第22話:終わったかな 俺 PART2
グリーンデーモン戦は続く。
右の窓では、でっかい魔物を相手に勇敢に戦う人間チームなんだが、左の窓では50cm以上ちっちゃい魔物を虐殺する暴君の図だ。
もちろん左右の窓の先の魔物は、同じグリーンデーモン。ちょっとミリアたちを思い出して、懐かしいような感覚も覚える。
「なんでパトリシアは一人で戦ってるの?」
「いや……以前あいつがカラーデーモンを蹴っ飛ばした時にさ……吹っ飛ばされたヤツの身体がゴールに直撃してさ……陣形が乱れてピンチになったんだ」
確かにゼイル旅団は、作戦というか陣形命なところがある。
前衛が前線を支えつつ、豊富にいる魔導士の攻撃で相手を倒す。陣形が乱れると一気に崩れてしまう戦法だ。
「だから、あいつは離れて遊撃隊。じゃないとチームの足引っ張るのよ。ぶってぇ脚とデカすぎるケツも気持ち悪くて士気下げるしな……」
「だが、戦力としては頼れる」
露骨に嫌悪感を示すアイラに、とりあえず戦力としては冷静に評価するリース。
「……」
そして何か言いたげなメルビン。
結局、黙っている。
「俺は好きだけどなぁ……働き者の脚。一生懸命頑張った結果、太くなってるんだから勲章みたいなもんだ」
「そ……そうですよね」
俺が言い出した途端、同意するメルビン。
「フン……まぁアキラはアキラで、あいつを制御する仕事がある。相性良さそうで良かったじゃないか」
賛辞とも皮肉とも取れる言い方のアイラ。
そうこうしてるうちに、グリーンデーモンとの戦いは、ゼイル旅団の快勝で幕を閉じた。
勝利の夜。
ゼイル旅団は、明るい雰囲気に満ちていた。
「いやぁナイスガードだ、ゴール」
「へへん……お前の火の玉だって完璧だったぜ、エイト」
肩を組んで歌い出す、拳士ゴールと魔導士エイト。
ミリアやマドリーナと同じ黒髪で黒い目……ボサボサ髪のゴールに、赤髪のエイト。民族の違いがありそうだけど、そんな壁を感じさせない仲の良さ。
「良い……チームだね」
「だろう? それぞれの適材適所ってヤツさ。ゼイルさんが築き上げたチームは無敵だぜ」
俺の感想に対して、誇らしげに語るゴール。
グリーンデーモン相手なら、何の問題もないだろう……しかし……
「なぁ……前線の拳士が、ちょっと不足してるんじゃないか?」
「いやいや……ニーナさんの援護を受けたカトランがいるからな……前衛もバッチリさ」
俺は不安材料を口にするが、一蹴される。
「アキラ君、これは考え方ってやつだよ」
ゼイルさんだ。
「確かに我々は後衛が多い。だけど豊富にいる魔導士のおかげで殲滅力が極めて高い。睡眠や麻痺をバンバン使って、数を減らしていける」
「前衛の補強は考えてないんですか?」
「最終的にレッドデーモンあたりになれば、必要になるかもしれないがな。今は大丈夫だ。それにこれから控えるイエローデーモン戦……ここで名を上げれば、きっと優秀な拳士も仲間に入ってくれるだろう。カトランのようにな」
カトランを指さす。
彼も彼で、ニーナとやたら親しげに話している。
最前線のカトランとそれを癒して支えるニーナは、作戦上くっつくことも多いだろう。
仕事を一緒にしてたら、同僚以上の関係になる……日本でも、たまにある光景だ。
「イエローデーモンは……戦ったことがないんですか?」
「ああ。パープルデーモンは一般市民と互角。ブルーデーモンは普通の拳士と互角。グリーンデーモンは見たとおり、我々のようなチームや防衛軍といった組織で対抗可能だ。はたして、黄色いヤツらはどれくらいなんだろうな……」
敵の強さは未知数。
これまでの流れで言うと、イエローデーモンには敵わないから、ギリギリ対抗できるグリーンデーモン出没地点まで、人間は生活圏を東にスライドさせている。未知数ながら、強敵なことだけは確定している。
「だが、シルビアの麻痺があれば勝機はあると私は睨んでいる」
勝ち筋は一応、描いている。
あとは現実がどうか……といったところか。
「それと……アキラ君はわからないかもしれないが、イエローデーモンと戦うというのは、もの凄く意義があることなんだ」
「それはどういうことですか?」
「カラーデーモンは、西の山道の出口地点まで固まっていてな、そこから散開する。基本的にはまっすぐセンターシティを目指して東に進んでくるんだが、南北に散るヤツもいる。そいつらがグリーンデーモンとなって、シップビリッジ、シャインビリッジを襲ってくる」
「その……ヤツらが涌き出てくる根元で食い止めることができれば、被害はグッと減る……そういうことですか?」
「そうだ。そして、その根元の地点では、ヤツらはイエローデーモンだ」
確かに根元で食い止めることができれば、安全になったシップビリッジとシャインビリッジに移住する人たちも増えるだろう。
資源の要所でもあるこの二つの村が発展すれば、さらに魔王軍にも対抗できるようになるかもしれない。
「あの……イエローデーモン戦はわかりませんけど……次、もしグリーンデーモンと戦うことになったら、俺も参戦して良いですか?」
「君が……か? 戦闘では実力不足だと……君自身がそう言ってたじゃないか?」
「そうなんですけど、今日の戦いを見て……俺、援護射撃はできるんです。だから……」
これは本音だ。
