第36話:模索
「一応、不合格の理由を聞こうか」
フィアが普通にミリアへ聞く。
なんか……憤りのような感情は微塵もなく、さも予想通りといった様子だが。
「確かにさ、アンタの体重でドーンと乗っかったら、グリーンデーモンくらいは潰れるわ。でもね、アタシたちの目標は魔王を守るレッドデーモンよ。あいつらにはそんなに効かない。決定力が足りないわ」
「ほーう……」
「まぁ……アンタがお願いしてくるんだったら、アタシが打撃の基礎ってヤツを教えてあげても良いわよ」
ニッと笑い、胸を張るミリア。
歩み寄ってるのか、それともマウントを取りたいのか。
「で、合格の理由も聞こうか」
「アタシの話を無視するな~!」
マドリーナに向かって聞くフィアに、ミリアがツッコむが……。
「フィア……ミリアの言うとおり、ワタクシたちには殲滅力が足りないですわ。二重三重に囲まれてる魔王の壁をサッサと崩さない限り、魔王の魔法をもらって終わり……ですわ」
ミリアとマドリーナはチームの攻撃力が足りないという点では、一致しているみたいだ。
「ですが、アナタの跳躍力……これはなかなかの武器ですわ。単細胞のカラーデーモンはアナタを目で追って、顔を上げていました。ということは、そのスキを狙って、ミリアとパトリシアが急所にガツンと打撃を当てれば……一発で倒れてくれるハズですわ」
「そーかもねぇ……ま、あたいにも考えはある。ちょっと山に入ったら、特訓させてもらうよ」
フィアは答える。
「ちょっと!? アタシが教えてあげるっての!」
さっき「お願いしてくるんだったら」って言ってたのに、早くも無条件になってる。
「地上戦じゃあ、マドリーナが言った効果は出ねぇだろ? ここはちょっと、あたいの好きにやらせてもらうよ……」
「ったく……これだから、ラケニア人は……何するってのよ?」
ぶーぶー言うミリア。
「うまくいくかは、あたいもまだわかんねーから秘密さ」
ライジングサン号は進んでいく。かの「西の山道の出口」を通過して奥へ。
フィア曰く、俺たちはロノスト王国特殊部隊のターゲットにされている。
この状態で安全な場所はどこか?その答えは「西の山の奥」だ。
道中、イエローデーモンの集団にも出くわす。今度は相手が多くフル出動となり、方円の陣を引く。
マドリーナを前衛に、左翼をミリア、右翼をパトリシア。
ニーナ、俺が中央に。
ゴールとサクが後ろを守る。
新加入のフィアは遊撃を任される。
フィアはビョーンっと跳躍して、踏みつけ攻撃。
思いっきりイエローデーモンの首をへし折るが……確かにグリーンデーモンの場合は頭が潰れていたから、耐久力は段違い。
ミリアの指摘したとおり、レッドデーモン相手には大したダメージが与えられないと思われる。また、マドリーナが言ったとおり、前線の何体かのイエローデーモンはフィアの姿を追って、顔が上を向いている。
イエローデーモンは元々、ミリア、パトリシアの超獣コンビがワンパンで倒している相手なのだが、より楽に倒しているように見える。無防備に突き出した顎へ、一撃だ。
ゴールとサクも、これまでの死闘で『氣』の力が強くなっているのか、一発で倒せずとも腕やら胴体やらにそれなりのダメージを与えている。ダメージを与えたことにより向こうの攻撃力も落ち、結果として後ろの守りも昔よりは安定する。
全体的に、ゼイル旅団は強くなっている。
なのだが、一人取り残されたのは……俺だ。
基本となる『氣』の力は強くなっていて、今やソフトボールくらいの大きさにまでなった。
だけどやっぱり威力の元となっているのは『念』の方だ。
フィア加入前は彼女への感謝を込めて、火龍波をぶっ放していたのだが……いかんせん本人がいる状態だと余計なことを考えてしまう。
ミリアに遠慮してしまうというか。
そこで俺はシノとの思い出を頭に浮かべるのだが……感謝より先に悲しさが先によぎり、うまく念が乗らなかった。
それでも初めて俺の戦いぶりを見たフィアは褒めてくれる。
「こんなに戦えるようになってるなんて……メガナ……凄えな……努力したんだねぇ」
彼女といた頃は、ブルーデーモンに追い掛け回されてた時だから……フィアにあらためて言われて、自分の成長ぶりもまんざらじゃないと思った。
「アキラ君の力は、こんなもんじゃないわよ。ホントはもーっと凄いんだから。今日は調子悪いだけ。ねっ!」
フィアにはやたら張り合うミリアが、俺を持ち上げる……が、不調の原因はミリアでもあるんだよなぁ……複雑だ。
