第31話:繋がってた
迫りくるレッドデーモン!
いや、まだだ。
俺は諦めが悪いんだ、諦めがな。
賭けに出る。
「魔王ロキ!! 聞こえるか!? 近くにいるんだろ!? 俺と交渉しろ!!」
まさにニーナが、サクが、レッドデーモンの爪にやられる寸前だったが、レッドデーモンの動きが停止する。
「ア……アキラ君!?」
驚愕するミリア。
驚きのあまり、ヒートアップが解ける。
そして奥のほうにいるレッドデーモンの塊……その隙間から、かつて魔王城で会ったロキの姿を見つける。
「ちょっと待ってろ、魔王ロキ!!」
俺は叫ぶと、ライジングサン号へと駆け出す。
中に入るやいなや、魔導石が大量に入った袋を持ち出す。
「レッドデーモンをどかせろ!!」
俺は言いながら袋を持っていく。
レッドデーモンは左右に散り、そして魔王ロキの姿がはっきりと見える。
「お……お前の目的はこれだろ!? こいつを持って、とっとと魔王城へ帰ってくれ」
賭けだ。
もちろん魔導石目的でない可能性は十分あり、「お前何言ってんだ?」くらいのノリで切り裂かれても不思議じゃない。
「『絶望小僧』がどうするか、興味があったが交渉とは賢明だな」
メチャクチャ不名誉なあだ名だ。
だが、俺はヤツに名乗ってないから、それは仕方がない。
あと、ヤツが俺の存在を声掛けする前から把握している様子なのは、ちょっと気になるが……
「誰が『絶望小僧』だ! 俺の名前は女鹿名晶……憶えとけ!」
啖呵を切る。
本当は怖い。
左右のレッドデーモンに腕を振られたら……後ろで真っ二つになっているエイトと同じ運命を辿る。
「フン……良い度胸だ。アキラとやら……この魔導石で引いてやる。一時……休戦だ」
全身の力が抜ける……賭けに勝った。
勝ったというか……俺はヤツが普通の食料を欲してないことを知ってるし、金も欲してないことも予想していた。
なので、交渉材料といえば、一択で魔導石だったのだ。
魔王の声とともに、レッドデーモンは後ろに下がる。
レッドデーモンは、普段は本能で動いている。
だが、フィアと俺がレッドデーモンに出会った時、俺は攻撃されずに捕獲された。
つまり、ある程度操作することも可能ということだ。
「アキラ……お前は、この国の王に会う機会はあるか?」
「そんなもんはない……」
当たり前だ。伝手はマドリーナくらいだが、今センターシティに乗り込めば、ラウル派に襲われちまう。
「まぁロノスト二世に、もし会ったら伝えてくれるか? 魔導石を滞納していると、お前の寿命は延ばしてやらんとな……」
「うっ…………な……なんですって!?」
魔王の声は、マドリーナにも聞こえている。
自分の仕えていた王が……魔王に寿命をもらっていた?
偉大なる国王だけ寿命がないなんて話だったけどな……こんなカラクリとは。
「よ……用事は済んだだろ! ……もう帰ってくれ」
ゼイル旅団への攻撃は完全に停止しているが、レッドデーモンは魔王の周辺を取り囲み始める。
くそ……警戒してやがる。
油断して単品になったら、パトリシアのワープ攻撃で倒せるとも思ったんだが。
「ふふん……少しは話そうではないか……お前たちも何か聞きたいことがあるのではないか?」
どういうことだ?
全然わからんが、ヤツは会話を望んでいる。
「魔王……いったい何を企んでいるんです!? 世界征服ですか?」
ニーナが切り出す。
度胸がある。リーダーの貫目ってやつか。
「世界征服? 俺が魔王となってから300年……お前たちを支配したことが一度とてあるか?」
「…………でも、お前の手下は……私の婚約者を殺した!」
ニーナが叫ぶ。
ゼイル旅団が今のメンバーになってから五年……つまり、ニーナの婚約者はその時に殺されたのか。
そしてその傷が癒えて、良い感じになっていたカトランまで。
「それはお前たちが魔法を使っているからだ……魔法を使われていると俺も腹が減る……俺の食事はお前たちの絶望と悲しみ……」
「くっ…………」
ニーナも回復「魔」法を使っている。
それを言われると、なかなか苦しい。
「共存していこうと言っているのだ……便利な生活をお前たちは謳歌してるだろう? 俺はちょっとだけ誰かが不幸になってくれれば良い。俺は支配者じゃない。世界の仕組みだ」
便利な生活を事情を知らない人間たちは、はたして手放せるのか……?
