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第15話:プロポーズは突然に

いつも騒がしいシノが静かになる。

なんか……ちょっと変だな。

そう思いながら、家に戻り、その後、夕食をとった。


暗くなってきた。

今朝がた起きた時点で異常接近された俺は、別の家で寝ることにする。シノの家は半壊してる五軒のうち、一番マシな家。そしてすぐ隣にほぼ同等の壊れ具合の家があり、こっちでも満足に寝ることができそうだ。

「アキラはん……どこいくねん」

「ん? 俺は隣の家で寝るぞ」


俺はまだ告白もしてないし、付き合ってもいないが、あんなベタベタされたらミリアとフィアに合わせる顔が無い。

「あかんて……」

「なんで?」

「火龍波おぼえたいんやろ?」

ん?

どういうことだ?


チョイチョイと手招きするシノ。

彼女は左右の股を思いっきり広げて、両足の裏をくっつけて座っている。シノの脚が形作るひし形……俺はその真ん中に招き寄せられる。


巨体の脚の付け根には、まるで山々が重なっているような筋肉の波打つ凹凸が……。

俺は立っていて、シノは座っている状態だが、頭の高さは揃っている。


「じゃあ向こうを向いて……」

顔はかなり近い距離…………柔らかな唇がわずかに開く。

顔の造形は文句なしに妖艶な美人さんなので、心臓が高鳴ってしまう。


「手のひらを向かい合わせにして……」

真後ろからささやくシノ。

「なんかまーるいモノを持つ感じで指を曲げて……」

ドキドキしながらも言われたとおりにしてみる。


すると外側からシノの大きい手が、触れるか触れないかギリギリのところで俺の手を包み込む。

「『氣』を……感じるんや……じっとしててや……」


何か、俺の手を暖かい何かが貫通して……左右の手のひらの中心に……小さい光が浮かぶ。シノの手と俺の手は接触していないが、人肌の暖かさがずっと感じられる。

「アキラはんの手をうちの『氣』が通過してんねん……」


そして足元も、胴体も暖かくなっていく。

「集中して……ちょっとだけ手を上に動かして……」

手を動かす……しかし何も起きない。


「ほなら、もう一回手の位置を戻して……光に集中して……動かして……」

シノの囁きに呼応して、俺は言われた通り動作を反復する。


30分も経った頃だろうか……

「集中して……ちょっとだけ手を上に動かして……」

……動いた!?

シノが発生させた光の球体が……俺の手の動きに合わせてついてきた。


「できたやんか! スジがええなぁ!!」

急に大きい声を出してきて、俺はびっくりし、光の球体は消えてしまう。


「何をやってんだ……コレ」

「ん? うちの出した火龍波をアキラはんが動かしたっちゅうわけや。まずは『氣』のコントロール。これが基本や」

なんだかそれっぽい単語が飛び出し嬉しくなる。そして俺……凄くないか?


「はぁ……うちもちょっと疲れたわぁ……全身から『氣』をアキラはんに浴びせ続けたから……」

あの暖かい感じは『氣』というものか……。


大量に俺の身体にシノの『氣』が送り込まれ、それをきっかけにシノの出した火龍波を少しだけ動かせた。


ま……まぁアシストがあったとて……凄くないか?

「ほな寝よか……」

布団を敷いて準備するシノ。

俺の手を掴まえると、そのままゴロンと寝る。

「いや……俺は隣の家で……」

不意に手を握られてドキドキしてくる。


「あかん……寝る間もこうして、『氣』に慣れるんや……」

もしかして……火龍波の習得にはこのプロセスがあり、それであの時、返事が遅かったのか?


