第28話:新生ゼイル旅団
勝手に勝利者への景品とされてしまった俺。
昼食後にパトリシアと二人きりとなる。ライジングサン号から離れた場所で座る俺たち。
こんなところでグリーンデーモンに襲われたらひとたまりもない……なんて普通は考えるんだけど、さっきの感じだと余裕だな。
「あ……あの、おめでとう。ミリアに勝つなんて凄いね……」
「…………」
沈黙のパトリシア。
浮かない顔で唇をかみしめている。なんか悔しそうだ。
「私……やっぱり木こりなんですよね……どこまでいっても林業の女……」
「ど……どういうこと?」
「あの人は……本物の拳士……。実力に差があります……」
「やっぱりそう思うの? 『氣』がないから?」
にわか仕込みの知識でパトリシアにマウントをとる俺。
「『氣』? それはなんですか?」
そうだよな。
システムエンジニアだった俺。
例えば日本で台所で水漏れしてた時に、どこのバルブを閉めたら良いかなんてわからない。配管屋さんなら基礎中の基礎なことでも業種が違えば、さっぱりだ。
彼女は林業の女で、ゼイル旅団に拳士の知識なく飛び入りした状態。当然、拳士の『氣』なんて専門外だから知らないのは無理もない。
ゼイル旅団の面々が教えてやれよ、とは思ったけど。
「拳士は瞬間的に『氣』ってのをまとって、カラーデーモンに大打撃を与えることができるらしいよ」
叩き切って切断していたパトリシアと、文字通り爆発的な威力のミリア。
その差は、彼女も感じていたみたいだ。
「どう……思います?」
どう? とは……??
これ、俺が背中を押してあげたほうが良いのかな……でもパトリシアにもプライドがあるだろうし……
「もっと強くなりたいの?」
「はい」
仕事でもそうだけど……できる人に、教えを乞うのが最速だよなぁ。
でも、その相手がそんなに好きじゃない場合は、難しい。
だけど、今回はゼイル旅団の存亡をかけた戦いになる。私情を挟んでる余裕はない。
俺も腹をくくった。
「じゃあ……やっぱりミリアから習うのが良いんじゃないかな……」
パトリシアも、この言葉を誘導したんだろう。
驚くというより、完全に予想している様子だ。
そして眉を下げ、困り眉になって口を開ける。
「アキラさん……弱くて情けない私……嫌いになっちゃいます?」
「いや……頭を下げにくい相手に頼めるって、凄いことだと思うよ」
「アキラさん……強くてカワイイミリアさんのほうが好きになっちゃいます?」
「う……」
「アキラさん……ミリアさんより私が強くなったら……好きになってくれますか?」
一気にパトリシアに詰められる。
「な……なんていうか……強いから好きとか弱いから嫌いなんてことはないよ……」
「…………アキラさんって……ズルいですね。そんなこと言ってると……私、ずっと追いかけちゃいますからね」
何か……俺、パトリシアにここまで好かれること……したかな……
シノと言い……俺は無茶苦茶強いパワー系女子に好かれるフェロモンでも出てるのかな?
