第44話:17歳カルテット
生き残った俺たちの中では、ゼイル旅団最古参になってしまったパトリシア。
「……」
彼女は黙って、うつむいていた。
随分と皆から嫌われ、イジメられていた。でもゼイルさんに恩義を感じているのも、また本心だろう。
愛憎混じった感情ってヤツか。
「この後……どうする?」
三人の勇者を見送り、しばしの黙祷を捧げた後、俺が切り出す。
「もう夕方ですわね……宿……は、ちょっと手持ちに不安がありますわね」
「金はあたいたちの治療費で、かなり飛んじまったからなぁ……なーに、布切れやら板切れはある。今日はここで寝ようぜ。ストーブや机もあるし、こいつを村の外にほっとくと盗まれっからさ」
今のライジングサン号は壁と天井がなく、土台の板は生きている。
フィアの言うとおり、調理可能なストーブは無事で、簡易テント的なものを張れば寝ることはできる。
冬場ならば寒さが厳しいが、今は夏の終わり際。何とかなる。
この夜……布切れを張った場所で、俺は一人で寝る。
他の巨大女子四人は別部屋ということで、旧フロント部屋の場所で板をうまく重ね、屋根を無理やり作って寝ている。
俺の横には、ゴールもサクもいない。
考えてみれば、一人で寝るのは、シノと死別した直後の日以来か?
昨日までいた、仲間がいない。心にポッカリと穴が開いた。
つまらないプライドで、命を落とした?
美学を貫いた立派な最後?
彼らの犠牲のおかげで戦いに勝利して、俺は今、生きていられるのか?
今さら考えても仕方ないことが頭を巡る。
しかし、魔王ロキは倒したが……まだ何かがいる。終わっちゃいない。彼らの分まで続きを見なきゃ……これが俺の結論だった。
日が昇る。
緊急事態というのは、何もかもがどうでもよくなる。
昨日は魔王と戦い、大怪我を治し、寝る場所を作った。全てが重要事項だ。
翌朝、俺たちは顔を合わせ、女子組は冷静にお互いの格好を見る。
「うはぁ……はっずー……あたい、こんなんだったんか……」
フィアは王国特殊部隊が着る暗い緑色の長袖、長ズボンの服……レッドデーモンにやられて露出し放題だ。
「ワタクシもサービスしすぎましたわ……」
マドリーナの服もボロボロで、布面積が小さくなっている。
何となしに旧フロント部屋の場所に行った俺だが、慌てて顔を背ける。
「あ……あのさ……マドリーナと一緒に買いに行った服……あるから、それ着てよ」
それだけ言って、そそくさと簡易テントに入る。
「特訓で五着……そしてコレもダメになってしまったから……残り四着ですわ……」
「マドリーナ用じゃあ……ちょっと小せえけど……あたい着て良いか?」
「もちろん良いですわ。そんな格好では人前に出られませんもの……」
そんな会話が聞こえる。
紺色を基調としたセーラー服もどき。初めてフィアに会ったとき、彼女のスカートは紺色だったから、そっちのほうが見慣れている。
似合うんだろうな……などと思っていると……
「あの……私も一着……頂いても良いですか?」
パトリシアの声が聞こえる。
「ずっと地味な服で……マドリーナさんの格好、良いなって思ってたんです。あと……フィアさんとお揃いになるし……」
これまでずっと茶色パーカーだったパトリシア。
本人がメルビンに要求したところを見たことなかったけど、本当はちゃんとした服を着たかったんだな。
彼女たちが着替えている間、ミリアが俺の簡易テントを覗き込む。
こちらはメイド服が無事だった。健康的な褐色の肌と純白のフリルが至近距離で鮮烈に映える。
「ねぇ……アキラ君、この時間でちょっと荷物の整理しよっか」
「ああ」
大荒れに荒れている。
何せ緊急事態だったから。
ゴミになってしまったもの……割れた食器や、ぶっ壊れている椅子などを片付ける。
いくつかのハコもあったので、中を開けて予備の食器などを確認する。
「え……? ……これ……アタシの服の……リボン?」