火龍波教えてくれ~からのオッケーまでの沈黙の間……今のこの状態をシノはすでに思い描いていたのか。


なかなか寝付けないよ……

シノは俺の手を握りっぱなしだ。


眠れないので復習する。

『氣』を電気だと思うと、ちょっとだけ理解ができるのかな……

シノという高電圧な物体があり、電圧の低い俺の身体に電気が流れてくる。帯電して電気で満たされた俺は、シノの出した電気の塊を操れる……そういうことか。


で、今はもう寝てるシノは、俺の身体に『氣』を送り続けてくれてるのか……

頭の中で整理し、火龍波習得のための過程なのだと思い、ちょっとだけ気が楽になり、俺は眠りについた。


翌日。

暖かい感触に包まれ、そして息苦しさから俺は目を覚ます。

「なんでだよ……」

昨日の朝と一緒じゃねぇか。

手を握って寝ていたはずの俺だが、シノにガシッと抱きつかれている。


「そや……火龍波はそうやって……打つんや……」

強引にひっぺがそうとしたものの、シノの寝言を聞いて思わず固まる。

夢の中でもレッスンしてくれてるのか……俺のために。

心が動かされていく。ちょっとだけ……寝かしとくか。


寝起きの悪いシノ。

毎朝俺より早くシャキッと起きて、朝食作ってくれてたフィアとは好対照だな。


その後も寝ぼけていた様子で朝食のクマ肉を焼き、何切れか食べたところでやっと完全に目覚める。


「今日は受け身を教えたる。基本やからつまらんかも知れへんけど」

朝食後、俺は受け身の基本をシノから教わる。


「ええか、こう……回転して衝撃を和らげるんや……ヒザとかも使って……一か所で受けてまうとそこだけ痛めるやろ?」

これってパルクールをやってる人が実践してるやつか。

綺麗に受け身をとって見せるシノを見ながら、俺も動作を真似する。


一通り、一人で受け身を取った後は実践編に移る。

シノは手加減しつつ、俺を投げる。

投げられた俺は受け身を取る。


「そうそう……意外とええ感じやな~」

自分ではそんなにスポーツが得意だとは思ったことがない。

だけど、我ながら驚くくらい教えられたことを吸収し始めていた。


「もうちょい高く行くか~」

シノが俺を投げ飛ばす。

高さが出てきている。

10回……20回と地味な反復練習をする。


昼食後も同じだ。徐々にシノは投げ飛ばす距離と高さを増やしていく。

投げられながらも思う。恐ろしい怪力だ。

鼻をかんだティッシュをゴミ箱にポイッと投げるかのような力感で、60キロ前後の俺をブン投げているのだから……


「ええなぁ……こりゃ教え甲斐あるわぁ……」

シノも褒めてくれる。

身体中が痣だらけになるのを覚悟していたが、ノーダメージ。


俺ってもしかして才能ある?

