↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/49

第26話:晴れのち猛吹雪

俺はパトリシアと二人で出発する。

心なしか彼女は上機嫌だ。

「私……木こりをやってましたから……山道は任せてください」

声は弾んでいる。


「ずいぶん機嫌が良いなぁ……」

「だってアキラさんと二人きりでデー…………いや……なんでもないですっ!」

慌てて大声を出す。動揺して顔も赤い。

両手の人差し指同士を合わせながら……こっちをチラチラ見てる。


「えっと……カラーデーモン……出ますよね。その時は私が守るっていうか……あの、とにかく任せてください」

何を言ってるんだ、このコは……

「ま……この辺に出るのはブルーデーモンだから、俺でもなんとかなるよ」

初戦は、サシ勝負で敗れ去った。


だけど、グリーンデーモンやらイエローデーモンやら連戦を重ねるうち、火龍波を好きな時に打てるようになり、そして命中率は飛躍的に上がっている。


さらに初めのうちはピンポン玉くらいの大きさだったが、今やテニスボールくらいの大きさにまでなっている。今ならサシ勝負限定で勝てるはず。

いっぱい来たら、無理だけど……


「頼もしいですね……じゃあ、私が守ってもらおうかなっ」

太陽のような笑顔で返す。

頼もしい……か。


確かに日本からここに来た時と比べれば……随分変わった。人との出会いが俺を強くした……素直にそう思う。

そんな話をしながら、川を左手に確認しつつ北上する。


と、ここでいったん止まる。

川の景色を確認して、見覚えがあるかを見て、少しずつ北上という作戦だからだ。


大きな岩がゴロゴロと転がっている河原。

一休みも兼ねて、ここで座って休憩する。


大きな岩に川……規模は違うけど、シノとの別れ際の光景を思い出す。

そこでフト……彼女との何気ない会話が頭の中に流れる……それは『氣』と『念』が共鳴した時、火龍波の威力が増幅するというものだ。


「どうかしたんですか?」

こっちを覗き込んで見てくるパトリシア。

背が違いすぎるので、かなり屈みながら。


「ちょっと思い出したんだ……火龍波の威力を上げる方法を……」

「へぇ……」

「『念』……感謝の『念』を込めると……威力が上がるって……」

「……素敵な方法ですね。天道って魔法とは全然違うんですね」


なんてことのないパトリシアの感想なんだが、ここで俺はピンときた。

ブルーデーモンとの初戦、俺はヤツの顔をぶん殴った。

二戦目、俺は火龍波を当てることができた。


その時、威力に明確な差があった。

シノの説明では殴るのと同じ威力……のはずなのに、俺の火龍波はヤツの頭をふっ飛ばした。


魔法は「魔」の法……つまり魔王の力であり、「呪」文……呪いの言葉を使って発動する。

一方、天道は感謝の念を込めると威力が上がる……なんというか「魔」と対極にいる力に思えてきたのだ。


つまり、天道の火龍波は「魔」の属性を持つカラーデーモンに対して、特効があるのでは?

「感謝……か」

「私だったら、いっぱいあるのにな……あの……アキラさんに……」

俺が考え事をしていた横で、パトリシアはモニョモニョ言っている。


俺は思い立って、大きな岩の前に立つ。

「え?」

パトリシアは驚いて、俺を見つめる。


俺は黙って火龍波の構えをとり、岩に向かって放つ。

ガッ……

なるほど……岩に対して殴ったら、これくらいだろうな……という衝撃だ。


そこから俺は、パトリシアを見つめる。

目が合って、なんだかよくわからないけど、パトリシアは顔を真っ赤にしている。そんな彼女を気にも留めず……俺は思いを込める。


ブルーデーモンに背中から切り裂かれた時、俺は死を覚悟した。そんな俺を……恐らくかなり遠いところから駆けつけてくれたパトリシア。

そして傷を癒してくれたニーナ……思い出を反芻しながら、感謝の『念』を抱く。


この状態で、俺は二発目の火龍波!

ドカーン!!

