第13話:いたずら娘
腹立つくらいドヤ顔のシノ。
「へへへん……うちの故郷ヒダシタンに伝わる天道。そん中の一つ火龍波や」
いやぁ……度肝を抜かれた。
「…………凄いね。天道ってのはなんなの?」
「スタンデル島の人らは魔法とか言ってるけど、うちらが使うちょっと不思議な力は天道っちゅうねん」
火はスムーズに燃え、そしてクマ肉を焼いていく。
ミリアから聞いた話だと魔法は呪文とやらを唱えるそうだから、系統が違うっぽいな。いったいこの世界は不思議な力が何種類あるんだ?
「美味い」
「美味いなぁ……ホンマに美味い……久々や……」
「そんなに肉は久々?」
「ちゃうねん……人と喋って食べるのが……」
「え?」
「奴隷ってそういうもんや。モノとしか思われてへん。……久々に人になったわぁ……何年振りやろ?」
変なところで……っていうか本人にとっては心からそう思ってるんだろうけど、感動を口にする。
シノはうっとりとした表情で俺を見る。
「おおきに……アキラはん」
美人さんからこんなこと言われるとドキッとする。
食事も終わり、俺はシノの仮住まいの隣の空き家で寝ようとした。
だが、シノがガッツリ、腕を掴む。俺の細腕に対して彼女の手は大きく、片手なのに周囲を完全に覆っている。
「うちを一人にせんといて……お願いや……」
捨てられた犬みたいな目で懇願されたらたまらない……俺はシノの家で寝ることにする。
同情もあるのかもしれない。
ただ単に一緒に話しながら食事をする……たったそれだけのことで感激していた。俺みたいな凡庸な人間でも、彼女の支えになってしまうんだな。
5月8日
俺の時計はその月日を示している。
寒さは和らぎ、多少は暖かくなっている。冬物のジャンパーの俺は、特に布団がなくとも十分眠れる。
一方、服の布面積が少ないシノは布団をかぶって横になっている。さすがにその格好で寝るにはまだ寒い。
明日……どうしよう?
ここでもの凄い葛藤が生まれていた。
フィアを捜したい。
レッドデーモンにのまれた後、彼女はどうなったんだろうか?
ミリアとマドリーナも結局合流できていない。
なんとか合流しなきゃ……
だけど、彼女たちを捜すということは、シノに彼女たちの存在を教えるということだ。
その決断ができないでいた。
理由はわかっている。
怖い。
もし、ミリアなりフィアなり再会できたとしよう。
彼女たちが一緒に探してくれるであろうシノを見たとする。
その時、奴隷の印を見た彼女たちの反応がもの凄く怖かった。
とんでもない差別発言が飛び出したら……ミリアやフィアへの思いが一気に冷める気がする。
シノがさらに傷つく姿も見たくない。
マドリーナは俺に対して「シモベのくせに」とか言ってたから、思いっきり「奴隷のくせに」くらいは言うだろうな。
俺は彼女たちとは違う世界から来た。日本の常識なんてものは通じない。シノの話で出てきた旅商人や村の人の反応がごく一般的なもののハズだ。
つまりシノが奴隷差別される確率が高い。
フィアのことは心配だけど……俺の決断は保留となった。
※※※
翌日。
暖かい感触に包まれ、そして息苦しさから俺は目を覚ます。
「な!?」
シノの布団の中にいつの間にか入っている!?
しかも思いっきり腕を回され、めちゃくちゃ密着してる。
なぜだ!?
ちょっと離れて寝ていたはずだ。
「ん……あー……おはよーさーーーん……」
何とも間延びした口調。
「な……なにしてんだシノ!?」
「なにってー……別にえーやんかー……減るもんでーー無……」
まだ寝ぼけてるのか。
く……!
ちょっとやそっとじゃ逃れられない。いくら全力で引っぺがそうとしてもパワーの差がありすぎた。結局、シノが起きるまで待つしかない。
確かにミリアたちと過ごしていた時、人肌で温め合って寝た。だが、あれはそうでもしないと寒すぎたからという理由があった。
今回は違う。
何も理由が無いのに異常接近されたのだ。しかもシノは半裸。
「アキラはん…………」
無防備な色っぽい唇から俺の名前が零れる。
「なんだ?」
「…………」
寝言かよ。
こりゃ参るな。
結局シノが起きたのはそれから15分経過してからだ。
「そんな格好で抱きつくなって!」
「別にええやんか。ケチやなぁ……」
ヒラヒラと手のひらを動かしながら言う。
そういうもんか?