「フフフ……困ってるんですか? 今日はこれくらいで許してあげます。私、決めました。強くなってイエローデーモンを倒して……そしてミリアさんをコテンパンにして見せます」
「あの……弟子入りするってこと?」
「そうです。もの凄く強くなってミリアさんを超えて……そうしたら……アキラさんはもう逃げられませんからね。フフフ……」
悪戯っぽく笑う……というか、俺にはもはや悪魔的な笑みに見える……
「全ての決着がつくまで……私、集中します。アキラさんを困らせることはしません……だから……待っててくださいね」
一転、彼女の背後に見えた怨念のオーラは掻き消えて、白雪の肌の奥から温かな光が滲み出るような穏やかな微笑みを浮かべる。
別れ際、俺の鼻をちょっとつまむ。
そして顔を急接近させる。彼女と目が合った瞬間、心臓が早鐘を打つ。
「お腹が空いてると……ご飯て美味しいんですよね……」
な……何のことだ……
不穏な一言を残して、パトリシアは去る。
その一時間後、ミリアとパトリシアはひたすら組手をしていた。
この日から毎朝……日が昇りかける頃に外を見ると、必ず二人の姿が見える。
決闘と言うよりもミリアが指導して、パトリシアが動きを確かめるような動きをしている。
「下ごしらえとは、このことですか……」
朝食を食べながら、ニーナがマドリーナに問う。
「ま、そうですわ。ここからの作戦は、ニーナさんにお任せします。好きに我々を使ってくださいませ」
つり目を伏せ、優雅にフォークを運びながら答えるマドリーナ。
メルビンが作ったスーツと相まって、あらためて見た目だけはお嬢様だと思う。
ニーナに全権委任するマドリーナ。
「わかりました。これからはイエローデーモンを想定した布陣にします」
この会話の直後、ミリアとパトリシアが戻って来る。
二人とも汗だくだ。
その様子を見ながら、ニーナが作戦を語る。
「確実に……確実に今はイエローデーモンの所に近づいています。次のグリーンデーモン戦ですが……前衛はマドリーナさん、パトリシア、ゴール、サク、ミリア……お願いします」
ゼイルさんはパトリシアを遊撃に使っていた。
それはそれで、あの時はシルビアの麻痺とか、レオの眠りの雲とか……後衛からの搦め手があったから理にかなっていた。
新生ゼイル旅団は、豊富な前衛で堅実な戦い。
そんな方針を示していた。
「後衛は私とエイト、アキラ。ライジングサン号の中はメルビンとアイラ……以上です」
ニーナが言う。
「えっと……アキラ君……本当に戦えるの?」
心配そうなミリア。
そりゃあ、このコの知ってる頃の俺といえば「頭の中身お花畑」だったワケだから無理もない。
「主力か? っていやぁ……そうじゃねえけどな……俺たちと一緒にずっと戦ってきた」
「そうそう……心配御無用だぜ」
ゴールとエイトのコンビがフォローしてくれる。
助かる。
俺自身いけるって言ったところで説得力ゼロだから。
そして、ほどなくして、グリーンデーモン100体との遭遇だ。
ライジングサン号の進路は中央。
やはりゾロゾロと団体さんがおでましというワケだ。
ニーナ采配により、パトリシアも慣れない前衛だ。
ど真ん中をマドリーナが守る。その両脇にゴール、サクがおり、最左翼にミリア、最右翼にパトリシアだ。
久々に見るマドリーナの戦い。
本当に安定している。タンク適正全振りの面目躍如。
ゴールやサクが危なくなると、即刻「かばう」が発動してガードしてくれる。
ミリアもそうだが、彼女も本物の軍人。戦闘勘というか……本当に良いタイミングで味方をフォローする。
そうなってくると、両翼のミリアとパトリシアが暴れ放題だ。
目を引いたのはパトリシア。
以前はグリーンデーモンをナタのような切れ味で切断していたように見えたが……
触れるものすべてを破壊するような蹴りに変貌していた。
早くも『氣』をまとい始めたか……習得が早すぎるよなぁ。
エイトは専門である火の玉の魔法をコンスタントに打ち続け、仲良しのゴールの援護をする。
俺はといえば……実は「特訓」をしている。
余計な事を考えながらの火龍波。
こいつをサクの正面の相手に当てる。
フィアとの生活を主に思い浮かべながら……だ。
真面目にやれって?
