第49話:女鹿名 晶
俺の勝手な戦前予想だと、ミリアだったんだが違ったか。
「やはりアキラは、ワタクシのシモベとなりましたわね……」
彼女から戦闘の経過を聞く。
まず、ことの発端として、シノに待ったをかけたのはミリアであり、かつシノを口撃でブチ切れさせた。
シノとしては最初に排除する対象は、当然ミリア。
そして、ミリアのことを俺のカノジョだと思ってたから遠慮していたフィア。
普段、ミリアからケンカをふっかけられてもいなしていたが、こういう戦いとなったら、フィアの標的はミリア。
さらにパトリシアも、ハナからミリアを目標にしていた。
いきなり3対1の戦いを強いられ、さすがのミリアも猛攻に耐えきれず脱落。
ここでマドリーナが傍観してるところが試合巧者といったところか。
ミリアをノックアウトした後、一時同盟を組んだのは仲良しのフィアとパトリシア。
自称田舎者同盟……だ。
フィアはロノスト二世との戦いで、自分自身とマドリーナを撃破したシノを、かなりの実力者と認定。
パトリシアとともに、2人がかりでシノに襲い掛かる。
ここにきて、なお傍観のマドリーナ。
2対1の戦いで、シノが撃破される寸前まで様子見をし、決着直前で、マドリーナがパトリシアへ攻撃。
パトリシアがダウンし、そのままフラフラのシノを標的に。
難なくシノも倒したマドリーナは、フィアとのサシ勝負に持ち込む。
マドリーナは得意の持久戦に引きずり込み、スタミナ切れをじっくり待つ。
疲れが見えたフィアに対して、華麗なハイキックでKO。
うまいこと戦いを避け続けて、漁夫の利を得た格好となった。
ロノスト王国軍の次期大将候補の名に恥じない戦略眼だ。
くやしそうな残り四人。
「さて、アキラはワタクシのモノですが、やはり富を分け与えるのが、ノブレス・オブリージュ……というものですわ」
何を言ってんだ、マドリーナ。
「一週間に一日……それぞれ一日だけ、アキラを自由にできる権利を差し上げますわ!」
敗北に打ちのめされ……失意のどん底にいた四人の女の目に光が差す。
「それとアキラは二日だけ、自由時間を差し上げます」
「四日と二日で……一日余るけど……」
「アナタは何を言ってるのです? ワタクシも一日アナタを自由にできますのよっ!」
「そ……そうか……そうだよな……」
なんか戦利品になった気持ちだ。……だけど、とてもじゃないけど逆らえない……トホホ。
「なんや……一日だけかいな……」
「アナタは敗者。本来は一日も権利はないのです。権利を取り上げてもよろしくてよ!」
「わかった! 一日で手を打つわ……」
公平に分配された俺。
「けど、マドリーナさんよ……一個だけ肝心なことを聞いてねぇぜ?」
フィアが切り出す。
「なんですの? まだ不満がありますの?」
「なぁメガナ……結局、あたいら五人、誰が好きなんだ? オメーの本当の気持ち、まだ誰も聞いてねえ」
白黒ハッキリつけたがる。
沈黙。
不可抗力だと主張したいけど、複数のコに好意を持ってしまった浮気男の俺。
こうなったら、みんなに宣言するしかない。
それがケジメ。
「フィア……俺が心の底から思ってることを正直に言うよ……」
一気に巨人娘たちに緊張感が漂う。
俺は息をいっぱいに吸い込む。
「五人全員……大好きだーーー!! 愛してるっ!!」
龍神の間に響き渡る俺の声。
ぶっ壊れた壁から、爽やかな風が吹いたような気がする……ドクズ発言だけど、これが嘘偽りのない本心。
しばしの気まずい沈黙。
それを破ったのはフィアだった。
「いやぁ……昔、あたいに意見してきただけあって、良い度胸だよ。パトリシアの前で、そんなこと言うなんてな……」
「何ですか、フィアさん。それじゃまるで、私がジメジメした湿気くさい女で、アキラさんの選んだ好きな人を地の果てまで追いつめて蹴り殺して、アキラさんを二度と浮気しないようにボコボコにしたあと、二度と逃げられないように両足を粉砕するみたいじゃないですか……」
パトリシア……危ない心の声が漏れてるって……
「んー……ま、いっか。アキラ君、アタシはパトリシアみたいにドロドロしてないからさ。カラッとね……アタシ以外を選んでたら、一発本気のゲンコツで別れてあげたわよ」
ミリアとの別れと同時に、この世の別れになっちゃうよ……
「全くしょーもない女ばっかりやな……うちはちゃーんと選ばれへんかったら、アキラはんを絞め殺して、きっちりうちもあとを追うで。これなら寂しないやろ?」
うわぁ……何も言えん……この流れで、マドリーナへ静かに視線を移す俺。
「なんです? アキラ。もしワタクシ以外と駆け落ちするなら……当然、死刑ですわ。主の許可なくシモベが主人から離れるなんて法が許しませんの」
あの……俺、マドリーナにおぶってもらっただけ……だよな?