作り話とかでよくある「俺、なんかやっちゃいました?」みたいな。一日で相当な上達を見せ、そして夜は火龍波の特訓を行う。


あれだけ苦戦した火龍波を動かすことも、二日目は最初から一発でできていた。

「じゃあ上に動かすのはできたから……左右もやってみて……」

この日はシノの出した火龍波を上下左右に動かし続け、そして最後は手を繋いで寝た。


シノと出会ってから四日目。

相変わらず朝になると完全密着している。

これ、何日か経ったら、シノの下敷きになって死んでる可能性あるな……


シノはミリアやフィアほど肉厚ではない。

でも例えば500kgのものが450kgになったとて……誤差の範囲で死ぬことには変わりない。または寝ぼけて思いっきり抱きしめられても俺の胴体が千切れる。

ちょっとした恐怖も覚えながら、今日も寝起きの悪いシノを起こす。


受け身二日目。

俺は朝食後、シノにブン投げられ続けた。

昼食後も。

体に動きを記憶させる反復練習。日本でもスタンデルでも練習方法ってのは一緒なんだな……運動能力が桁違いの巨人でも憶え方はそうなんだ。

変なところで親近感が沸いてくる。


最終の飛距離で言うと、斜め45度くらいの発射角で距離は10mくらい。

日本にいた頃なら大怪我確定の状況でも、衝撃を完璧に逃がしている。自分でも信じられないくらいの上達だった。


そして夜は火龍波の特訓だ。

「なぁ……俺、受け身は完璧になったと思うんだけど……攻撃手段も欲しいな」

「ええで……うちが思った以上に上達しとるからな……ほんで、攻撃手段はなぁ……火龍波がええと思う」

「だよな」

直接殴り合ったら、俺なんてすぐお陀仏。となれば自ずと結論は飛び道具のコイツだ。


俺の向かい合わせた手のひらの間には、ピンポン玉くらいの大きさの火龍波。

「実はな……うちは火龍波を使いこなせてないねん……」

衝撃の事実。

あれで……か。

ブルーデーモンを3体まとめて吹っ飛ばしたあの光景を思い出す。


「うち……殴るのと同じくらいの威力って言うたやろ? けど火龍波の神髄はもっと深いねん……」

「どういうこと?」

「火龍波は『氣』を貯めて放つんやけど……うちの親に習ったんはそれと同時に『念』も込めろって……」

「『念』?」

「そうや……感謝の念……とか言うてたな……『氣』と『念』が共鳴した時、威力が増幅するんやて……でもなぁ……うちにはようでけん……」

火龍波の光がシノの顔を照らしているが、眉が下がって困り顔だ。


「つまり……や。『念』さえ乗れば、アキラはんのぶん殴る威力より、はるかに強力な火龍波が出るちゅうことや。伸びしろがあんねん」

「へぇ……」

それを聞き、かなり期待してしまう俺。

だけど待てよ……捕らぬ狸の皮算用とは言え、火龍波は飛び道具。その特性ゆえに相手に接近されたら、それなりに対処しないといけない。


そう考えた俺は、シノに疑問をぶつけてみる。

「でもさ……接近された時の対処も覚える必要があるんじゃないか?」

「お!? なかなかええとこつくなぁ。そこでや……明日からは『捌き』を教えたるわ……さすがうちの旦那はんや……」

『捌き』……か。

ん?


「シノ? 今、何て言った?」

「『捌き』っちゅうのは、相手が攻撃してきた腕とかを捻ってな……それで……」

「そうじゃなくて『旦那』って……」

「そうや。アキラはん『火龍波を教えてくれないか?』って言うたやん」

手をヒラヒラと、相変わらずうるさい動作を交えて言ってくる。

……。


一気に混乱する。

集中して出していた火龍波が掻き消える。


えっと……もしかして……もしかして……!?

日本ではもう言われてないかもしれないけど……「毎日味噌汁作ってくれ」とか「俺と一緒の墓に入ってくれ」とか……

直接表現じゃないけど「結婚してくれ」っていう意味の言葉、そういうのがある。


俺は普通に技を教えてくれと頼んだつもりだったが……シノの故郷ヒダシタンではプロポーズの意味だったのか!?


「はよ火龍波使えるようになってな~ ほら、消えとるやないか。集中集中♪」

ニコニコのシノ。

家系に伝わる必殺技、言い換えれば家族の証と言える技……そして教えを乞うた後の不自然なシノの沈黙と赤みがかった顔。


あそこで勘づくべきだったのか……。

困った。


ミリアへの思いは断ち切れてない……それどころかフィアのことも決着がついてない。

シノが嫌な奴だったら「プロポーズのつもりじゃなかった!」と必死に弁明して撤回しただろう。


でも……逆境にもめげない尊敬できる人物であり、美人で……そしてこの世界で皆から奴隷として扱われてる中、俺だけを頼りにしてくれている。

気持ちが揺らぐ。


もの凄い自己嫌悪。

恋人どころか友達が一人もいなかったから気がつかなかったが、俺はとんでもない浮気性男だ。


ここまでシノに期待させてしまった以上、責任を取らないとダメだよな。

とりあえず、火龍波を覚える。

そして、シノに土下座して、ミリアやフィアに会いに行く。


その時の俺の気持ちで……決め……決め切れるのか?

「集中切れたんか? 今日はこれくらいにする?」

よほど俺の動揺が伝わっているのか、打ち切りを提案してくる。

「あ……ああ……ゴメン。ちょっと明日また……仕切り直そうかな……ハハハ……」

眠りにつくことにする。

……。


……シノ……俺と結婚する気なのか……それにしては一緒の布団で寝てるけど何も起きない。

さっきのセリフ「はよ火龍波使えるようになってな~」が気になってきた。コレ、もしかしてヒダシタンのしきたりとかで、家に伝わる技を覚えたら家族になる……イコール結婚……なのか?


逆にそれまでは結婚前だから何もしてこない……とか?

