第27話:勝利の報酬
この日の夜、フロント側の男部屋でも声が上がる。
「なんか気持ち悪い筋肉女が二人も増えちまったな……」
アイラが不満の声を漏らす。
「でも……強そうだし……えっと……特にミリアさんは優しかったよ……」
メルビンはフォロー。
服作りをしたメルビンは、ミリアと随分会話が弾んだようだ。デザインがどーだこーだと……
それを聞いてミリアと出会った初日のことを思い出す。
俺の服を褒めてくれたっけ。服にはこだわりがあるんだろうな。
「あいつらは多分強い……強いけど……俺たちはゼイル旅団だ……」
ゴールは呻くように言う。
「そうやな……連携がウリの……特別なチームや……」
サクも同調する。
彼らにしてみれば、ポッと出の女二人にゼイル旅団の伝統を乱して欲しくない……そういうことなんだよな。
単純な強さを重んじるか、これまでの五年をかけて作り上げた伝統を重んじるか。
コンピューターゲームのRPGで、「強い人が仲間になった……わーい」とかそういう軽いもんじゃない。
現実って、うまくいかないもんだな。
そう思いながら眠りにつく。
そういえば……リア側の女部屋、大丈夫かな……と思いながら。
翌日、マドリーナとミリアを加えたゼイル旅団は、今後の作戦について話し合う。
「イエローデーモン……ヤツらを退治します」
ニーナは言う。
「いや……ちょっと焦りすぎじゃないか……シルビアもティルも失って……魔導士の攻撃陣が薄いぞ」
エイトはこの旅団唯一となった攻撃系魔導士としての冷静な意見を述べる。
「俺はひと勝負しても良いと思ってる」
一方、ニーナに賛同するのはゴールだ。
さすが「全力でニーナを支える」と言っただけの事はある。
「今のこの旅団は拳士が5人。アキラの天道を魔導士にカウントすれば魔導士は3人……この編成に合った最適な作戦を立てるべきですわ」
軍事作戦では一家言ありそうなマドリーナ。
「マドリーナ……アキラ君を戦わせるの!?」
「実際に戦うかはさておき……アキラは天道が使えます。あくまで駒としては魔導士……ということですわ」
真っ先に過保護なミリアが反応し、マドリーナは区分が魔導士であることのみ言及する。
「そうですね。編成は私がやります」
ニーナが言う。
この旅団は自分が引っ張る。その決意に満ちている。
慎重論を唱えたのはエイトだったが、結局、彼も折れ、目標はイエローデーモンに確定する。
「作戦はニーナさんにお任せしますわ。ただ……下ごしらえは、ワタクシに任せていただけますか?」
マドリーナはニーナに笑いかける。
「下ごしらえ?」
「美味しい料理を作るためには、準備が必要ですわ……」
昼食が終わり……マドリーナのいうところの下ごしらえが始まる。
ゼイル旅団の面々は、ライジングサン号の中で窓を見ている。
俺もだ。
外に立つのは……ミリアとパトリシア。身長は10cmくらいパトリシアが高いが、ミリアは上半身のデカさで負けていない。
「マドリーナ……大丈夫かな……」
「アキラ、心配ご無用です。この手の人たちは拳で会話するしかないのですわ……それとニーナさん……大怪我したらお願いしますね」
「はい……でも何故……」
マドリーナが二人の組手を提案し、ミリアもパトリシアも快諾した。
「信頼できない仲間同士では良い戦いはできませんの……」
で……結論が殴り合いっていうのが、お嬢様にしては発想がぶっ飛んでないか……
「あいつ……パトリシアに蹴り殺されるやろな……」
サクが呟く。
彼はミリアの強さは見てないので、パトリシア有利と見ているが……
「はたしてそうかしら……両者! 始め!!」
ライジングサン号の窓は全開で、マドリーナの声も通る。
ギャラリーがざわつく中、ミリアとパトリシアが動く。
ミリアが左ジャブを見せながら、右ストレート。パトリシアは右にかわしながら、右のローキックを返す。
バチバチにやり合う二人。
「凄い……互角だ……」
俺は呟く。
「アキラはそう見える?」
マドリーナがそれに対して異論があるような含みで返す。
専門的なことは俺にはわからない……わからないけどパトリシアの蹴りを受けて無事なのは初めて見るし、ミリアのパンチを受けて人型を保っているのも初めて見る。
「パトリシアと戦える奴がいるなんてな…………」
「二人とも……頑張って……」
呆れた様子のゴールと、両者を応援するメルビン。
そして、この二人の戦いはある意味伝説級となる……
「いけない……ブルーデーモンよ!」
ニーナがヤツらを発見し、ライジングサン号を出ようとする。
「心配御無用……ですわ」
旅団のメンバーを制止し、二人の戦いを見守るように言う。
ミリアの右ボディがパトリシアに直撃。ちょっと痛そうなパトリシアだが、ミドルキックを返す。
さらに的確に左ジャブを数発当てるミリア。
……と、そこにパトリシアの左脚にブルーデーモンが襲い掛かる!