この世界のシモベって、こんなに重かったのか?
「良かったなー、メガナ。五択だったけど誰選んでもダメだったな。幻の六拓目で正解を引くとは、さすがだぜ」
「えっと……もしフィア以外を選んだら、フィアはどうしたの……?」
たぶん碌なことにはならないと思うけど、参考までに聞いてみる。
「ん? あたい? そりゃー食卓にはいろんなおかずがあったほうが良いだろ? メガナがつまみ食いすんのは許してやるよ。最後にあたいのとこに戻ってくりゃ良いさ」
さすが自由主義のラケニア人。
一番被害が少ない。
「けど……まぁ……戻ってくる前に八つ当たりで組織のひとつやふたつはぶっ潰すかもなぁ……アハハハッ!」
前言撤回。
笑い事じゃないって。
結局、俺は「唯一の生存ルート」を引き当てたようだ。
これで一件落着……なのか?
この後、マドリーナは俺も含めてカラーデーモン討伐に乗り出す。
「俺の近くは……カラーデーモンが強くなるから行かないほうが……」
「何を言ってますの? そうやって離れてる間に迷子になったこと、忘れたのですか?」
「う……」
強制的に同行させられる。
センターシティを襲ってくるレッドデーモン……これに対抗する。
前衛をマドリーナとミリア。
遊撃にフィアとパトリシア。
後衛はシノと俺だ。
遠巻きにロノスト王国の正規軍も見守るなか、恐ろしい戦闘力を見せつける。
敵をひきつけるマドリーナは、普通の人間を細切れにする爪攻撃を意に介さない。
その横でミリアの剛腕がうなりをあげ、一体ずつ葬り去る。
遊撃のパトリシアは、高速移動しつつ飛び蹴り。
精度の高い蹴りは確実にレッドデーモンの顎を砕いていた。
フィアはフィアで上空からヤツらに襲い掛かり、脚で頭を挟んで半回転。
首をへし折っていた。
極めつけはシノの攻撃。
本家本元の火龍波。
なのだが、俺は『念』が実際に火龍波の効果を引き上げた話をした。
シノは感謝する相手がこれまであまりいなかったから、使いこなせていなかったという。
今の状態のシノは、俺への感謝の気持ちを存分に乗せられる状態。
この攻撃は凄まじく、レッドデーモンを20体ほど一気に串刺しにして倒す。
なんだ、このデタラメな強さは。
この様子は程なくして、ロノスト王国全域に知れ渡ることになる。
カラーデーモン討伐の終わり際、マドリーナは高らかにロノスト王国の女王に就くことを宣言。
もともとフェルナンド家の支持者もいて、ある程度は地盤があった。
もちろん反対勢力もいる。
いることはいるが、先の戦闘力を見せつけられてしまうと……もはや従うしかない状態だ。
今にして思えば、俺をあえて連れてきて、ヤツらをレッドデーモンにしてから力でねじ伏せ、自分たちの力を誇示したかったのかもしれない。
ロノスト王国の新女王、マドリーナ。
ロノスト王国の軍の大将は、懐刀のミリアが指名された。
マドリーナは要所にメンバーを配置する。
農林水産大臣に相当する役職には、木こりだったパトリシア。
そして、会計学に詳しいシノに対して、奴隷解放宣言の後、財務大臣に任命。
フィアは国が裏で操るための、闇の仕事を完遂する特殊部隊隊長となる。
ロノスト二世との戦い、カラーデーモンの掃討、そしてマドリーナの女王就任。
激震が起きてから二週間弱が経過して、今日は10月22日。
みんな……良かったな。
マドリーナはついに、怨敵ラウル家に勝てた。
ミリアも寝耳に水状態だったけど両親の死の謎も解け、さらにその敵討ちにも成功。
パトリシアも宿敵マウスマウンに一矢報いた。
フィアにしてもグッドリブ時代の借りを返した形だ。
彼女は先代魔王ロキも倒したことで、シャインビリッジの悲劇で失ったものにもケリをつけている。
最後にシノ……念願の奴隷解放か。
これからは穏やかに暮らせるのかな?
