第34話:相性が悪そう
服は見覚えのある白いブラウスに紺色のスカートではない。
暗い緑色の長袖、長ズボンの服装だが、褐色肌に金髪ロングと聞き覚えのある声。
「フィア……」
俺は呟く。
「なんでよ、マドリーナ! こいつらがメルビン君を殺したのよ!! 絶対、許さない!!」
激高しているミリア。
「殺すのは後からでもできますわ。まずは情報を集めましょう」
「フィアって……」
物騒なことを言うマドリーナ、そして、聞き覚えのある名前をオウム返しに呟くパトリシア。
フィアは椅子に座らされ、そして後ろ手をロープでグルグル巻きにされている。
「こんなロープじゃ、この女には何の意味もないでしょうけどね……」
ミリアは自分と同じ体格のフィアを見下ろして言う。
フィアはまだ気を失ったままだ。
「コイツと知り合いなの……?」
ミリアが俺に聞く。
「ああ……ブルーデーモンに追いかけられ……結果として俺を助けてくれて……そして、ミリアたちを一緒に捜してくれた恩人だ……」
「なんか……パトリシアの時も同じようなこと言ってなかった?」
記憶力が良いミリア。
「う……あれは戦って殺されかけた時の話で、二回目なんだ……えっと一回目はブルーデーモンから逃げてて途中で坂を転げちゃって……山で迷子になってた俺をフィアが助けてくれた」
「ふーん…………」
ジトーッと見てくるミリア。
まるで浮気を疑う恋人の目線…………
「そ……それより、ニーナ……このコを回復させてくれないか?」
俺は頼む……が、ミリアが割って入る。
「ちょっとアキラ君、こいつ……敵なのよ?」
「いや……俺がいれば、いきなり攻撃してくることは……ない……と思う」
「アタシ……殴られて、アバラ二本持ってかれたんだけど!」
ニーナの治療を受けたものの……フィアの一撃は、かなり重かったようだ。
っていうか……フィアがもらったほうは、ヒートアップした状態のミリアのパンチだったよな……?
レッドデーモンでさえ即死した、あの剛腕パンチ。
それに思い当たり、俺はますます、フィアが心配になって来る。
いくら『氣』の特効がなくても、さすがに内臓損傷してんじゃないか?
「ま……ミリア、待っていても時間の無駄ですわ。ワタクシとミリア、パトリシアで囲めば、さすがに下手なことはしないでしょう。ニーナさん、お願いしますわ」
「はい」
返事はYesだが、ニーナは不服ともとれる態度だ。
五年間ともに過ごしたメルビンが殺されたのだから、こちらも心の底では穏やかではないのだろう。
「う……回復魔法……か……さっきは、なかなか良いパンチだったよ」
ニーナの回復を受けたフィアが目を覚ます。
「さて、……答えるかはアナタ次第ですが、聞かせてもらいますわ。まずアナタたちは何者なのか?」
「あたいは、ロノスト王国の特殊部隊さ」
何も隠すことはなく答えるフィア。
「何のために、ワタクシたちを襲ったのですか?」
「理由は知らねぇ。特殊部隊ってそういうもんさ。命令は『悪の組織ゼイル旅団を抹殺せよ』……だ。オメーらはシャインビリッジにしばらくいただろう? あたいらはセントラルニューパディに配属された部隊でね。近くにいたあたいらに命令が下った」
恐らく嘘はないのだろう。ハッキリとした口調でフィアは答える。
「質問はもう終わりか? あたいも聞きてぇことがある……」
「アンタに発言権はないのよ!」
ピシャっとミリアが言う。
「ま……言ってみてくださいます?」
「オメーら……何やったんだ? 殺人か? 強盗か? それとも何かの悪だくみか?」
「何かの悪だくみ……に該当するかも知れませんわね。魔王を倒すっていう企みですわ」
「ん……どういうことだ?」
ピクッと眉を動かすフィア。マドリーナは洗いざらい彼女に説明する。
魔導石は国が買い、魔王に渡していること。
魔王は見返りに、ロノスト二世の寿命を延ばしていること。
人々が使っている便利な魔法は、魔王の魔力を拝借していること。
魔王は魔力を奪われると空腹になり、人々の絶望と悲しみを食べて生きていること。
「マジかよ……つーことは……国王様にとっちゃ、オメーらは寿命を延ばすのを妨げる邪魔者……てか」
フィアは衝撃の事実に感想を述べる。
「ニーナさん……この人はどうなさいます?」
マドリーナがニーナに伺う。
死刑と言ったら……俺はどうする?
