↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
38/49

第38話:公人

巨人娘たちは奮闘する。

次の日も彼女たちは特訓を続けた。


そして9月19日。

最終日だ。

俺たちも二日目から見学を続けている。

変化といえば、パトリシアの攻撃だ。何と言うか……空振りが増えた。

ただし、その空振りは届かなかった空振りではなく、イエローデーモンの頭上を越えるハイキックが増えた。

これは成長なのか、劣化なのか……俺たちには判断がつかない。


あとはマドリーナの服。

毎回ボロボロになり、フィアが縫い合わせているが……けっこう限界に達している。

今日なんて出発時点で肩やお腹が露出していた。そして午前中が終わり、戻ってくる。


「ちょっと……あまり見ないでくださる?」

いよいよ服のあちこちがなくなり、両腕と右足は完全露出。

胸とお尻もキワドイところまで見えてしまっている。


男性陣の視線が必然的に注がれる。回復魔法を受けた後、顔を赤くしながら手で隠し、フロント部屋に引っ込む。


また夜中にフィアが出かけて特訓していることは三日目には周知のこととなった。

コレはコレでメンバーは驚いていたが。


とにかく男性陣が全く気が付かないほどの気配の消し方。

障害物がそれなりにある部屋で、何も躓かなかったあたり、夜目もかなり利くのではと思う。


そういやフィアが所属していた特殊部隊に襲われたあの夜。

俺の名前を言いながら、ミリアに殴りかかっていた。俺の姿が完全に見えていた証拠だ。


暗闇で行動するのはお手の物。暗殺者だと俺に告げていたフィア。やっぱり本当だったんだな。


さて、今日で終わりか。

フィアが明け方帰って来たところで、マドリーナが約束した五日が終了。


「何がどう変わったんだろうな……」

夜、寝る前にゴールが疑問をぶつける。


「それなりに変わってるとええがなぁ」

サクも同意する。変わってくれなきゃ俺たちの暇な五日はなんだったんだって話だから、俺も同意だ。


朝食。

まずは切り出したのはニーナだ。

「五日の特訓が終わりましたが……成果発表のその前に……」

その前に?


「マドリーナさん、服を買ってきてはいかがですか?」

「え? 良いのですか?」

「良いも何もあの格好はあまりよろしくありませんので。魔導石は特訓でかなり集まりましたし、換金すればそれなりに服は買えるでしょう」


メルビンが健在だった頃は服の心配なぞなかった。材料の土さえあれば彼がそこから作ってくれた。


今は買わなければいけない。裏方のメルビンの貢献をしみじみと感じる。


「それはありがたいですわ。ただ……五日も時間を頂いたのに、さらに買い物に行く時間も頂くのは申し訳ありませんわ」

「ライジングサン号で行く必要はありません。単独で行って頂いて……その間、我々は戦います」


「確かに。ワタクシが走っていけば、村まで一日くらいでしょうか」

サラッと言うマドリーナ。


「一日!? そんな距離じゃねぇぞ!?」

ゴールが驚く。

だが……マドリーナの無尽蔵の体力を俺は知っている。


「ゴール……大丈夫だ。往復二日でここまで戻ってこれるよ。俺、センターシティ付近でおぶってもらったことがあってさ。一日であのヒルビリッジ付近まで到達してた」

「かぁ……デカくて筋肉あるヤツは、持久力には難があるのが普通なんだがなぁ……」


身体能力がバケモノ級。優れた人間というものは、いるもんだ。


「ただ……ワタクシはラウル家から追われている身。拳士相手に不覚を取る気はサラサラありませんが、魔導士相手だと分が悪いですわ」

不安を口にする。


「ですので……アキラ、護衛について来てくださる?」

突然のご指名。

正直、俺は関係ないと思って、話を流していた。


「俺が護衛? ……でも俺はさすがにそんなに走れないよ……」

「心配無用です。ワタクシがおぶって行きますから」

これまたサラッと言うマドリーナ。


「え? ……なんて?」

「アナタをおぶれば背後から麻痺光線が来ても安心ですし、適任ですわ。アキラも朝食は多めにとっておきなさい」

俺は慌ててメシをかっこんだ。


※※※


「では、行ってまいりますわ。ワタクシが不在の間、無理しないようにしてくださいませ」

スーツはボロボロなので、ピンクのパジャマスタイル。


俺をおぶって、マドリーナは出発する。ある意味、原点回帰というヤツか。

「飛ばしますわよ!」

速い。


日本で見たマラソン中継。

あんな感じだ。しかも一歩がデカいので尚更速い。


俺は片手は魔導石入りの袋を持ち、もう片方の手でマドリーナの首に抱きついているが……

「あんまり飛ばさないでくれよ~! 振り落とされる」

「フフフ……シモベのくせにワタクシに命令しないでくださる?」


背中越しにでもわかる悪戯っぽい笑い。

気のせいかもしれないけど……セリフそのものはいつも通りだが、イントネーションは柔らかく感じる。


かつておぶられた時はラウル家に襲われて家族を失った直後だから、その時とは伝わって来る感情は大違いだ。

ん?

