第04話:意外な弱点
朝食を済ませ、本拠地のねぐらから街道へ歩を進める。
山を下れば町や村を繋ぐ街道があり、物品の流通が行われているのだが、人里を離れればカラーデーモンとやらはウヨウヨいるとのこと。実際、俺が遭遇したパープルデーモンも、センターシティからちょっと離れた場所だった。
街道近辺まで来て、うろつくこと30分。
「あ……あれだ。ブルーデーモンだね」
ミリアが指をさす。
30分前はなかなか会えず、俺はさっさと出会ってくれないかと思うほどだったが、いざ出遭うと緊張が走る。
ふと隣を見上げるとミリアは不敵に笑ってるようにすら見える。
「こんなパジャマだと気分がアガらないけど……戦わないとちょっと落ち着かないのよねー」
彼女からは緊張感が感じられず、戦い慣れしているとしか言えない。両手を合わせて指の関節をポキポキ鳴らしている。
寝るときにはジャレつくし、食べ物は美味しそうに食べるし、出会った時は真剣な表情だった。いろいろこれまでも見せてくれたけど、凛々しいミリアも俺には魅力的に見えてきた。
彼女のおかげで少し落ち着いた俺は相手の数を数える。
2、4、6……10……20……30体くらい、いるぞ!?
ノソノソと歩いていた団体さんは俺たちを捕捉すると、早歩きくらいのスピードで近づいてくる。
青い。
もの凄く青い。
こんな青い生き物、日本じゃ沖縄にいる魚くらいだ。青以外の外見情報だと、身長は俺よりだいぶ高い。
190cmは超えている。
パープルデーモンは俺より背が低い165cmくらいだったから、体格的にそれより強いってことか。顔は相変わらず、眉間にシワを寄せ、吊り上がった目でおっかない。
ミリアは何の躊躇もなく突っ込んでいく。
拳士……戦闘訓練を受けてるってのは根本的にマインドが違うんだな。対してマドリーナは俺のすぐ傍にいる。彼女の手が俺の背中をポンポンと触れ、俺を落ち着かせようとしてくれる。
戦闘が始まる。
ミリアはどう見ても270cmくらいある巨体。身長差があるので、打ち下ろしのパンチやローキックっぽいモーションでキックを繰り出す。
彼女の一挙手一投足で空気が弾け飛ぶように感じる。
ブルーデーモンも何体か回避してるものの、運悪くキックが当たった個体は真っ二つどころか爆散……。
怖っ!
ミリアは囲まれるが引っ掻き攻撃を避け、戦い続ける。
そんな中、余った連中はこっちに来る!
なんか20体くらい来てないか!?
マドリーナも迎撃に入る……んだけど、俺ごと囲まれてるよ!
彼女のパンチも相当強く、当たったブルーデーモンの頭は爆弾でも仕込まれたかのようにはじけ飛ぶ。
「う……うわぁぁ!?」
囲まれているので、もちろん俺にもブルーデーモンの引っ掻き攻撃が。
や……殺られる!?
…………
……?
思わず目を瞑ってしまったが、目を開くと首なしの青いのが。
「全く……シモベのくせにご主人様の手を煩わせないでくださる?」
その辛辣なセリフとは裏腹にマドリーナは微笑む。
不思議な感じだ。
俺はヤツらにやられそうになる。
なるんだが、そのたびワープしたかのように、マドリーナがその攻撃をブロック。さらには返り討ちにしてくれている。
これって、ミリアのヒートアップやら植物の声やらの不思議な力と同じ感じか?
すなわち俺が日本でゲームをやってた時、前衛のタンク系キャラが持ってる「かばう」みたいな能力? 体の硬さもあいまって、完全に彼女は守備型のタンクだな。
非情なるお嬢様は俺を囮にするかのごとく、ブルーデーモンを向かわせ、あわやというところでは必ずガード、そして反撃。スリルという言葉じゃ収まらない、俺にとっては心臓に悪すぎる戦い方。
そうこうしてるうちにミリアを取り囲んでいたブルーデーモンはあっさり全員粉砕され、ミリアがこちらに加勢。
この戦局になって、ようやっと俺も落ち着く。
ブルーデーモンとやらは喋らず、そして感情もないのか味方が凄惨な死に方をしてるにもかかわらず向かってくる。知能というより本能で動いているのか?
「終わりですわ!」
ボンッ!
マドリーナの剛脚から繰り出されるキックを肩口に浴び、最後のブルーデーモンも粉々になった。
「うん、大漁大漁!」
ブルーデーモンが変化した合計30個の魔導石を満足そうに眺めるミリア。
日本で言うところの漁師か?
マグロやらサバやら……釣ったり網で獲ったりするわけだが、フラットに見れば殺している。それを売って漁師は生活してるのだから、ミリアたちにとっては同じ感覚なんだろう。
我ながら不思議な解釈だ。ちょっと真剣にミリアたちを好きになりかけてるんだと思う。だからこそ、「漁師と同じ」とかいうノーマルな当てはめ方をしてるんだ。
嫌いなヤツが同じ行動をしてたら、きっと「サイコパスな殺人鬼と同じ」と認識しそうだから……
さて、結構な量だが袋は無い。
どうやって持って帰るんだ?
そう思っていると水色パジャマの上着をヒョイっと前に出し、マドリーナは魔導石をそこに乗せる。
たくし上げてるので、ミリアのもの凄く硬そうなシックスパックの腹筋が露わになる。彼女の褐色肌も相まって板チョコみたいだ。この世界の住人は全員ボディビルダーみたいな身体なのか……?
まぁそうでもなければ、こんな命のやり取りが当たり前の世界では生き残れないってことか。
不思議と納得した。
ねぐらに戻ると、光る魔導石を簡易ベッドの奥にしまう。
「まだまだこれでは足りないですわね……」
価値がイマイチわからないので、30個がどれほどのモンかは想像できないが、一財産ってワケではないようだ。
午前中の「狩り」が終わり、俺たちは昼食になる。
なんだが、全然食欲は湧かない。なんせ死にかけたんだから……
いくら、マドリーナが守ってくれると理屈ではわかっていても、目の前に迫ったブルーデーモンの引っ掻き攻撃が目に焼き付いている。思い出しただけでも震えてくる。
「はぁ……一服して良いか?」
俺は何となしにジャンパーのポケットからタバコを取り出す。少しでも気持ちを落ち着かせたかった。
これで残り18本かぁ……大事にしなきゃな。
コンビニで買うこともできやしない。
「なにそれ?」
一方ミリアは初めて見る小っちゃい箱から出てきた未知の物体に興味津々だ。
そうか。
日本とは違う。
俺の当たり前は、ここスタンデルでは非常識なのかもしれない。
ともかく一服の許可をもらう必要がないことに気付いた俺は、ライターで火をつける。だって、見たことがないんだったら許可なんていらないし。
フゥーーーっと煙を吐き出す俺。
「なっ!! なんですの、その煙は!!!」
めちゃくちゃびっくりするマドリーナ。
「ゲホゲホッ! く……苦しい……」
なんだ?
そんなリアクションを取られるとは思わなかった。今さらだけど、こっちの世界は大気汚染とは無縁で空気がうまい。ソレに慣れている人間に対して煙は凶器なのかも。
「ご……ごめんごめん」
慌てて離れて続きを吸う俺。
「も……猛毒!? ……アナタいったい何者ですの!?」
「猛毒って大げさな……まぁ毒っちゃ毒か……」
しげしげとパッケージの「タバコはあなたの健康を損なう可能性があります」の文字を見る俺。
くっそ強い彼女たちにも弱点あるんだな。




