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第46話:灼熱の髪

赤くてデカいやつが目の前に現れる。


「ついにレッドデーモンですね……」

「ワタクシが前衛の真ん中を務めますわ……左にミリア、右にパトリシア、お願いします。フィアは遊撃して」

まともに正面から陣形を組んで戦うのは、実は初めてだ。


マドリーナは3体を同時に相手にして防御に専念している。

ミリア、パトリシアは1対1でやり合っている……ってか、1体俺のほうに向かって来てないか!?

俺の火龍波……この前みたいに通用するかな……?


そう思っていると上空からフィアが舞い降りる。

膝でレッドデーモンの頭を挟み込む!


フィアの太ももが一瞬膨らんだように見えて……

ゴキっ!!

首を180度回す。たちまち魔導石と化す。


「よっしゃ! いっちょあがり! メガナ、大丈夫か?」

「助かったよ……」

「まぁ、あとはそこで見てるだけで良いよ」

マドリーナの戦っているほうへ跳躍していくフィア。


ミリアはレッドデーモンに対し、右ストレートを炸裂させていた。

顎を打ち抜く一撃……なのだが、魔導石にはならない。


オレンジデーモン以下の相手にはことごとく一撃必殺だったので、タフさは段違いだ。

よろけたレッドデーモンに対してのしかかり、上からパウンドを浴びせかける。

ジタバタして跳ねのけようとするが、多少暴れられてもブレない体幹から繰り出される鉄槌パンチ。

10発ほど殴って、ようやくヤツは魔導石と化した。


一方、パトリシアもこれまで磨き上げた右のハイキック一閃。

レッドデーモンの側頭部を直撃させていた。


彼女はダウンしたレッドデーモンの頭に向けて足を思い切り振りあげる。

股関節が柔らかく、ピーンと脚は垂直に伸び……一気にかかとを打ち付ける。

ゴッ! っと鈍い音がして魔導石と化す。

狙いすましたかかとの一撃で頭蓋骨は粉々に。


合計3体が倒れ、数的優位に立つと勝利は確定する。


「なんかこう……よってたかって、つーのはスッキリしねぇな……」

「何言ってんの! 勝てる戦いを確実に勝つ。これがプロってものよ」


最後の一体はミリアに羽交い絞めにされて、動けなくなったところをパトリシアの膝で腹をボコボコにされていた。

程なくして内臓破裂したのか、魔導石に変わる。

ニーナがいないから確実に勝つというのは間違ってはいないけど……ちょっとヤツには同情した。


「いよいよ……だね」

俺が呟く。

時間は夕方。草原を赤く染め上げる。

そう言えば日本からここに来た時、初めての場所はこの辺だったな。まさか半年後に、こんなことになろうとは思いもよらなかった。


「今日はここでいったん落ち着こうよ。作戦を決めよう」

「そうですわね。気持ちは揃えておいたほうが良いですわ」

旧フロント部屋……今は薄い板で覆われている。

ココで俺たち五人は向き合っている。


「まずは魔王探し……だよな?」

「センターシティ、またはこの周辺にいるのは間違いありませんわ」

「大本命は国王……」

これまでの経緯からしたら、そうだろう。

「城の中のことは、ワタクシに任せて欲しいですわ。国王はすぐに見つけられるはず」


「国王様と……戦うことになるのかなぁ……」

ミリアには明らかな迷いが見える。

カラーデーモン相手には嬉々として戦いに身を投じていたから、よっぽどなんだろう。


「魔王が死ねば、魔法はなくなりますわ。……そうなったら、ワタクシたちの生活は成り立たない……」

「とにかく皆を苦しめなければ良いんだよ……ね?」

「そう。魔王と言えど対話ができれば、それに越したことはありませんわ。もし、相手がロキでなければ、戦わずに済むかも知れませんわね」


もの凄く悪い言い方をすれば、『魔法は便利で、魔王には利用価値があるから倒さない』か……凄く打算的だよな。

人は罪深いものだ。


「もしも……向こうから襲ってきたらどうしますか?」

「そりゃー……やるしかないよなぁ……」

おずおずと聞くパトリシアに、フィアは即答する。


「んで、そうだとしたら、ミリアは国王を殺れるのか?」

「……」

「戦いのプロって言ってたのは、誰だっけなー」

「わかったわよ! アタシもその時は腹をくくるわ」


「ワタクシも……覚悟を決めましたわ。もしそうなってしまった場合は、全てを受け入れて立ち向かいます」

できるだけ対話をするが、やむを得ない場合は戦う。

方針は決まった。


翌朝。

セントラルニューパディで調達した保存食を食べながら、遠目に見えるセンターシティを眺める。

何が起きるか全くわからない。


「最後の食事になるかもしれないのに、ショボいですわね。牛肉の煮込みが恋しいですわー」

「魔王を倒してマドリーナが女王様になったら、美味しいモノ食べ放題よっ! 気合入れていくわよ」

「女王様になったら……コネで……そーだなー……特殊部隊の隊長とかにしてくれよ」

「私は林業の大臣にしてください」


「なんで皆はそんなに余裕なんだ?」

「……」


一斉に俺の方を見る四人。

「あ……なんかゴメン……」

これは完全に空元気ってヤツだった。不安をなるべく抑えるための防衛本能……超人的な彼女たちにも、そんな感情は存在するんだ。


「さーって……行きますかね……」

しばしの沈黙の後、フィアが声を上げる。


ライジングサン号をセンターシティまで300mというところで停車させ、そこから歩く。

前回来た時にはセンターシティの入り口の門に門番がいたのだが、今回はいない。


門をくぐってみると、あの賑やかだった街並みは一変していた。

人が激減している。