凄い音と共に、目の前の岩が砕ける。


「す……凄いですね……」

その威力を目の当たりにしたパトリシアが、目をまん丸にして声を上げる。

……凄い。


「ホントだったんだな……」

俺も威力に驚いた。

シノの言っていたことは本当だったんだ。


今後、戦う上でのヒントをもらった格好だ。

レッドデーモンもぶっ飛ばせるかもしれない……って、それはさすがに調子に乗りすぎか。

ちょっと妄想した俺はぶっ壊した岩とは別の大岩の横に座って、もたれかかる。


パトリシアもその横に座って、俺の言葉を待つ。

「でもなぁ……これ、実戦で使えるのかな……」

疑問を口にする。


「確かに感謝の気持ちを込めたら……火龍波は威力が上がった。でも生きるか死ぬかの実戦でそんな余裕……あるか……な?」

「そうですよね……」

同意するパトリシア。


戦場で思う事といえば、「仲間が危ねぇ!」とか「相手に当てなきゃ」とか、もっと端的に言うと「死ねぇ!」とか。

感謝と対極の感情になっていることが多い。


はたして、うまく使えるのか。

シノは「うちは火龍波を使いこなせてないねん」と言っていたが、これは確かに実践するのが難しい。


こんな談義をして、俺はスッと立ち上がり、フラッと川を眺めたのだが……

ここから一気に大事故? ……が発生する。


「アキラ君~~!!!」

「え?」

ス……

「え?」

ドカーーーン!

見覚えのある大女がパトリシアのケツに……激突した。

「な……なんなの!? この剛ケツ女は~~!!」

だいぶ汚れた水色のパジャマ…………

「ミリア!?」

「ふえ~~~~ん…………心配……心配したんだからー!」

鼻血と涙を流しながら、俺を抱きしめる。

うん……大事故だ。


俺はふと岩の陰から姿を現した。

なにやら轟音が遠くで聞こえたので、様子を見に来たらしいミリア。


ミリアは俺を発見し、ダッシュで飛びついた。

……のだが、岩の陰から俺の横に移動してきたパトリシア。


俺の身長に合わせてダイブしたミリアは、ちょうどパトリシアのお尻に激突。

岩みたいに硬い彼女のお尻に鼻をぶつけたミリアが出血。


えっと……感動の再会を思い描いてたんだが、とんでもないことになったな。


※※※


俺とミリアとパトリシアは、テクテクとねぐらへ向かって歩いている。

何となく、気まずい雰囲気だ。

ミリアが俺を抱きしめた時から、パトリシアの目から光が消えたように思える。


「とりあえず生きてて良かったわ……でも……そのカワイイデカケツ女は……誰よ?」

ミリアはミリアで、ちょっとだけ怒気を含んでいる。


「俺……ブルーデーモンと戦って……殺されかけたところをさ……このコに助けてもらったんだ……」

嘘は言ってない。


フィアとの出会いも、シノとの出会いもすっ飛ばしてるけど。

決して忘れてないし、感謝もしてるけど話すのは今じゃない……そう直感した。


「うーん……そうなの? じゃあ良いか……アキラ君を助けてくれてありがとう。アタシはミリアっていうの……」

「私は……パトリシアです」

事務的に返すパトリシア。

さっきまで後ろに、太陽サンサンのお花畑が見えていたのに……今、彼女の背後にはブリザードが吹き荒れている。


何だ、この気まずい感じ。

「あ……あのさ……俺がいなくなったあと……火は…………どうしたの?」

たまらず、俺は当たり障りのない話題をミリアにふる。


フィアは火おこし道具を持っていたし、シノには火龍波があった。

それに対して、ミリアたちは俺のライター頼みだったハズだ。


「すっごく困ったんだよー……でもね……寒い時に手をゴシゴシするジャン? いっぱい擦ったらあったかくなるのはわかったから……木同士で全力で擦ったら熱くなって火がつくかなーって思ったの」


やっぱり地頭が良いというか、機転が利くというか……自力で摩擦熱で着火するところに到達するのは凄い。大男総身に知恵が回りかねっていうのは彼女たちには全然当てはまらないな。


