第25話:衝撃の事実
俺の顔色は悪い。
王宮の魔導士どもに殺されそうになったんだから当たり前だ。
さて、何から話せば良いのやら……
ライジングサン号の室内は、ニーナ、ゴール、サク、エイト、メルビン、アイラ、俺の七人。パトリシアは外で荷台を引き続けている。
「俺たちは、センターシティで仲間の募集をしていた」
最初から話すしかあるまい。
食堂で、旅団のアピールをしたこと。
そのアピールには、イエローデーモンを倒したことが含まれていること。
そして、このアピールを読んだ王宮の偉い人に目をつけられ、仲間募集作戦最終日の今日、王宮に招かれたことを伝える。
「続けてください……」
ニーナが促す。
王宮の応接室に来たのは、魔導士が数人。会話の端々から多分ラウル家の偉い人……ということしか俺にはわからない。
そいつらが問いかける。
本当にイエローデーモンを倒したのかと。
答えは「はい」だ。
別に嘘じゃない。この時点で、何か問題が起きるとは思ってもみなかった。
奴らはこう続けた。
魔王を倒されてしまっては困る。貴様らの芽は摘む……と。
「どういうこと?」
全く理解できないニーナ。
そりゃ俺も未だに理解しきれていない。
偉い人が言うには、今、このロノストの人々の生活を支えている魔法……その力の源は、魔王だということだ。
なので魔王を倒せば、魔法はなくなる。
この世界のインフラと言うか……レンガは、服は、火は、刃物は……全てが作れなくなる。
だから困るのだと。
基本的にゼイル旅団のような旅団は放置されてきた。なぜなら、せいぜいグリーンデーモン止まりだからだと。
しかし、今回、俺たちはイエローデーモンを倒したと言った。そうならば、魔王を脅かす存在として消えてもらう……そういうことだ。
「魔法の力の源が……魔王……だから死ぬと……困る?」
ニーナは呻く。
俺もうっかりしていたが、「字」をよく見るべきだ。
なにせ「魔」法なのだ。
「魔王の力を借りる手法」……略して「魔法」でも余裕で意味が通る。
あとはアイラから魔法は使い放題と聞かされたが、真実は魔王の力を消費していた。
世の中、そんな都合の良いものはないってことだ。
「つ……続けてください」
声が震えてくるニーナ。
その魔王の生命活動の元……メシにあたるものは、絶望と悲しみ。
魔法をロノストの民が使うと、魔王は腹が減る。絶望と悲しみが足りないと餓死する。
そこで、魔王の腹を満たすために頑張っているのが、カラーデーモン。
人々に絶望と悲しみを与え続ける存在。
まぁここまでは話としてはわかる。
だが、ここからだ。
カラーデーモンを倒すと、魔導石が現れる。この魔導石は商人が買い取っている。
さて、では、その商人が買った魔導石は最終的にどうなるのか?
その答えは「国が買う」だ。
国が買った魔導石は……魔王に返されている。
「な……」
ニーナは絶句する。
というか、一同絶句だ。
魔王は魔導石を国から堂々と譲り受け、カラーデーモンに変え、そして、ロノストの民へ悲劇を撒き散らす。
この事実は、国の最上級のラウル家の貴族たちのみ知る情報だということ。
そして、表向きは国は魔導石を浄化して、ただの石に変えているという偽情報を、フェルナンド家と一般貴族たちに伝えていること。
超極秘であるこの事実を説明し、俺は説明を終えた。
「アナタは……よく無事でしたね」
ニーナが感心する。
「この状態なら信じてもらえると思うんだけど……俺、実はこの世界の住人じゃない。別の世界から来たんだ。その特典っていうのか、わからないけど俺には攻撃魔法が効かないんだ……」
「おいおい……冗談はよしてくれよ……そんな……まさか……」
「魔導士に囲まれて、麻痺の魔法……そして火の玉の魔法を……ゼイルさんとリースが喰らったよ……」
ゴールに対して、俺が答える。
信じられないけど、信じるしかない。そんな感じだ。
ついでに、みんなに伏せたけど自分で説明してて、納得したことがある。
魔王は俺のことを「退屈しのぎ」と言っていた。
