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第21話:魔法は便利

運命って不思議なもんだ。

日本から転移した時、最初にゼイル旅団に遭遇していたら、こんなことにはなっていなかっただろう。


ミリア達の優しさに最初に触れ、巨人に対する偏見なんて1ミリも抱かなくなり、フィアとの出会いでそれは確固たるものになった。

歴史に「もし」はないけど、順番が違ったら、パトリシアをイジメる側になっていたかもしれないな。もっとも、その場合は旅団入りすらなかったか。


次の日も、ライジングサン号は西を目指す。

「おい……アキラ……ちょっと外見てみろよ」

カトランが声をかけてくる。


ライジングサン号はところどころ壁に窓がついていて、外の様子も見える。

「橋……だね」

「そう。ロノスト王国が国の事業として……そして国の存亡を懸けて作った大橋だ」


「そんなに大事なの?」

「ああ。グリーンデーモンどもはこの橋を渡って東に移動してくる……この橋がなければ、川より西の村はグリーンデーモンだらけになって、人が住めなくなる」

「わざとグリーンデーモンを通して、ブルーデーモンに変化させてるのか……」

「魔王が……カラーデーモンが現れてから、200年とか300年とか言われてる。その中で培った知恵さ。大多数は東へ居住区を移動したんだが、シップビリッジやシャインビリッジを失うわけにはいかねぇのよ……」


このカトランの話を聞いていると、黒髪の女魔導士も話に参加してくる。

「そうそう、アキラ君、知ってる? 首都はセンターシティって名前でしょ? もともとその名の通り、スタンデル島の中央にあった街なのよ。でも遷都して、今は最東端にあるのに、名前だけセンターシティよ。笑っちゃうわよね」


この人の名前は、シルビア。

両目の高さがちょっと異なっていて、個性的な顔だが、ゼイル旅団一の魔導士と聞かされている。


「セントラルニューパディって街も似たようなものね。本来中央にあった第二の街だったんだけど……南東のほうに移動したの」

北西のシップビリッジ、ここはパトリシアの故郷。

南西のシャインビリッジ、ここはフィアの故郷。

最東端のセンターシティ、ここはマドリーナの故郷。

これに加えて一昨日までいた北東ヒルビリッジに南東のセントラルニューパディがあるってことか。

地理はおおよそ把握できた。


「皆、ヤツらだ!!」

そんな中、ライジングサン号が突然、停止する。

団長のゼイルさんが戦闘準備を指示。

戦闘メンバーはリアのドアを開けて、一斉に飛び出していく。


残っているのは、俺に服を作ってくれた市民魔法使いメルビン。

同じく市民魔法使いのアイラとリースだ。


黒髪のアイラは、主に包丁とかライジングサン号に組み込まれてる釘とかを錬成する市民魔法使い。


そして、リースは照明を担当している。

夜もライジングサン号の中で快適に暮らしていけるのは、彼の明かりの魔法のおかげだ。


外見の特徴で言うと、リースはメンバー唯一の茶髪。

ヒルビリッジのほとんどの人は黒髪……そして、ここにいるメルビンと出撃したメアリー、マルガリータ、レオの金髪四人衆は、全員シャインビリッジの出身。

同じく金髪だったフィアも、シャインビリッジ出身だった。

何か地域性でもあるんだろうか……そして黒髪と金髪で大多数ってことは、リースはきっと混血なんだろうな……


さて、残っているのは男四人。

「男ばかり残るってのは、ちょっとバツが悪いね……」

俺が感想を言う。


ゼイル旅団の女性陣は全員、戦闘魔法を使いこなす魔導士だ。

「いや……女の市民魔法使いも六年くらい前にはいたんだけど……自然淘汰ってやつかな。いつだったか、カラーデーモンに襲われて死んじまったよ」

強い者が残った結果、この編成になったってことか。現実は厳しい。


また、俺の感覚がミリアたちのせいでおかしくなっていることもわかった。

女性の拳士というのは滅多におらず、事実、ゼイル旅団の拳士はゼイルさん、よく俺に話しかけてくれるカトランの他、まだあまり面識のないゴール、サクと皆、男性だ。

……あ……パトリシアを忘れてたけど、彼女は当然、拳士か? ……まぁ普通の女性ではない……よな。


「まぁ見てなって」

進行方向の右側の窓を指して、アイラが言う。

そこから見ると、相手のグリーンデーモンは70体ほど。


これまで見た中で、最高はミリアたちが戦ったブルーデーモン30体程度だったから、やはり中央の危険地帯には大量のカラーデーモンがいるということだ。

戦いが始まる。


男の拳士4人が前衛に立ち、わりとすぐ近くに女性魔導士5人と男性魔導士2人の合計7人がいる。

前衛4人に、後衛7人?

