第47話:魔王との最終戦
「よく来たな、マドリーナ……」
後ろの人物が声をかける。
こいつは、どういう気持ちなんだろうと思う。
マドリーナとその一家に対して、夜襲をかけたのはラウル家、そして、フィアの推測だと、マウスマウンのメンバー。
何も知らないハズはない。よくも白々しく。
「国王様……ご報告がありますわ」
王のほうへ歩みを進めるが、あと10mくらいのところで止まり、話し始めるマドリーナ。
「これまでカラーデーモンを生み出し、我々の民を苦しませてきた魔王ロキ……ワタクシたちが成敗いたしました」
「ほう……それは大義であった」
眉一つ動かさない。
サラッと言った魔王「ロキ」なんて、本来マドリーナは絶対に知らないハズの名前。
彼女もワザと反応を見るために言ったはずだが、王に動揺はない。
「ですが、不思議なことに、カラーデーモンはロキの死後、ブルーデーモンに変化しましたわ。戦った地より遠くの場所に、新たな魔王が生まれた……そう推測しています」
「回りくどいな、マドリーナ……」
ロノスト二世の声が一段と低くなる。
「ワシが魔王になった……と言いたいのだろう?」
「はい……ですが、ワタクシたちは、魔法の根源の力を知りました。魔王がいるおかげで、我々は魔法を使い、豊かな生活を築いております。ですので、例え、王が魔王になったとしても……」
そこまで言ったところで、王が言葉を遮る。
「ワシは……確かに魔王だ。……そして、貴様らは生かしておけん。……なぜなら、お前たちの力が放っておくにはあまりに危険だからだ。一度、王や魔王を倒した英雄は、次も倒す」
もっと勿体ぶるかと思ったら、いきなりの自白。
そして……魔王は何やら呪文を唱え始める。
「パトリシア! 行け!」
判断の早いフィアの声とともに、突然、戦闘が始まった。
開戦2秒後。
パトリシアが超高速で移動して、飛び蹴り!
相手はマウスマウンのギルド長カカズ。
バキッ!!
全員が不意をうたれた格好になり、カカズの首はあり得ない角度で後ろ方向に曲がる。
これで5対5。
突進したパトリシアは、ジオーマにもハイキックを仕掛けるが、ジオーマも拳士なのか、しゃがんでかわす。
ブンッ!
こちらにも風が来そうな剛脚キック。
「いきなりとは、なかなか卑怯な!」
王は、魔法を完成させる。
残りの4人を包んでいた黒い蒸気が、一層濃くなる。ただならぬ殺気が放たれる。
俺たちは駆け寄り、乱戦になる。
「シノ! 俺だ! アキラだ!! わかるか!?」
「…………」
シノの正面に立つ俺、そして向こうはギラっとした目で見てくる。
こんな目で見られたことはな……いや、えっと……あれだ、最初に出会った時、以来。
俺の姿を見て、この反応は普通はあり得ない。
すぐさま俺は、シノが洗脳されていることを悟る。
俺はポケットからタバコを素早く取り出し、火をつける。
そしてフッと吹きかける。少しでも「あの時の俺」を感じさせるものを仕掛ける。
「う……ア……アキ……は……」
急にシノは苦しみだし、頭を抱えてしゃがみ込む。
よし! 効いてるぞ。
「何!? ワシの洗脳がかかりきっていないだと!?」
国王は慌てて、呪文を唱え始める。
憎らしいくらい余裕だったのに……ざまぁみろ!
俺がシノに煙を吹きかけた間にも、いろいろなことが起こっている。
まず、背の低いヨウゴウが、麻痺の魔法を完成させる。
ジオーマのほうを向いていたパトリシアに対して、後ろから光線を直撃させていた。
彼女はまっすぐ固まったまま、ドーンと倒れ込む。
ピクリとも動かない。
これでこちらは4人、相手は5人だ。
魔法……こいつは厄介すぎる!