とにかく俺は弱くなってしまったものの、結果としてはフィア加入効果は大きく、イエローデーモンの団体様を危なげなく退ける。
さらに山奥へと進むライジングサン号。
ちょいちょい停止し、中から見てみるとフィアがピョンピョンと消え、そして戻り、また発進。それを繰り返す。
「何をしてるのかしら……」
ニーナが怪訝そうに言う。
「まさか……アタシたちを谷底に放り込んで……特殊部隊に寝返る気じゃ……」
「そ……そうなのか?」
ミリアに対して、ゴールも不安がる。
「フィアはそんなコじゃないよ」
俺はフォローするが……フィアは新参者。さらに敵だったということもあり、疑念は残ってしまう。
時間が経つにつれ、室内が不穏な空気に包まれていく。
それから何度目かの発進、停車後に、ようやくフィアが入ってくる。
「ココにしよう。良い場所だよ」
満足そうに、ニカっと笑っている。
団長ニーナの意向などはかなり無視して、滞在場所を決める。自由人な気風のラケニア人ってとこか。
「何なのよ、勝手に決めて……」
眉をひそめて、ミリアが切り出す。
「ヤツらの直接やってくるルートから、チョット外れてるんだ。そんで川が近くにあって、水も確保。こういうのは山暮らしに慣れてるあたいに任せてくれよ」
彼女は一年間、山で一人暮らしをしていた。どうやったら、しばらくココで滞在できるかを考えた末の結論ということらしい。
「日が暮れる前に、食料確保しようぜ。パトリシア、狩りに行こう。肉だけじゃ栄養も偏るから、ミリアとマドリーナは何か探してきてよ」
「え? 私とですかっ!?」
誘われて、露骨に嬉しそうなパトリシア。
巨人娘が三人だった頃、どうしても「ミリア+マドリーナ」と「パトリシア」になっていて、のけ者感があった。パトリシアからすると、待望のお友達なんだろうな。
「もー……仕切るなって言ってるのに……」
それとは対照的に、気に喰わないミリアだが……。
「……わかりました。それぞれ……お願いします」
承認するだけのニーナ。まぁ、団長命令に化けてくれれば、ミリアも聞きやすいか。
食料確保組が巨大マッチョ娘四人っていうのは、まぁ……適任か。
カラーデーモンに出くわした時、それなりに対応できる。ヤツらは魔法を使わないし、狩りの相手となるクマやらイノシシやらも魔法を使ってこない。
さらに偶然だと思うが、ミリアは植物の声を聞く特殊能力持ち。食べられる野菜やイモ類を見つけてくるのも得意だ。
「行きましょ!」
フィアの腕を組んで、張り切るパトリシア。
「デートじゃないっての……しっかり狩ってこないと皆は肉抜きになっちまうよ?」
「フィアさんの腕……すっごい逞しい……良いですね……」
フィアとミリアの腕……俺の目からするとほぼ同じなんだが、ミリアには絶対に言わないであろうセリフを言う。
「獲物を見つけたら、チャンと腕は離しなよ……」
柔らかな表情と口調で返す。
今は亡くなってしまったが、弟がいたと言っていたお姉さんのフィア。
そして同じく亡くなってしまったが、兄がいたと言っていた妹のパトリシア。
フィアの「仲よくしよう」を真に受けて、一気に距離を詰めてくる馬鹿正直なパトリシアに対して、嫌な顔はせずに受け止めている。俺が思ってる以上に、フィアとパトリシアの相性は良いのかもしれない。
もう一組のペア、ミリアとマドリーナは長い付き合いで全く問題なし。
食事の心配はなさそうだ。俺は安心して彼女たちを見送った。
新生活、新拠点の最初の夕食。
フィアとパトリシアのほうは首尾よくイノシシを仕留めて戻ってくる。
ミリアとマドリーナも袋にいっぱい野菜を摘んで戻って来る。
食材を切るための刃物もアイラから買い込んでいる。フィアは芸術的なナイフ捌きで精肉し、室内のストーブに俺は火龍波で着火して調理開始。
「凄いですね……自力で食料を集めて、こんなに料理できるなんて……」
「ホンマやな」
ゼイル旅団の生粋のメンバーであるニーナとサクは驚く。
彼らは街に寄って食材を買い、料理を作っていたので、こういうサバイバルな感じは新鮮なんだろう。スープやら焼き肉やらが並んでいき……ココがイエローデーモンが出没する危険な山中とはとうてい思えない。
「ま……まーマズくはないわよ。うん……」
フィアの料理に、ちょっと悔しそうなミリア。
俺にとっては懐かしい、圧倒的女子力持ちのフィアの料理。
もちろんメチャクチャ美味い。どの料理もちょうど良い塩加減で、素材の味を引き立てている。
「美味しいです。次作る時は教えてください」
