【1-7】歓迎会……?
ルルアと、その契約精霊リヴェルと共にルルアの屋敷へ帰ると、初めにルルアは言った。
「さぁ!ステラ様歓迎会の始まりですわ!」
「歓迎……会?」
「えぇ!そうですわ。今日は貴方様が正式に花使いに就任した日ですから、我が家の歓迎会も兼ねてお祝いしなくては、と思いまして!」
嬉々としてステラの両腕を掴むルルアに、ステラは落ち着いたまま尋ねる。
「我が家の歓迎会……?」
「ステラ様には、しばらくの間はわたくしの屋敷に住んでいただき、色々と経験を積みましたら、……寂しいですがお別れを、という形でいきたいと思っております!」
ルルアはそのまま煌びやかに目を輝かせる。
(……これ、決まってるやつだ)
表情で察したステラは、早々諦めて言うことを聞いた。
「わ、分かりました……」
「良いのですか?!」
「は、はい……」
「……っ!感謝致します……!」
自身の手を組んで、そそくさと屋敷の奥の部屋に行くと、ルルアは縦に積み重ねられている荷物を持ってくる。
そしてステラに手渡すと、階段を指差す。
「それでは早速、ステラ様のお部屋に案内致しますわ!」
「あっ、え、は、はい……」
戸惑いながらもルルアの後をついて行くと、大層な屋敷の中の一つの部屋に行き着く。
「こちらです」と言われ、ルルアが扉を開くと、ステラは軽く頭を下げて、中に入る。
中に入って、荷物を部屋に置くと、ルルアが部屋を見回して、ステラに言う。
「ステラ様には、しばらくの間、こちらに住んでいただきます。睡眠はこちらで、食事は、リヴェルが下にお呼び致します」
ルルアはベッドやクローゼット諸々を順番に見ていくと、もう一度口を開く。
「家具はお好きに使い倒してもらって大丈夫です。……では、またお呼び致しますね」
「分かりました……!」
答えると、ルルアは部屋の扉を閉める。
それを確認したステラは、綺麗にされたベッドに座り、部屋を一周見渡す。
ステラの家と呼ぶ小屋とは違って、ルルアの屋敷の部屋は、荒れ果てていなければ、ベッドの軋む音すら聞こえない。
窓も十分な数あり、夜空に浮かぶ月と星々がよく見える。
感銘を受けたステラは、あちこちの家具を自身で見て回る。
「……あ」
見て回っているうちに、ふとステラはあることを思い出す。
(居候……。あの子たちどうしてるんだろ)
居候というのは、いつかのイタズラ四匹ズのことである。
図書館に行くとだけ言って、それきり帰っていないが。
今、どういう風にしているんだろうか。
そんなことを思いながら、ステラはベッドに天井を見るように、仰向けで寝転ぶ。
しばらく黙り込んでいると、なんだか寂しさを感じる。
いつもは、誰かしら動物がいたから賑わっていたのだ。
しんみりと朝までのことを思い出す。
(本当に……、急だったな)
図書館に行って、気を失って、ルルアに出会って、華の間ともう一度図書館に行って。
挙句の果てには、図書館の司書の弟子について考えてみろ、という。
でも、寂しさは感じるが、悲しい気持ちは一切湧かなかった。
「どうしてかな」
ポツリと呟くが、返事は帰ってこない。
ステラは勢いをつけて起き上がると、部屋全体を見渡して、決心した。
(……それなら、寂しくないように頑張らないと)
一人でガッツポーズをすると、荷解きを始めた。
一通り荷解きと整理が終わった後、ステラは夕食を食べようと一階へ降りる。
「ステラ様!丁度良かった!」
ステラを見つけたルルアは、何回か手招きをする。
急いでいた様子だったので、ステラは早歩きでルルアが行った方へ歩く。
その行先が調理場だったことは驚いたが、足を踏み入れてみると、衝撃の光景にステラは口が開いた。
「……こ、これは」
(どういうこと、かな……?)
調理場は、謎の紫の液体で包まれていた。
何処から紫の液体を作ったのか、取り出したのかは計り知れないが、とにかく入口から火元から何まで紫で包まれていたのだ。
状況が理解出来なかったが、その中で紫の液体塗れになったラーウェリーが呆然と立っていたので、汚れないように気をつけながら、その中に入る。
「どうしたんですか?」
「……えっと」
ラーウェリーは落ち着いた様子で、淡々と話を始める。
「ご馳走を作ろうと張り切っていたルルア様が作り上げた、謎の紫の液体を被ってしまった次第でございます」
「そうなの。……折角ステラ様が花使いに就任したっていうのに、いつも通りじゃあ、到底つまらないでしょう?」
「……あはは」
苦笑いをすると、ルルアは紫の液体を見つめながら呟く。
「どうしましょう……。これじゃあ、夕食にも出来ませんわ……」
頬に手のひらを当てて、首を傾げると、少し経って何か閃いたように手を合わせる。
「……そうだわ!」
ステラとラーウェリーを交互に見て、ルルアは提案した。
「思い切って、城下街でも歩いてみましょう!何か店があったら入ればいいし、多少露店は出てるでしょう?」
「それなら、……確かに」
普段、祭りや行事でなくても、城下街では少なからず食べ物が売っている露店が出ていることは、ステラも知っている。
頷くと、ルルアは部屋にある時計を見て言う。
「善は急げと言いますからね!片付けは魔術でどうにかしますので、ラーウェリーとステラ様は先に庭へ出ていてください。……あと、庭にいるリヴェルにも伝えておいてください!」
「は、はい……!」
(魔術でどうにか出来るものなんだ……?)