「そんなくっつくんだったら、もう隣の家で寝るぞ」
「ふえ……」
形の綺麗な眉が八の字になり、目がウルウルし始める。
「そんな殺生な……うちを一人にせんといて……」
またコレだ。
そんな困ったシノとの二日目の生活が始まる。
クマの肉は十分すぎるほどあり、野菜は不足しているが、腹は満たされる。
「なぁシノ……将来に向けて魔導石を集めないか?」
フィアは魔導石を集めており、村に行って生活必需品に変えていた。
シノは村に入れないにしても、俺がうまいことやれば生活水準が上がる。
そう考えた。
「『まどーせき』ってなんやねん……」
「シノを襲った青いやつ、あれを倒すと魔導石に化けるんだ。そして魔導石は売れるから金になる」
「はーー……そーなんやー」
口をあんぐりと開けて、そのまま理解するシノ。
「まぁええけど……アキラはん、そいつらと戦えるん?」
「い……いや、俺はちょっと……」
「うちが戦うんかいっ!」
右手をクルクル回しながらツッコんでくる……ローリングツッコミ。
彼女は動きもやかましい。
だけど、よく考えたら最低だ。
出会ってから二日目の女の子に戦え、しかも命のやり取りをしろって言ってるんだから。
どうにもミリアやフィアの感覚が抜けない。彼女たちは何のためらいもなく戦闘に入る。ミリアに至っては「戦闘は生きてるって感じがする」とまで言った。
だけどシノは違うようだ。
「うちは殺生は嫌いやねん。しゃーないときは殺るけど……」
この世界の巨人たちが全員好戦的というワケじゃないんだな。
ちょっとだけ合点がいく。
俺はシノに初めて会った時、後ろから腕を回されて絞められた。
本気で殺しにかかってたら一瞬で首が千切れてただろう。シノとしては力加減しつつ俺を気絶させる程度で……命まで奪う気はなかったんだ。彼女は奴隷として戦っていただけで、本来は戦いが好きなタイプではないと理解した。
「まぁ相手の顔見るくらいはしたほうがええな。うち闘技場で戦ってたんやけど……戦いってなぁ、実際に戦う前が重要や。相手の情報をどれだけわかってるか……これで決まんねん」
「……俺も言われてみれば、あんまりカラーデーモンのこと、わかってなかった。ちょっと観察するか」
そう。
ヤツらは何を元に追っかけてくるのか?
視覚か嗅覚か聴覚か……それを知るだけでも違う。
「街道への道は……わかるの?」
「そりゃわかるに決まってるやろ。うちは村の人に追っかけまわされたんや。村を出れば街道やし、そっから街道を外れて山に逃げた。来た道くらいはわかるわ」
そっか……これってもしかしてカラーデーモンはもちろんのこと、通行人に発見されても戦うことになる?
派手に街道でシノに暴れてもらって、たんまり稼ごうって勝手に思ってたけど……こりゃダメだ。
自らの思慮の浅さが嫌になってくる。
さて、シノの案内に従って慎重に街道への道を行く。
村人とか旅商人も今の状態だと「敵」だ。コソコソと声を潜めて歩く。
「なんか……楽しいな。うちワクワクするわ……」
「危険な目に遭うかもしれないのに余裕だな」
「だって……アキラはんが一緒やから……」
「…………」
ストレートすぎる。こ……今回は俺の浮気じゃないぞ。
まだ、俺はシノのことは……そんなに……
でも今の状況をミリアとかフィアには絶対見られたくないなぁ……傍から見たら半裸美女とハイキングだから。
そうこうするうちに街道へ到着。
堂々と街道に出るのではなく、木の陰に隠れて道を観察する。
しばらくは二人でキョロキョロしていたのだが、シノのほうが飽きてきたのか、俺の真後ろに立つ。
身長差は1m。
シノはクスクス笑いながら密着状態から屈む。シノの胸が俺の頭に乗っかり、俺はクソ重たい物体に対してビクッと反応する。
何やってんだ。
シシシッと息を殺しながらも笑い、膝を伸ばし、俺の頭に乗ってたものはなくなる。
マインドがクソガキ過ぎる。
「真面目に見てろよ……」
「うちの胸……柔らかいやろー……挟んだろかー」
「羞恥心ねぇのかよ……」
「そらあるで……アキラはんやから……ええんや」
人との距離の詰め方が極端すぎる……
そうこうしてると、遠くに緑色の人型が見える。
「伏せろシノ!」
「……了解や。もうふざけへん……」
ジャレてきた時とは違う声色になるシノ。
静かに身を潜める。
グリーンデーモンはフラフラと歩いている。
その数は3体。ゆっくり近づいてくる。
220cmくらいはある。
デカい……この前俺はレッドデーモンの3mクラスを見たばかりだが、グリーンデーモンも普通にデカい。
こんなヤツと戦えなんて言われたら願い下げだ。
俺たちにはまだ気が付いていない。
そしてヤツらに変化が……
背が縮み200cm弱となり、そして緑色の肌の色が青色に変化する。
なるほど。
これでわかる情報としては魔王の住み処の位置。
魔王から離れれば離れるほど、カラーデーモンは小さく、そして弱くなる。
今、ヤツらの進行方向にずーっと行くと恐らく首都……ミリアが教えてくれた最東端に位置するセンターシティがあるんだろう。あの近辺ではパープルデーモンになっていたから。
方角の関係がわかっただけでも大収穫だ。
山中から街道に出た時に左に行けば東に行けるってことだ。この事実から山中から街道への方向も南と確定する。
さて、ブルーデーモンは隠れてる俺たちを認識することなく、最接近する。
そしてヤツらはそのまま通り過ぎていく。
「おーい! オタンコナス~~!!」
と、ここでいきなりシノが隠れたまま叫ぶ。
その後、様子を見る。
「バーカ! ……アホーー! ……カスゥ!!」
両手を口の前に広げて、さらに叫ぶ。
何てことしてくれんだシノ……心臓がバクバクする。
が、ブルーデーモンは何も反応なく、ノソノソと俺たちとは反対の方向に歩いていく。
「聞こえてへんみたいやな。この様子じゃ動物みたいに鼻が利くわけでもなさそうや」
いたずらっ子とかいうカワイイレベルじゃない。気付かれたらどうすんだ!?
だが、俺はさらにシノの表情を見て凍りつく。
「暴れたら……あかんでぇ……」
ニヤニヤしながら俺を捕まえ、そしてお姫様抱っこ。
絶対良からぬことを考えてる。