マドリーナは相手を宿敵のジオーマに定め、1対1の戦いとなっている。
「アナタを殺しても、家族は戻りません。でも成敗しますわっ!」
「小癪なフェルナンドの亡霊が!」
マドリーナの右フックを左腕でガード、そしてジオーマは右のキックを返す。
先ほどの国王の魔法は、強化系の魔法のようだ。
理由は簡単。
マドリーナと素手で渡り合える普通の人間など、いないからだ。
お互い『氣』の特効はない。
純粋な彼女の巨大筋肉パワーと、強化魔法をかけられた人間のパワーで、互角ってところなのか。
これだけ強けりゃ、センターシティに来たレッドデーモンを退けたのも合点がいく。
ミリアは大柄な現ロノスト王国軍大将のウィルに向かっていく。
挨拶代わりの右ストレート。それをウィルは冷静に右にステップしてかわす。
「こんなこと言ってる場合じゃないけど……楽しめそうね!」
口角が上がるミリア。
マドリーナとジオーマが互角なところを加味すると、210cmくらいの大柄なウィルは、かなりの難敵になりそうだ。
俺側はというと……
「アブねぇ、メガナ!」
しゃがんで頭を抱えていたシノだったが、急に立ち上がり俺に向かって拳を振るってくる!
それを庇ってくれたのはフィア。
両腕を使っての渾身のガード。
受け止めるも、ザザーッと後ろに体を持っていかれる。
あの巨体をパンチで動かすなんて、どんだけの衝撃なんだ!?
ウィルはウィルで難敵だけど……元から巨大筋肉娘のシノがさらにパワーアップしたら、どうなっちまうんだ?
「オメーはあいつを頼む!」
クイっとヨウゴウを指す。
黒蒸気に包まれた拳士なんて相手にしたら、俺などすぐやられちまう。
俺の役割は相性の良い対魔導士戦だ。
「火龍波!」
咥えタバコのまま、火龍波を放つ俺。
カラーデーモンには効果抜群なこの技だが……普通の人間相手だと、ぶん殴るのと同程度の威力。
相手の呪文を邪魔するくらい……か?
口に当てりゃ、唱えられまい。これまでの戦いで培った命中精度、なめんなよっ!
「火……龍……波……」
シノの動きが俺の火龍波を見たことで、また鈍くなる。
これまた強い思い出……「あの時の俺」に毎晩、教えてくれたよな!?
動きの鈍ったところに、フィアの右フックが飛び出すが……
バシッ
シノの『捌き』だ。
オイオイ……洗脳されてんのに力技だけじゃなくて、テクニカルなことまでやってくるのかよ。
スルッと剛腕パンチの方向を変えて避ける。
「ええい……しっかり働かんか!」
予想外の事態なのか、焦りを含んだ怒号。
国王はシノを操ることに力を割かれている。
なんだかよくわからない無数の糸が国王の手から伸び、シノにくっつく。
「シノを返しやがれ!」
少しでも俺を感じて欲しくて叫ぶ。
戦局は乱戦のなか、コロコロと変わっていく。
ウィルと戦っていたミリアに対し、俺の火龍波を避けながら魔法を完成させたヨウゴウは、麻痺光線をミリアに直撃させる。
「クッ!?」
殴りかかる格好のまま固まり、倒れるミリア。
彼女の巨体の衝撃で、床から振動が伝わってくる。
まずいぞ……これじゃ3対5じゃないか。
何か……何か手はないか!?
「危ないヤツめ。やはり、あの時、毒殺をしかけたのは正解だったな……」
ヨウゴウが呟く。
毒殺?
晩餐会が開かれて、ミリア一家はその時の食事で食中毒になり、両親は亡くなった……はずだよな?
食中毒じゃなくて、ラウル家の暗殺工作だったってのか?
ミリアの身体が白いオーラに包まれていく……それと同時に、わずかながらに彼女の手足が動き始める。
あいつはミリアの能力のこと、知らなかったのか?
完全に余計な一言というやつだ。
「ラウル・ヨウゴウ……アンタが……アンタが……アタシの両親をっ!!」
「すぐ両親に会わせてやるぜっ!」
倒れているミリアに、ウィルがとどめの鉄拳を見舞おうとするが……ヒートアップしたミリアは、麻痺の魔法の力を完全に破り、その鉄拳を回避。
外れたウィルのパンチは、龍神の間の床に亀裂を作る!