ヤツからすると、魔法であっさり俺が殺されるとつまらない。
魔法の力の根源は、魔王。ゆえに、その効果の操作なんて造作もないこと。
つまり、魔王は意図的に攻撃魔法を効かなくして、俺の死亡率を下げたってことか。
……現に俺はこうして「攻撃魔法完全耐性」のおかげで、敵の魔導士から殺されずに済んでいる。
今回の話で唯一良かったことといえば、面談の場所を宿にしたことだ。ゼイル旅団の本拠地がライジングサン号であることだけは、バレずに済んだ。
この日の夜、ライジングサン号は、センターシティからかなり距離を取った地点まで到達していた。
パトリシアも中に入り、ゼイルさんの死や魔王と国の関係について、俺から説明した。
「で……ゼイルさんが亡くなってしまったんだけど……この旅団の先の事を決めなきゃいけないと思う」
俺が切り出す。
まずは解散か、旅団を続けるかが最初の二択だ。
「ここに集まっている人は……ゼイルさんの魔王を倒したいという思いに賛同した人たちばかりです。まだ魔王はいる……だから解散はしません」
きっぱりと言うニーナ。俺には、彼女の一重の目の奥に炎が見えた。
そうだよな。ここの旅団の存在理由だ。
パトリシアのみ志望動機が異なるけど、ゴール、サク、エイト、メルビン、アイラの五人の思いは完全に一致していた。
「ニーナ……責任を負わせるようで悪いけどさ……俺、後継者はニーナしかいないと思ってる。もちろん……俺は全力でニーナを支えるよ」
ゴールが言う。
「ゼイル旅団最後の四天王だもんね。俺なんかより、よっぽど魔法の腕は立つ。俺もニーナについていくよ」
エイトも同意する。
古参であり、四天王の一角を担うほどの魔法の使い手であるニーナ。
純粋な戦闘力はパトリシアが頭一つ抜けていると思うが、彼女は新参者。このメンバーをまとめるという意味では、ニーナは最適解だと俺も思った。
「でもさ……魔王を倒すと困るって言ってるのが『国』なんだよな……」
ポツリと言う俺。
生前ゼイルさんが言ってた「二方面相手に戦う体力は無い」という言葉が思い浮かぶ。
「不幸な人を生み出すことが前提の利便性なんて……間違いです。魔王を倒すと、私は魔法が使えなくなる……でも良いんです。そんな力は……いらない」
強い意志を持って答えるニーナ。
魔導士が「魔法は要らない」と言い切るのは、重い決断だ。
エイト、メルビン、アイラも同意する。
自らの長所がなくなっても構わない。そう言い切った。
利便性があって……大多数の国民が恩恵を受けてるけど、一部の国民は不幸になる……日本でもそういうのあったな。
もちろん事情は全然違うけど、原子力発電所なんて、まさにそんな感じだ。原発の近くの住民は不幸だと言うけど、国民のほとんどというか……全ての人は電気なしには生活できない。
今、この旅団メンバーは日本の原発で例えると「電気は使わない!」と宣言しているようなものだ。
本当に重い決断だ。
「でもまだ……私たちはイエローデーモンにすら負けました。魔王なんて遠い存在です。ですので当面の目標はイエローデーモンの撃破……とします」
「そうだな……皆の仇は必ず討つ」
ゴールはニーナに同意する。
「カトランの無念は、必ず私が晴らして見せます」
彼女は復讐に燃えている。
「戦力……なんとかしなきゃな……」
ゴールは呟く。
イエローデーモン戦での惨敗に加え、ゼイルさんとリースまで失ってしまった。
戦力補強は急務と言えた。
「あ……あのさ、アキラ君……凄い強い人がいるって言ってたじゃない。えっとマドリーナさんと……ミリアさんだっけ?」
メルビンが切り出す。
「ああ……入団を決めるのはニーナだし、ずいぶん時間が経っているから会えるかはわからない……けど……」
「私はその二人を迎え入れるのに賛成です。というか拒否する理由がありません。ラウル家に狙われる? 上等です。すでにゼイルさんは『国』に殺されているのだから」
まぁ確かにそうだ。
