第45話:首都へ急げ
空気が一変した。
「なんでお前が!?」
「ん……なんて言ったら良いか、わかんないけどさ。あたいもゼイル旅団に入ったんだ」
「一体何の縁で…………ま、とにかく! 俺のことは気にせず、他の魔王も倒してくれよ。それが俺の望みだ」
そこまで言って、フィアはススっと距離を取り、アイラはアイラで話を切ろうとする。
「報告ありがとよ、俺は俺で頑張るよ。不思議な話だけど……俺が魔法を使えなくなる日を……楽しみにしてる」
アイラと別れた後、残りの資金で食料や物資を買い込み、巨大リアカーと化したライジングサン号に積み込む。
「彼の望みは『魔王を倒せ』だけど、どうするか……」
「いったん心当たりのある場所に行くしかありませんわ」
「そう……だな」
「やっぱ『心当たり』ってさぁ……センターシティ……かい?」
「そうですわ。魔王と取引をしていたロノスト二世。あとは魔王を倒した後、レッドデーモンがブルーデーモンに変わったということは、距離的にもセンターシティに魔王が居たとしたら辻褄が合いますわ」
フィアに答えるマドリーナ。
「普段パープルデーモンしかいないところに、レッドデーモンなんか出てきたら大変よ。アタシはとっとと行きたいわ。安心したいもの」
「じゃあ交代で、みんなで引いて行こうぜ」
「アタシも?」
「急いでんだろ? 壁も天井もないから軽いもんよ」
「仕方ないわねぇ……全員ってことは……アキラ君も……引いてみる?」
悪戯っぽく笑って、ミリアがとんでもないことを言う。
「お……俺が!?」
「物は試しって言うじゃない? アタシも引くからさ……挑戦、挑戦っ!」
長さは10m弱、幅は4mくらい。
筋肉娘四人が乗っかってる状態だと2トンくらいないか……?
ミリアに促されて、ちょっと引いてみるものの……
「アキラさん、頑張ってください。ちょっと腰を落とすと良いですよっ」
長らく一人で引っ張っていたパトリシアが、アドバイスを送ってくる。
のだが、ビクともしない。
車輪と地面が、ビタッとくっついてるみたいだ。
「ホーッホッホッホッ! 鞭を入れたら動くかも知れませんわねぇ……」
「もうやめとけって……腰を痛めるぞ……ミリア、オメー良い趣味してんなぁ……」
「え……ちょっとだけイジワルしてみたかっただけよ。アキラ君、交代しよ」
チョイっと俺を抱きかかえ、旧フロント部屋に降ろす。
「いっくよー!」
初挑戦のミリア。まさに軽々といった様子でライジングサン号を引く。
直前に重さを体感してるだけに、その怪力ぶりが身にしみてわかる。
首都センターシティを目指し、ライジングサン号は高速移動している。
疲れたら交代……という超あいまいなルールの元、デカ女四人の交代制で進む。今はマドリーナが引いているところだ。
「ところでさ……アイラは知り合いだったの?」
気になったので、俺はつい聞いてしまう。
「ん? それ聞く? ……あんまり話したくないんだけどさ……」
もの凄く気まずい感じだったアイラとフィア。
「元恋人同士とか?」
ミリアも興味を持ったのか、ツッコむ。
「そんな良いもんじゃねぇよ……アイラの家はうちの近所で、昔よくちょっかいかけられてさ……もちろん悪いほうのちょっかいだよ? 弱いモノいじめは嫌いだけど、売られたケンカは買う主義のあたいは返り討ちにしてたんだが……」
「返り討ちって大人げないわねぇ……あんたの馬鹿力じゃ勝負になんないでしょ……」
「戦いってのは虚しいもんさねぇ……。最初はあたいとアイラだけど、弟まで巻き込みやがってさ。しまいにはアイラの親父さんまで出て来て……まぁエスカレートしたんだよ」
「家族間の戦いになっちゃったの? 子どものケンカに親が出てくるってのは……」
「最後のほうはねぇ……頭にきたあたいは、アイラの親父さんの上に馬乗りになって完全に動けなくしてさ……『二度とちょっかい出しません』くらい言わせたんだよねぇ……」
「アンタ、やりすぎよ。向こうにもプライドってもんがあるでしょうに……」
「今ならやんねぇよ……だけど当時10歳だったあたいは、そんなんお構いなしでさ……」
「そんなことするから、アタシまで同類に見られちゃうのよ……全く……」
このミリアのセリフに反応したのは、パトリシアだ。
「アイラが私を避けてたのって……もしかして、フィアさんのせい?」
「あー……そうかも知んねぇなぁ……いやあ……面目ねぇ……」
そういや、サクもシノがトラウマになって、直接関係ないパトリシアが苦手になっていた。これは不憫を呼び寄せるってヤツか……パトリシア、かわいそうに。
「ただ……アイラは立派なヤツだよ。シャインビリッジの悲劇でさ、あたいはヤサぐれて闇ギルドに入ったけど、あいつは違ったから……」
アイラをフォローするフィア。
「それに、旅団を抜けたタイミングも良かったな。ゼイル旅団の抹殺指令があたいにきた時、アイラは対象じゃなかった」
