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第10話:魔王ロキ

鼓動が一気に速くなる。

「なかなか見つかんねーもんな……あと、相手が仮住まいじゃあな……」

ミリアたちのねぐらが簡易的なこともすでに伝えている。


「例えばさ……俺があきらめたらさ……」

「そしたら大変だなぁ…………ココを改築しなきゃ……」

「え?」

「ちょっと広くして……家と炊事場の往復用にロープも買って……そうだ……布団も買って……」


普段も十分に可愛い声が弾み始め、より愛らしさが際立つ。

「どういうこと?」

「メガナ、どっか行くあてあんの? 違う世界から来たんでしょ?」

「い……一緒に居させてくれるの?」

「嫌なら出てけ。住みたきゃ、あたいは……いいよ」

決断はいつも俺に委ねてくる。


「あの……」

ウジウジする俺。

自分でも腹立たしい。


「別に今決めなくてもいいよ……まぁ明日、布団くらいは買うか? あたいの見立てよりもっと時間がかかりそうだ」

いや……フィアの見立ては合っていた。


あの「岩」からそのまま進めばきっと。

「でも布団も、お金がかかるんだろう?」

「ちょっとだけ魔導石のヘソクリがあんのよ……なーに気にすんな。必要経費ってヤツだ」

「ゴメン……」


「布団はさぁ……正直いるかなって思ってたトコだ。あたいが寝ぼけて転がったらさぁ……」

「あ……ああ……」


フィアも俺を潰すことを懸念していた……

「よっし! 明日、ヒルビリッジに行こう」

トントン拍子に話が進む。


「あー……そうだ、ヘソクリ使い切っちゃうからさ……カラーデーモンと戦いたいんだけど……いいか? それとも明日はやめとく?」

「いいよ。俺は戦えないけど……」


「ふーん……怖くないの?」

「大丈夫」

即答した。

本当は怖い。


怖いんだけど申し訳なさが勝った。

フィアと別れたくなくて、本当はミリアを見つけられたハズなのに先延ばしにした。


そして彼女のヘソクリまで使わせようとしてる。浮気性のドクズ野郎だ。

命を張るくらいしないと釣り合いが取れない。

そう思った。


翌日、俺にとっては初めての人里の訪問。

食事をとってからフィアも慌ただしく準備する。

「これ、ちょっと切れ味落ちてるけど持ってて……乱暴に扱ったらすぐ壊れるけど……」

ナイフを渡してくれる。


「無理に戦わなくて良いよ。でも牽制くらいにはなるから」

そう付け加える。


「ナイフとロープと布団……あと何がいるかなぁ……」

部屋を見回して、村で調達するものを考えているフィア。

魔導石とにらめっこしている。

「こんなもんかな……よし! 出発しよう」

ずいぶんと慌てている。

俺はナイフをジャンパーのポケットにしまい、フィアに抱かれて下に降りる。


「なんで慌ててんの?」

「だって魔導石が足りないからさ……そんな都合よくカラーデーモンなんて出てこないし……」

そうか。

ちょっと歩けば敵に必ずエンカウントするRPGとは違う。


滅多にカラーデーモン狩りには行かないフィアとしては、一日のうちなるべく長く狩る時間を確保したいとのことだ。


「あー! 布団畳み忘れた~!」

「ま、良いんじゃない? 一日くらいさ」

「ワタシフトンノヨーセー……ヨクモタタミワスレタナー」

声色を変えてフィアがふざける。

「なんだ? その声……」

「かわいいだろっ! ざっけんな!」

しょうもない会話をしながら、ヒルビリッジへの道を歩く。


「街道までは、わりとすぐだよ」

新鮮だ。

山の中へ食料調達に行くか、ミリア探索で、これまた山の中へ行く道しか知らなかった。

街道への道は初めてなのだ。

これまで知ってる道と同じく草は生い茂り、木々の匂いは変わらない。変わらないんだけど、いつもと違う。

わずかな違いがわかるようになるとは……俺も山男かな?


