01暗転
あの日、同棲を約束していた大事な人から言われた。
「わたし来月から沖縄の親の所に引っ越すから」
じゃあ。っと取って付けた言葉と無邪気な笑顔で言う優ちゃん。年は3つ下で、この時彼女は25歳の誕生日を迎える三週間前だった。11月はもう夜には寒く、冬用の分厚めなジャンパーの蒸れた熱気と、言葉の意味が飲み込めず、あぁそうお元気で、としか言えなかったのを数年後悔することになる。
来月の誕生日はどこにお祝いに行って何を渡そうか、来年度からは仕事も変えて同棲のために忙しくなるはずだった。茶髪に青のインナーカラーの彼女は、話を切り出した夜の喫煙所には似つかわしくないくらい明るかった。
なぜ今まで言ってくれなかったのか、なぜ今このタイミングなのか、考えれば考えるだけ足に伝わっていた地面の感覚がぐにゃりとひしゃげ、目の前がぐらついた感覚に陥っていく。その日はどうやって帰ったのかも分からなかった。お別れがこんな形で訪れるとは考えてもみなかった。
選択肢として、予定通り転職活動をし、沖縄に着いていくことも考えた。しかし、それを彼女は良しとしなかった。
『あなたの人生はあなたが決めるの。わたしを理由にしないで前を向いて』
ライントークの背景がゆるかわ系の黄色の鳥が描かれたメッセージルームにはあまりにに似つかない単調な返事。暗にお別れを望んでいるのが見てとれる。3年近くの付き合いのお別れにしては事務的な返事に取りつく島も無いのであることを痛感した。
最初の内は、海の写真や家で撮ったペットの写真が送られてきたが、連絡を取りながらも徐々に頻度が徐々に減ってきた。
気付けば新年度の慌ただしさが垣間見える4月の下旬に差し掛かっていた。どこにもやり場の無い、新しい形の失恋から立ち直りかけた頃だった。
『原田優は、4/12に亡くなりました。』
動くことがめっきり減ったラインにあまりにも唐突な、でも、感情を失くすには十分なメッセージが届いたのだった。




