第11話 お前に人気でないと意味がない(ユリウス視点)
「ルーナに祭りに誘われた……」
私は執務室で夢見心地だった。
ルーナもジークも、既にいない。
ひとりになった部屋で、ぽわぽわと雪の結晶だけが身体から放出されている。
「お前、わかりやすいよな」
……いや、ひとりじゃなかった。
精霊――氷の女王は、契約により、私のそばに常時待機している。
彼女は呆れたような目で私を見ていた。
……が、私には意図が上手く理解できない。
「なにがだ?」
「自覚がないのが厄介だな……」
「……?」
「まあ、それはいいとして」
ますます怪訝な顔になる私。
女王は諦めたように、肩をすくめる。
そして、話題を方向転換し始めた。
「私に何の用だ」
女王に言われて、やっと思い出す。
そうだ、彼女に頼ろうと思っていたことがあった。
大事な用件を、口にする。
「祭りに行くための服を選んでほしい」
「私はお前の母親か?」
「親子関係は結んでいないと思うが」
「真面目に返すな」
私は女王の疑問に答えただけなのに。
彼女は眉間にシワを寄せ、ますます不機嫌になっていくのだった。
だが、とても大切なことなので、彼女の力をどうしても借りたい。
私は事情を説明する。
「……この宮廷魔術師のローブでは目立つし、祭りにふさわしくない気がする」
祭りに不似合いな格好をしたら目立ってしまうだろう。
そうなると、連れ合いのルーナが恥ずかしい思いをするかもしれない。
ルーナに迷惑をかけたくない。
そういった事情を、正直に打ち明けた。
女王は、変わらずジトッ……とした目をしている。
「お前、本当にあの小娘が好きだよな」
「好き……?」
その単語が耳に入った途端、胸のあたりがポッと温かくなった。
同時に、ぽこぽこと雪の結晶が出てくる。
……最近の私はおかしい。
以前までは、こんなに頻繁に魔力漏れを起こさなかったはずだ。
――いつから?
……おそらくは、ルーナに再会してからだ。
私は、行こうと思えば、いつでも卒業した母校を訪問することができた。
ルーナの近況を知ることができたはずだ。
それをしなかったのは、こうして感情が魔力になって漏れるのを恐れていたからかもしれない。
――私はルーナが好きなのだろうか。
そうかもしれない。
ルーナが好きだからこそ、魔力が漏れるのを恐れて、会えなかった。
彼女のために最強であろうとしたこの力が、彼女の心に触れるたびに漏れ出す。
だが、ルーナも王城に来てしまった以上、もう避けることも逃げることもできない。
……それに。
ルーナが私を好いてくれるかは、別問題なのだ。
「……はぁ。仕方あるまい。早く服を選ぶぞ」
「女王、感謝する」
「まったく、世話が焼ける契約者様だこと」
女王は、大きなため息をつきながら、執務室に置いてある私の服を吟味し始めた。
――サマーフェスタ当日。
「あ、先輩! お疲れ様です!」
待ち合わせ場所には、既にルーナがいた。
クリクリとした大きな目が、私を映している。
私はゆっくりとした歩調で、彼女に歩み寄った。
「……ああ。仕事は引き継げたか?」
「看護長が引き継いでくれました。あの人、優しいですよね」
「そうだな」
私に対する当たりは厳しいが、仕事ぶりは評価している。
それに、ルーナに対する態度は優しい。
だから、あの看護長は嫌いではない。
「先輩、今日おしゃれですね」
ルーナに言われて、自分の服装を見下ろした。
シンプルなシャツとズボン。
女王に選んでもらったものだが、変でなければいい。
「ルーナも、いつもと雰囲気が違うな」
彼女の服装は、花柄のワンピースだった。
夏に似合う、薄い緑色を基調としていて、涼やかな雰囲気。
……可愛らしいな、と思う。
「えへへ。先輩と一緒にお出かけなので、ちょっと頑張りました!」
ボッッッ!!!
突如、私の身体から、爆発的に雪の結晶が噴き出した。
自分でもビックリした。
「え? なんだ、この雪?」
「おい、ユリウス様がいるぞ!」
「ユリウス様が祭りにいらっしゃった!」
雪の結晶のせいで、祭りに参加している市民に気付かれる。
私は、自分が注目されていることに、ひどく動揺した。
自分の宮廷魔術師としての知名度を把握していなかったのだ。
「わぁ! 先輩、人気者ですね!」
「ルーナに人気でないと意味がない」
「え?」
「…………」
……何を言っているんだ、私は……。
ルーナの言葉に、思わず反射的にとんでもないことを言い放ってしまった。
周りでは、遠巻きに市民が見ている。
公開処刑だった。
ルーナが、ニッコリと笑う。
「先輩、私からも人気なので安心してください!」
ボボボッッッ!!!
先ほどよりさらに勢いよく雪が飛び散った。
市民たちはヒュー! と口笛を吹く。
夏祭りに雪が降ったことに、皆一様に喜んでいた。
……穴があったら入りたい。
「じゃあ、行きましょうか、先輩」
ルーナは一向に周囲に気づいている様子がない。
彼女が差し伸べた手を、まじまじと見つめてしまう。
指が細くて、肌が白い。
「……この手は?」
「だって、この人混みだと、私は絶対迷子になるので!」
ルーナは照れくさそうに笑った。
花が咲くような笑顔に、ついつい見とれそうになる。
私は手を伸ばし、恐る恐るその手を握った。
手を繋いだ私たちは、祭りの会場に歩を進める――。
ルーナとのサマーフェスタ巡りが始まろうとしていた。




