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第32話:背負ったもの

壊れた建物の修復や炊き出し……期間はざっと二週間と見積もる。


食料を買い込み、ライジングサン号に戻った俺たちは、二週間ほどシャインビリッジに滞在することをミリアたちに告げ、そこから村へ戻った。


アイラの作った釘やノコギリもどきは、村の復旧の一助となっている。ゴールもサクも汗を流し、村の人たちと交流する。


手伝いをしている間、俺はメンバーに気になったことを聞く。

村の人を見渡すと、どうにも金髪で青い目の人が多いのだ。


「ああ……ここにはラケニア人が多く住んでるんだよ」

メルビンが答えてくれる。


「ラケニア人?」

「そっか……アキラ君は別の世界から来たんだもんね……えっと……もともと、ここスタンデル島は西の山のさらに向こうにラケニア人、そして東のこっち側にロノスト人が住んでいたんだ」


目の前にいるメルビンも金髪青い目であり、ラケニア人なんだろう。

「そして300年前、カラーデーモンが出始めた時、ラケニア人が住んでたところは、最低でもグリーンデーモンって感じで……住めなくなっちゃった。ロノストの人たちは僕たちを受け入れてくれたんだけど、その受け入れ先がシャインビリッジだったんだ」

「へぇ……」

他民族でも受け入れた……やっぱり脅威にさらされると、人類は一致団結するんだな。


「もちろん気質は違うから、多少の食い違いはあったけど……基本的には仲良くやってるよ」

「どう違うの?」

「うーん……個人差は当然あるんだけどさ、ロノスト人はやっぱり規律を守るというか、真面目な団体主義っぽい人が多いかなぁ。ラケニア人はちょっと自由な人が多いかな……」


そうか……ロノスト人ってのは、日本人ぽいのかな。見た目も黒髪、黒目だし。

だから俺を比較的受け入れてくれるのか。


あとは一人気の向くままに、山で自由に暮らしていたフィアを思い出す。ラケニア人のフィアは、確かに強要してこない人だった。


個人の意思を尊重してるというか。

メンバーの記憶を辿れば……パトリシアの食事係だったにもかかわらず、嫌だからと、俺に任せてきたレオもラケニア人っぽかった。


ここにきて、新たな知識を得つつ、俺は村の復旧作業をこなした。

復旧作業中、思わぬ収穫もある。


イエローデーモンと戦って亡くなった警備隊の家があり、空き家になっていた。アイラはゼイル旅団の退団後に行くあてはなかったものの、ボランティア活動を感謝され、その空き家に住んでも良いことになった。