俺の火龍波は、ブルーデーモンの頭を吹っ飛ばした。拳士がきっちり前線を維持してくれれば、当てる自信はある。
グリーンデーモン相手にどこまで効くかはわからないけど、実戦を積んで強くなりたかった。シノも、「あとは数をこなすだけや」と言っていた。
強くなった先には……ミリアとマドリーナを迎えに行く……そんな目標がチラつく。
「拳士でもない、魔導士でもない君の援護射撃……まぁ良いだろう。実際、この目で見てみたいしな」
ゼイルさんは参戦を許可してくれた。
ゼイル旅団が目指しているのは、西の山道の出口。到着まで、二週間はかかる距離だという。
当たり前だが、二週間もあればグリーンデーモンに接敵する。俺が出撃することは、パトリシアにも告げていた。
いざ戦いが始まると、遊撃隊であるはずのパトリシアは本体にかなり寄っていた。
今回は数が20体ほどと少ない。
俺は火龍波を放ち、グリーンデーモンにそれなりの打撃を与えることに成功した。火と打撃の両方の特性を併せ持つ火龍波は、ヤツらの体を焦がし、凹ます。
数が少ないこともあって、グリーンデーモンには圧勝。
だが、戦闘後ゼイルさんからパトリシアが叱責を受けている。
「パトリシア……君は遊撃隊なんだ、本隊の近くにいちゃいけない」
「あの……スミマセン……ちょっと……アキラさんが心配で……」
「魔法の範囲に入られると、レオの睡眠やシルビアの麻痺が打ちにくくなる。君に当たると困るし、チョロチョロされると火の玉魔法部隊も気が散る」
「ご……ごめんなさい……」
怒られてシューンとなるパトリシア。マズイ……完全に俺のせいだ。
一方、ゴールとエイトの仲良しコンビから、俺は持ち上げられる。
「おい……なんだあの技……魔法でもねぇし、それなりに威力はあったよな」
正直、エイトの放つ火の玉魔法の威力に近づいている。
フィアの家を訪問する時、ブルーデーモンに使ったが、あの時よりさらに上達している。
呪文を唱える時間がかかる代わりに、使い放題の魔法。
それに対して、自らの体力を削って『氣』により発動する天道。だけど、呪文のアレンジのようなものは必要なく、『氣』の扱い一つで威力が変わる。
実戦で何発も打つことで、俺の火龍波は、まだまだ成長しているみたいだ。
「ヒダシタンってとこに伝わる天道……だよ。世話になった人から教わったんだ……」
「へぇ……」
このエイトの反応は意外だった。
ヒダシタン出身と思われる赤髪のエイトが知らないとは……シノの「使えへん人たちのほうが多いで」と言っていたのは、本当だったみたいだ。
「天道……俺は聞いたことがあったけど……実物を見るのは初めてや」
話に割って入ってきたのは、もはや俺の天敵ともいえるサク。
フィアを連想させる人は、ゼイル旅団にはいない。同じ金髪青い目の女性はメアリーとマルガリータだが、申し訳ないけどフィアの容姿には全然及ばない。なんだが、旅団でダントツの美男子サクはどうしてもシノの面影がダブってしまう。
さて、彼はエイトと違い、天道そのものは知っているようだ。サクはシノと同じような訛り方で、エイトは標準語。
同じヒダシタン組でも、二人は遠い関係なのか。
「そうだ! ……ちょっと俺と組手をしてくれよ……」
俺はゴールにお願いする。
「ん? なんでまた……」
「いや……その……パトリシアがさ……俺のこと心配して、こっちに来ちゃうんだ……だから俺が強くなって、ちゃんとあのコには遊撃してもらわないと……」
「おー! そういうことなら良いぜ。仲間が強くなれば、俺の危険も減るってもんだ」
シノから習ったものの、イマイチ活用できていない『捌き』。
ゴールは俺よりちょっとだけ背が高いだけで、体格としては同等。『捌き』の練習としては、ちょうど良かった。
いや俺もわかっている。最も適任なのが、サクであることは。
彼は『捌き』を会得している。でも、シノを想起させる彼相手では気が散って練習にすらならない。
ちょっと暗くなってきた頃、俺とゴールはライジングサン号の外で組手をする。
「えっと……こうして……」
まずはゆっくりとした動作でゴールの手首を掴み、そして回転させる。
「うお!?」
ドシーン!
思わずしりもちをつくゴール。
「なるほどなー。サクがやってるやつかぁ……確かにこれを使いこなせれば強えわな……よし! 本番行くぜ……」
スッと構えるゴール。
俺も『捌き』の構えに入る。
「おりゃあ!」
ゴールは本気だ!
スピードが練習とは段違い。手首を掴むことはできず、そしてタックル気味に身体がぶつかり、俺はかなりの勢いをつけて、ライジングサン号のフロントへ転がる。
と、ここから思いもよらなかった大惨事が起きる。
暗くてよく見えなかったのが災いの元だ。
御者席付近では、たまたまパトリシアが星の見え始めを静かに観測していた。
そこへ転がる俺。
シノ仕込みの受け身をとって、すぐに立ち上がった……のだが、脚を開いて立っていたパトリシアの真ん中で立ち上がってしまったのだ。
星を見ていたパトリシアは俺とゴールが模擬戦をしていた様子は全く見てなくて、立ち上がった俺の頭はパトリシアの巨大尻に挟まれる格好に。
「キャッ!?」
悲鳴を上げるパトリシア……同時に驚きのあまり、キュッとお尻に力が入る。
バキっと俺の脳内で音が鳴り、そして真っ暗にブラックアウトした。
ジ・エンド…………??