「そういやメルビンが言ってたよ、『後ろのリボンが大きすぎて戦いの邪魔になるから、小さいのも作る』って…………」
「そっか……」
じーっとリボンを見つめていたミリアだが、そっとハコの中に戻す。
「着けてみないの?」
俺の問いに寂しげな笑みを浮かべて、彼女は口を開く。
「いいんだ……アタシ、大きいのが気に入ってるから」
セーラー服もどき三人衆の着替えが終わる。
マドリーナの体型に合わせてあるので、マドリーナは当然ぴったりだ。
「ちょっとキツイけど、コレはコレで良いや」
フィアは前のリボンをあきらめ、ガバッと前が開いている。
体の厚みが違うので窮屈そうだ。
ラフな着こなしと金髪の組み合わせで、ヤンキー女子高生路線だ。
一方のパトリシアにとっては丈が短く、へそ出し状態。凹凸の激しい腹筋が見えている。
「カワイイ……です」
鏡を見て顔が紅潮している。初めてのおめかしで、見るからにテンション上がってきている。
クルクル回って360度、自分の姿を確認していた。
「さーって……メシ食いに行こうぜ」
格好が落ち着いたところで、食堂に行こうと誘うフィア。
「ねぇ……マドリーナとミリアはラウル家に狙われないの?」
「もうね……開き直りってやつよ。そもそも昨日マドリーナはケガを治すの優先して、思いっ切り姿を見せちゃったから……」
両腕を頭に組んで言うミリア。
「皆の陰に隠れれば……私、バレないですかね?」
マウスマウンに狙われる可能性のあるパトリシアのほうは人差し指の先を合わせながら、不安がる。
「いやー……全然隠れてねーし……開き直れって。こんだけ図体のデカいのがまとまってれば、簡単には手を出せないさ」
確かに壮観。270cm超の女が四人も。
彼女たちは普通に振舞っているが、シャインビリッジの村の人は威圧感にビビって、皆、距離を取る。
フィアの言うとおり、暗殺者側も躊躇するだろうな。
「なぁマドリーナ……シップビリッジの時とは違うな」
一気に人だかりができたシップビリッジとの差を感じる。
「まぁここはラケニア人が多く住む村ですから……ロノストの元貴族がいたところで、あまり騒がれませんわ」
見渡すと、フィアと同じ金髪、青い目の人の割合が多い。日本で著名な人がアメリカに行った時にあまり騒がれない……みたいな感覚かな?
「案内するよ。なんせ地元だからさ」
フィアが入った店は『ハツラツ亭』っていう名前の店。
「おいおい……誰かと思ったら、フィアじゃないか?」
「どーも……マスター、お久しぶりッス」
ニカッと笑うフィア。
「ここで昔……あたいは働いてたんだ」
注文を終えると、皆に説明する。
俺以外の四人はあぐらやら正座やらで座っていて、俺一人椅子に座っている。
これで普通に目線が揃うのだから、やっぱり彼女たちは規格外の大きさだと再認識する。
「『いらっしゃいませー! 今日のおススメはビーンズペーストサンドですよー』ってな」
「すごーい! フィアさんって看板娘ってやつですか?」
「まーな」
「いーや……絶対違うわよ。集客したかもしれないけど、それは珍獣見たさ……ね。ねぇ店主さん……そうでしょ?」
料理を運んできた店主に聞くミリア。
「……そうさね……ちょっと客足は減ったかなぁ……」
「ちょ! ……マスター!」
「ただ店内のもめ事は激減したし、力仕事はバリバリやってくれたし、厨房にも入ってくれたし、結果はプラスだったかな」
フィアの手際の良さは天下一品。結果、プラスというのは俺は納得だ。
「大したコだよ……あの時は12歳だったけ?」
「じゅ……12歳!?」
「あれ? メガナに歳言ってなかったっけ? あたい、今は17歳だよ」
俺より7つも年下だったのか……
「ワタクシも17歳ですわ」
「アタシも17歳よ」
「私も17歳です」
「!!??」
声が揃う。
確かに年齢聞いたことがなかったけど、こんなに揃うもんなのか?