少し歩いた段階でフィアの言うとおり、わりとすぐに木々がなくなり、完全なる平地に出る。

景色としてはミリアたちと来た街道に似ている。山の見え方からして全然違う場所なのは確実なのだが、どこか懐かしさも感じる。


「ホラ……ちょっと遠いけど、わかるかな? あれがヒルビリッジ」

村だ。

人工物の壁に囲われているように見える。


ミリアに初めて会った時、センターシティの方向を指さしてたけど、その時は視認できなかった。

この世界で人里というものを初めて確認できた。いろいろ初体験させてくれる。


「あ……いた! メガナ……気をつけて、ヤツらが来たよ!」

村とは違うほうを指すフィア。

俺にはうっすらとしか見えないが、目の良いフィアにははっきりとわかるようだ。


「10体……ナイフで牽制するんだよ。それとあたいの傍は離れないで」

「うん。わかった」


「約束する。絶対メガナを死なせやしないから……あたいが守る。行くよ!」

力強く言うフィア。

俺もついていく。

やがてヤツらもこちらを捕捉……いよいよ距離が迫る。


だが、接敵するかしないかのところで、ヤツらに異変が発生する。

「な!?」

青いヤツらの身体の色に変化が現れたのだ。


青から緑へ……そして緑から黄色へ……

ヤツらの身体もドンドンデカくなり、そしてフィアの身長も超えてくる!

とうとう赤くなる。

レッドデーモン……


「う……!」

囲まれて、焦りの表情を見せるフィア。

ぶん殴る!

ヒットする。

ヒットして確かにヤツはちょっとよろけた。

が、そこまで効いているようには見えなかった。


フィアの剛腕は筋肉の塊。

それをもってしてもあまり効いていないとは……間違いなく強い……!!

そして、レッドデーモンは俺にも襲い掛かる。


「メガナ!」

フィアは俺を救うべく攻撃するが……

俺はヤツらに捕まり、そしてなぜか……早歩きで移動をし始める。


「フィア……フィアーー!!」

「く……メガナーーー!」

どんどんフィアが遠くなる。

最後に見えた光景は5体のレッドデーモンに押しつぶされようとしていたフィアの姿だった。


ヤツらに抱えられ、どうにもできない俺。恐怖に震える。

体が震えているのは、ただの怖さだけではない……自らの無力感も冷たく肌に染みてくる。


ヤツらが歩いている方向を見ると、俺よりちょっと大きい……この世界では小人のオッサンが立っている。

何が何だかわからないまま、草原と山の景色が一変する。


次の瞬間、俺は石造りの建物の中にいた。部屋は装飾がなく、無機質な印象を受ける。

周りはブルーデーモンが……20体はいる。


俺は死を覚悟した。

だがヤツらは不思議なことに何もしてこない。

沈黙の時が……10秒程。


その後、ブルーデーモンが変色、変形し始める。緑、黄、橙……そして赤くなり、先ほどのデカいレッドデーモンへと変化した。

ヤツらの変身と同時にやや離れて、カツカツと足音がする。


その方向へ視線を向けると、さっきのオッサンがいた。

身長は180cmくらい。

極端に太ってもいないし、痩せてもいない。黒髪の短髪で、どこにでもいるような容姿をしている。


「そこへ座れ」

ミニテーブルとソファーのようなものがあり、そいつは奥のほうへと座った。

レッドデーモンに囲われた俺は無言のまま……身体は恐怖で震えながら、それに従う。


男と対峙して座る。

「……どうだ? この世界は?」

「……アンタ……誰だ?」

この声……どっかで聞き覚えがある。

低い男の声だが、特別響くわけでもなく、特別重低音なわけでもない……言ってしまえば平凡な男の声。


職場の上司?

スーパーの店員?

