第24話:ゼイル死す!
ヤツの腕が振り下ろされる瞬間だった。
バキィ!!
間一髪、パトリシアが戻りきり、俺に襲い掛かったイエローデーモンの首を飛び蹴りでへし折っていた。
逃げる。
リアにメンバーが逃げ込み、パトリシアはフロントへ。ライジングサン号が発進する。
ちょっと向こう側ではイエローデーモンに足を掴まれ、戻りきれないティルが……
ゼイルは苦渋の決断で、全力での戦線離脱を命じ……ティルの断末魔が最後に聞こえた。
ゼイル旅団……大打撃を受けて完敗。
旅団の四天王のうち、カトラン、シルビア、ティルが戦死。
その他の魔導士も、レオ、メアリー、マルガリータと被害は甚大だった。
まだイエローデーモンは追いかけてきている。
が……パトリシアの姿は、ライジングサン号の巨大なハコに隠れて見えない。
また、ライジングサン号の中にいる者たちは直接、視認できない。
このことで、イエローデーモンは相手の姿を見失い、ゆっくりとした歩みに変わる。
ニーナはカトランを失ったことで泣き崩れていた。
本来、彼女の役割であるが、代わりにエイトがパトリシアに回復魔法をかけ続け、ライジングサン号は逃走を続ける。
パトリシアの脚が限界を迎えたところで、移動は終わる。
夜になると、パトリシアもライジングサン号に入ってくる。
「あの……夜は見張りはいらないんですか?」
素朴な疑問をゼイルさんに聞く。
「夜は……カラーデーモンどもも寝る。レオの魔法で直立したまま動かなくなったのを見ただろう? だから野生動物は来るかもしれないが、カラーデーモンは大丈夫だ」
「そ……そうなんですね」
「ニーナ……パトリシアを回復させてやってくれ。ショックだろうが、今パトリシアが動けなくなると全滅する」
ゼイルさんはニーナに依頼する。
彼女は生気を失った顔のままうなずき、大の字でグロッキー状態のパトリシアを介抱する。重いライジングサン号を引き続けて六時間くらいは全力で走った。エイトの回復魔法を受けながらとは言え、パトリシアの体力も限界に達していた。
粛々と夕飯の準備は進められ、食事をとる。
「力負け……だったな……できる手は全て打っていた……」
俺は呻くように呟く。
「アキラの言うとおり、前衛の戦力が足りていなかった……」
リースも賛同した。彼はライジングサン号の中から戦況を見ていたので、もっとも客観的に見れるのかもしれない。
ゼイルさんは黙っている。
普段は二人でよくふざけているゴールとエイトも今日は大人しい。
生き残りは以下10名だ。
リーダーの拳士、ゼイル。
四天王の生き残り、魔導士ニーナ。
拳士のゴール、サク。
魔導士のエイト
市民魔法使いのメルビン、アイラ、リース。
そして俺とパトリシア。
翌日。
朝食をとると、ゼイルさんが皆に声をかける。
「まずは生き残った我々が、全員無事にヒルビリッジに到着することを目標とする。戦死者を多数出したのは私の責任。申し訳なかった」
深々と頭を下げ、そして作戦を言い渡す。
「パトリシアは遊撃隊ではなく本体合流。私とゴール、サク、パトリシアで前衛を務める。ニーナは回復、エイト、アキラは後衛から攻撃してくれ」
グリーンデーモンが出没する地域。この戦力では苦戦も予想される。
実際、ヒルビリッジへの移動中、何度か戦闘があった。
皆が健在だった頃のあの殲滅力は、すっかり鳴りを潜めてしまった。
が、パトリシアがしっかりとキル数を稼ぎ、そして俺とエイトの援護射撃でも地味に相手を削る。
死なない戦法を採り続け、俺たちはヒルビリッジに辿り着いた。
敗戦のショックをずっと引きずるわけにはいかないので、俺はライジングサン号の中で切り出す。
「あの……ゼイルさん……魔王退治は……諦めますか?」
「いや……諦めない。性急にイエローデーモンに挑むことはしばらくないがな……」
「俺……凄く強い二人を知ってるんです。その二人が仲間になってくれれば……」
「ほう……」
興味を持つゼイルさん。
「名前はマドリーナとミリア……マドリーナはフェルナンド家の人です」
「へぇ……大物だな……」
名前を聞いて沈黙のゼイルさんに代わり、リースが言う。
「フェルナンド家のマドリーナといえば、ロノスト王国軍の次期大将候補……そしてミリアっていうことは、マドリーナの近衛隊隊長。かつてヒルビリッジで一番の剛力と言われた巨人女……」
う……マドリーナが有名なのは知っていたけど……ミリアも有名人だったんか。
