第48話:巨人っ娘たちのバトルロイヤル
暗闇。
暗闇の中だ。
思考が流れ込んでくる。
先の戦いの結果がわかる。
ロノスト二世が最後に俺に放った魔法。
それは魔王本人に何かあった時、次代魔王を指名する魔法。
言わば、バックアップというヤツだ。
バックアップ対象は、目立たずに生き続ける者が望ましい。ヤツの思考はそうだった。直前のやり取りでミリアが俺を殺せない、なので俺の死亡率が低いと判断した。それと同時にミリアを選ばなかったのは、体格的に悪目立ちするからだった。
先代の魔王ロキはロノスト二世に対して、この魔法を使っていた。
だから、ロキが死んだ時、ロノスト二世が自動的に魔王になった。
そして今。
俺が新しい魔王になった。
俺の火龍波は皆への感謝の念が乗り、最大火力で放たれた。
あれで……ロノスト二世は死んだんだな。
ヤツが死んだら俺が死ぬって最後に言ったのがハッタリだということもわかった。
自身を殺そうとするミリアに対して、呪文詠唱の時間稼ぎをするために。
すでに転移してしまったものは、術者が死んだとしても元の世界に戻らず、転移先にそのまま居続ける。
また、世界の転移は、先代のロキが使える魔法。
魔法そのもの……つまり『核』は継承されないようだ。
ゆえにロキはカラーデーモンを生み出し、操ることができたがロノスト二世には引き継がれず、それができなかった。
だから、主を失ったカラーデーモンは制御不能となり、センターシティを襲った。
人口の多い場所に引き寄せられ、そして本能のまま殺戮するのが仕様のようだ。
ロノスト二世のほうは強力な洗脳と、洗脳した者へ人間を超越した能力を付加する魔法が使えた。
俺は……どうなっちまうんだろう……
※※※
「アキラはん!」
俺が目を覚ますと、シノが声をかけてくる。
シノ以外も全員……ミリア、マドリーナ、フィア、パトリシアが心配そうに見ている。
マドリーナ、フィアは戦いでダメージを負ったはずだが、今は立っている。
「シノ……あの鉄砲水から生還できたんだな?」
「そうや。うち、濁流に流されて、もうダメかと思ったけど、ちょうど橋に引っかかってん。水かさが増してたから……でも気を失ってもうてな。捕まって牢獄行きや」
「よく殺されなかったな」
「見せしめに死刑になるところやったけど……王様が手駒にしようと考えを変えはったんや……」
「良かった……本当に良かった」
ずっと……ずっとシノの死は俺に影を落としていた。
話としては上出来すぎる。
「うん! これで幸せな新婚生活が送れるんや!」
そう言って、俺を抱きしめようとするシノだったが……
「イテテッ……なにすんねん!」
「アキラ君……この女、誰よ?」
シノの耳を引っ張るミリア。
ミリアのほっぺたは、まんまるに膨らんでいる。
「うちはアキラはんの婚約者や!」
即答のシノ。
「はぁ? ……何言ってんの?」
「アキラはんはなぁ……うちにプロポーズしてくれたんや。うちもオッケー出して……何の文句があんねん!」
「なんてプロポーズよ?」
「『火龍波を教えてくれ』って……ああ……思い出しただけでも幸せや……」
トローンと美人顔が台無しになる顔の崩れ方だ。
「フン! アキラ君がどこから来たか知ってんの!? ニホンっていう遠い遠いところよ! アンタのとこではプロポーズかも知んないけど、アキラ君はそんなの知らないはずよ! アキラ君、そうでしょ!?」
俺に詰め寄るミリア。
上出来だと思った話が、何か……速攻でマズイことになってるか。
「『火龍波を教えてくれ』が即、結婚なんて知らなかったでしょ!」
「あ……ああ……し……知らなかった……よ」
シノをチラチラ見ながら……そして、しどろもどろになりながら答える。
「ほーら! そんなプロポーズなんて無効なんだから!」
勝ち誇るミリア。
「ま……それならええやないか。アキラはん……じゃあ、もう一回プロポーズしてく……」
ここでズイっと割って入るミリア。
「付き合いたければ、アタシと拳で決着つけてからよっ!」
グーをシノの胸元にコツンと当てながら言う。
「なんや……? えらい野蛮やなぁ……ま、ええけどな」
いったん俺の傍を二人とも離れ、そして向き合う。
「この勝負で勝ったほうが、アキラ君のカノジョよっ!」
二人の対決が始まる……かと思いきや、ここで割り込んできたのはパトリシアだ。
「アキラさん……いろいろ終わったら『ミリアさんをコテンパンにして見せます』って、私が言ったのを憶えてますか?」
こちらを真っすぐ見ながら聞いてくるパトリシア。
「二人で決着なんて、おかしいです。その戦い、私も参戦します。そして、二人を蹴散らした後……アキラさん……わかってますよね? フフフ……」
ニッコリ笑う。
かつて俺に見せた悪魔的な笑みだ。
「ああ……ハハハ……」
曖昧な返事でごまかす俺。
「さて……三つ巴の戦いですね」
「おいおい……ちょっと待ってくれや」
パトリシアの宣言に対して、待ったをかけるのはフィア。
「なぁメガナ……そのシノとかいうやつとパトリシア……10秒以内にフっちまいな」
「フィア!? 何言って……」
そう言いながら、シノとパトリシアのほうを見ると……
「まさか……アキラはん、そんなことは……」
捨てられそうな子犬のような表情のシノ。
「私をフる? アキラさんが? 大変です……そんなことしたらアキラさんの身体が……」
憐れみを含んだ表情のパトリシア……いったい何する気だ!?