彼は刃物職人であり、稼ぐ口はあるから、住む家を確保したら、もう一安心だ。

俺たちはボランティア用の仮設住宅にいたのだが、アイラのみ、ここで独立した。


仮設住宅で暮らすこと一週間。

部屋割りとしては、俺、サク、メルビンの一部屋と、ニーナ、ゴールの一部屋だ。


正直、この部屋割りは助かった。ゴールにぶん殴られて以来、彼とはほとんど口をきいていない。


俺は彼に腹を立てているわけじゃなかったのだが、思いのほか彼に賛同する者が少なかった。

彼自身、反省しているのか気まずいのか、俺と距離を取っている。


これまでの彼の言動からエイトと仲が良いのは知ってたが、経緯を知らなかったので、俺はサクにエイトとゴールの関係を聞いてみた。

「なんや……エイトとゴールか……俺も詳しくは知らんけどな……エイトは小さい頃からスタンデル島に移って来ていて、セントラルニューパディに住んどった……」


ああ……だからエイトには、ヒダシタンの訛りがないのか……ちょっと納得する。


「ほんで、ゴールと、あと……リック言うたかな……名前は合ってるかあやしいけど……五年前はまだ少年で三人で仲良う『地味屋』をしとったらしい」


「『地味屋』ってなんなの?」

「ああ……俺らもそうやけど……カラーデーモンを倒したものの、魔導石を回収できないパターンってあるやん?」


あれか……イエローデーモン初戦。あの時。パトリシアは数体倒したけど、魔導石を回収する間もなく逃亡……そんな感じか。


「そういう魔導石を夜中に回収して、商人に売るのが『地味屋』や。夜は魔導石が光っていて、昼より見つけやすい。あと夜はカラーデーモンが寝とるからな」

戦わずしてお金を得る。少年たちが小銭を稼ぐにはもってこいというわけか。


「ただ……火遊びやからなぁ……ある時、深追いしすぎて夜があけてしまい……起きたブルーデーモンに襲われて、リックが殺された……ゴールとエイトは親友の敵討ちのため、ゼイル旅団に入ったという感じや」

「そうか……」


「まぁ仲良しやったな……エイトはパトリシアのことが嫌いやったんやけど……理由はゴールや。以前、グリーンデーモン戦やったかな……パトリシアが蹴っ飛ばしたグリーンデーモンに、ゴールが当たって……」

その話は確か、アイラからも聞いた。サクも言及したということは事実なんだな。


「そん時のゴールは、ホンマに危うく死ぬとこやってん……それがエイトにとっては許せへんってことや。親友を二人も失ってたまるかってな……」

そのエイトのゴールへの思いは、ゴールからエイトへの思いと同じくらい強いんだな、俺はこの前のゴールの激高を納得した。


翌日。

「な……なぁ、ゴール、ここでちょっと、メンバー集めてみないか?」

昨晩、サクから話を聞いたということもあり、俺はゴールにあえて話しかけてみた。

「お……おう……」

驚いた様子のゴール。


俺から声をかけられるとは、予想外だったようだ。

「え……えっと、俺じゃなくて、ニーナに聞いてくれないか……ニーナはどう思う?」

よほど動揺したのか、しどろもどろだ。


「仲間は必要ですね。それと……初めて魔王に会いましたが……どうにもならない怪物じゃないことだけはわかりました。仲間がいれば、わずかな可能性とは思いますが、チャンスは広がります」

確かに。

魔王ロキ自身は、レッドデーモンのような300cm級の怪物ではない。


事実、ミリアたちを警戒して、終始レッドデーモンを自分の護衛につかせていたし、自ら元人間とまで言った。

そうであれば、ニーナの言うとおり、チャンスはある。


「ただ……派手に宣伝するのは控えましょう。イエローデーモンを倒したなどとは皆、言わないでください」

派手な宣伝の結果、センターシティでゼイルさんとリースが殺された……もちろん、二の轍は踏まない。


この日から、ちょっとずつ周りの人に、ゼイル旅団メンバー募集を伝えていく。

同じボランティアの人や、被害に遭った人に向かって、勧誘をしていく。


ただし、人々の反応は悪かった。直近で被害に遭ったイエローデーモンの大きさは250cm超え。

普通の人間では全然勝てなさそう……という事実が、入団への思いの障壁となる。


募集を開始してから初めての夜。サクに愚痴をこぼす。

「全然、手ごたえなかったなぁ……」

「そらそうや。俺も最近は『捌き』でヤツらの攻撃をようやっとかわせるようになった程度や……最初は力の差がありすぎて、どうにもならんかった。あれを見てなおカラーデーモンを討伐してやろうなんてヤツは、なかなかおらへん」