「毎回めんどーだったけど……なんとか火はつけられたよ。でも、たき火よりアキラ君のほうがあったかかったなー」

チラッとパトリシアを見ながら、ミリアがニヤけて言う。


「……それに気づくなんて凄いなー。自力で火が起こせるなんて……」

冷や汗をかきながら、感心する俺。


「田舎では普通のことですよ」

それに冷たく言い放つパトリシア。

「あーら……アタシはモノを知らなくて……洗練された都会の女でゴメンねー」

言い返すミリア。


っていうか、元々ミリアもヒルビリッジ出身の田舎者だった気がする。

……二人の目線のぶつかりあいに火花が見える。

く……頼む……何とかしてくれ……マドリーナ……。俺は今から会えるであろうフェルナンドのお嬢様に期待をかける。


ほどなくして、あの懐かしいねぐらに戻る俺たち。

「アキラ!? アナタ、よく無事で……」

こちらもだいぶ汚れたピンク色のパジャマ……マドリーナだ。


それだけ言うと、口を手で抑え……泣……泣いてんのか?

あのマドリーナが!?

たった一週間一緒にいただけの「平民」のために?


「た……ただいま。迎えに来たよ」

「…………クスン……ミリアに一本取られましたわ……。何度も移動しようって言ったのに……部下のくせにちっともワタクシの言うことを聞かなかったのですわ……」

「だって移動したら、アタシたちのいる場所……アキラ君がわからなくなっちゃうジャン」


ひたすら俺を信じて三か月……ただただ俺を待っててくれたのか……

「アキラさん……早速ですが、彼女たちの意志も確認しないと……」

あくまでも事務的な対応を崩さないパトリシア。


「ミリア、マドリーナ……えっと……俺は今、ゼイル旅団ってところに所属していて……もし良かったらさ……入ってくれないかなって……」

「もちろん無理にとは言いません」

即座に付け加えるパトリシア。


もともと「ミリア、マドリーナをゼイル旅団に迎え入れる」というミッションだったんだが、そんなモンはどうでもよくなってるのかもしれない。


「……その旅団と言うのは、どういう方々なのですか?」

しばしの沈黙と涙を拭った後、気持ちが落ち着いたマドリーナは聞く。

「我々は魔王打倒を目指し、結成した旅団です。非常に危険な旅となりますので無理にと……」

「入るっ!!」

淡々と説明するパトリシアに対して割り込んで入団を宣言するミリア。


「ワタクシたちも、もう限界に近かったから、ちょうど良かったですわ。こんな服じゃ冬は越せませんから……それと……我がフェルナンド家は常々、魔王打倒すべし……と主張しておりましたの」

こうして、ミリアとマドリーナはゼイル旅団に入ることになった。


帰り道、火花を散らすミリアとパトリシアを他所に、俺はマドリーナに真相を話す。

国と魔王がグルであり、魔法は魔王なくして成り立たないことを。


「もし、お父様が生きていて真相を知ったとしても、打倒魔王を掲げたと思いますわ。下衆な話ですが、ラウル家は魔法使いが多く、フェルナンド家は魔法を使えない者が多かったから……魔王を倒して魔法が使えなくなれば、ラウル家は力を失う……そう考えたハズです」