答えはNoだろう。
かつてアイラは俺に「魔法の制約は呪文の詠唱時間だけ」と説明した。
一般の人々は、何も消費せずに便利な力を得ていると思っている。
使わないわけがない。
「そうだ……退屈しのぎに、お前たちのその巨大な馬車を見せてくれないか?」
なーにが「見せてくれないか?」だ。
この交渉は、ちょっと失敗したかもしれない。
提案の形をとっているが、俺たちにはもう交渉の切り札が何もない。
先に魔導石を出してしまった以上、二の矢が無い……ちくしょう。
「ニ……ニーナ……すまないが、見せてやってくれ……」
絞り出すように俺は言う。
「……」
ニーナも不利を悟り、悔しそうにうなずく。
するとレッドデーモンの一体が動き出す。
「俺は手下と視覚を共有できるのだよ……そいつを通してくれ」
「ロキ……自分の目でみたら良いじゃないか?」
「おっと……その手には乗らん。いやあ……俺がお前をこの世界に連れてきた時、礼を言おうと思ってな……パープルデーモンに連れてこさせようとしたが……」
!?
なるほど、そういう事か。
通常であれば、パープルデーモンも人を爪で襲う。
あの時、パープルデーモンは、よってたかって俺の身体を「掴んで」いた。
あれは俺を連れて行こうとしていたのだ。
「おっかないヤツが近くにいただろう? 俺とて元人間……そこにいるヤツに殴られれば、俺でもひとたまりもない。まるで悪魔のような体だな……」
ミリア、マドリーナ、パトリシアの三人を指さす。
魔王でさえ、恐れるのか。
それに……元人間……だと?
シレッと衝撃の事実を知る。
ライジングサン号の見学時に不意打ちで打ち取れればと思ったが、そんなに甘くなかった。
俺が心の中で悔しがってる間、一体のレッドデーモンは移動して、ライジングサン号に入る。
「ほうほう……なかなかの装備だ」
「人には手を出すなよ! モノにもだ!」
「立場がわかっていないようだな……」
くそ……中にはアイラとメルビンが……
「だが心配するな。見せてくれないかと言っただけだ。何もせん」
中の様子をゆっくりと見学してるのだろう。
この間、アイラとメルビンの絶叫が聞こえる。
パトリシアとニーナ、ゴール、サクは追って、中に入っていく。
……そしてしばしの時が経ち、レッドデーモンはライジングサン号から出てくる。
後から聞くと、本当に「見学のみ」だったようだ。
魔王はやりたい放題だったが、ついに去る。
「なかなか……退屈しのぎにはなった。さらばだ」
高笑いしながら、レッドデーモンとともに去っていく魔王。
俺たちは……助かった。
※※※
この夜。
まずは一発、ゴールからぶん殴られた。
「てめぇ! 何勝手に魔王と交渉してんだ! 俺たちはなぁ……あいつを倒すためだけに五年頑張ってきたんだ! 千載一遇の……チャンスだったんだぞ!!」
荒れるゴール。
正直、用心深い魔王を倒せる確率は低かったと思うが……
「エイトは……エイトはヤツに殺された……これじゃ……これじゃアイツは無駄死にじゃねぇか!!」
多分、怒りの原点はこっちだ。
俺はぶん殴られたが、我慢する。
確かに確率は低かったが、魔王を倒せた可能性もゼロじゃない。
「ゴール……落ち着け。パトリシアの攻撃も通らないヤツがあんなにいて……うまく倒せるわけないやろ!」
サクがフォローしてくれる。
もう、俺に対する怒りはマックスなので、仲間からそう言ってもらえると助かる。
「そうです。それにアキラの機転がなければ……ワタクシたちの犠牲はもっと増えた。感謝すべきですわ」
マドリーナも冷静に弁護してくれる。
大将候補と言われてるだけのことはあり、荒ぶる人間を落ち着かせるカリスマを発揮する。
黙り込むニーナとゴール。
恐らくこの二人は、少ない確率に賭けて魔王を倒したかった派だろう。
「でも、とりあえず……アキラ、魔王との関係を説明してくださる? このままだと皆、アナタが魔王の手先だと思ってしまいますわ」
憂いを帯びた瞳が、真偽を確かめるように細められる。
「ああ……今までは全然信じてもらえないと思ったから言わなかった……話すよ」
俺は正直に話す。
最初、ミリアたちと会った時点では、日本から何らかの方法でここに来たことしかわかってなかったこと。
パープルデーモンは俺を連れだそうとしたが、ミリアたちが倒してしまったため失敗。
その後、ひょんなことからレッドデーモンに遭遇し、魔王城へ連れて行かれたこと。
そこで、魔王の名を知ったこと。
魔王が俺を魔王城へ連れてきた理由は「ごちそうの礼を言う」ただ、これだけだったこと。
魔王にとっての俺は「退屈しのぎ」だと告げてきたこと。
俺と魔王の間には、何も利害関係がないことを説明する。
「アキラ君……ウソ……じゃないよね?」
祈るような表情で確認してくるミリア。