圧倒的な力を見せつけられては、諦めのほうが勝つ……そうかもしれない。

「そうか……そうだよな……皆がサクの境地までは辿り着けないよな……」


我らが誇る巨大三人娘を除けば……サクは俺とほぼ同じ普通の身体で善戦している。ヒダシタン伝統の、力に頼らない『捌き』の優秀さを証明していた。


「サクも十分すごいんだけどなぁ。『捌き』っていうのは、ヒダシタンの人はみんな使えるの?」

メルビンがサクに聞く。

長らくゼイル旅団の戦いぶりをライジングサン号の中から見ている彼からすると、サクの異質さは際立っているようだ。


「まぁヒダシタンでは、子供の頃に皆、習うからなぁ……エイトはスタンデル島に来たのが早かったから、使えへんだけで……」


「サクは生まれも育ちも、ヒダシタンなんだね?」

「そうや……俺は魚市場で働く商人やった……」

「そうなの!?」

俺もメルビンも、同時に反応する。

長い付き合いのメルビンも知らなかったのか……


「そんなに真面目じゃなくてやな……ちょっとだけ働いて金を溜めて……そっからや……楽して儲けたくてな、博打にはまってん」

いや、それはマズイ。

身を滅ぼすタイプ。


「最初は儲かって……けど負けるようになって……借金して博打を打って……アホやったなぁ」

サクは遠い目で話す。


「どうしようもなくなった時、闘技場の試合でえらいモンがあってな……。五戦目くらいの幼女とチャンピオンが闘技場で戦うちゅうんや……」

ん?


「倍率はなぜかチャンピオンのほうが良くてな……今までの負けを取り戻したろって思って、さらに借金して全部つぎ込んだんや……」

闘技場って……当然、俺が思い浮かべたのは、あのコだ。


「で、手に汗握って……実際に試合を見てみるとやなぁ……えらいごっついヤツが出て来てん。あっちゅう間にチャンピオンが負けて、俺はスッテンテンや」


「それって……パトリシアみたいな体格のコ?」

「そや。もうバカデカい筋肉女は、それ以来、苦手や……」


「名前は……『シノ』っていうコじゃなかった?」

「わからへん…………もう俺の中で記憶が飛んでてな……そんなことより、生活どうすんねんって話やから……」

シノのヒダシタン時代の話……俺もようやっと傷が癒えてきて、彼女の欠片に触れても心臓がバクバクしなくなってきた。


本当にシノかはわからないけど。

ただ、この世界の人々を見渡すにつれ、シノみたいな巨体の人間はごくごく少数だということに、俺は認識を改めていた。

しかも幼女がチャンピオンを負かすって時点で確定とみて良いだろう。


「で、俺は魚市場の商人やったけど……魚を捕るほうに職を変えてな……で、なんもかんもうまくいかへん……ある時、船で漁をしてたら海賊に襲われてもうてな……」

踏んだり蹴ったりのサク。


彼もまた、なかなか壮絶な人生を送っていた。

「ほんで、ロノストに連れられて……俺は奴隷になったんや」

奴隷!?

「ただな……闘技場で戦うのは一回だけやった……。その一回の試合を見て……俺を自由にしてくれたお嬢はんが現れてな……」


サクは不意に両袖をまくって、肩を見せる。

左の肩には……あのシノと同じ星マークが刻まれている。

ただ、右の肩にも同様に、星マークが刻まれている。


「その刺青……」

「ああ。左肩に入れられたんは奴隷の印や。ただ右肩にも入っとるやろ? これはもう解放された奴隷ってことや」


「なんでサクは自由になれたの?」

「自分で言うのも照れくさいけど……お嬢はんが、俺に一目ぼれや」


赤い長髪に白い肌。切れ長の目で鼻筋も通っているサク。ゼイル旅団でも屈指の美貌を持つ男。


金持ちの女がサクを買い、そして自由になったということか。

「一生の恩人や。俺もお嬢はんのために尽くそうと思ってた。せやけどな……五年前、パープルデーモンに殺された……」


「それでゼイル旅団に……」

「そう。お嬢はんのご両親もな、丁稚奉公はいらんから、ぜひ仇を取ってくれってことで、俺を快く送り出してくれた」


亡くなった恩人である主人の敵討ち。

ゴールとエイトもそうだったけど、やはりゼイル旅団のメンバーは、魔王とカラーデーモンには並々ならぬ恨みがある。


サクの背負ったものを知った俺は、メルビンにも興味が湧く。

「メルビンは……なんでゼイル旅団に?」

「僕? 僕はね……アイラと同じさ。五年前の悲劇……あの時は凄い被害だったんだ……僕の家族は皆、殺されて。同時期にさ、レオもメアリーもマルガリータもゼイル旅団に入った」


