第43話:決戦の時
俺の『氣』の塊が、レッドデーモンたちの群れを飲み込み、まとめて粉砕した。
自分でも驚くほどの威力。
俺の作った道を、ニーナとゴールが走っていく。
サクは!?
二人は確認できたが、サクが見えない。そして右側からヌッと出てきたのは、レッドデーモン!
くそ!
二撃目の援護が……!
ヤツと目が合った俺は、反射的に後ろに跳ぶっ!
俺のいた場所は、レッドデーモンの爪が空を切っていた。
危ねぇ!
俺はフロント部屋のドアを開け、中に入るなり扉を閉める。視界から逃れれば、ヤツらはあきらめるハズ……
とは言え、直前まで丸見えだったのだから、追って来るかもしれない……ヤツの知能がどこまでのものか?
俺はさらに部屋の机やら板やらで身を隠す。これならヤツが突入してきても見失う……はず……命懸けのかくれんぼだ。
ドカーン!
ガラガラッ!!
だが突然、ライジングサン号の天井および壁が崩れる。素材のレンガが俺に襲いかかってくる。
直前に立てた板がいくつか盾となり、レンガの頭への直撃だけは防ぐが、足を挟まれる。
と、同時に壁やら天井やらが無くなったことで、視界がひらける。
俺の目に映ったのは……
魔王ロキに対して、決死の突撃をかけた二人。
うち、左側のニーナが魔王の火の玉をくらい、全身を炎に焼かれていた。今まで見た火の玉の中でも最も凄まじい炎。
一方、右側のフリーとなったゴールは、鉄のナイフを魔王に突き立てる!
うめき声をあげるロキ。や…………やったのか!?
だが……
右側からレッドデーモンが襲い掛かり……ゴールは八つ裂きにされる。一瞬だった……生身の普通の人間では、ひとたまりもない。
チクショウ。
動けない俺は、視線を左側へ……するとパトリシアが寝転び、脚を縮ませている!?
「行くぜ、パトリシアッ!」
フィアがそこへ向かってバク転……フィアの縮めた両脚とパトリシアの両脚の足の裏がくっつき……
「いっけぇぇぇ!」
パトリシアが思い切り足を伸ばし、フィアも同時に跳躍!
合体技!?
パトリシアの脚力にフィアの跳躍力、この二つの掛け合わせ。フィアの体重も相まって、凄まじい体当たりの勢いで左側にいたレッドデーモンをなぎ倒していく……道が……道ができた!
「アキラ君!?」
ちょっと遠くで、ミリアの声。
ライジングサン号の崩落に気が付いた彼女。
フィアが作った道を駆け抜けていく、白いオーラをまとったミリアが見える。
「こんのぉおお!」
「お前たちは、世界を背負う覚悟はあるのか!? 」
魔王ロキはゴールから受けた傷を癒し、ニーナを焼き殺した火の玉魔法を放つ!
だが、光に包まれたミリアは、炎に包まれながらも意に介さず。
ドゴォ!!!
ミリア渾身の一撃!
ヤツの上半身が跡形もなく吹っ飛んだ。
残された腰から下が、数秒後に倒れる。魔王だというのに、あまりにも容易く粉々に……元人間の耐久力では無理もないか。
終わった?
いや。
戦闘の冒頭で目の合ったレッドデーモンは、橙、黄、緑、そして青に変化し、俺に向かってくる!
創造主が死んだんだから、勘弁してくれ!!
ヤツの爪が襲い掛かってくる!
足が挟まって動けない俺。死を覚悟して目を瞑る。
グシャ!
…………?