のだが、ヤツを左脚にくっつけたまま、衰えないスピードで、そのままミリアの右わき腹へキック。
ブルーデーモンは二人の身体に挟まれて潰れてしまう。
ミリアも膝攻撃を、パトリシアにお見舞い。
パトリシアを攻撃しようとしたブルーデーモンごと。ブルーデーモンは爆散し、パトリシアは腹筋で膝を受けきる。
「な……なんなんだ、あのバケモノどもは……」
驚愕のアイラ。
全くブルーデーモンの存在を意に介していない。
無視して攻撃しあい、そして、たまにヤツらが巻き込まれると、あっという間に魔導石へと化す。
怪獣同士のサシの勝負に割り込むという愚行は、死という代償を払うことになる。
俺……最初はブルーデーモンに殺されかけたんだよな……次元が違いすぎる。
しばらく戦っていると、ミリアはここで攻撃を止めてしまう。
「な……なんのつもりですか!? 勝負はまだついてませんよ!」
普段はたれ目気味の目を吊り上げて、パトリシアが叫ぶ。
話している間にも、ブルーデーモンがミリアに近寄っていく。
「あんたの実力はよくわかったわ。……素人だね。これ以上は無駄よ」
そう言いながらミリアは拳を握って……ノールックでブルーデーモンの脳天を叩き、一発で片づける。
「拳士の訓練……受けてないでしょ? 動きでわかる。アタシは本物の拳士。素人に手を出す気はないわ……」
「逃げる気ですか!」
「そうね。ここはあんたの勝ちで良いわ。それと……戦い方、教えて欲しければ……教えてあげるから」
「な……なにを……くっ!」
会話の間にウロチョロしていたブルーデーモンを蹴っ飛ばし、これまた爆散させるパトリシア。
「あんたの蹴りは……こうなのよね……」
そう言いながらブルーデーモンを蹴っ飛ばす。
もちろん即死だ。
「でも拳士の蹴り方は……こうよ!」
もう一体を蹴っ飛ばす。
即死だ。
全然俺には違いがわからない。
「そういやパトリシア……木こりだったな」
そう切り出したのは、ライジングサン号の中にいるゴール。
彼には違いがわかるのか?
「『氣』をまとってない……まぁ、まとわずにグリーンデーモン相手に勝てるんだから、やってられねぇけどな……」
「『氣』!? どういうことだ?」
聞き覚えのある単語に反応する俺。
「いや……拳士だったら『氣』をまとってるって話さ。アキラ、知らなかったのか?」
「そんなの初耳だよ……俺の火龍波は『氣』を放ってるけど、まとうなんてこともできるのか?」
「はぁ? 天道のエネルギー源は『氣』ってことかいな? 初耳やで! 道理でカラーデーモンに効くはずや」
サクが驚きの声をあげる。
お互いに初耳ラッシュ。
確かに拳士が『氣』をまとうことを俺は知らなかったし、俺は俺で火龍波が『氣』をぶっ放していることを説明してなかった。
俺は考え込む。
ひとつわからないことがあった。ミリアは最初、「素手戦闘を主とする拳士」と教えてくれた。
ここで俺が思ったのは、いくら素手で強い、そして鉄が貴重だからと言って、石斧とか木の槍とかの方が優位性があるんじゃないかってこと。当時は筋肉隆々の巨人の世界に来たと思ってたから、それなりに納得したが、一般人がいるという世界ならば、道具を使った方が強いんじゃないかと。
そこで、『氣』だ。
俺はこの前、火龍波がカラーデーモンに対して特効があると推測した。
当たらずとも遠からずという結果だが、『氣』のほうがカラーデーモン特効だったってことか。
だからカラーデーモンとの戦いが主なこの世界には、石斧とか木の槍がなかったんだ。
逆に言うと人用の武器がないってことで、人間同士の戦争みたいなものはあんまりないんだな。とある脅威にさらされると、人類は一致団結する……そういうことか。
「『氣』をまとえないのに放てるなんて無茶苦茶やな……なんか火の効果もあるみたいやし……」
サクの言い分だと「足し算ができないのに割り算ができてる」くらいの感覚みたいだ。
まぁそうか……
どっちが難しそうかって話であれば、火龍波の方が上っぽい。
その後、ゴールから拳士はパンチやキックのインパクトの瞬間にうすーく『氣』をまとうことを教えてもらった。
腕の良い拳士ほど、瞬間的に『氣』をまとい、体力の消費をおさえることができるんだそうだ。
また、俺も拳士になれるか聞いてみたが、もやしボディの俺はやめといたほうが良いとのこと。