「ああ。今話したことが全て真実だ。あと……交渉したのはホントに賭けだった……ヤツが魔導石を実際に求めてたかは俺は知らなかった。偶然さ」
俺の話は一通り終わる。
魔王の手先じゃないという証拠……それはない。しかし魔王の手先という決定打も、もちろんない。
皆リアクションに困っているものの、いったん信じるしかないといった様子だった。
「俺、この旅団を辞めるよ……辞めさせてくれ……」
俺の話が終わった後、こう切り出したのはアイラだ。
「情けねぇけどさ……俺はアイツらには勝てねぇ……。パトリシアでもダメだったんだぜ? ハハハ……」
嫌っていた……でも、どれほどの強さかはわかっていた。
あれだけイエローデーモン相手に切り刻んだ鋭い蹴りが、レッドデーモン相手ではあまり効いていないように見えた。
トドメはライジングサン号で、間近にレッドデーモンを見たことだろうか。
刃物職人として、裏で支えてきたアイラ。
非戦闘員が300cm級の恐ろしい魔物を見たら……そりゃ心は折れるだろう。
「一応、イエローデーモン相手に……勝ったんだ。それを見届けられただけでも良かったぜ……」
一区切りついた時、それが辞め時か。
「五年前のシャインビリッジの悲劇で……俺はグリーンデーモンによって家族を失った。俺は直接戦えなかったけど……ゼイルさんに拾ってもらって……皆が頑張ってくれたおかげで……ありがとう」
「わかりました。今までありがとう、アイラ……」
声を震わせて最後のほうは何言ってるか、わからないアイラに対して、ニーナは答える。
「シャインビリッジまで送ってやるぜ。エイトも……ちゃんと埋葬してやりてぇしな……」
さっきの激高から落ち着いたゴールも声をかける。
今、エイトの亡骸は、布で包まれている。イエローデーモン戦で殺られた皆や、ゼイルさん、リースは葬ってやれなかったけど、エイトは見送れそうだ。
数日後、俺たちはシャインビリッジに到着する。ライジングサン号は村の外に止め、まずはエイトの墓を作った。
丁重に葬り、戦友を弔う。
「ライジングサン号を見張ってくださる方……いますか?」
ニーナがメンバーを見渡して尋ねる。
「ワタクシとミリアが残りますわ。何せラウル家から狙われてますからね」
「私も残ります……マウスマウンがまだ狙ってるかも知れません」
ミリアとマドリーナ、そしてパトリシアが留守番となる。
確かにパトリシアは、俺が知る限り街とか村には入っていなかった。
彼女がマウスマウンの幹部をシャインビリッジで殺ったのは、二月ごろのはず……半年くらいしか経過していないので、警戒するのは当然か。
エイトへの黙祷を済ませ、シャインビリッジへ入る面々。
俺、ニーナ、ゴール、サク、メルビン……そして旅団を離れるアイラだ。
※※※
シャインビリッジに入った途端、俺たちの目に映った光景は……破壊された建物と……そして悲しむ人々だった。
「ど……どういうことだ?」
ゴールが困惑する。
村の人たちから話を聞くと、イエローデーモンが現れ、撃退したものの、かなりの数の犠牲者が出たという事だった。
「魔……魔王……まさか……あの時、すぐ立ち去らなかったのは……」
ニーナの声が震えている。
ライジングサン号の見学とか……何か時間を引きのばしているようにも思えてくる。
クソ……そういうことか。
俺たちは根元でカラーデーモンを抑え続け、そして連戦のせいで倒しきれなったヤツらもいた。
そいつらはグリーンデーモンに変化し、シップビリッジやシャインビリッジに向かう。
本来であれば、それで終わりだったが、西の山道の出口地点に魔王は現れた。
ここで、俺たちが倒せなかったヤツが、イエローデーモンに変化し、シャインビリッジで被害が出た。
そして、俺たちがカラーデーモンを狩りまくって減らしたせいで、おそらく魔王への絶望と悲しみの供給量が減っていた。
その埋め合わせをするため、わざわざ俺たちと長話をしてたってことか。
魔王……ヤツが一枚上手だった。
「犠牲の無い利便など存在しない」とでも言いたいのか!?
重い空気が俺たち六人を包む。
誰も言い出せない。俺たちが余計な事をしたのではないかということ……だ。
西の山道の出口でイエローデーモン狩りをしなければ、魔王は現れず、村の人はいつも通りのグリーンデーモンの対応で済んだのではないか?
それでも不幸になる人は、多少出たかもしれない。でも、こんなに犠牲者は出さずに済んだんじゃないか?
本当はアイラのお別れの会として、食堂でパーッと食事をするつもりだった。
だが、食堂も臨時休業となっていて、食事会は流れた。
「私たちも……何か手伝いましょう」
代わりに、ニーナはシャインビリッジのボランティアとして働くことを提案。間接的にゼイル旅団が関わってることは確実だ。
何もしないわけにはいかない……ニーナはそう考え、皆も賛同する。
アイラも快諾し、彼はゼイル旅団としての最後の仕事をすることに決めた。