「ゼイルさん、すげー大物っすよ……俺もヒルビリッジ出身で、昔、ミリアを見たことあるんすけどヤバイっす……」
リースも同意して推薦する。
が、ゼイルさんの答えは、俺の予想と違った。
「フェルナンド家はラウル家の陰謀で壊滅状態と聞く。今、ロノスト王国はラウル家が政権を握っている……そんな中、フェルナンド家の人間をうちの旅団に入れたら、国から睨まれてしまう……」
「でも……すっげー強ければ……」
リースは食い下がる。
二人を推薦した俺じゃなく、リースが食い下がってくれるのはありがたかった。
だが……
「強かったとしても……だ。カラーデーモンと国と……二方面相手に戦う体力はない……アキラ君……残念だがその話はなかったことにしてくれ」
…………。
最高のタイミングで切り出したつもりだったんだけどな…………これでダメならダメだろう。
しかも……ここで無理やりミリアたちを引き入れようものなら、ゼイルさんはラウル家に売る可能性すらある。
そうなってしまってはマドリーナにも迷惑がかかる。
ただ、ゼイルさんの言い分もわからなくはない。
カラーデーモンと国、いっぺんに相手になんてできるわけがないのだから。引き下がるしかないか。
「まぁ……仲間を再び集めるというのは私も実行しようと思う。センターシティに行くつもりだ」
「そうですか……前を向くしか……ないですもんね」
二日ほどの補給と休息を挟み、ゼイル旅団は首都センターシティを目指すこととなる。
俺はちょっとだけ迷った。
ここに居続けても結局ミリアとマドリーナは救えない。だったら、俺がこの旅団を抜けて、彼女たちを迎えに行く。物資の買い出しとかなら俺でも役に立つし、今なら数さえいなければブルーデーモンも独力で勝てるはず。
だけど……
俺が抜けたらパトリシアはどうなる?
メルビンは俺がパトリシアに味方すれば、一緒になって味方につく。だけど、俺がいなければ彼は周りに流されるだけだ。
フィアは姉に重なったけど、パトリシアは俺自身に重なっている。
この先もずっと彼女がイジメられるのがわかっていて、ここを抜けるなんて決断は俺にはできなかった。
ミリア、マドリーナ、フィア、シノと巨人娘に守られてばっかりだった俺だが、パトリシアのことは初めて守んなきゃって…………図々しくもそう思った。
「ねぇアキラ君……」
移動中、話しかけてきたのは服係のメルビン。
「この前、言ってたさ……マドリーナってどんな人なの?」
「どんな人……か。そうだな……パトリシアよりは背がちょっとだけ低い」
「そりゃパトリシアより背が高い人なんて、この世にいないよ……」
言いすぎだと思うけど、あながち間違ってはいないかも。
「庇ってくれるんだよなぁ……特殊な力で……ほら、パトリシアももの凄い足が速いだろ? あんな感じで一瞬で守ってくれた」
「ミリアって人は?」
「パトリシアよりは背がちょっとだけ低いけど、肩幅はミリアのほうがあるなぁ……さすがにお尻と脚はパトリシアのほうがデカいか……」
「うわぁ……凄い強そう……そんな人たちが仲間になったら頼もしいのになぁ……」
目を輝かせるメルビン。
それと対照的にサク、ゴール、エイト、アイラはちょっと嫌そうな顔をしていた。
そんな俺たちの話を黙って聞いていたのはニーナ。カトランを失った彼女の落胆ぶりといったら大変なものだったが、ゴールが何とか慰め続け、ようやく普通の状態になっている。
7月12日。
ゼイル旅団にお世話になってから、二か月が経過しようとしている。寒さなどすっかりなくなり、もう暑さとの戦いの季節だ。
ヒルビリッジから西のイエローデーモンのゾーン、そして、そこで敗戦の後、戻ってきた。
スタンデル島の東西を行き来しているので、それ相応の月日が経った。
今、センターシティの入り口の門から500mほど離れた場所で、ライジングサン号は停車している。
「さて、留守番組とスカウト組を決めよう。誰かスカウトに来てくれる者はいるか?」
「俺……いきますよ」
市民魔法使いのリースが立候補する。
正直、この人選は俺も賛成だ。リースはわりと中立の立場で物事を判断している。
今回の任務には適任だと思った。
「じゃあ、あとは……アキラ君、来てくれるか?」
「俺っすか……?」
意外だった。
ここのしきたりとかもわからないし、そもそも拳士でも魔導士でもない俺が見極めるなんて……
「君には天道……だったかな? それを実演してもらう」
要するにアピール要員か。
うちは弱いですよーなんて言いふらして、有望な人材が集まるだろうか?