「うう……俺は皆と仲良くしたいっていうか……その……」
オロオロしてるうちに、フィアの無情のテンカウントが終わる。
「よーっし、オメーの気持ちはよーっくわかった。ミリアとオメーがデキてると思ってたからこそ、あたいは手を出さなかった。だけどさー、二人も三人もいるんじゃー話は違うよな?」
ニヤリと不敵な笑いを携える。
無理やり、良かった探しをするならば、浮気性の俺がフィアから軽蔑されなかったことだけだ。
「あたいも参加するぜ、その戦いによ…………あの人と一区切りついて……あたいも未来を見たって良いだろ?」
「それならば、ワタクシも参戦いたしますわよ。その理由、アキラならわかりますわよね?」
俺と二人だけの時だけに見せたマドリーナのデレデレな姿……彼女だけ大人しく見学なワケはなかった。
結局、全員かい!
「まー待てや……アキラはんの顔、見てみい……困っとるやないか。穏便に話し合いで決着つけるってのはどうや?」
好戦的ではないシノらしい提案。
好きな女の子同士のバトルロイヤルなんて、見てられない。ちょっとだけホッとする。
それを聞いてミリアはニヤッと笑う。
「それだったら、もうアタシの勝ちは確定ね。だって……最初にアキラ君を抱っこしたのは、このアタシ……そうだよね? アキラ君」
「ミリア……アナタは何を言ってますの? どっかその辺で人を抱っこしたら付き合う権利があるとでも? ワタクシたちは大人の世界に居るのですわ」
ミリアに対してマドリーナが鼻で笑う。
「最初に正規に『シモベになる』と契約したのは、ワタクシですわよね? アナタをおんぶした時に。忘れたとは言わせませんわよ?」
ああ……早くも、もうダメだぁ……
「いーや……あたいはメガナと一か月、二人きりで同棲したからな。もう事実婚ってヤツだ。なぁメガナ……あたいとの新婚生活、簡単に想像できるだろ?」
止まらないな、こりゃ……
「何言ってんねん! うちはなぁ……最後、心中しようとしてオッケー出たんやで。期間やない。深さや……深さ。命を共にするより固い絆が他にあるかっちゅうねん。せやろ? アキラはん」
「皆さん……大事なことが抜けています。アキラさんの命を救ったのは皆同じでしょうけど……私に至ってはお尻に頭を挟んで殺しかけたんです。命のやり取りを実際にした私こそ、深い関係と言えます」
パトリシア……もうメチャクチャ言ってるよ……
「そんなこと言ったら、アタシなんてパトリシアのかったいケツに頭ぶつけて死にかけたんだから! アキラ君とお揃いよ……オ・ソ・ロ! ……同じ経験をしたアタシたちこそ、お似合いよ! そんな経験ないでしょ?」
ああ……ミリアまでメチャクチャ言ってる。
「フフン……あたいはメガナの裸を拝んだことあるぜ? オメーはねぇだろ?」
水浴びしててムカデに対して叫んだアレか……
「ワタクシは素っ裸をアキラに見られたことがありますわ!」
マドリーナ……あれは君が見せたんであって……「見られた」は語弊が……
ワーワー言い合う巨大筋肉女5人。
永遠に続きそうなこの舌戦を終わらせたのは、ミリア。
「だいたいアンタみたいなおばさん、アキラ君にはつり合い取れないわよ!」
「お……おばはんやて!? うちはまだ19歳や!」
シノ……あの妖艶さで十代だったのか。
「じゃー……老け顔ってことね? 17歳でピッチピチのアタシのほう……」
ここまで言った時点で、シノの様子がおかしくなる。
「言って良いことと悪いことがあるやろ! 人が気にしてることをよくもっ! アキラはん……拳で決めたるわ!」
温厚なシノに対して、ミリアの口撃がクリティカルヒット!