「そうですか……それなら良かった。いろいろあったけど、アイラが平穏な日々を過ごせると良いな……」
「そう思えるなんて、心が広いな……パトリシア」
あんだけ煙たがられてたのに……良いコだ。
「過ぎたことは、もう良いんです。今はフィアさんがいるし」
ニッコリ笑って、フィアのほうを見るパトリシア。友達……欲しがってたもんな。
「そういや魔王に放ったあの合体技は……」
「あれなー……ホントはさぁ、あたいが遠くから魔王見つけた時に暗殺する用だったんだけどなー。なかなかうまくいかないもんだなー」
「ふふふ……もう時効ですから白状すると、私たちは肉の調達係でしたよね? 実はすぐに狩りは終わってたんですよ」
「パトリシアは足が速いからなぁ……見つけたら確実に仕留めたんだよねー。狩りはホントに楽だった」
「で、余った時間は、ずっと練習してたんです」
「アタシたちがせっせと山菜集めてた時に、そんなことしてたのね?」
ほっぺたを膨らませるミリア。
「まー良いじゃん。ミリアが通る道を作るのに使ったんだから……」
あの戦い……全てがかみ合ったんだな。勝てて本当に良かった。
俺の時計は、10月4日を示している。
シャインビリッジを出てから、四日が経った。
セントラルニューパディが近くなるが、前方にグリーンデーモンを発見する。
「うーん……この近辺には、ブルーデーモンしか出なかったはずなのにな……少なくともあたいがいた時は一度も見たことないねぇ……」
「ここの警備兵はグリーンデーモンを相手にするのに慣れてないハズだから、アタシたちで殺っちゃおう」
ポキポキと拳の関節を鳴らしながら、ミリアが言う。殺る気マンマンだ。
数は20体程度。
220cmクラスの鋭い爪を持ったデーモンであり、警備兵が出動してようやっとなんとかなる相手のハズなのだが。
オレンジデーモン相手に特訓してきたミリアたちに、敵うはずもなく。
「二分……二分も経たずに全滅? ……ハハハ……」
強すぎて、俺は乾いた笑いが出てくる。赤子の手をひねる様にとは、まさにこのこと。
「魔導石……いつまで商人が買い取ってくれるかしらね……国が買い取ってくれなくなったら、タダの綺麗な石ですわ」
魔導石を拾いながら、マドリーナが心配なことを言う。
魔王ロキに魔導石を渡していたロノスト二世は、今も魔導石を集めているのだろうか?
「拳士なんて戦うことしか能がないから……自分でお金を稼ぐってなったら、アタシたち困るわね……」
「まぁそうなったら、そんとき考えようぜ」
「なんでアンタは、そんなに楽観的なのよ……」
「だって、まだ魔王のことすらわかんねぇからさ……今、心配したって意味ないって」
翌日、セントラルニューパディに到着する。
結果として魔導石はまだ価値を持っていたらしく、ある程度の資金が手に入る。
「いやあ……この辺に出てきたグリーンデーモンを倒したのかい?」
商人が感心する。
「そうですわ」
「その背格好……アンタまさか……フェルナンド家のマドリーナ……様?」
「まぁ……この図体ではバレますわね。隠しようがありませんわ……」
「この街の惨状……見てくださいよ。不意に現れたグリーンデーモンに苦戦して、警備兵が激減してるんです」
「何とか、救援を回せるようにしますわ……では」
魔導石を換金して、保存食を買い込み……そして間髪を入れずに即出発する。
※※※
「適当な約束しちゃって良いのかい?」
フィアがマドリーナに聞く。フィアにとっては『約束』は重いモノであり、必ず守るものだ。
「多少の希望を持たせないと、兵は戦えませんもの……」
「残念だけど、セントラルニューパディに回せる戦力はたぶんないわ。グリーンデーモンでこの損害ってことは……レッドデーモンがセンターシティを襲ったら……急がないと」
街に駐在していた時間は、ごくわずか。
「ミリアの言うとおり、センターシティへの急行を優先しますわ」
「ふふん……政治家だねぇ……」
「しょうがないのよ! 優先順位ってもんがあるんだから。アタシたちだって全員救いたいけどさ……無理なのよ……」
「まー、目に入ったカラーデーモンは片づける……それくらいはして行こうぜ」
苦しい選択だ。
魔王がいると思われる首都を優先したけど、セントラルニューパディにこのまま滞在していれば、ここの人たちは守れた。
全員を救うってのは難しいもんだな。
10月9日。
もう秋だ。
夏の暑さはすっかりなくなり、過ごしやすくなっている。
センターシティまでの強行軍。
途中、何度かグリーンデーモンを蹴散らし、そして、そのグリーンデーモンは首都に近づくにつれ、イエローデーモン、オレンジデーモンと変わっていった。
あとちょっと。首都が見え始める。
そこへ6体程の巨大な人影。
いよいよお出ましか。




