第29話:狂戦士
決戦の日だ。
西の山道の出口で迎え撃つ。ヤツらが来るのは時間の問題だ。
そして……来た。
不倶戴天の仇、イエローデーモン。
デカいから遠くでも簡単に発見できる。相手の身長は250cmクラス。
だが、今回はそれより上背のある者がこっちに3人もいる。
敵の数はおよそ50体……前回より多い。ヤツらが俺たちを視認し、そして早足で接近してくる。
「思ったより多いわ。奥の手はピンチになった時に使ったほうがカッコ良かったけど、そうも言ってられない。……アキラ君……お願い」
「ああ……」
あんまりこの緊張感で言いたくはないが……
「なぁミリア……」
「うん」
「俺……やっぱりパトリシアのほうが……好きだ」
「く……く……な……なん…………なんですって~~~!!」
ミリアの身体が光に包まれる。
雄たけびとともにミリアの身体が一回りデカくなったようにも見える。
「フフフ……そんな怖い顔しちゃって……だから嫌われるのよ!」
「キィィィ!!」
パトリシアの追い打ち。
嫌がってたけど、ノリノリじゃないか。
光は強さを増す。ミリアは怒りで「ヒートアップ」を発動。
我を忘れたかのようにイエローデーモンへと突進する。
「いけませんわ……パトリシア。空いた左翼を埋めてください。私は右翼を守ります」
慌ててポジションチェンジを指示するマドリーナ。
突進したミリアのほうはといえば挨拶代わりのパンチ。
目の前のヤツの顔面に叩き込む。
イエローデーモンは腕をあげてガードしたものの「ヒートアップ」で攻撃力がマシマシのミリアの一撃はガードを貫通して、イエローデーモンの頭を破裂させる!
続けざまに横にいたヤツにも回し蹴り。狂戦士の一撃は胴体を真っ二つにする。
敵の塊に突っ込み、当たるを幸いイエローデーモンをなぎ倒していく。
あっという間に10体を粉砕した。
どっちがデーモンなんだかわからない暴れようで、さらに相手に襲い掛かっていく。
その間、こちらにも接敵してきたのは5体ほど。
パトリシアの正面に来たヤツはローキックで足を刈り取られ、マドリーナの正面のヤツは手刀でばっさりと腕を切り落とされている。
俺は俺で……フィアの事を思い浮かべていた。見ず知らずの迷子の俺の命を救ってくれて……そして一緒にミリアたちを探してくれた。
あの頃の出来事を思い浮かべ……感謝の『念』とともに発射する。
「火龍波!!」
『氣』と『念』が共鳴した火龍波は、サクの目の前のイエローデーモンを一発でふっ飛ばした。
それどころか火龍波は貫通し、後ろのヤツまで倒す。
ゴールとやり合っているイエローデーモンは爪の攻撃をゴールに当て、重症となるもののニーナがすぐに回復。
そうこうするうちに「ヒートアップ」が切れたミリアが、合計35体粉砕の戦果とともに左翼へ戻って来る。
マドリーナはど真ん中に戻り、パトリシアもポジションチェンジで右翼へ。
残りはおよそ10体。
エイトの火の玉魔法は殺傷力こそ劣るものの、ヤツらの視界を惑わせ、そのタイミングでミリア、パトリシアが血祭りにあげる。
そして俺の二発目の火龍波。こいつで一体を確実に仕留め、こうなってくると形勢は完全にこちらに傾く。
マドリーナはしっかりと相手の前衛7体をサク、ゴールとともに引きつけ、暴れまわって疲れが見えたミリアを尻目にパトリシアが右翼から攻勢に転じる。
一気に数を減らし、イエローデーモンは全滅した。
快勝といえば快勝だったものの、昼食時には一揉めしてしまう。
「ミリア……どうして勝手なことを……」
ニーナが咎める。
前衛は5人で行くと決めたのは団長のリーナであり、「ヒートアップ」を使って勝手にミリアが遊撃したのだからそうなる。
「どうしてですって?……想定の倍以上の数がいたからよ。アタシだって、そりゃあ普通に戦いたかったわよ。でもね、前線5人で支えられるのは頑張っても15体。残り35体が回り込んできたら、後衛に被害が及ぶ」
淡々と説明するミリア。
「ニーナさん……申し訳ないけど、ここはミリアの判断を理解していただけませんこと?」
マドリーナも上司としてフォローする。
「規律を乱されては困ります」
ニーナは譲らない。
「でも負けてしまっては意味がないわ。プロの現場の判断を優先して欲しい……」
で、ミリアも譲らない。
「まぁ今回はともかく、次回からは大人数相手の想定で陣形を組みませんか? こういう場合は援護のメンバーをグルッと囲む方円の構えがよろしくてよ」
「……そう……しますか」
マドリーナの提案にニーナが乗る。
「マドリーナが前衛、左翼をアタシ、右翼をパトリシア。アキラ君とエイト、ニーナを中心において、ゴールとサクが後ろを守って……」
マズイ。
ミリアの戦闘屋の悪いトコが出る。
「おいおい……ここはニーナが決めるとこだぜ、出しゃばんなよ」
そりゃゴールもそう言うよ……
「俺、後ろかいな……お払い箱っちゅうことか?」
「サク……あんたの動きを見てたけど……『捌き』……だっけ? あれ、力に差がありすぎると、よほどの達人でもない限り有効な手段じゃない。イエローデーモンには、だいぶ力負けしてたわよ」