結局そうなっちゃったか。
5人の身体から熱気というかオーラというか……そんなものが沸き上がっている。
壮絶な戦いが始まろうとしていた。
有史以来、史上最強メンバーによる凄まじい戦いが。
俺は目を閉じ……現実逃避がてら、歴代魔王の記憶を辿っていく。
※※※
初代魔王……名はサタンという。
彼こそ純然たる超越者であり、人にあらざる者だった。
2300年ほど前に自我を持ち始め、そして1000年、2000年と人類を観察していたが、何も変わることなく過ごしていた。
人類がいつまでも発展しないことを不憫に思ったのか、サタンは人々に魔法を教えた。
人々は魔法を駆使して文明を築き上げ、そして魔法を使えるものが増えた段階で、彼は自分の力が使われて衰えていることに気が付く。
また、己の活力の根源が人の絶望と悲しみだということを知る。
サタンは人々に何をすることもなく、魔法を教えた人物のうち、ロキを後継者に指名し……そして衰弱死に至る。
完全に裏目だ。
人類を甘やかしすぎた結果だ。
二代目魔王ロキは同じ轍を踏むまいと、絶望と悲しみを定期的に生み出すシステムを開発した。
それが魔導石によってカラーデーモンを生み出すことだった。
当時の王子であったロノスト二世に取引を持ち掛け、悲しみの螺旋を生み出す。
カラーデーモンは人を襲い、カラーデーモンが倒されると魔導石になり、その魔導石を国が買い取り、ロノスト二世は寿命をもらって、ロキに魔導石を渡す。
このシステムは300年稼働した。
彼は世界の仕組みに、自らを組み入れた。
安定稼働する仕組みの反面、ロキは退屈していた。
彼単体で人里を訪れ、もし魔王とバレれば殺される可能性があった。
部下のカラーデーモンを連れていけば、無益な戦争状態になるだろう。
彼は魔王城に籠り、そして俺みたいな異物をこの世界に呼び寄せ、退屈しのぎをしていた。
俺が日本からここに来たから世界が変わったと言うつもりは毛頭ないが……しかし結果的には、俺が少しだけ運命を変え、そしてロキは死ぬことになる。
三代目魔王であるロノスト二世は魔王になってからロキの置き土産であるレッドデーモンの対応に追われ、明確なビジョンはなかった。
何となく権力で魔法の使用を控えさせ、そして理不尽な法律で人の悲しみを生み出そうかな……くらいの曖昧な考えだ。
人々の幸せ、それを支える魔法の利便、利便を追求すれば、人々を不幸にしなければならない矛盾。
「国王兼魔王」として一人で抱える覚悟は持っていたが、何かを完成させるには時間が無さ過ぎた。
そして先代ロキの記憶を引き継いでいて、マドリーナたちが非常に危険であることは認識していた。
王宮に来た時、俺たちは待たされたが、その間に洗脳した者たちを呼び寄せ、万全の体制で殺そうとしていた。
ロノスト二世の誤算はいろいろあった。
まずはフィアの判断が早く、配下に超越した能力を付加する前に、いきなりパトリシアの高速移動によってカカズが倒されたこと。
そしてシノと俺が深い仲であり、俺の姿とタバコの匂いで洗脳が解けかけたこと。
ヨウゴウが余計な一言を喋り、ミリアをヒートアップ状態にしてしまったこと。
本来は、シノ、ウィル、ジオーマ、カカズで適当に前線を固めつつ、ヨウゴウとロノスト二世の麻痺魔法を淡々と使っていれば勝っていたのだ。
マドリーナたちの抹殺は決して無謀な作戦じゃなかった……
抹殺の方針も間違いじゃなかったけど、俺やマドリーナたちからすると是が非でもロノスト二世を倒す気はなかった。
むしろ協力を依頼すれば、おそらく俺たちは共に知恵を絞ったと思う。
だが、なまじ勝算があったことで、彼は結果として死ぬことになった。
さて、四代目魔王の俺はどうする?
サタンのように何もせず、衰弱死を迎えるのか……それとも……
長い間、魔王の歴史を反芻していた。
フト目を開けると、先ほどの史上最大級のバトルロイヤルの結果が出ている。
立っていたのは……マドリーナ?