確かに……巨人女たちのせいで感覚が狂ってるが、ゴールもサクも日本でよくみた格闘家の体つきをしている。俺には後方支援の火龍波と、力を必要としないらしい『捌き』のほうがお似合いってことか。
「やーめたっと……。さ、皆が待ってるよ」
ミリアは残っていたブルーデーモンをゴミのように扱って葬り去り、中に入って来る。
結局勝負は……ミリアの試合放棄でパトリシアの勝ち……か。
しかし勝ちとは言え、パトリシアは頬を膨らませている。
「う~~」
スッキリとはしないのだろう。
「マドリーナさんが言う下ごしらえって……」
ニーナは何か言いたげだ。
「まだ終わってませんわ。じきにわかります」
マドリーナは微笑む。
あの決闘から三日。
ライジングサン号は西へ西へと進んでいる。
「次の戦いだけ……ワタクシに任せてもらえませんか? ニーナさん……」
「私がここの団長ですよ」
「わかってますわ。一回だけ…………」
頭を下げるマドリーナ。
「おい! 前方にグリーンデーモンだ……」
ゴールが叫ぶ。
旅団は戦闘準備にかかる。
「さて、皆さま……先ほど言ったとおり、この戦いだけワタクシに任せて下さる?」
「なにするの?」
俺は聞いてみる。
「皆様はここで待機なさってください。ミリア……アナタは出なさい」
「やったー! このカワイイ服で戦えるなんてテンションアガる~」
メイド服は全然戦闘服じゃないけど、彼女からしたら対カラーデーモンの装備って位置づけみたいだ。
ガッと両手の拳同士を合わせる。
敵を発見して停止したライジングサン号のリアの扉を開け、彼女は軽い足取りで出撃する。
ゼイル旅団に入団後、対グリーンデーモンとしては、ミリアの初陣だ。
「ミリア、パトリシア……聞こえますか? ……この戦い……グリーンデーモンを多く打ち取ったほうに……アキラと一時間二人きりでお喋りできる権利を差し上げますわ~~!!」
なんじゃそりゃ。
「ホント!? じゃあ負けらんないわねっ!」
「気合……入りました」
外から聞こえる二人の声。呆れる俺。
「ニーナさん、ゴールさん、ミリアとパトリシアの倒した数……お手数ですが数えてくださいまし」
グリーンデーモンの数は、およそ50体と言ったところか。
戦い……というより殺戮の時間が始まる。
「ず……ずるいわね、アンタ!」
「早い者勝ちです!」
圧倒的なスピードを誇るパトリシアはグリーンデーモンの塊に突っ込んでいき、自慢のキックを炸裂させる。
彼女の剛脚が通過するたびにグリーンデーモンは切断されていく。
あっという間に15体。
そしてようやくミリアが戦線に参加。
ミリアの拳はつぎつぎにグリーンデーモンを爆散させていく。
蹴りも放って、これまた爆弾でも仕込まれたかのようにヤツらは木っ端みじんになっていく。
これが拳士の『氣』の効果ってヤツか。
予備知識があると見方も変わる。
結局あっという間にグリーンデーモンたちは全滅して全て魔導石へと変わっていた。
観客席から見た俺の感想としては、並べた豆腐を片っ端からベチャベチャと手で潰すような……って感じだ。
「あいつバケモノだな……パトリシアが入った時も同じこと思ったが……」
呆然とした様子でゴールが言う。
「ま……まぁミリアもあれくらいやるかな……なんて……ハハハ……」
「バカを言え! アキラは知らねぇけどよ……パトリシアの加入前……レオが眠らせたグリーンデーモンにトドメを刺そうとした時によ……俺がヤツの首絞めたんだ。でも……息の根を止める前にヤツが起きて大暴れしたことがあってな……」
カラーデーモン特効の『氣』を使えるゴールが首を絞めて倒しきれない?
「それくらいヤツらは丈夫……それなのに簡単に……」
これまであまり気にしてなかったけど、確かに俺がゼイル旅団に入った時には、麻痺したり、眠ってるヤツのトドメはカトランかパトリシアかティルの火の玉魔法だった。
ゼイルさんの話だと、グリーンデーモンは防衛軍みたいな組織でようやく対抗可能って話だし。
本来はこんな「多く倒したほうの勝ち」とかいうゲームの対象になるような相手じゃないのだが、結局「ゲームスコア」としては、パトリシア35体に対してミリアが16体。
最初のリードが大きく、倒した数の競争でもパトリシアが勝利をおさめた。