「ミリア、ちょっと黙ってなさい」
暴走気味のミリアを、マドリーナが制す。
「…………」
不満そうに黙る。
ミリアも近衛隊隊長として……戦術の話となると、つい口を出してしまうのだろう。
「ニーナさん、ワタクシもミリアの案には賛成ですが、団長はアナタ……。決めてくださいませ」
「ライジングサン号を背にして……前衛5人……マドリーナさん、これでどうですか?」
このニーナの提案に対して、これまたパクパクと口を動かすミリア。
メチャクチャ何か言いたげだ。
「……ミリア、何か言いたければ、どうぞ」
「戦場とライジングサン号を近づけてはダメよ。グリーンデーモンまでは、それで良かったかもしれない。でも、あいつらの攻撃力は、ライジングサン号の壁を破壊する威力がある。戦場になって壁を壊されたら致命的よ。ヤツらは視覚を頼りに攻撃してくる。壁さえ無事なら最悪、中に隠れれば、やり過ごせる……」
「隠れるなんて……引いた時点で負けです」
「もちろん、そんなことにならないほうが良いに決まってるわ。でも、負けたとしても壁さえ無事なら全滅は免れることができる」
「負ければ死……私はその覚悟でやってます」
真っ向で意見がぶつかる。
玉砕覚悟で戦うニーナと、なんとか逃げ手も確保したいミリア。
「ニーナはん……ここはゼイル旅団……生前のゼイルはんの指揮を思い出すのがええんとちゃう?」
サクが口を出す。
「ゼイルはんも戦場からライジングサン号を遠ざけとったし……全滅負けを良しとせえへんかった……ここはゼイル団長の作戦を受け継いだほうがええ……」
俺はサクの発言にとても感心した。
どうにも引っ込みがつかないニーナに対して、ゼイルさんの名前を出せば丸く収まるじゃないか。
外様のミリアの意見を採用した格好より、ゼイルさんの作戦を受け継いだ……という建前にすれば、すんなりと皆が受け入れられる。
まやかしの言い方といえばそれまでだけど。
「わかりました。方円の陣で行きましょう」
結果的には、ミリアの提案通りの陣形となる。
あのカトランが即死する攻撃を放ってくるわけだから、ゴールとサクが最前線にいれば一発退場となる確率が高い。
ゴールとサクのプライドもあるが、「ゼイルさんは戦死者をなるべく出さない慎重な戦い方をしていた」という実績を前に、皆は納得した。
方円の陣のデビュー戦は、この日の午後だった。カラーデーモンの湧いてくる起点ということもあり、またしても50体。
ミリアがまたヒートアップを使うのかと思ったが、「二回目のお芝居じゃ本気で怒れない」とのことで使わず。
作戦がハマるか、否かの試金石となった。
人数の差により最初の数分こそ、綺麗に前線同士が戦ったが、結局、包囲される俺たち。
ミリアがゴールを、パトリシアがサクを守り気味に戦う。
初戦とは様相がかなり異なり、持久戦。
一体ずつ丁寧に対処し、敵戦力を削っていく。
我慢に我慢を重ね、そして後ろの包囲がちょっと薄くなったところで、守りを気にしなくてよくなったミリアとパトリシアが一気に攻勢に出る。
俺やエイトもゴールとサクの援護に徹していたが、その火力が前方へ集中できるようになり、形勢が一気に決まる。
方円の陣……まぁハマったといえばハマったか。
この日の晩、フロント部屋では、やや重い雰囲気となっていた。
本来、ゼイル旅団の仇敵であるイエローデーモンにリベンジできたのだから、盛り上がっても良いところではある。
「俺たちゼイル旅団……だよな?」
ゴールが言う。
昨日の夜と同じことを言っている。
今夜は結果を踏まえての呟きだから重いか。
初戦はミリアが無双して、敵を蹴散らした。
二戦目は我慢に我慢を重ねて勝利したものの、カトランやゼイルさんとともに五年間守ってきた前衛というポジションを奪われての勝利。
「まぁしゃーないやろ……才能なんてもんは平等やないさかい……」
こちらも前衛をクビになったサク。
「あきらめんのか?」
「そんなわけあるかい。戦いっちゅうのは場数をこなさなあかん。俺の『捌き』の精度が上がれば、もっと対抗できるはずや。……力はいらんねん」
シノの「力はいらんねん」と言われたことが不意に頭をよぎり、ギョッとする。
また心臓がドキドキしてきた。
俺は、本当にサクが天敵だな……
「サクの言う通りだ、ゴール。俺も火の玉の魔法を、もっと強力にできるように呪文を改良し続ける。お前も強くなれよ、きっとできる」
「はぁ……ありがとよ。…………それにしても、あのバケモノども……」
ゴールの言う「バケモノ」がカラーデーモンを指しているのか、ミリアたちを指しているのか……
と、ここで空気を変える一言が。
「ミリアさん……カッコ良かったなぁ……バケモノ蹴散らして……」
無邪気で空気を読まないメルビンは、カラーデーモンと解釈したようだ。
「でも、後ろのリボンが大きすぎて戦いの邪魔になると思うんだよね。小さいのも作ろうかな…………」
「フ…………ハハハ……そうだな、考えてもしゃあねぇし……寝るか」
あまりの噛み合わないテンションに、ゴールは思わず吹き出す。
これで吹っ切れたのか、ゴールはそう言って、皆も寝始めた。