っていうか……前方にイエローデーモン!?

向こうを向いてノソノソと歩いて人里を目指すヤツら。ココで戦闘か?


……などと思っていたら、そのまま抜き去る。振り返る俺。


ヤツらもこっちを捕捉して追いかけ始めるが……

「ホーッホッホッホ! ワタクシに追いつこうなんて100年早いですわ~」

高笑いしながら余裕で引き離す。


たぶん100年後もブッちぎるんじゃないか。

あっという間に西の山道の出口地点。


そこから左の街道に進路をとる。シャインビリッジは右なのだが。

「シャインビリッジじゃないの?」

「シップビリッジとシャインビリッジ……どちらもさほど距離は変わりませんわ。わざわざ敵襲に遭った場所は選びませんことよ」

まぁそうか。


昼を過ぎ、夏の暑さがやわらぐ夕方に突入する。

「ねぇアキラ……ワタクシの悩みを聞いてくださる?」

全く衰えないスピードで走りながら、マドリーナが聞いてくる。

こうして話しかけながらも……グリーンデーモンを抜いていく。


「悩み?」

「ワタクシ……ラウル家に復讐を誓ったのですが……これまでの経過を見るに……黒幕は国王だと思い始めましたの……」


魔王打倒を標榜していたマドリーナのフェルナンド家。

魔王から寿命をもらっている国王からすれば、邪魔な存在。


積極的にフェルナンド家を消そうとしたのはラウル家か、それとも国王か。

正直、俺はわからないけど、王も王で結局止めなかったんだろうな……共犯だ。


「ですが……これまで慕い続け……そして仕えてきた王を……ワタクシはなかなか憎めないのですわ……」

「そういうもんか……」

「ええ……例えば急にアキラが魔王になっても、倒せないのと同じですわ……」

「俺が魔王?」


「例えがわからない人ね……親しい間柄の人が急に倒すべき相手になったら困惑する……という話ですわ」

まぁそうだよな。

ん? 「親しい間柄」? ……うん……まぁ良いか。


「相手がブレ始めて……悩みますわ。……魔王討伐はフェルナンド家の悲願ですから……それはそれで達成したいのですが……」

マドリーナが是が非でも倒したい相手。

ラウル家か、王か、魔王か……

綺麗に分割されてしまったということか。


「魔王を倒したらさ……国王は寿命を迎えるし……魔王を倒した英雄になったらマドリーナが女王様になっちゃったりしてさ……ラウル家追放! とか……」

政治の事なんて全然疎い俺は適当に言ってしまった。


「フフフ……まぁそうなりますわね……ただ今はまだ国を背負う覚悟がワタクシに足りませんわ。考える時間は必要ですわね」

魔王を倒した後ってことは、魔法がなくなった世界を背負うということ。

そんな詰んだ世界は誰がやっても厳しいか。


「ま、それは全てがうまくいった後の話ですわ。今は魔王に集中、それしかなさそうね。まったく、シモベのくせにワタクシに意見とは生意気ですわ」

「マドリーナが聞いたんだろ?」

理不尽すぎる。からかってるのは俺にも伝わってるけど。


「アナタは……アナタは何故戦うのです? あんなに臆病だったのに……」

ゼイル旅団に助けられた時、俺はヒルビリッジに住む気だった。

だけど、ゼイルさんに乞われて入団した。

一度、壊滅した時……あの時が辞め時だったのかな?


この前も考えた。

なぜ戦うのかと。

あの時は世界を変えるなんて生涯でなかっただろうチャンスを無駄にしたくない気持ちだと結論づけた。

でも、それは違うことに気が付いた。


ゼイル旅団の全員が犠牲になって、俺だけ生き残って世界を変えること。

それと、世界を変えることを完全にあきらめるけど、みんなとこのまま旅をすること。

この二つのうち、どっちかを取らなきゃいけなくなった場合、俺の答えは迷いなく導ける。


結局は……

「皆と別れたくないから……かな」

「だったら……アナタを将来挑む戦場に出すのは考え物ですわね……」


ポツリと呟く。

なんだかんだでマドリーナも過保護……なのかな?