否だ。
当然、うちは凄いですよーと言いたいわけだ。
セールスポイントとしては、天道を使える人がいますってのはアリ。
「他のメンバーはライジングサン号で過ごしていてくれ。人数を絞らないと宿代がかさむからな……」
最初はてっきり、ゾロゾロとセンターシティを闊歩するものと思っていたが、ライジングサン号は街に入らないし、ゼイルさんが言うとおり人数分だけ宿代がかさむ。
結局、ゼイルさん、リース、俺の三人でセンターシティへ入る。
ロノスト王国の首都だ。
さすがに発展している。レンガ造りの家、土でできた服やら刃物やらを売ってる店。市場なんかもある。
食堂もあり、この食堂ってやつが基本的にこの世界の憩いの場っていうか、人の集まる場所のようだ。
掲示板らしきものもあり、俺たちのように仲間の募集とかも張り出している。
とりあえず、面談日と面談場所の宿を記載した紙を俺とリースで貼る。
また、俺は火龍波を実演して注目を集めたりする。呪文を唱えずに不思議な力を引き出す天道は、なかなか気持ちの良いリアクションを引き出した。
セールストークとしては「イエローデーモンを10体倒した」ということで宣伝する。
まぁレオの眠りとシルビアの麻痺は「倒した」とカウントして良いのかは難しいところだけど、少なくともイエローデーモンと戦ったのは事実だ。
近年では稀有な挑戦をしたという意味で、ゼイル旅団の噂は広まっていく。
二日目。
宿の朝食を食べながら、打ち合わせをする。
「まずは昨日貼った、張り紙の様子を見てくるか」
「そうっすね。希望者がいっぱい書かれてると良いけど……」
数か所の食堂で募集をかけている。
俺たちはそれを巡っていく。行く先、行く先でアピールを続ける。
俺たちが設定した面談日は、翌日の三日目で、場所は今いる宿。
面談時間は、昼頃からスタートだ。
三日目。
朝起きて、宿のロビーで、ゼイルさん、リースと合流する。
緊張するなぁ……良い人が来ると良いけど。
そんなことを三人で話していると、なにやら身なりの良い人たちがやってくる。
「君たちがゼイル旅団……だな?」
「ええ、そうですが……」
ゼイルさんが答える。
「時間はそんなに取らせない。ちょっと王宮まで来てくれるか?」
「王宮?」
何だろうか……募集を見て、何かに引っかかったんだろう。
良い方向にせよ、悪い方向にせよ……
どっちだ?
まぁ魔王退治を標榜していて、悪いようにはされまい……俺はそう思った。
…………一時間後だ。
「アキラ!! お前だけでも逃げろ!」
ゼイルさんとリースは体が動かない。
そこに魔法の炎が襲い掛かる!
俺は王宮の一階の応接室にいた。
残り16本となっていたタバコを素早く出し、火をつけ目の前にいる魔導士どもに吹きかける。
この世界でタバコの煙はなかなかの脅しになる。一斉に怯む相手の魔導士たち。
俺は火龍波を放ち、入り口付近の奴を吹っ飛ばして、そして走る。
逃げる。
幸いにして昼時。人は多く、あっという間に俺は人混みに紛れた。
そして、センターシティの入り口の門は堂々とゆっくり……「普通の人ですよ」というツラして通り過ぎる。
だんだん早歩きになり……そしてライジングサン号へ。
「みんな! ゼイルさんと……リースが殺られた!! 急いでここから離れるんだ!!」
入るなり緊急事態を告げる。
パトリシアはすぐに御者席へ行き、ライジングサン号が発進する。
「アキラ……ど……どういうことだ!?」
ゴールが皆を代表して聞いてくる。
そして、俺は口を開いた。