変な音が聞こえ……恐る恐る目を開けるとブルーデーモンの首なし胴体……そして魔導石に変化していく。
「アキラさん!」
パトリシアだ。
音速並の移動で、俺を救ってくれる。瞬間移動からの飛び蹴り。
た……助かった……
そして……彼女は俺を放置して、ライジングサン号の横へすぐに移動。
「サクッ! サクーーッ!!」
俺の近くにサクがいるみたいだ。
そっちを見たいが、瓦礫に固定されて振り向けない。
「う…………ま……魔王はやったんか? …………もう何も見えへん……」
サクの声だけが聞こえる。
「ええ……ゴールが……倒したわ……」
いや……実際はミリアが……いやいや……何も言うまい。
「そうか……俺はもうあかん……パ……パトリシア……なんや……色々すまんかったな…………」
サクの声は細くなっていく。
「皆……パトリシアが…………妬ましかったんや……立派なゼイル旅団の……団員やったのに…………すまん……そしておおきに……」
「サク! しっかりして!」
「……ようやっと……終わったんやな……俺も……お嬢はんに……」
「サク……」
彼の声は聞こえなくなった。
その後、俺はパトリシアによって瓦礫から救出された。
巨大なハコだったライジングサン号は……屋根なしの、ただの巨大なリアカーのようになる。
俺は脚が折れたようだ。激痛に顔が歪む。
ニーナが……ニーナが居てくれたらな。
戦闘は終息を迎えつつあった。
まずはミリアがブルーデーモンと化したヤツを次々に粉砕していく。
文字どおり、ヤツらとは力の桁が違った。
ちなみにヒートアップの効果は凄まじく、魔王の放った火の玉魔法でさえもノーダメージだった。
パトリシアは俺を救出した後、飛んでいくように爆発的なスピードでマドリーナの元へと向かう。
マドリーナは立ってるだけで精一杯で、ひたすらガードを固めていた。そこへパトリシアが回し蹴り。
特訓の成果なのか、一蹴りで3,4体をバラバラにしていた。
本能で動くブルーデーモンは、絶対に勝てる見込みのない筋肉娘二人を標的にして、返り討ちにあっていく。
程なくして、ブルーデーモンは全滅し、血だらけのフィアに対して、ミリアが肩を貸してこちらにくる。さらに、こちらも血だらけ状態のマドリーナを連れて、パトリシアが戻る。
横になった俺。
とりあえず布で応急処置を施したフィアとマドリーナも横になっている。
フィアは捨て身で特攻した後、レッドデーモンに一撃をくらい大怪我。
マドリーナとは違い、普通の身体だ。ダウン中にブルーデーモンから引っ掻かれたら、命を落としかねない状況だったが、それをミリアが救出した形だ。
マドリーナのほうは最初から囮となり、右翼側でレッドデーモンの集団から集中攻撃を受けて、無数の裂傷を負っている。
ゴールが文字どおり八つ裂きにあい、あのフィアも大怪我した攻撃力だ。
特訓してなければ、マドリーナと言えども危なかった。
「終わった……のかな?」
ミリアが呟く。
「終わってないかも……知れませんわね……」
横になっているマドリーナが答える。
「ブルーデーモンになるなんて…………どういうことなんですか?」
「……わかるワケねぇよ……ただわかることは……ココから遠くに魔王がいるってことさ……イテテ……」
パトリシアとフィア。
「とりあえず……魔導石をかき集めて、シャインビリッジに行きましょ。アキラ君とマドリーナ……早くけが人を治さなきゃ……」
「あたいもケガしてんだが……」
「お金が余ったら、アンタも治してあげるわよ」
ツンツンしているが、フィアを救ったのがミリアというのも事実だ。
ミリアとパトリシアは、ニーナ、ゴール、サクの遺体も回収して、もはや部屋とは呼べなくなった旧リア部屋へ安置する。
壁と天井が崩壊し、身軽になったライジングサン号。
パトリシアは全力で、シャインビリッジへ向かう。
軽くなった分、過去最速のスピードが出ている。
衝撃が俺の足に響くが、贅沢は言ってられない。脂汗を流しながら、我慢の時を過ごす。
「見えたわ! もう少しよっ!」
時間の流れが遅く感じていたが、ミリアの声で救われる。
村の近くに停車させると、ミリアはマドリーナの上に俺を乗せ、二人いっぺんに抱えて村へと急ぐ。
パトリシアもフィアを抱えて村へ。
ここからはパトリシアの剛脚。
即、魔導石を換金し、治療のできる魔導士を半分拉致状態で運んでくる。
パトリシアの巨体にビビりまくっていた魔導士だが、横になっているけが人を見ると落ち着く。程なくして、俺、マドリーナ、フィアは回復魔法を受ける。
「ハハハ……『魔法』……か。便利な力だ……」
俺は静かに笑いながら、そう呟いた。
日本であんなケガしたら、全治一年はかかったかもしれない。
「治ったのは良かったですわ。ですが……魔法が未だに使えるということは……」
そう。
魔王は、まだいる。それがロキかどうかはわからないが。
動けるようになった俺たち五人は、ライジングサン号にいったん戻り、エイトの墓の近くに、ニーナ、ゴール、サクの三人を埋葬する。
「どうして……作戦を無視しちゃったのかな……」
ミリアが呟く。彼女からしたら、ニーナらには大人しく中で待機して欲しかったということだろう。
「ですが……結果としては、そのおかげで魔王を倒せましたわ……。ニーナが受けた炎……アレは本来、ワタクシたちの誰かが受けたかもしれないのだから……」
「ああ……それに魔王へゴールが喰らわせた傷……アレのおかげで魔王は回復を優先して、攻撃魔法をあたいたちに連発できなかった……」
マドリーナとフィアはそう評価した。
サクにしても……彼はすぐ俺の視界から消えた。
多分、ライジングサン号の壁を挟んで真横にいた。
サクを攻撃して、その攻撃が壁に当たり、崩落を招く。結果として、下敷きになった俺を見て、ミリアがブチ切れてヒートアップ。
歴史に『もし』はないけど、もしヒートアップしていなかったら……ヤツを倒せてなかったかもしれない。
「俺たち『ゼイル旅団の勝利』……だよな?」
それが俺の結論。