こっちは素直なパトリシア。
尊敬の眼差しで、フィアを見ている。
「確かに美味しくて良いですが、ここから作戦を考えなければいけませんわね。どうやって、あの魔王を倒すか……」
マドリーナが切り出し、話を整理し始める。
まず、カラーデーモンを狩り続けて魔導石をため込むのは、危険ということ。
魔王ロキは、手駒が足りなくなってくると、自ら出陣してくる。
これがこの前学んだこと。つまりヤツを囲っているレッドデーモンの数を少なくした状態で、魔王と対峙することはできないってことだ。これを打破する必要がある。
「ニーナが攻撃力を上げる魔法をかければ解決じゃないか?」
俺はマドリーナの挙げた課題に対して、案を出す。
「実は……私の魔法は、彼女たちに有効じゃないんです」
「どういうこと?」
「正確には私の魔法は、強い人の攻撃力と同等にする……ものなんです。強い人というのは、カトランくらい……です」
ニーナが解説してくれる。元からカトランより遥かに強い人には意味がないってことか……なんてこった。
「じゃあ……筋トレすれば良いんじゃないか?」
彼女たちを純粋に強くするしかない……ならばと、非常に単純な発想で切り出す。
「アキラ君、トレーニングなんてものは一年頑張って、よーやく一割か二割力が強くなるかもってモンよ」
「メガナ……修行して力が二倍三倍になるなんてのは、おとぎ話さ」
同時に回答するミリアとフィア。
「アタシが喋ってんの!」
「ま、回答はだいたい同じだから良いじゃねぇか……」
「アナタたち仲良いのね。あと『氣』の向上による攻撃力上昇も、そこまで見込めないんですの。強いていうならパトリシアくらいかしら。アキラ、そういうことだから、ワタクシたちが目指すものは攻撃精度……ですわ」
フィアはわからないけど、少なくともミリアとマドリーナは、ほぼ『氣』を限界まで引き上げているってことか。二人は元専業軍人だから、そりゃそうか。
で、最後に残った伸びしろが攻撃精度。
ミリア曰く、強いパンチを出すのと、どうやって当てるかの修練は積んでいる。
が、基本的に剛力な彼女にとって、単純に当たれば何も問題はなかった。急所にあたろうが、そうでなかろうが関係なく相手が粉砕されるからだ。
だが、レッドデーモンは違う。
きっちり弱点にピンポイント攻撃を仕掛ける必要がある。
「ニーナさん……本当に申し訳ないですが、ワタクシたちに五日……頂けませんか?」
「どういうことです?」
「ここに待機をお願いします。何か掴めるかもしれないですし、ダメだった場合は、また知恵を絞りますわ」
「……」
それを聞くと黙り、ゴールのほうへと視線を移す。
彼のジェスチャーは、首をフルフルとふっていた。
イエローデーモン相手に、ゼイル旅団オリジナルメンバーは惨敗した。
今の標的レッドデーモンは、それよりはるかに強い……「いったんやらせるしかないんじゃないか」というジェスチャーだ。
「ミリアとパトリシアは、とにかく攻撃を磨いて……そして、ワタクシは前衛として一段上を行きますわ」
「フィアは?」
「本人に任せます」
俺の時計は、9月15日を示している。
マドリーナが懇願してきた五日の特訓の初日だ。
「あいつら、何やってんのかな……」
「まぁ……待つしかないさかい……暇やなぁ」
リア部屋で、待機の俺たち。
フロント側が女部屋だが、そこからニーナも出てくる。
「フィアは、まだ寝ていますし……」
朝食の時間、フィアはいなかった。
ニーナ曰く爆睡だ。
そんなフィアを放っておいて、巨人娘は三人で出発した。
あまりに暇だったのか、ゴールは部屋の中に置いてあった鉄のナイフを持ち、素振りを始める。
そして突進して突き出す。そんな動作をしている。
「何してんねん……」
「レッドデーモンには敵わねぇかもしれないが……魔王本体は『元人間』って言ってたよな? フラッと一人で散歩でもしてねぇかな……」
あの用心深い動きをした魔王ロキがそんな間抜けなことをするとは到底思えないが……。
「一刺し……こうやって……」
身体を預けるようにして刺す動作をするゴール。
「少しくらいこうやって体を動かさねぇとな……なまっちまう」
本当は外に出たいところではあるが、ここでむやみに外に出ればイエローデーモンの餌食になりかねない。
部屋の中での、せめてもの運動だった。
午後になるとミリアたちが戻って来る。
!?
が、マドリーナはミリアとパトリシアの肩につかまり満身創痍……というか血だるま状態だ。




