんですよね?」


「……待ち合わせ場所を決めておこう」


 先輩が乗り気で、私はぱぁっと視界が開けた気分になった。

 ヤバいな、今、口元がニヤニヤしてる気がする。

 ニヤケを止められない。


「お祭り、楽しみですね、先輩!」


「ああ。当日までに仕事を片付けておく」


「私も引き継ぎ頑張ります!」


 2人で、約束を交わした。

 ジークさんは訳知り顔でニヤニヤしながら頷いている。

 氷の女王はジト目でため息をついていた。


 ――ふと、背後に暖かな気配を感じる。

 振り返ると、花の女神が顕現し、こちらを見ていた。

 そうだ、花の女神にも、この嬉しい出来事を報告しないと。

 女神は私のことを、常に見守っているとは思うけど、喜びを共有したい。


「女神様! 私、先輩とお祭りに行くことになりました!」


 花の女神は、一言も口を開くことはない。

 ただ、物静かに、ニッコリと微笑んでいる。

 一緒に喜んでくれているようで、とても嬉しい。


 私も、仕事内容を看護長に引き継いで、お祭りに行く準備をしなくちゃ。

 先輩とお祭りに行くなんて、魔法学校ぶりのことで、すごく楽しみだな。

 ワクワクして、胸が満たされるような気持ちになった。


 ――ユリウス先輩の背後に立っている氷の女王が、静かに微笑む花の女神と祭りに浮かれている私を、忌々しそうな顔で睨んでいることに、誰も気付かなかった。

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