いやいや、これはマルチタスクの練習だ。全然違う事を考えながら、戦闘は戦闘として後衛の仕事を果たす。
しばらく戦うと、ニーナもマドリーナのおかげでケガ人が出ない事を確信。
攻撃力をアップさせる援護魔法をサク、ゴールにかける。
こうなってくると、前衛の攻撃力が飛躍的に上がり、大量に押し寄せてくるグリーンデーモンは近接した瞬間に魔導石となる。
サクも一発二発と攻撃を当て、俺の火龍波でトドメ。
数分後には全てのグリーンデーモンが溶けていた。
会心の勝利。
どう考えても、マドリーナの安定感が勝因だった。
「こいつは、なかなかな勝利だな……名采配だったぜ、ニーナ」
ゴールが声をかける。
「ええ。この調子でいけば、きっと……ありがとう……ゴール……」
ゴールの腕をヒシッと抱き、頭をつける。
「ゼイルさんに……カトランに顔向けできるよう…………」
最後のほうは声が掠れて何を言ってるかはわからなかったが、感極まっていた。
一方では、パトリシアがジトーっとミリアを見ている。
「ミリアさん……出し惜しみ……してないですよね?」
「なんでよ」
「私の方が強くなったら困るから……手を抜いて教えてないですよね?」
「アタシがそんな陰湿に見える? こと戦闘に関しては、そんなこと絶対しないわよっ!」
「……もう少し……威力が出ても良いかなって思うんですけど……」
「足に『氣』をまとうの難しいんだから、しょーがないのよ。でも……それはパトリシアの伸びしろよ。もーっと強くしてあげるからっ!」
疑惑の目を向けるパトリシアに、ミリアは明るく返す。
こりゃー、完全に陰と陽の会話だ……
「ホントですか?」
「極太足なんだから自信持ちなって! 一緒にがんばろ~!」
「もー……気にしてるんですから、そんなこと言わないでください」
以前のような一触即発感はないか。
毎回の早朝練習で、絆が深まったのか……?
マドリーナの「この手の人たちは、拳で会話するしかない」が本当にハマるとは……こういうトコは脳筋娘だな。
俺は俺で……地味に戦果をあげていた。
余計な事を考えつつの火龍波……命中精度は戦いの後半に連れて上がっていった。
その後もグリーンデーモンの団体さんと幾度となく戦うことになったが、危なげなく勝利をおさめる。
魔導石は大量に集まり、ライジングサン号へと格納されていく。
あの忌まわしきイエローデーモン戦以降……しばらく重かった空気は、相当軽くなっていく。
勝利と時の流れが、敗戦の傷を癒す薬ってところか。
いよいよ……かの地に着く。
旧ゼイル旅団が壊滅した地に。
俺の腕時計を見ると、日付は8月14日。
気温も暑いが、戦いも……アツくなりそうだ。
決戦は明日。
ニーナはこの夜、祈りを捧げるように手を組み、空に向かって何事かを呟いている。
ゴールとエイトは景気づけに歌を歌い、普段、皆の食事を作っているメルビンとアイラも特別料理で士気を高めている。
また、メルビンは全員に喪章を配ってくれた。
「いよいよだね……アタシさ……ちょっとした秘策があって……アキラ君とパトリシアも協力して」
「ん? なんだ……」
ゴニョゴニョと耳打ちする。
「私……そういうのはあんまり好きじゃないです」
パトリシアはそう言うと、下を向いて人差し指同士をチョンチョン合わせてる。
「良いの! 本物の拳士は勝利のために手段は選ばないのよ!」
エッヘンと胸を張るミリア。
「ま……でもコレは奥の手だから……アタシがお願いしたら……やってね」
この日の夜、フロントの男部屋ではゴールが呟く。
「俺たち……まだゼイル旅団……だよな?」
「ああ……ニーナが指揮を執っている以上、そうさ。構成はずいぶん変わっちまったけど……」
エイトが答える。
「昔は良かった……なんて言ったらダメか……その昔の体制で……目的が果たせなかったんだから……」
「新生ゼイル旅団だな……今度こそ……悲願を達成だ。そういやゴール……ニーナとはうまくやってんのか?」
「俺はカトランの代わりにはなれねぇよ……でも、俺は俺で頑張るさ……この戦いで一区切りもつく……はずさ」
ゴールとエイトの会話……なるほど、よくある話か。
最愛の人を亡くしたニーナ……それを献身的に支えたゴール。いつの間にかニーナの気持ちはゴールに傾いてたんだな。
全てがうまくいくことを願いながら、俺は眠りについた。