そんな話をしていると、シップビリッジが見えてくる。


「さ……ここからは歩いて行きますか。……と、その前に……」

クルッと反転するマドリーナ。

俺をおんぶ状態から下に降ろす。


「戦えますこと?」

いつもの良く通る綺麗な声で聞いてくる。

全然息切れしてないな。

「ああ」


村に着く直前、実はグリーンデーモン3体を追い抜いていた。

当然ヤツらは俺たちを捕捉し、近づいてくる。


俺は火龍波の構えをとり、先制攻撃する。

「ハッ!!」

戦闘経験を積んだことで、俺の命中精度は格段にあがっている。

ヘッドショット。


初めてパープルデーモンに襲われたあの時、彼女に助けてもらった感謝の念をこめ、打ち抜いた火龍波はヤツの頭をふっ飛ばしていた。


一方マドリーナは残り二体に向かって行き、パンチ二発で瞬殺。

いずれもガードの上からお構いなく……だ。


ミリアとかフィアとかに比べれば相対的にマドリーナは細いんだけど、絶対的筋量は人智を超えている。

普通はガードしてたら倒せないモンなんだけどな……

「アキラ……アナタも随分、努力したのね……ワタクシの警備に相応しくなってきましたわ……」

直前にヤツらを虐殺したんだけど、同一人物とは到底思えない柔らかい表情でニコッと微笑む。


いや……全然マドリーナのほうが強いんだが。

お姫様を守るナイトとしては実力差がありすぎる。

「大丈夫か~!」

そこへ村の警備兵がやってくる。


グリーンデーモンを迎え撃つハズだった……のだが瞬殺劇でもう戦いは終わっている。

「な……なんと、もう終わっているとは……それに……アナタは……」

警備兵は270cmクラスの女巨人を見上げて驚く。


「フェルナンド家の……マドリーナお嬢様では!?」

「本当だっ!」

「まさか生きておられたとは……」

口々に話す警備兵たち。


センターシティを追われた後のマドリーナといえば、山中に潜伏、そしてゼイル旅団に入った後はライジングサン号の中で生活していた。


一度も人里には入っておらず、さらにフィア含む王国の特殊部隊との戦闘時にも、ライジングサン号の中で寝ていた。ラウル家強襲からまともに人前に現れたのは、そういえば初めて……か。


「てっきりフェルナンド家の皆様は、全員お亡くなりになったのかと……大変うれしく思います」

そしてこの様子だと、かなり慕われている感じがする。


「ええ……なんとか生きていますわ。ちょうど良かった……魔導石の換金と……服を買いたいと思ってますの。案内してくださる?」

心なしか俺と話していた時とは違い、威厳があるというか……声が凛としているというか……そんな印象を受ける。

傲慢なほど美しいつり目で警備兵を見下ろして、口調は柔らかいけど逆らうことが許されない絶対的な支配者のようだった。

「もちろん喜んで。ささ……どうぞこちらへ……」


シップビリッジ内に通される俺たち二人。

「なんか……即刻身元がバレちゃったけど……大丈夫なの?」

「この目立つ身体では仕方ありませんわ。こうなってしまったらラウル家とか闇ギルドの面々からの攻撃を受けないことを祈るだけですわ……」


「マドリーナは賞金首とかになってないの? 一般の人からも狙われない?」

「もちろんなっているでしょうけど……比較的シップビリッジはフェルナンド家の支持者が多いから、その危険は少ないですわ」


「それはなんで?」

「シップビリッジは、シャインビリッジとともにカラーデーモンの脅威にさらされている村……打倒魔王を掲げるフェルナンド家に共鳴する方が多いのです」


なるほど。

日本で言ったら地方に人気がある政党……とかそんな感じ?


中央政治のゴタゴタも関係ないってか。

彼女の説明を裏付けるかのように、村に入ると村人は一気に沸き立つ。村人たちは皆、握手を求めてマドリーナはそれに一人ずつ丁寧に笑顔で応える。凄い有名人なんだな……。昔、フィアが彼女に興味を持っていたのもうなずける。


物理的には彼女はすぐ近くにいるんだけど、距離を感じる……今、隣にいるのは「公人マドリーナ」だ。

一通りの対応を済ませ、商人相手に魔導石の換金までは完了した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。