フィアから受けた恩を仇で返すわけにはいかない……絶対に庇わなきゃ。
「フィア……と言いましたね。魔王を倒すのに協力してくださいと言ったら?」
ニーナはフィアに聞く。
この瞬間、俺にはニーナが女神に見えた。
「ニーナ! こいつ、メルビン君を殺した仲間よ!?」
「オメーもあたいの仲間を三人殺っただろ? 戦場ってそういうもんさ」
「この!!」
ミリアがフィアに平手打ち……なのだが、その手首を掴むフィア。
ん??
後ろ手をロープで縛られてなかったか?
いや……こういうコだった。
ロープなぞ何もないのと同じ……ミリアの言うとおり「この女には何の意味もない」か。
引きちぎられたロープの残骸が、椅子の後ろに落ちている。
「で……魔王退治だっけ? 良いよ。あたいは協力する」
「ちょっとニーナ! こんなに簡単に裏切るヤツ、信用できないでしょ!」
なんか、もうメルビンを殺されたことで、ミリアは完全にトサカに来ている。
一方、フィアは落ち着き払っている。
「信用か……。あたいはさぁ……約束を守る女でねぇ……約束の順番も大事だよなぁ……」
「何言ってんの!?」
「確かに『ゼイル旅団の抹殺』の約束はしたさ……でも、その前に先約があってね」
フィアは俺のほうを見る。
「いやあ……メガナ、よく生きてたな……良かった。あたいの先約は『絶対メガナを死なせやしない。あたいが守る』だったよな。憶えてる?」
口元を緩ませる。
フィアの家からヒルビリッジへ買い物に行った時のあのセリフ……確かに約束した。
「ああ」
俺は答える。
「先約のほうが優先さ。ゼイル旅団にメガナがいるってんなら……あたいは『ゼイル旅団の抹殺』は破棄する……信用できるだろ?」
「う……」
ミリアは黙る。
それと同時に、ミリアの平手打ちの時に握った手首を解放するフィア。
「そんじゃ……厄介になるよ。よろしくな」
ピッと二本の指を揃えて、俺たちゼイル旅団に挨拶する。
ブンむくれているミリアを他所に、フィアはいろいろ喋る。
「まず……オメーらが殺ったあたいの仲間……こいつら鉄のナイフ持ってっからさ。回収しときなよ。持っときゃ何かの役には立つだろ」
まずは高級品の鉄のナイフの回収だ。
「パトリシア、これで刺されたんだよね? 大丈夫?」
「今更ですか? もう……皆さん、全然心配してくれなかったですね。確かにかすり傷でしたけど……出血したんですよ」
俺はフィアに気をとられて、彼女には声かけてなかった。
案の定、拗ねるパトリシア。人差し指の先をくっつけて、ウニウニ動かしている。
ちょっと失敗したかな……
「おうおう……オメーやるなぁ……刺したヤツもなかなかの使い手だったんだが……」
麻痺光線を浴びて麻痺し、そのまま背中をドスっとやられたパトリシア。
だが、彼女の鋼のような筋肉が鉄のナイフから内臓を守った模様だ。
「ミリアさんのパンチで死ななかったアナタのほうが凄いですよ……フィアさん」
苦笑いしながら返すパトリシア。
それは確かに。
「ほんで……シャインビリッジで十分に準備したほうが良いよ。何せこの馬車……同僚にバレたからな。おそらく首都に報告に行くと思うから、早馬でも半日は空白の期間がある。その間に食器とか塩とかバケツとか……日用品はそろえておくんだな。こっから長旅になると思うよ」
「なんで、アンタが仕切ってんのよ!」
「で……やかましいアンタが……ミリアか。最悪な出会い方しちまったもんだなぁ……メガナとあたいで……ずっと捜してたんだぜ?」
「う……」
「てーことは……残るアンタがマドリーナだな」
「ご明察ですわ。アキラからなんて言われているかは興味ありますが……よろしく頼みますわ」
「アンタら良いやつだって……メガナからは聞いている。本当にそうかは、これからあたいの目で確かめさせてもらうよ」
「なによ! えっらそーに!」
「もう聞いてた話と違うよなぁ……メガナ……こんなおっかねぇヤツが好きなんか?」
「え!?」
顔が急激に赤くなるミリア。
そして以降黙る。これは……フィアのほうが一枚上手のようだ。