ニーナの最終目標は魔王なのだから、どう転んでも「国」とぶつかる。
早いか遅いかの違いだ。
当面の目標、イエローデーモンを倒すには、今までの仲間以上に強力な人材が必要。「渡りに船」とも言えた。
方針が決まる
翌日、ライジングサン号は北西に進む。ポイントとなるのは「川」だ。
マドリーナにおぶられて、センターシティから逃亡したあの日。
川は絶対に渡っていない。それは憶えている。
そして、ミリアたちがいたねぐら……そこから、そう遠くない場所に川が流れていた。
鹿が水を飲んでいるところをミリアが仕留めて、素手で真っ二つにしていた。あの怪力を発揮した場面は、インパクトがあって、はっきり憶えている。
ほどなくして、西に進むと小川が流れており、俺の指示にしたがってそこから北上する。
山が見え始めたところで、この日は終わった。
マドリーナとミリアは追われていることもあって、かなりの早足だった。
一方、重たいライジングサン号を引いているパトリシアのスピードからすると、二日経ってからこの場所に着くのはかなり計算が合う。
「ミリアたちに会えるかな……」
俺は心配を口にする。
時計を見ると7月17日とある。
すでに三か月……
ねぐらは雨はしのげるが、それだけだ。誰かに助けを求めるか、その場に留まるか……彼女たちは二択だった。
もし助ける人がいて、その人についていったとすれば、もうどこに行ったかはわからない。
「会えると……良いですね」
ライジングサン号の中で、食事をとりながらパトリシアが言う。
ゼイル旅団は死者を合計八人も出していて、すっかり部屋は相対的に広くなってしまった。
今はパトリシアもここで食事をとっている。
最近の食事の並びといえば、ニーナとゴールが並んでいる。
カトランを失って傷心のニーナに、ゴールがずっと付き添っている感じだ。
エイトも仲が良いので、ニーナ、ゴール、エイトの並び。
アイラとサクも、わりとその近くにいる。
ちょっと離れて、メルビンと俺、パトリシアが一緒に食事をしている。
ちょうど心の距離と同じ……だな。
相変わらず、メルビン以外はパトリシアを恐れている……そう見えた。
彼女が皆と仲良くなるタイミングは……あのイエローデーモンから逃げた時。あの時しかなかったな。
全員が一致団結して……パトリシアを嫌っていたように見えたエイトでさえも、全力でパトリシアを回復させて……彼女は必死でライジングサン号を引いて。
へとへとになり、大の字で寝たパトリシアに対して、皆もっと褒めてあげても良かったんじゃないか?
ただ、仲間を失ったショックのほうがかなり上回っていた。
「会えへんかったら……当たり前やけど諦めるしかないな……」
なんとも言えない表情でサクが言う。
そりゃあ……そうなんだけど……
そこからは意地でもミリアたちを探すという意思は感じられない。
ニーナとゴールは絶対に戦力を充実させて、イエローデーモンに今すぐにでも挑みたいという気概がある。
対して、サク、エイト、アイラはこれまでの延長線上で皆と協力して、じっくりやっていきたいという雰囲気を感じる。
微妙な温度差を感じながら、食事を終えて就寝となった。
翌日。
誰が捜しに行くかと言う話になり、もちろん俺はねぐらに案内する係なので当然のように確定。
サクとアイラは即刻、辞退した。
彼らにとってパトリシアはライオンのような猛獣であり、それに類似した生物に会いにいくというのは敬遠すべきことだった。
一方、志願したのはパトリシア。
「私、行きます! アキラさんと二人で!」
議論はここで即、終了する。
今回は人数を絞る必要はないのだが……
「二人?」
「あの……何か…………えっと大きいクマさんとかでてきたら……私ならなんとかできるっていうか……その……」
完全にしどろもどろだ。
「……何かあった時……二人だったら私が背負って……逃げれるっていうか……」
「いいよ。二人で行こう」
ワタワタしてる彼女を泳がせて眺めてても良いけど、俺はそんなに意地悪じゃない。