ミリアは反動をつけて跳ね起きると、ヨウゴウ目掛けて襲い掛かり、渾身の打ち下ろしパンチ!
相手が動けないハズと油断したヨウゴウは、まともに受けてしまう。
「グワアアアアァァッ!!」
首が胴体にめり込みつつ……頭が破裂する。
国王の強化魔法をも上回る威力で、ヨウゴウを葬り去る。
マドリーナ対ジオーマは、変わらずに壮絶な五分の攻防を繰り広げている。
が、その他の戦局は変わっていく。
「シノ! 中州の岩から見たあの景色……憶えてるだろ!?」
俺はシノに必死に語り掛け、そのたびにシノは動きが鈍る。
シノはフィアと戦っているが、鈍った動きでも身体に染みついた『捌き』が健在で、なかなかシノに対してフィアは有効打を打てずにいる。
国王は、シノへの洗脳魔法に力を割かれているままだ。手から伸びた糸が黒いオーラを放ち、そして、シノへと注がれていく。
ミリアはヒートアップしたまま、ウィルと戦いを始める。
頼む、ミリア……そいつをとっとと片づけてくれ。
白いオーラと、黒いオーラが交錯している。
拳と拳が衝突し、火花が散っている。
ウィルは白いオーラを纏ったミリアの猛攻に対して、互角の戦いをしている。
それどころか経験のなせる技か、フェイントからのカウンターパンチまで当ててるじゃないか。
こいつは相当強い。ロノスト軍の現大将……そう簡単にはいかないか。
一進一退の攻防のなか、マドリーナ対ジオーマが動く。
「貴様……どこにそんな力が……」
「フェルナンドの底力……選ばれたわけじゃないけど、代表して貴様を裁く! ううううぅううぅう!」
仇敵を目の前にしてプッツンしたのか、口調も普段と変わって、キャラ崩壊のうめき声を上げる。
そして、そのままジオーマのガードの上から、雨あられのように、パンチのラッシュをかける。
ボクシングとかでは40秒が限界だと言われているが、それを超えて殴りまくる。
たまらず後ろに倒れたところへ馬乗りパンチ。
「イカン……シノ、ジオーマを助けよ!」
王の指令が飛ぶ。
シノにくっついていた糸は、いつの間にか消え失せている。
「了解や……」
フィアと距離を取ったシノは、火龍波の構えを取る。
「やめろ、シノ!」
「喰らえや!」
俺の声が届かなくなったのか、シノはマドリーナに向けて火龍波……なのだが、何本も『氣』の光線が右側面に襲い掛かる!
ドガガガ! ドカーン!
マドリーナを外した火龍波は、龍神の間の壁もぶっ壊す。
「ぐ……」
左側に白目を向いて、倒れるマドリーナ。
ウソだろ!?
あのレッドデーモンに囲まれてタコ殴りされても耐えきったマドリーナを、ノックアウト……だって?
国王の強化魔法恐るべし。
マドリーナの下になっていたジオーマも……彼女から殴られたのが原因か、シノの誤射が原因かは不明だが……即死だ。
右頭部が破損して、右の肋骨がさらされている。
凄まじい攻撃だったが、マドリーナのほうはオレンジデーモンとの特訓が功を奏して、死を免れたみたいだ。
大穴により、すっかり街の景色が見える龍神の間。
一連の戦いによって、こっち側で動けるのは俺、ミリア、フィア。
国王側はロノスト二世、シノ、ウィル。
3対3だ。
フィアと距離を取って火龍波を連打したシノは、巨大な肩を上下させながら息を弾ませている。
「いい加減に目を覚ませ、シノ! 俺たちは戦う必要ないだろ!?」
「誰や、お前……知らんわっ!!」
眉を吊り上げて、鋭い眼光で俺を見る。
マズイ……完全に支配されている。
国王はシノの洗脳が完了したので、ミリアに向かって魔法を使おうとしている。
もはやここまでか?
さらに……シノがフィアに対して掴む。信じられない遠目の間合いで。
「おい!?」
シノの初見殺し。
この距離で掴まれると思わなかったフィアは、完全に腕を取られてブン投げられる。
かつてシノはノーマル状態で、500kgくらいありそうなクマを上空10mの高さに放り投げていた。
今は強化状態。投げられたフィアは、質量兵器と化していた。
投げた先はミリアとウィル。
ビューン!! ドカーーーン!
