第37話:ケジメ
想定外に大怪我で戻ってきたマドリーナ。
「え!? どうしたんです!? 早く治療しないと……」
ニーナが慌てて近づき、そして回復魔法を使う。
「ありがとう。助かりますわ……」
ニコっと笑い、礼を言う。
続けざまに俺のほうをまっすぐ見てくる。不敵な笑み……なんだろう?
単純にやられたわけじゃなくて、何かの特訓なんだとは思いたいけど。
「お? ……終わったんか……あー良く寝た。そしたら食料集め、行くか?」
彼女たちの帰還を知ると、フロント側からフィアも起きてくる。
「……」
もの凄く何か言いたげなミリアだが、不思議と黙っている。
彼女たちの特訓は午前中限定とした。
一日中狩り続ければ、それを察知した魔王がやってくる可能性があるからだ。
適度にカラーデーモンを下流に放流……と言ったところか。
傷を癒したマドリーナはフロント側に行き、ボロボロになった服を着替えて、懐かしいピンクパジャマに着替える。
そして四人で食料調達に向かった。
戻ってくれば、昨日同様に豊富な食材をゲット。
豪華な食事をとる。
うーん……俺たちは今日一日なにやってたんだろう……
朝起きて、部屋にこもり、夜になれば勝手に料理も出てくる。
確かに楽だ。そうなんだが、刺激があまりにもない。
日本にいた頃、システムエンジニアとして多忙を極めていた俺は、自堕落な生活に憧れていたがコレはコレでなかなかキツイもんだな。
特訓二日目。
本当に昨日は何もない……悪い言い方をすると無駄な一日だった。
「ちょっと……外出てみぃひんか?」
サクが提案する。初日のアレと同じっていうのは確かに苦痛過ぎる。
「せめて様子でも見るか……」
ゴールも同意する。
ニーナあたりは止めるかと思ったが、彼女もやはり暇を持て余していたようで、同意する。
俺たち四人の結論は、ライジングサン号の屋根から様子を見る……だった。
リアのドアをゆっくり開け、外の様子を慎重にうかがう。たったコレだけのことでも昨日とは刺激が大違いだ。
シャインビリッジで調達したロープをブン投げ、両側に垂らす。片側を二人で支えつつ、一人はロープをよじ登り屋根へ。
そこから残りのメンバーも手を借りながら屋根に上る。
正直コレだけでも楽しい。
さて、ちょっと遠くに目をこらすとミリアたちの戦闘模様が見える。
3人対50人くらいか。
今日もフィアはいない。っていうかフロント部屋で寝ている。
それはさておき観戦だ。
「あいつ……何やってんだ?」
ゴールが呟く。
真っ先に目を引いたのはマドリーナ。
正確にはイエローデーモンの塊なのだが、その中心にいるのはマドリーナだろう。
ミリアとパトリシアは逃げながら1対1の状況を作り上げ、そして狙いすました一撃を放っている。
「攻撃……せぇへんな……」
サクもマドリーナのほうを見て、不思議そうに言う。
あのカトランが即死した攻撃……それをしこたま喰らっているように見える。
あれじゃあ、昨日血だるま状態で帰ってくるのも当たり前だ。ひたすら粘るマドリーナ。
それを尻目に一体ずつ丁寧に対処する二人。
遠くから見ていると、パンチャーのミリアは正直よくわからない。
だが、パトリシアは確実にハイキック一本を磨いているのがわかった。ローキックやミドルキックも出しているが、明らかにそれで倒す気がない見せ技。決まり手は全てハイキックだ。
イエローデーモンの側頭部をとらえ、遠くからだとボールが飛んでるような景色が見える。
相手の数が10体程度になったところで、俺たちはライジングサン号の部屋の中に帰還する。
ニーナはリアのドアを半開きにして、マドリーナを待つ。
絶対にボロボロになって帰ってくる。そんな確信がある。
結果は予想どおり。
今回は準備していたこともあり、ニーナは駆け寄ってマドリーナに回復魔法をかける。服はボロボロだ。
ちなみに朝出て行った時の格好はピンクパジャマではなく、メルビンの作ったスーツ。
初日でボロボロになったが、昨日の夕食を終えたフィアが綺麗に縫い合わせていた。
午後からは恒例となった、女巨人四人で食料調達。
夕食……そして就寝だ。
この日の夜、俺はリア部屋で真っ暗な中、一人起きていた。
フロント部屋との扉がある方向に注意しつつ……だ。
しばらく待っていると僅かに音がする。
そしてリアの外の扉が開く。俺は火龍波を使って明かりを作り、開いた扉を出る。
「なんだ、メガナ……起きてたのか?」
フィアだ。
俺の火龍波の光が、夜の闇に浮かぶ彼女の金髪と褐色の肌を鮮やかに照らし出している。
「どこに行くの?」
「……あたいはあたいで特訓さ。オレンジデーモンを殺りにね……」
「オレンジデーモン!?」
「ああ……ここからちょっと奥に行くとさ、イエローデーモンになる前のオレンジデーモンが寝てるんだ」
カラーデーモンは夜、活動を停止している。
随分前、ヤツらが立ったまま寝るって話をゼイルさんやアイラから聞いた。
「なんでまた……」
「イエローデーモンはちょっと脆すぎるんだよなー」
イエローデーモンが脆すぎる!?
「たはは……」
どこまで強いんだ、このコは。
「あたいが上に乗っかっても、ちょっと耐えてくんねぇとなぁ……」
彼女が上に乗っかるとイエローデーモンの首はへし折れて、即、魔導石になる。これがご不満な様子だ。
「まぁ……技が完成したら披露してやるからさ……楽しみにしててよ」
「わかったよ……とりあえず……昨日も夜に出かけてたんだね」
「ん? ……そうさ。だから午前中は眠くってさ……アハハ……」
「良かった……サボってるわけじゃなかったんだ」
「そんなことするかっての。あたいもね……絶対に魔王を倒してやろうと思ってるクチだからさ」
これはちょっと意外だった。
ミリアに敗れ、旅団にスカウトされて、その流れで魔王を倒すという風にも見えた。
本人にここまでモチベーションがあるとは。
「そ……そうなの?」
「シャインビリッジの悲劇……話したよな。両親、弟……そして、あの人を殺された……」
あの人っていうのは、フィアの店員時代の常連さん……かな。
「正直、魔王を倒したって皆は生き返らねぇ……それはわかってる。でも、あの人と一区切り……気持ちが断ち切れるっていうか……未来を見れるようになる……そんな気がすんだ」
「あの人って常連さんのこと……だよね?」
「お……そうさ。よく憶えてたな……どーでもいいけどさ……」
「なに?」
「その…………似てんだ……オメーが……」
「え?」
「なんでもねー! ……じゃ、あたい行くから!」
そうちょっと慌てた様子で言い残して、フィアは暗闇の中に消えていった。
常連さんって……フィアの想い人……だよな?
俺が似てる?
俺はフィアとの出会いを思い出した。
ミリアが好きだとフィアに告げたあの時、明らかに何か違う表情を見せた。
もし、ミリアを好きだと言わなかったら……もしかしてフィアは俺に告白してきたんだろうか……?