途方に暮れる人がチラホラと。


そのうちの一人の老人がマドリーナに気付き、声をかけてくる。

「マドリーナ様っ!」

その声を聞いた人も、数人集まってくる。

「マドリーナ様が生きておられる……」

「どうか我々に救いを……」

口々に様々なことを言ってくる。


「何があったのです?」

老人に尋ねるマドリーナ。

「レッドデーモンが突如現れ、この様ですのじゃ……中央の広場は遺体の山になっております……」

「今、ヤツらはどこにいるのですか?」

「国王様が精鋭を率いて、撃退してくれましてな……おかげで、この老いぼれもまだ生きておりますのじゃ……」


「へぇぇ!? やるじゃねーか……そんな簡単な相手じゃねぇぞ……」

「国王様がレッドデーモンを倒したということは……王が魔王じゃないってことかしら?」

フィアが驚きの声、ミリアは希望を含んだ感想を言う。


「王に会いましょう。少し希望が見えてきましたわ」

マドリーナが決断する。

どうなんだろう?

まだ可能性は五分五分だ。


魔王は絶望と悲しみを食料とする。なので人が全員息絶えてしまうと、魔王にとっても困る。だから新魔王となった国王が、レッドデーモンを倒すということもあり得る。

それとも魔王は国王じゃなくて、純粋に民を救ったのか?


中央の広場を通る。

老人の言うとおり、遺体の山で凄惨な光景が広がっている。

ロノストの王宮は、この先だ。


ゼイルさん、リースと三人で行った時のことを思い出す。

全然、良い思い出じゃないけど。

前はそれなりに守衛兵がいたのだが、今回はわずかに一人。

レッドデーモンに襲われて、兵も激減してるのだろう。入り口の門に門番がいなかったのも、それが原因か。


「マドリーナ様っ!?」

守衛兵も、やはりマドリーナの帰還に驚く。


フェルナンド家は滅亡した。それが王宮内の認識だったんだろう。


「お勤めご苦労様。いかにもワタクシ、マドリーナですわ。王はいらっしゃるかしら?」

動揺する守衛兵。

だが、マドリーナの声を聞くと、不思議と態度を落ち着かせる。


「は! 確認いたします。しばしお待ちをっ!」

ピシッと礼をして駆け出していく守衛兵。

人を落ち着かせるのと同時に、言う事を聞かせる迫力を合わせ持つ彼女の声。


なんだろう……遠い人になった感じがする。ヒルビリッジに二人で行った時も思ったが、様々なタイプの人から慕われている。


「いやぁ……名家のパワーはすげぇなぁ……あたいが『王様いる?』なんて聞いたって『あっち行け』で終わるのに……」

「住む世界が違うよなぁ……」

フィアに同意する俺。

血筋とか名声は、それだけで力を持つ。兵の背中を見送りながら、つくづくそう思った。

ここからしばらくの間、俺たちは王宮の入り口で待たされる。


王宮というものが初めてのパトリシアは、キョロキョロと壁やら装飾やらをもの珍しそうに見ている。

田舎者同盟であるフィアは、泰然自若といったところ。

特殊部隊にいた時に訪問歴があったのかもしれない。


マドリーナは前髪をしきりに触っていて、ミリアは服の襟をなおしたり、ボタンを外してはつけている。

全然落ち着いていない。

この二人は、マドリーナ曰く、王に対して「これまで慕い続けて仕えてきた」と言っていたから、心中穏やかじゃないのだろう。


「お待たせしました! 二階の龍神の間に案内します。どうぞ、こちらへ……」

守衛兵が戻って来る。


俺たち五人は兵についていき、二階の扉の前まで案内される。

「私はココまでと言われておりますので、ここで失礼いたします」

深々と礼をした後、彼はもともとの自分の持ち場に走って帰っていく。


「『龍神の間』……ミリア、覚悟は良いかしら?」

「……うん」

「何だ? 『覚悟』って……」


不穏な単語が飛び出したので聞く。

「『龍神の間』は備品が少ない部屋ですの……御前試合にも使われる部屋……」

ようは戦闘向きの部屋ってことか……?


すでにきな臭い。いろいろなことに対応できるよう、俺はポケットの中を確認しておく。


この扉を開けると……良い悪いはともかく、大きく何かが進展する。

「行きますわよ」

マドリーナも深呼吸の後、扉を開けて中に入る。


バターン!

俺たち5人が全員入った途端、自動的に扉が閉まる。

魔法の類か?

この時点で、すでにヤバそうだ。


御前試合にも使われる部屋とのことだが、かなり広い。

そして、距離20mと言ったところか……人物が5人並んでいて、後ろに一人。

後ろの人物がロノスト二世なんだろうか?


「ラウル家が三人……あの一番左の背の低い男がラウル家の悪だくみ担当と言われるヨウゴウ、ど真ん中の男が当主ジオーマ、右隣の大きい男がロノスト王国軍の現大将ウィルですわ……」


「なぁパトリシア……左から二番目のちょっと小さい男……ありゃあ……カカズ……闇ギルドマウスマウンの……ギルド長だ」


マドリーナ、ミリアの不倶戴天の仇であるラウル家と……そして、フィア、パトリシアにとっての因縁の相手。


なのだが、俺は最後に残った人物に釘付けになっていた。


「!! …………シノ……」

ウィルとやらは、カトランよりはちょっと低い210cmくらいの身長。……右端にいる人物はそれより50cm以上高い。

燃えるような赤髪と透き通るような白い肌。無表情で俺を見据える……その虚ろな美貌……目に馴染んていたビキニスタイルではなく、今は暗めの赤い服を着ているが……間違いない。


叫びそうになるが、雰囲気に呑まれて声が出ない。

いや雰囲気というか実際に、ユラユラと黒い蒸気のようなものが見えている。


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