怖くてとても聞き出せないが、シノは俺の手を握り、寝息を立てている。


翌朝……

息苦しくて目が覚める。「未来の嫁」が抱きついている。

本気でギューッとやられたらどうなっちまうんだ? 俺の胴体以上にぶっとい剛腕。

そーっとシノの頬をツンツンつついて、静かに起こす。


そして朝食。

フィアは食べ物の種類に気を配って、野菜やキノコも朝食に出してくれたが、シノは豪快に毎食クマ肉だ。奴隷だったから食べ物には贅沢言わないタイプなのか?


嫌でも未来の新婚生活を想像してしまう。

「どっか……食べれる葉っぱとかないのかなぁ……」

ポツリとつぶやくが……。


「そ……そやな野菜……アキラはんには必要やったのに……それに気づかんかったなんて、うちはダメな女や~!」

両手で顔を覆うシノ。

「い……いや! そこまで言ってないよ」

特殊能力持ちのミリアや山女のフィアと比べちゃいけない。食べれる葉っぱを見分けるなんて、俺にもまだ難しいんだから。


「オオアリクイはアリしか食べてなくて生きてられるんだから、大丈夫だよ」

泣きそうになっているシノを慌ててフォロー。

「ホンマ? 優しい旦那はんでうち嬉しいわ~!」

感情のジェットコースター。コロッと笑顔になる。


※※※


「さて、今日から『捌き』や……これなぁ……なかなか教えるのが難しいねん……」

シノは身振り手振りで『捌き』を解説する。

対戦相手としては、カラーデーモンが爪で引っ掻いてくるのを想定している。

「勇気を持って、手首をこう……掴んで……そんで回してやな……」

俺の手首を掴み円を描くように動かすと……

ドテーン!

俺の身体はひっくり返る。


「そんなに力は必要ないねん……」

いや、その怪力で言われましても……

体格が違いすぎて、教え上手なシノでも難しい。そして、俺がシノの手首を掴む練習をし始めるのだが、ちょっとでも腕の動きが速くなるとパワー負けする。

手首を掴んだと思っても、そのまま振り下ろされてしまうのだ。

「ハハハ……難しいや……」


「あ! ……アキラはん、ちょっと中断や!」

急に何かの気配を察知したのか、俺を庇うようにして前に出る。

ヒグマだ。

うん……「ヒグマだ」とか思いっきり冷静な自分にも驚く。

「ハエだ」と同じテンション。


300cm級。

デカい。

デカいのだが、シノはそれより30cmくらい背が低いかなぁ……という程度。


幅もあって、凄い身体なのだが……シノが全く見劣りしないどころか……ヒグマ側が貧弱に見える。

日本だったら手に負えない猛獣のハズなんだが、ここ巨人の世界では「同じ体格」なのだ。


「まぁ……ちょっと実演したるわ……」

何も臆することなく、ヒグマに向かっていく。

おあつらえ向きというか……ヒグマは威嚇しながら爪で引っ掻いてくる。


と、そこに『捌き』だ。

手首を掴んで……円を描くように……ん?


バキッ!


なんか、予定では投げるんじゃなかったのか?

「あかん……手首折ってもーた……あ……ああ……えっと……」

焦り始めるシノ。

右手首を思いっきり折られたヒグマは空いてる左腕を振り回す。

「ま……まぁ……力はいらんねん……」

苦しい言い訳をしながら、シノは懐に飛び込み、左腕を掴んで投げ……投げ?


ゴキッ!


ヒグマの肩関節外れてないか?

バツの悪そうな顔のシノ。投げたかったんだろうなぁ……。


右手首を粉砕されて、左肩を脱臼したヒグマは背を向けて逃走を試みるが……

「すまん……食料がちょうど無くなってきたとこやねん……」

ヒグマの後足を踏んづけるシノ。

岩のような大腿四頭筋が膨らみ、そして対になる鉄の棒のように硬く張った腿裏……


それだけで動けなくなり、この時点でヒグマの運命は決まる。

「えい!」

右ストレート一閃!

打撃系の技も闘技場仕込み。頭蓋骨陥没骨折で一発KOだ。

「えっと……参考になったやろ?」

「なるかーーー!!」

秒でツッコむ俺。


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