「なぁ……俺……俺は?」
「アナタはワタクシのシモベ……ミリア、フィア、パトリシア、シノは、ワタクシの部下。部下はシモベを好きなようにできる……何か変ですか?」
「そうじゃなくて……俺の……役職って言うか……」
「研究所所長……ですわ」
研究所?
「アナタ、このままだと死ぬのでしょう?」
「ああ……」
結論が出なかった、俺の目指すところ。
一通り、彼女たちには魔王の歴史全てを話した。
レッドデーモンの強襲でセンターシティの人が大量に亡くなったことにより、絶望と悲しみは十分あり、俺は今のところ元気。
なのだが、討伐したことにより、これからは力があまり蓄えられない。
その間、人々が思う存分魔法を使うと、俺の身体はどんどん力を吸い取られる。
初代魔王サタンと同じ運命を辿ることが予想できた。
「ワタクシ……魔法節約令を発令しますわ!」
女王の強権……『魔法を大切にね』の合言葉とともに、魔法を節約させる。
いったんは持ち前の腕力で権力の座に就いたマドリーナ。
彼女は熟考に熟考を重ね、「嘘に嘘を重ねると信頼が得られない」と考え、ある程度の真実を情報公開することを選ぶ。
表向きの発表では、魔王はマドリーナ女王が「封印した」ことにした。
封印したことで、魔王は力を失い、カラーデーモンはもう出てこないと。
そして、魔王と魔法の関係も公表し、同じく封印したことで、いずれ使えなくなるかもしれないと公布した。
ロノスト二世とラウル家、そして魔王との癒着も洗いざらい暴露し、ラウル家の生き残りたちも政治の中心から完全に追放する。
人々は困惑したが、少なくともカラーデーモンが出なくなった事実から、政府発表を信じる者が大多数だ。
「時間はこの法令で稼ぎます。残念だけど人間が生きている以上、一定の絶望と悲しみは続きます。ですので魔法を無闇に使わなければ長生きできますわ」
「あ……ありがとう……」
「ねぇ! アキラ君……アタシ良いこと思い出しちゃってさ……アタシに話してくれたこと……憶えてる?」
「何を?」
「キミがいた二ホンってとこにはさ……『デンキ』っていうものがあるんでしょ? それをさ……ここで使えば、魔法に頼らなくても生活できるようになると思うの!」
……そうか。
『電気』か。
「だからマドリーナに言ったの……そしたら『研究所所長確定』だって!」
「ワタクシ、偉そうに『全てを受け入れて立ち向かう』なんて言ってしまったけど、撤回しますわ。『アナタと共に立ち向かう』と訂正します」
「フフン……節約令を破って魔法を使うヤツには、特殊部隊がきっついお仕置きをしてやるぜ」
「アキラさん……頑張ってくださいね。物資が必要だったらすぐ用意させますからっ!」
「アキラはん、金のことは心配せんでええ。うちが工面したるさかい」
凡庸な俺が、世界を変える……五人と共にホントに実現に向けて頑張ることになっちゃった。
電気……
明かりをつけられるし、電熱も可能。
この世界の魔法は、俺が見てきた限りでは変身とか空を飛ぶとか、そういう非科学的なものが少なく、電気で代替可能。
つまり日本の現代テクノロジーさえあれば、ほとんどの人は生活に困らない。
唯一、ケガを瞬間的に癒せないくらいか……?
うまくいけば、魔法は節約され、俺は衰弱死しない。
命が懸かってるから、もうやるしかない。
でも……電気って、どうやって作るんだ?
高校の理科を思い出す。
右ねじの法則……コイルを巻いた導線に対して、磁石を動かすと電流が流れる。
く……磁石って、どうやって作るんだ?
よしんば電流が流れたとして、そこからどうやって明かりをつける?
フィラメント……単語は思い出すが、何でできているかはわからない。
勉強してきたつもりだったが、それぞれのモノがどうできているか……より深く考えていなかったのが悔やまれる。
もっと勉強しとけば良かった……
でも、異世界で俺に生きる希望をくれた大切な彼女たちのためにも諦めてたまるか。
俺は諦めが悪いんだ……アキラメガナ……
FIN