フィアの話を思い出す。彼女も全てを失ったと言っていた。


もっとも彼女の場合はゼイル旅団には入らず、すっかり心が壊れて、闇ギルドのグッドリブへ加入したが。

シャインビリッジの悲劇って、やっぱり大災害だったんだな。


「僕は市民魔法使いで直接、戦うことはできず……それはそれで辛かったよ。魔導士の皆は活躍して……誇らしいような、自分が情けないような……」

「メルビンは……ここを辞めないのかい? アイラみたいに……」


「彼は……自分たちでどうしようもないと思ったんだろうね。正確に言うと……生粋のゼイル旅団のメンバーではどうしようもないと。だから区切りをつけた」

生粋のゼイル旅団……彼が言っているのは、パトリシア加入前のメンバーを指してるんだろう。


「僕はね……逆に期待しているんだ。ミリアさん……レッドデーモンを倒したから。イケるぞ……ってね」

メルビンは、ミリアに希望を見出していた。

彼はミリアと、よく服のことで喋っている。ファッションに疎い俺は、二人の話についていけない。ちょっとだけ、彼に嫉妬心もあった。


「パトリシアもたいがいやけど……あいつもバケモンやったな……」

サクが話に入る。

「強いよねぇ……カッコ良くて……カワイイ」


「カワイイ!? えらい趣味やなぁ……どう考えても怖いやろ……」

呆れるサクであった。

恐らくこの溝は、生涯埋まらないだろうな……


俺は亡くなったフィア、シノを含めて、あのコたちは人類の最高到達点だと思う。

皆、性格は粗暴さが全くなく温厚で、メルビンの言う通り顔も整ってる。


それに巨人キャラに似合わず、頭も良い。

ミリアやマドリーナは慣れないサバイバルでも知恵を発揮してたし、シノも会計学を吸収したって言っていた。


さらにさらに「かばう」や「ヒートアップ」を筆頭とした不思議な特殊能力。

俺はこの世界の人みんなが何かしら能力を持ってるのかと思っていたが、この手の力を発揮しているのは彼女たちだけ。


「天は二物を与えず」というけど、五物くらい与えてる……不公平なもんだな。

ただ……一般人の1.5倍以上の背丈とマッスルモンスターな体。

人を本能的に戦慄させる見た目で損してる。


さらに五日が経過しようとしている。シャインビリッジはかなり復旧してきた。


本来、ここでグリーンデーモンがチョロチョロ来そうなものだが、シャインビリッジの近くにはライジングサン号が停車しており、そこにはミリア、マドリーナ、パトリシアがいる。


俺たちが復旧作業をしている間、おそらく彼女たちが近寄るグリーンデーモンを始末している。

確証はないが、恐らくそういうことだろう。


グリーンデーモンの邪魔が入らないことにより、警備隊のリソースも復旧作業に充てることができているのだから非常に都合が良い。


順調な村の復旧とは裏腹に、メンバー集めのほうは難航していた。

理由はメンバー集め初日に考察したとおりだと思う。皆、あのイエローデーモンを体感したことで、二の足を踏む反応だ。


もう二日もすれば、俺たちはまた旅に出る。

どうやったら、魔王ロキを倒せるのか……同時にレッドデーモンに対する策が必要。

ラストピースが……足りない。


真夜中。

俺は目を覚ます。

時計は4:00を示していた。

カッコよく第六感が……とか、そんなんじゃない。単純に喉が渇いて目が醒めた……それだけだった。


コップの水を飲み、また寝る……だが、寝ようとした時、微かな物音を聞く。

俺はベッドから離れ、窓をジッと見る。


すると窓が動く!?


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