ステラは不思議に思ったが、紫の液体を被ったラーウェリーをどうにかするべく、蛇口へ飛んだ。
色々あって城下街に来ると、案の定露店が並んでいた。
歩きながら露店を見ていると、ふと気になる露店がステラの目に入る。
「……あ」
肉や野菜を炒めたものを、薄い生地で巻いたものだった。
(美味しそう……!)
食欲があまりないステラにとって、普段中々そそることは無いが、朝から何も食べていない今のステラにとっては、唆るものだった。
これ以上ない露店に、ステラは目を奪われる。
そしてルルアに声を掛ける前に、吸い込まれるように露店へ歩き、なけなしの銀貨で三つほど買った。
ステラの全財産が無くなったのと同時に、ステラはそれらを手に入れる。
「……!」
声にならない声で喜ぶと、三つのそれを絶妙なバランスで手に持つと、そそくさとルルアの元へ戻る。
「ステラ様……って、もう買われたんですか?!」
ルルアが声を掛けた時には、ステラはそれを口に方張っていた。
目を丸くするルルアを見ると、ステラは気まずそうにそれらのうちの二つを背後に隠す。
「……バレてますよ」
ラーウェリーの一言で、ギクリと肩を震わせる。
「す、すみません……」
「いえいえ、そういう訳では……!買うなら奢りましたのに……」
「それは申し訳ないですよ……」
「そうでしょうか?」
そう言って首を傾げるルルアに、ステラは手を振って遠慮する。
(流石に、これだけお世話になってるのに奢らせるだなんて……)
「そうですよ……」
ルルアの尋ねに答えると、皆は歩みを再開する。
一息着いたステラは、残っていた一つ目の肉野菜巻きを頬張り、完食する。
そして手に持っていた二つ目の包装を破ると、すぐに齧り付く。
「ん……!」
あまりの美味しさに、頬を抑えて思わず声を出す。
これを食べたのは初めてだったが、それでもステラの舌には合ったようで、次々に頬張る。
(こんなに美味しいの、初めてかも……!)
いつもは数少ない財産を節約する為に、林の中に生えていた茸や食べれる薬草などを食べていた。
それだけでも十分満足していたが、まさかこの料理がこれほどとは。
あっという間に二つ目を食べ終えると、隣を歩いていたルルアが、何かを指差す。
「あちらの屋台、果物のジャムを挟んだパンケーキですって!」
食い入るように他の皆を置いて露店に飛んでいくと、なにやら店主と話をして銀貨と交換でパンケーキを四つ手に持ってくる。
ステラ共々は、ルルアが持ってきたパンケーキをそれぞれ貰う。
「あまりにも美味しそうで……。……あぁ、どうぞ、皆さん食べてくださいな」
「あ、ありがとうございます!」
肉野菜巻きを食べ終えたステラは、パンケーキを両手で持つ。
力を入れると、じわじわとジャムがパンケーキの中から溢れ出る。
(木苺のジャムかな?)
一口食べてみると、ステラは驚愕する。
「そんなに甘くない……!」
「そうですわね!」
二人で味わっていると、横にいたラーウェリーが小さく齧る。
「……本当ですね。……この味再現出来るでしょうか……」
「再現?」
「ラーウェリーは、いつもわたくしが喜ぶように、と気に入ったものは再現してくれるのです。……大丈夫だと言っているのですけれどね」
ルルアが言うと、ラーウェリーは控えめに答える。
「それが、私の出来ることなので」
その姿に、ステラはラーウェリーを尊敬した。
(……出来ること、か)
そう思ったステラの表情は、少し翳る。
気分転換を兼ねて、ステラはふと会話に中々入らないリヴェルの方に目を向ける。
そんなステラと話していたルルアの隣で歩いていたリヴェルは、パンケーキを見て、一口も口をつけずにいるのが目に入る。
「どうしたんですか?」
「……精霊は食事はいらないので、いつもはルルア様にはいらない、と言っているんですが」
「……そう、ですか」
(確かに、不自然……?)
疑問に思ったステラは、ルルアの肩を軽く叩く。
リヴェルが言っていたことを伝えると、ルルアは眉を吊り上げ、少しばかり声を張る。
「皆で食べるのがいいのでしょう?……食べれなくはないのだから、口にしなさい」
「……承知致しました」
言われるがままに、リヴェルはパンケーキを口へ運ぶと、もぐもぐと口を動かす。
(……そっか)
特に何も思わなかったステラは、再び前を見てパンケーキを口に入れた。
そうして、四人で夕食を堪能したステラたちは、城下街の広場のベンチで足を休めていた。
(結構、食べ過ぎたかな……?)
腹を摩ると、ステラは空を仰ぐ。
街中に吹く夜風が、じわじわと体に染みる。
「ふぅ……」
気が抜けたステラは、溜息を漏らす。
(……また、来ようかな)
振り返り、大きく伸びをすると、ベンチから立ち上がる。
それを見たルルアが、こちらを見て口を開きかける。
「行きますか――」
言い終えるその瞬間、街の東の方から、悲鳴と共に衝撃音が聞こえる。
瞬時にそれに気付いたルルアとステラは、目を見開き、立ち上がる。
「……魔物ですわね」
迷いもせず、確信している口調で呟くと、音が聞こえた方へ走り出す。
「ち、ちょっと――」
「ステラ様はお待ちください。危険な可能性もありますので」
会話している間にも、衝撃音は何度も聞こえてくる。
「で、でも……っ、私――」
「お待ちください」
冷静に、そして威厳を含めてそう言うと、ルルアは振り返って衝撃音が聞こえた方へ、再び走り出す。
「あっ……」
ステラが反言することも叶わぬまま、ルルアは砂埃がたった方向へ消えていった。