一瞬だけ早く気付いたミリアは転がって回避したが、ウィルはフィアの巨体ごと壁へ。
放物線ではなく一直線に飛んで行き、壁が崩れていた。
先ほど見晴らしが良くなった龍神の間は、さらに見晴らしが良くなる。
「……」
フィアは気を失っている。
良い感じに強化されたウィルが緩衝材の代わりとなり、彼女は死んではいない。
壁は瓦礫となり、その色は血に染まっていた。彼女の身体と壁に挟まれたウィルは……おそらくバラバラだ。
やや離れてミリア、そして、さらに遠くに国王。
俺の目の前には……シノ。
マドリーナ、フィアを立て続けに撃破したシノだ。
背中を冷たい汗が通過する。
「殺れ……シノ!」
「……」
シノが殺気を孕んだ目で俺を見る。
ヤバイ……俺は咄嗟に逃げる。
床を蹴って追いかけてくるシノ。
振り向きざまに、俺はタバコの煙を吐き出す。
シノの振りかぶった拳が見える……かつてヒグマの頭蓋骨を陥没骨折させた拳……背筋が凍る。
「鉄砲水には気をつけろ!」
苦し紛れに最大の思い出のワードを出す。
「ア……アキ……」
俺とシノの運命を大きく変えた自然災害。
王の洗脳の糸を引きちぎったかのように、シノの動きが止まる。
「アキラ君に……手を出すなーー!!」
そこへ駆けつけたミリアが、シノの顎へパンチを打ち抜く!
糸が切れたあやつり人形のように気を失って倒れるシノ。
魔法で強化されたシノと、ヒートアップで攻撃力が上がったミリア。
パワーバランスが奇跡的につり合い……シノは人型を保っている。
コレで……ついに逆転だ。
もともと魔法が効かないように細工されている俺と、魔法の効かない状態になるヒートアップが継続しているミリア。
相手は、偉大な『魔導士』ロノスト二世。
勝負あったか。
「王……お覚悟……」
殺る気満々のミリア。
ジリジリと近づく。
「待て! その男が死んでも良いのか!?」
だが、ロノスト二世が叫ぶ。
「え?」
「大事な男なのだろう?」
マズいぞ……さっきの「アキラ君に手を出すな」が聞かれた?
「その男は……遠い世界で身を投げた。そして魔王の魔力でこの世界に転移した……」
「……」
ピタッと動きが止まってしまうミリア。
「ワシが死ねば、その男は元の世界に戻り……そして元の世界で落下して死ぬ……」
「そ……そんな……」
もともと大きめの瞳をさらに見開いて、拳を下ろしてしまう。
そして動揺したのか、白いオーラも失っている。
「俺に構うな! 殺れ!!」
俺は叫ぶも、ミリアは首をフルフルと左右に振っている。
その間、ロノスト二世は、何やら呪文を唱え始めやがった!
俺がやるしかない!
集中して、火龍波を手の中に出す。
これでヤツをやれば……俺……死ぬのか?
どうせ日本で捨てた命だ。
ヤツは何か魔法を準備している。今のミリアが喰らえばひとたまりもない。
守らなきゃ……
かつて守ってくれた恩を返さなきゃ……
「アキラ君! 止めて! ……アタシを置いていかないで!」
「このままミリアがやられたら、俺もやられる! どの道一緒だ!!」
…………。
カッコよく言ってみたけど……
やっぱり嫌だ……死にたくない……
あれ?
「死にたくない」だって……?
日本で全てに絶望した俺……今、「死にたくない」と思っている。
ミリア、マドリーナ、フィア、シノ、パトリシア……それぞれに視線を向け、その要因が彼女たちであると悟る。
孤独だった俺に生きる希望を与えてくれて、ありがとう。
そして……
さよならだ。
彼女たちへの感謝を込めて。
「火龍波っ!!」
ほぼ同時にロノスト二世の魔法も完成し、ミリアではなく、俺のほうに光が飛んでくる。
その魔法を俺は喰らい、目の前が真っ暗になる。
相打ち……か。