俺にはずいぶんバランスが悪いように見える。


戦闘でまず目を引いたのは、大柄な拳士のカトラン。

唯一グリーンデーモンと同じ体格を誇り、彼の攻撃でヤツらが葬られる。


ミリア並みとは言わないまでも、ほぼ一発で致命傷を与えている。

「ゼイル旅団四天王、カトラン……さすがだぜ」

アイラが実況だ。


一方、ゼイルさん、ゴール、サクの3人は攻撃を積極的には仕掛けず、防御に徹している模様だ。


特に赤い髪のサク……彼の動きは『捌き』が多分に含まれており、シノが頭をよぎって、思わず吐き気がする。

旅団の中ではダントツに美形、切れ長の目に白い肌、おまけに長い髪……シノの親戚と言われても納得する風貌。

彼女の欠片を見出してしまい、気分が悪くなってしまうが、それだけ彼女の最後は俺の心に深い傷を負わせた。ブンブンと頭を左右に振り、俺は戦いを集中して見ることにする。


戦場では魔法が飛び交っていた。

「見ろよ、アキラ……四天王のシルビア、ティルの華麗な魔法をよ」

先ほどセンターシティの名前の由来を教えてくれたシルビア。


彼女の手から光線が走り、直撃を受けたグリーンデーモンは一発で倒れる。

「麻痺魔法だ……死んじゃいないが、しばらく戦闘不能さ」

これが、かの有名な麻痺魔法か。


ミリアやシノ、そしてパトリシアといった筋肉大魔神をもってしても、コレには屈してしまうという魔法。


そして、まだあまり面識のないティルからは火の玉が飛んで行き、グリーンデーモンを焼く。

四天王と言うだけのことはあり、彼女の火の魔法も強力で炎に包まれたグリーンデーモンは魔導石に変わってしまう。


魔導士のレオは何やら怪しげな煙を遠くのほうへ放ち、煙に包まれたグリーンデーモンは活動を止めてしまう。

「けったいな生き物だぜ……あれで……寝てんだぜ」

アイラが解説してくれる。


カラーデーモンは立ったまま寝ている……つまりレオが放ったのは、睡眠に陥れる魔法のようだ。一体を麻痺させたのとは異なり、睡眠は攻撃対象が広く、4,5体が活動停止する。


そうこうしているうちに、前線ではゴールやサクが負傷する。

「あ……あぶねぇ!」

俺は思わず叫ぶが……


ニーナが近寄り、彼らに触れて、あっという間に傷を癒していく。

「四天王ニーナに治せねぇケガはねぇぜ」

ニヤッと笑うアイラ。


旅団随一のヒーラー。

この前は、俺のケガも癒してくれた。

おまけにニーナは、前衛の拳士たちの攻撃力やら防御力やらを上昇させる援護魔法も使っているそうだ。


直接話す前から、すでに苦手意識を持ち始めた赤髪のエイトも、火の玉の魔法を使って攻撃している。ちょっと意外だったのは、ヒダシタン出身と思われる彼も天道ではなく魔法を使っているという事だ。


魔法の才能は、人種と関係ないのか……

四天王ティルほどの威力ではないが、二発当てれば、グリーンデーモンは沈む。


ノッポのメアリーも、おおよそエイトと同じ威力の火の玉を放っている。

前衛のエース、カトランもケガを負うが、コレをティルが回復させる。

ティルは炎の攻撃と癒しの魔法の二系統を操れるのか……


「なぁ……魔法って、どんな仕組みなんだ?」

素朴な疑問を聞いてみる。

火の玉の魔法一つとってみても、ティルとエイトでは威力に明確な差がある。


一体なんなのか……


「複雑だけど、根っこは簡単さ」

そんな俺の疑問に、市民魔法使いアイラが教えてくれる。


「魔法が使える才能……『核』ってのがある。まずこれを持ってるか、持っていないか。これで魔法が使えるか否かが決まる。魔法の呪文自体は習えば、どんなやつでも唱えられる。ただ『核』がないやつが唱えても何も起きない」

「ってことは、俺も『核』があれば使えるのか?」

「そうなんだが……魔法使いは『核』を持ってるかどうかくらいはわかる。俺が見たところ、残念ながらアキラにはねぇみたいだな……ただ……稀に後天的にくっつくこともあるから、絶望的じゃあないけどな」

くそ……それは残念だ。


「で……『核』は人により全然違うんだ。回復魔法の呪文に反応する『核』もあれば、火の玉魔法の呪文に反応する『核』もある。ニーナやティルみたいに複数の呪文に反応してくれる『核』を持ってると便利だよな……」


なるほど……その持って生まれた『核』とやらが、使用できる魔法の種類を決めているのか……

「そして、呪文を自分用にアレンジして威力を高めることができる。強力な魔導士は唱える呪文をうまく変えてより強力な結果にできるのさ」


一般的な「火の玉の呪文」というものがあり、火の玉魔法の呪文に反応する『核』を持つ者は皆、一定の威力の火の玉を出せる。

だけど、呪文をうまく自分の『核』に適したアレンジができると、その威力が倍増する……腕が立つ、立たないの分かれ目みたいだ。


「へぇ……てっきり『魔力』みたいなものがあるのかと思った」

「『魔力』ねぇ……まぁ結局『核』で全てが決まるからなぁ……良い『核』を持ってるやつが最適の呪文を見つけられたら……凡人には到底及ばない領域になる……それが持って生まれた『強力な魔力』って言い方にもなるかもな」


話を聞いていると、コンピューターゲームでよくあるマジックパワーみたいなのはないみたいだ。

要は使い放題。呪文を唱えて発動するまでの時間はあるものの、逆に時間さえあればいくらでも使える……凄い便利な力だな……


アイラのありがたい解説を聞いている間にも、ゼイル旅団はグリーンデーモンを押している。

見事なチームワークだ。俺は唸った。


唸ったが……進行方向左の窓をフト見る。そっちにはグリーンデーモンが30体ほど。


そして、それに相対するは……パトリシア一人!?

囲まれているのかと思ったが、本人曰く「足が人より速い」とのことで、ビュンビュンと移動している。

つーか……もはやワープじゃないか?

捕まる気配はない。


そしてこれまた本人曰く「蹴るのも実は恥ずかしながら得意で」と言っていた大木を伐採する蹴り。

巨大で力強い下半身から繰り出される蹴りは、全く軸足がブレていない。


彼女のローキック一発で、グリーンデーモンの脚は切断される。

ハイキックをヒットさせようものなら、首が飛んで一撃必殺。

剛脚過ぎる。


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