暗闇
運転中に流れたラインの通知。
車のエアコン上に取り付けられたスマホに、一瞬だけ表示された全部のメッセージが載りきらないその内容に心臓がドクンと大きく跳ねた後で鼓動を感じなくなる不整脈のような気持ちの悪さを感じながら、荒れた行きを整えるのと現実を見るために車を路肩に止める。
『原田優は4/12に亡くなりました
弟が代筆してメッセージを送っています
姉は病気の療養のために親のいる沖縄に引っ越しました
理由を語るのは姉に止められているので書けませんが、せめて最後に報告だけして欲しいと頼まれました』
メッセージの意味が分からなかった。優ちゃんが死んだ?そもそも病気だったの?何も教えてくれなかったじゃないか。同じ言葉が何度も頭の中で繰り返されては巡ってくる。
いつ自宅に帰ったのか、いつ寝たのかも分からないまま、気付いたら朝になっていた。スマホに目をやり、時刻を見ると 4:32 をデジタルな文字で教えてくれた。
スマホのロックを解除すると、昨日数回のメッセージのラリーをしていたらしい。
『辛い時に連絡をありがとう
弟がいるのは聞いていました』
『姉はあなたに本当の事を伝えられなかった事を後悔していました
生きてる内に話すと沖縄まできっと来ちゃうから言えない
と口癖の様に言っていました』
『よく分かってるね、さすが優ちゃんだよ』
『葬儀は家族で執り行いました』
葬儀の言葉を見てチクリと心臓を刺す痛みとともに悲しみが込み上げてくる。なんでもっと連絡を取らなかったのか。言えない程頼りが無かったのか。死人に口無しとはよく言ったもので、真意はもう分からなかった。
本当は嘘なんじゃないかと、別れを引きずっているわたしに対する優ちゃんの仕掛けたドッキリじゃないのか。
しかし、現実は甘い誘惑染みた考えをキッパリ否定した。
弟君とラインの通話で話すとすすり泣く鼻の音を聴いたのである。演技でそれができてたら役者が過ぎる。
半強制的に別れてから半年近くが経ってから、今さら泣くのは虫が良すぎるが、それでも涙は止まらなかった。
心に空いた穴はあまりにも大きく、また身勝手な物だった。
自分は弱い。
そんな当たり前の事を認識しながらも仕事は続いていた。弱く打ちひしがれながらも働くしかなかったのだ。
自分でさえも受け止めきれていない事を、職場の上司に報告し休暇を取るという簡単なことさえできなかったからである。仕事に集中している時は忘れることができた。考えている余裕さえ無かったから。
そんな日が数日続いたある日のこと、職場で主力級の実績を持っていた2人が相次いで離職した。原因は「この職場は意見が通らなさすぎる」であった。介護兼リハビリをしていた職場では、現場と上層部との隔たりが強く現れやすい。心に空いた大きな穴に、さらに小さな穴が2つ空いたのだった。
人は心が壊れる音を実際に聴くことができる。
実際に心が壊れた音を耳にして初めて知ることができた。
ガシャリ
それはガラスを固い地面に叩く音に似ていた。