「歳……同じだったのかよ。……ふーん……同い年で次期大将候補ってのは、やっぱすげーな、マドリーナ……」
「まぁ……腕力で候補に挙がっただけかも知れませんわ。……8歳の頃……武芸の師範をボコボコにしてさしあげましたから……」
やっぱり規格外の話が出てくる。……才能というのは恐ろしい。
「ま、天狗になっておりましたが、その後、ミリアが来て、鼻っ柱を折られましたわ……」
武芸師範で相手にならなかったら、そりゃあ、ミリアクラスの人外級巨人を連れてくるよなぁ。
「ねぇ……アキラ君も17歳なの?」
この流れで当然、俺にもこの質問が飛んでくる。
「俺? えっと……24歳だな」
「へぇ! お兄ちゃんだったんだぁ……」
「やっぱりそうなんですね……凄く安心感があるっていうか頼りがいがあるっていうか……」
「えー!? ……メガナが頼りになる? マジかよ~」
三者三様の反応だ。
年齢トークで一盛り上がりした後、食事も終えた俺たち。
「さて、今後はどこを目指しゃ良いんだか……」
フィアがこの先のことについて切り出す。
「頼れるお兄様の意見に従いますわ~」
「おいおい……茶化すなよ……まずは……アイラに伝えようか」
戦線離脱したアイラ。
ゼイル旅団、古参メンバーでは唯一の生き残り。
「アイラ?」
「ああ……フィアが入ってくる前のメンバーだよ。今は刃物を作る職人になってるはずだ」
「ふーん……アイラ……ねぇ……」
「アイラに魔王ロキを倒したことは伝えるべきですわ。彼にとっても悲願のハズですし」
まずは俺の意見どおり、アイラの家に行くことになった。
彼の家はすぐわかる。
ゾロゾロと目立つ四人と俺で、まっすぐ目指す。
彼とは一か月ぶりくらいか。
これまでの付き合いの長さを優先して、パトリシアが玄関の前に立ち、ノックする。
「お? ……パトリシア……どうしたんだ?」
「あの……私たち……ついに、あの魔王ロキを倒したんです……だから……」
「え!? そりゃ本当か!?」
「ええ……でも犠牲も多くて……ニーナも、ゴールも、サクも……」
「……そうか……だよなぁ……普通の人間には勝てる相手じゃない……」
「でもゴールが刺し違えたんです」
「ふん……気を使わせて悪いな。本当はそんなんじゃないんだろ? 下手な嘘をつくなって」
アイラは自嘲気味に話す。
「いえ……ゴールが魔王にかなりの傷を負わせたのは本当ですわ。ゼイル旅団……誰が欠けていても魔王は倒せませんでした。皆の勝利ですわ」
「そうか……だけどよ……俺、まだ魔法で土から刃物……作ってるぜ?」
彼も真相を知っている。魔法は魔王から魔力をもらって、不思議な力を使えるってことを。
「魔王ロキは倒したけど……まだ何かいる」
俺はわからないなりに答える。
「そうか……じゃあ、どうすんだ?」
「実は俺たちもよくわからなくて……別の魔王を探して……例えば倒すのか、とか。でもアイラが魔法使えなくなったら困るだろ?」
「俺のことは気にすんな。ニーナも言ってただろ? 『誰かが不幸になる力は要らない』って。負の連鎖を断ち切るのが俺たちゼイル旅団の使命さ……と言っても、俺はもう辞めたんだけどさ」
新しい魔王も倒せ。それがアイラの望みか。
そんな彼だが、視線を奥にやると急に驚き始める。
「!! …………フィ……フィア……」
「よ……よぉ」
気まずそうに返事をする。
この二人、知り合いなのか?