彼女は自嘲気味に話す。国民の生活の心配より、権力優先……より生々しく感じる。


「ただ、ワタクシは誰かが死ぬ前提の利便は正すべきだと思いますわ。だから結論は変わりません」

凛とした声。

ニーナの決意の内容を知らせる前に、同じことを言ってくれて俺は安心した。


理想主義の彼女は、ひょっとしたら名君になれる器なのかもしれない。


ライジングサン号に戻った時には、ちょうど昼となっている。

「うわーっ! ……でっかい!……基地みたいだね……」

部屋の中に入る二人。


そして、昼食時だったのだが……

「アキラさん、たまには御者席で食べましょ……」

パトリシアは手を引いて、俺を御者席に誘導する。

「な……なんか……」

なんか変だよと言いたいが、それ以上は特に言えない俺。


二人で並んで食事を始める。

「アキラさんは……私のお世話係……ですよね?」

ニコッと微笑みかける。

艶やかな真っ黒の髪を耳元で切り揃えたボブカットが、彼女の顔立ちを縁取っている。


「私……ちょっと手がつかれちゃいました……食べさせてください」

俺に向けて、アーンと口を開ける。

「ど……どうしちゃったんだ、パトリシア……」

「職務放棄ですか……?」

「わ……わかったよ……」

俺は彼女のフォークで肉を突き刺し、パトリシアに食べさせる。


こ……これをミリアに見られたら……

「ミリアさんが来たから……私は用済み……ですか?」

もぐもぐと肉を食べたのち、こっちを見て話しかけるパトリシア。

これから捨てられそうな子犬みたいな目だ……


「い……いや……そんなことはないよ。皆で仲良く……やっていこう」

「そうですよね?」

そして再びアーンと口を開ける。

反射的に俺は食べさせる。


もぐもぐ食べながら、パトリシアはジーッと俺を見つめてくる。

二人、並んで御者席に座っていたのだが……彼女の左足が俺の足の間に入って来る。

俺の胴体の三倍くらいある剛脚の下になってしまった俺の右足は潰されるかと思ったが、まだ大丈夫だ。


「私……ゼイル旅団に飛び入りで入ってしまって……あまり良く思われてないなって、すぐ感じました……」

俺の顔をしっかり見ながら話し始める。


「うまく喋ることができなくて……そしたらますます皆から遠ざけられて……そう思ったら余計に私も話すことができなくなって……」

彼女と初めて話した時のことを思い出す。確かに挙動不審なところはあった。


「でもアキラさん……すごく普通に話してくれて……私……凄く……凄く嬉しかった……」

目がウルウルしてる。

「遠くに行かないですよね?」

「いや……行かないよ……」


何を言ってるんだ、このコは……

「もし行ってしまうのなら……」

そういうと俺の右足に絡んでたパトリシアの左足は、メチャクチャ硬くなっていく。

こんな体勢で捻じられたら……


「いえ……どこにも行かないってことですもんね……ふふふ……」

硬くなった足は柔らかくなっていく……

足を元に戻して俺の足を解放すると、再び口を開けるパトリシア。


背筋が寒くなる。もしかして……俺の前任者……つまり彼女に食事を運ぶ係だったレオも、こういう目に合ってたのか?

俺と違って大女に慣れてないレオは、きっと最初は恐怖したに違いない。


その怖がってる状況下で、この距離の詰め方されたら、食事係がイヤになるのもうなずける。

俺は震える手でフォークに肉をさし、パトリシアに食べさせる……が……


「見て―! メルビン君が服を作ってくれたの~~って…………な……何してるの……」

ミリアだ。

彼女は胸元にリボン、白いエプロン上の布にベースは黒の……日本で言うメイド服っぽいものに着替えていた。


だが……マズイ……ミニスカで生足状態だったけど……メキッと筋肉が浮かび上がる……

褐色の太ももに、大腿四頭筋の溝が一層の影を落とす。

両手をニギニギと動かし、関節がポキポキ鳴っている。


「何してるって……アキラさんはお仕事中です。私のお世話係として入団したんですから」

フフフンっとパトリシアがすまし顔で言う。

「クッ……」

ミリアの肩にはフリフリの装飾がついていて、生地に余裕はあるはずだったが……筋肉がめちゃくちゃ隆起している。


「ちょ……ちょっとー……落ち着いてー……離れてくれませんか~~?」

顔に血管が浮き上がって、ヒクヒクしながらミリアが言う。

新しい服……今にも破れそうだ。


パトリシアはゆっくりと御者席を降りて、ミリアと対峙する。

一触即発の二人。

と……そこへニーナが現れる。


「ケンカをしたら……退団して頂きますから。我々の当面の敵はイエローデーモンなのです」

きっぱりと言う。

団長という立場が、彼女を強くしたのか?

巨人女二人を向こうに回しても、毅然とした態度だ。


そして、マドリーナも現れる。

「ミリア、引きなさい。それから……パトリシア……アナタも挑発は控えてくださいまし」

彼女は白いシャツの上から、ピシッとしたスーツというか礼服というか……いかにも良いトコの令嬢といった格好になっていた。


いやぁ……マドリーナがいてくれて、本当に良かった。怪獣二人が戦ったら、俺たちには止める術がない。

「それと……二人とも、当面アキラと二人きりになるのは禁止しますわ」

「え~~!?」

ミリアが不満の声を上げる。

こりゃ先が思いやられる……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。