「あの……フィアさん……マウスマウンと戦ってたって、アキラさんから聞いてます。私も……マウスマウンにシップビリッジの家族を殺されて……」
これまで、ミリア対フィアがバチバチだったせいで会話に入ってこれなかったパトリシアだが、ミリアが黙ったことにより参戦。
「あいつらとやってたのは昔のことさ……ただ敵の敵は味方っていうもんな。ほんで……シップビリッジ出身なんかぁ……あたいはシャインビリッジ出身。田舎者同士仲良くしよう」
嬉しそうにニッコリ笑うパトリシア。友達を欲しがっていた彼女にとって「仲良くしよう」はストライクな言葉だ。
俗にいうコミュ強……ってヤツか。あっという間に味方を増やしていくフィア。
「そんで……せっかく良い馬車なのに、きったねぇなぁ……」
キョロキョロと、ライジングサン号の中を見渡す。
特殊部隊の強襲を受けてそれどころじゃなかったのだが、フィアに言われて、周りをみると確かに荒れている。
およそ二週間、ミリア、マドリーナ、パトリシアだけの状態だった本拠地。
マドリーナお嬢様は掃除なんてしなさそうだし、生粋の軍人ミリアは、これまた片づけとか苦手そうだし。
パトリシアもこの感じではダメなんだろうな……
「ニーナさんつったっけ……? まぁ、あたいが入団したからには心配いらねぇ。住み心地満点の本拠にしてやるよ」
フィアの主婦能力が非常に高いことは俺も知っている。炊事・掃除・洗濯……荒っぽい口調からは想像できないレベルだ。
このままだと、ニーナも落とされるな。
「ほんで、メガナ……あの状態からよく生きてられたなぁ……」
ついに俺にあの時の話をふる。
ニカッと笑って。
「俺はレッドデーモンに連れていかれて……魔王に会ったんだ」
「マジで!?」
「そう。俺があまりにも絶望して……その絶望を魔王が喰らって……それが美味かったんだとよ……それだけ言われて、知らないところにテレポートさせられた」
「なんじゃそりゃあ……」
俺だって「なんじゃそりゃあ」だ。
美味かったから礼を言うって、それだけだったから。
「魔王はテレポートさせる魔法陣をいくつか持ってるらしくて、魔王と話をしたのが魔王城だ」
「なるほどねぇ……あたいもさぁ……レッドデーモンに囲まれて、タコ殴りにされてさ……あとちょっとで死ぬってところで……急にブルーデーモンに変わったんだよ」
ギリギリのタイミングで死なずに済んだフィア。これは運が良かったとしか言いようがない。
ブルーデーモン相手だったら、フィアの戦闘能力からすれば、赤子の手をひねるより簡単に殲滅だ。
「あたいはあたいでさ……もうメガナはダメだなって思って……悔しかったねぇ……シャインビリッジの悲劇の時も悔しかったけど……人を守れなかったのは二回目だからね。メガナに怒られるだろうけどさ……荒れたね」
「自暴自棄になるなって……」
「アハハ……やっぱ言われるよなぁ。どうでもよくなったあたいは、センターシティに直行してさ。特殊部隊に入っちまった」
軽く言ってるが、フィアの山の家はあの時のままだった。彼女も家に帰れないくらいショックだったということだろう。
「さて、さっきも言ったけど、時間はないよ……総攻撃が来る前にサッサと買い物行ってきな。あたいが行っても良いけど、さすがにそこまで信用してないだろ? ニーナさん、行く人、決めちゃって」
「え…………えーっと……じゃあミリアとアキラ、お願いできますか?」
フィアに促されるまま、ニーナは俺とミリアを指名。
「今朝方見た感じ……メガナに魔法は効かねぇし、ミリアも光ってりゃ魔法は効かないみてぇだからな……良い人選だ」
感心するフィア。
俺とミリアは、ライジングサン号の中のありったけの魔導石を集める。
魔王に全て渡してスッテンテンになったのだが、俺の予想とおり、ボランティア活動中にシャインビリッジに来たグリーンデーモンを彼女たちは始末していたようだ。
「じゃあ行ってきな……くれぐれも情に流されんなよ……」
「もー……うっさいわね……行きましょ、アキラ君」
足早に俺たちは出発する。