違う……違う……と記憶を辿る。

記憶を辿る俺を、目の前の男がニヤニヤしながら見ている。

そして、ついに声を思い出した。

日本で聞いた最後の声だ。


ハッとした俺の表情を確認すると、相手は語り掛けてくる。

「お前の絶望……実に美味かったぞ」

「だ……誰なんだ?」

「俺か? 俺は魔王……魔王ロキ」

「ま……魔王!?」


ミリアとマドリーナに教えてもらったことを思い出す。

スタンデル島には魔王がいて、カラーデーモンを従えている。魔王の近くはレッドデーモン……遠くに離れるとパープルデーモン。

全ての符号は一致している。


さっき、この部屋に来た時はブルーデーモンだった。

テレポートか何かで魔王がこっちに来た瞬間、こいつらはレッドデーモンに変化した。信憑性は極めて高く、目の前の男が魔王と認めざるを得なかった。


「俺に……何の用が……」

殺す気がないことはすぐにわかった。

もしそうなら、こんな3m超えのヤツら相手に、俺なんてひとたまりもないからだ。


出していたナイフをポケットにしまい、とにかく話をすることにした。

「いや礼を伝えようと思ってな。美味い食事を振る舞ってもらったら、シェフには礼を言うだろう?」


「何を言ってるんだ?」

「俺は絶望と悲しみを食らい生きている。遠くの世界で凄まじく絶望しているお前を感じてな。食わせてもらい、そしてその礼として生かしてやった」


「何を言ってるんだ?」

二回目だ。

全然すぐには理解できない。


「お前は身を投げただろう?」

「ああ……」

「だが死んではいない」

「死んでない?」

俺は自分が日本で死んで別世界に来たか、それとも突然転移して死んでないのか……それすらわかっていなかった。


「そうさ。俺はお前を救ってやった。ここスタンデル島へ召喚したのだ」

「な……何のためだ?」

「礼を言うためと……そして俺の気まぐれだ。退屈しのぎとも言うかも知れんがな」

「……」


「礼を言ったから、もうお前には用はないから立ち去れ。この島で好きに生きていくが良い。はたして、お前はどういう人生を送るのか……見させてもらう」


「何を言ってるんだ?」

都合三回目だ。

つまり、俺が絶望して自殺した。その絶望を目の前の魔王は美味しく頂いた。

その礼か知らないけど、俺が死ぬ直前にこの世界にテレポートさせ、とりあえず俺は死んでいない。


さらにこの後、俺がどう生きるか見守るって?

でも立ち去れだって?


「ちょっとした気まぐれだと言っている。それと良いことをひとつ教えてやる。魔法はお前に一切効かない。この知識は俺からの餞別だ」

「魔法が効かない?」

「より正確には、お前に危害が及ぶ攻撃魔法は効かない……だがな」


もちろん、俺は魔法なんぞは喰らったことがない。

効くか効かないか……真実かわからない。

「ま、何も知らぬよりは知っていたほうが楽しかろう……小さな武器をどこまで有効に使えるかな?」


な……何が楽しいんだ?

こいつが何を考えているか、本当に皆目見当がつかない。

「さぁ行け。そこの光っている4つの円のうち1つを踏め。ここにいても、お前の食事はない。死ぬだけだ」


無機質な印象を受けた部屋……なるほど、少なくとも食事を作るための設備はない。生活感のなさが最初の印象に一役買っていたのか。


さて、魔王の言うとおり、光っている「円」が4つある。

どれかはきっと……フィアと俺がさっきまで居た場所に繋がっている……そういうことか?

俺もヤツもここを通して瞬間移動したってことか。


「次回、お前が俺に会うことがあれば、それはそれで楽しみだ……ハッハッハ……」

この言い草……退屈しのぎと言うだけのことはある。


俺には円を踏む以外の選択肢は無い。

1/4の確率を引いて、フィアに再び会う事ができるのだろうか。

ソファーから立ち上がり、ゆっくりと歩みを進め、祈りながら俺は円を踏んだ。


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